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44皿目
しおりを挟む「ディッナーァ!」
「ディッナーァ!」
「・・・・・何なんだよ、お前等のその歌・・・・・」
「うふふふふ、楽しみなんですよね?森谷さんも、康太君も」
「「当ったり前だろー!?」」
「まあ、確かにな。試作とはいえ、俺達の分を作ってくれるってんだから」
「楽しみですよね!」
カフェの営業も終わり。
階下へと下りれば、みんなの嬉しそうにはしゃぐ声。
フロアの掃除をしながら、もうすぐご馳走してもらえる浩一朗のディナーを心待ちにしているという所。
だって私も楽しみだもの!!!
「もう掃除終わり?」
「おっと。お疲れさん、響子」
「お疲れさまです、響子さん」
「「お疲れー!!!」」
「ふふ、お疲れ様。・・・・・なんかいい匂いしてくるわねー」
「だよなー!?」
「何出てくるんだろうな!」
「お、泉さんのドルチェー!!!」
「落ち着け万里・・・・・」
□ ■ □
フロアを掃除し、それぞれテーブルをセッティング。
そうすれば後は、キッチンのシェフ達が出てくるのを待つばかりだ。
テーブルには私達が勢ぞろい。
私、万里ちゃん、康太君、大亮さんに藤堂さん。
晴明は食前酒を出す為に、キッチンへ。
今日は料理をシェフ自ら持ってきてくれる。
だから、普通よりは少し運びの遅いディナーだろうけど。
やっぱり、浩一朗もみんなの反応を見たいんだろう。
「では、食前酒から」
「ありがと、ハル」
小さめのワイングラス。
それに注がれるのは、金色のリキュール。
「これは何のお酒?」
「林檎の発泡酒だ。アルコールも控えめだから万里も平気だろ?」
「は、はい!」
「すげーいい匂いすんな!」
「俺達にはもの足りねえけどな!」
「お前等はビール、ってんだろうけどな。
まあ、今日は我慢しろ。後でワインも飲ませてやるからよ」
「頂きます」
こくり、と一口。
しゅわ、っと炭酸が弾け、喉を潤す。
ふんわり林檎の香りがして、アルコールも控えめ。
これなら万里ちゃんのような、あまりお酒が強くない人にも飲めるだろう。
「うん、いい匂い。美味しい」
「だろ?」
「美味しいですー。私、お酒はダメなんですけど、これくらいなら・・・・・」
「うめ」
「だなー」
「ええ。これはいいものですね。最初に口にするには最高です」
康太君も、大亮さんも美味しい、と評価。
飲兵衛の彼等すらも美味しいと言うのだから、満足してもらえるだろう。
晴明も自分用に1杯。
東堂さんも満足そうに味を確かめていた。
ふと見れば、キッチンから前菜を持って浩一朗と山崎君が登場。
「待たせたな」
「お待たせしました」
「「待ってましたー!!!」」
「楽しみだわ」
「はい!」
「美味しそうですね」
「おっと。すげえな」
かたん、と置かれた前菜。
白い皿に、彩りも美しく3種類のオードブル。
魚介のマリネ。
きゅうりとささみの一口サラダ。
アボカドの生春巻き。
最初はちょっと口に出来るような、一口大の軽いもの。
「うー、美味しい」
「生春巻き、大好きですー!!!」
「「うめー!!!」」
「お前等、もっと違う語彙はねえのか」
「彩りも綺麗ですね。女性だけでなく、男性も喜びそうですね」
「まあな。男女ペアで来る客も多いだろうしよ。だったら、ちったぁ考えねぇとな。
この前菜は全部、山崎の考えたもんだぜ」
「恐縮です」
「あら、凄いじゃない」
ぺこ、と一礼する山崎君。
浩一朗も彼の腕を見るためにもやらせたのだろうけど。
自信をつけさせる為でもあるかもしれない。
それから、サラダ、スープと運ばれる。
浩一朗はメインにとりかかるらしく、山崎君がいそいそと運ぶ。
見かねたのか、東堂さんと晴明も手伝った。
「うん、サラダもドレッシング美味しいわね」
「玉ねぎでしょうか。美味しいですー」
「ええ、玉ねぎドレッシングでしょうね。山崎君が一生懸命仕込みをしていましたよ。
スープのブイヨンも、毎日頑張って作っていますし」
「かなり腕も上がったんじゃねえのか?
