夢見るディナータイム

あろまりん

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翌日。
私は張り切って賞品を運ぼうと店に入る。

すると、キッチン方面から甘い香りが・・・・・。



「・・・・・あれ?」

「おはよう、響子さん」

「何してるの、総悟君?」



そう、そこにいたのは、パティシエ姿の総悟君。



「何って。ケーキ焼いてるんだけど?」

「・・・・・・・・・・あ。そっか。バースデーケーキの注文入ってたっけ」

「忘れてたんだね・・・・・」

「ご、ごめんなさい」

「それで来てくれたんだと思ってた」

「面目ございません・・・・・」

「いいよ。僕1人でやるつもりだったしね。
約束の時間までに作って、お会計するだけだしね」

「何時だっけ」

「11時だね」



時計を見れば、あと2時間くらいある。
総悟君、いつから来てたんだろう?



「何時に来たの」

「うん?ついさっきだよ。今はスポンジ焼いてるとこだから」

「そっか」

「パンケーキ焼こうか?」

「いいの!?」

「いいよ。僕もお腹空いたしね」



そう言って、手際よく作り始めた。
スポンジを焼いている間、どうやら手持ち無沙汰だったらしい。

傍の台には、本が置いてあった。きっと読むはずだったんだろう。



「読書の邪魔した?」

「ううん、全然。読もうと思って持って来たけど、響子さんの方がいいに決まってるでしょ」

「うーん、優しい」

「響子さんにだけね」



にこ、と笑顔を寄越す総悟