毎日巽さんにああでもない、こうでもねえって仕込まれてるからな?」
「あはは、そうかもね」
「ですが、シェフの修行はそういうものですよ。
口でどうこう言っても身に付きませんしね。体、腕をもって覚えていかなくては」
「・・・・・東堂さん、俺にもそう言って珈琲の淹れ方とかスパルタだったよな」
「おや、そうでしたか?私にとっては優しく教えたつもりですが」
「まあ、それでハルの腕も上がったんだし?」
「まあな」
軽くおなかを満たしているうちに、お次はパスタの登場だ。
私達には少し量を控えめに。
・・・・・だけど康太君と大亮さんの量は・・・・・。
「ちょ、それ食べれるの?」
「「軽いぜ!!!」」
「・・・・・す、凄いです」
「まあ、あいつ等にはこれくらいでいいだろ」
「私としてはもう少し減らしてないと、メインディッシュが霞むのではないかと思いますがね」
パスタ、大盛り(笑)
でも、いつもたくさん食べる彼等だし。
これくらい食べないと満足しないらしい。
勿論、メインディッシュも入るって・・・・・。
パンもあるのにねぇ・・・・・?
パスタはトマトソースのパスタ。
なすにズッキーニ。
夏っぽいなぁ・・・・・。
「うーん、夏はトマトって感じ」
「美味しいですー幸せですー」
「酸味が効いてるな」
「それがまたアクセントなのでしょう。これくらいなら男性でも違和感ないでしょうね」
傍らには、晴明が某酒造から取り寄せたワイン。
白ワインを出してくれた。
甘口?なのだろう。
あまりワインに詳しくない私でも、くいっと飲める美味しさ。
「なんでも、メインは魚だって言うからよ?白にしといた」
「あら、お魚なのね」
「肉にしようかとも思ったみてえなんだけどな」
まあどっちでも美味しいのには変わりない!!!
全体的なバランスを見て、浩一朗達が作ったメニューだ。
美味しければよし!!! ←オーナーとしてそれでいいのか?
パスタを楽しみつつ、おしゃべり。
全員が食べ終わる頃には、待ちに待った、メインの登場・・・・・。
「メインだ」
「わお!いい匂い!!!」
「パンもどうぞ。焼きたてをお持ちしました」
浩一朗と山崎君が持ってきてくれた料理。
メインディッシュ。
白身魚のポワレに、付け合せにはジャガイモとアスパラ。
こんがりと焼き色の付いたのが食欲をそそる。
パンも焼きたて。
これに合わせて持ってきてくれたのだろう。
「美味しそう!!!」
「いい匂いです~~~」
「すげえ!!!本格的!!!」
「旨そう!!!」
「・・・・・いや本格的なのは当たり前だろお前等」
「うん、素晴らしいですね。香りも彩りも申し分ありません」
「褒め言葉は食ってから言ってもらいてぇもんだな」
そういいながら、まんざらでもない浩一朗。
腕を奮った料理を褒められるのは、シェフにとって最高の時間だろうから。
もちろん、味は最高。
私自身、あまりこういったディナーメニューを食べた事は少ない。
でも、それでも大満足!って言えるくらいの美味しさ。
他のメニューを食べて、お腹が満腹になりつつもあるけれど、食べたいって思う美味しさなのだから。
「ううう、お腹いっぱいに近いのに手が~~~」
「わかります、何ででしょう~~~」
「ははは、それだけ旨いってこったろ?」
「響子がそうなら、他の客もそうなるんだろうな。
ま、このメニューで当日は行かせてもらうぜ?異論はねぇんだろ?」
「「「「勿論です」」」」
「ええ、これならお客様も満足して下さるでしょう。
泉君のドルチェがまた一層楽しみになりますね」
「やだなあ、東堂さんてば。ハードル上げないでよね」
ひょこん、とフロアの様子を見に来た総悟君。
おそらく、ずっとキッチンでドルチェの仕込みをしていたのだろう。
ニコニコ笑顔で私の傍に来る。
「美味しい?響子さん」
「もう最高。まだ総悟君のドルチェも来るんだものね?」
「うん。楽しみにしてね。ちゃんと合わせたつもりだから」
「ええ。・・・・・総悟君は料理、頂いたの?」
「うん、あっちでね。山崎君と立ち食べだけど」
「あらまあ。感想は?」
「美味しかったよ。やっぱ巽さんて性格悪いけど腕は抜群だよね」
「おい総悟!!!」
「嫌だなあ、褒めてるのに」
「お前の褒め方は要らないものも多いんだよ!!!」
「まあまあ・・・・・お酒も飲んだ?」
「うん、一口ね。あんまり飲むと舌が鈍るし。後でもう少し貰うよ」
確かに、作ってる最中はお酒はダメかもね。
料理の方もしっかり食べたのではなく、一口の味見程度らしい。
後で残りを食べるそうだけど。
「・・・・・あら、浩一朗は食べたの?」
「あん?自分で作ってんだから味見くらいはするさ」
「ちゃんと食べてないの?」
「自分で作ってんのにか?・・・・・まあ、後で食うさ」
「なら良いけど。結構いいお魚使ってるんじゃないの?」
「高い、って訳じゃねぇぞ?スズキだからな。新鮮さはお墨付きだが」
「そうなのね、すっごい身がしまってて美味しかったわ」
「んじゃ、皆食べたみたいだしドルチェ持ってくるね」
皆のお皿の空き具合を見て、総悟君がキッチンへと戻る。
隣の万里ちゃんのそわそわ度が上がったのはいうまでもなく・・・・・
「き、緊張します!!!」
「落ち着こうね、万里ちゃん・・・・・」
「はっ、はいいいい!!!」
そんな万里ちゃんを見て、皆失笑気味。
それでも皆、どこかわくわくして待つ。
ケーキや焼き菓子。
何を作らせても、美味しいお菓子が出来上がる総悟君。
その彼が、料理に合わせて振舞うドルチェはどんなだろうか。
「わあ・・・・・」
「綺麗・・・・・」
彼が出したドルチェ。
季節のフルーツタルトに、シャーベットを添えて。
「今日は、グレープフルーツのタルトに、シャンパンのソルベ」
「綺麗ね~ルビーグレープフルーツ?」
「うん。こっちの方がいいものだっていうからさ」
味なんて、それは美味しいに決まってる。
少し酸味のあるフルーツに。
それを抑えるような甘さのクリーム。
サクサクしたタルト生地。
それを引き立てるのが、シャンパンをつかったシャーベット。
ひんやり、口をリセットしてくれる。
「男でもペロッといけるな」
「ですね。甘さも、酸っぱさも、いいバランスです。
締めのドルチェに相応しいですね。さすがですよ、泉君」
「どういたしまして。・・・・・康太と大亮さんは聞くまでもないね」
「「うめーぞ!!!」」
「・・・・・だよね」
本当に最高のディナー、と言ってもいいかもしれない。
最高級の食材を使わなくたって、シェフの腕でこんなにも美味しい時間を味わえる。
それに、お客様の好きな食材を使ったりしたなら、きっと特別な時間になる。
そんな想像が出来て、私はすごく嬉しくなってしまった。
「・・・・・響子さん?」
「あ、えっと、違うのよ、これは」
「泣いてるの?どうしたの?」
じわり、と浮かんだ涙をこっそり拭ったはずなのに。
目ざとい総悟君は見逃さなかったようだ。
嬉し涙なのに、なんだか恥ずかしい。
「・・・・・そこまで、とはな」
「作ったこっちが恥ずかしくなっちまうだろうが」
「ありがと、響子さん。そんなに喜んでくれたら作った僕達はものすごく、嬉しい」
「うん。・・・・・うん。
ありがとう、皆。凄く、嬉しいの。ゴメンね、涙なんて」
今まで、長かったものだ。
遺産を受け取り。
浩一朗と晴明に出会い。
会社を辞めて、レストランを始めて。
康太君や、大亮さん。
看板を作ってくれた龍之介君。
弟子入りしちゃった山崎君。
運よく、パティシエになってくれた総悟君。
そのケーキに魅了された万里ちゃん。
力を貸してくれる事になった東堂さん。
たくさんの力があって、ようやく、お客様にディナーを振舞えるまでになったんだ。
そう思うと、なんだか泣けてきてしまった。
「響子・・・・・」
「うん、大丈夫!嬉しすぎちゃって、感極まっちゃった!!!」
「だな。・・・・・ようやくディナーだ」
「そうだね!」
「まだ客に出してねぇんだぞ?喜ぶんなら、ディナー始めてからにしろよ」
「そうよね、ちょっと気が早かったわ」
「でも美味しかったですー!!!」
「だな!すげえ旨かったよ、巽さん!!!」
「こんなディナー食えるんなら、いくらでも客が来るんじゃねえのか?」
「だったら腕の奮い甲斐があるよなあ?」
「私達も、気合を入れないといけませんね」
そう、限定3組のお客様。
来週の土曜日の夜、ようやく始めてのディナー客が来る。
今回の反応で、これからのディナータイムの経営を見積もらないといけない。
できれば、サブのシェフを雇うかどうかとか考えないとね。
本気でやるのなら、浩一朗をサポートする人がもう1人必要だ。
美味しいディナーを味わい、私はまたひとつ決意を新たにするのだった。
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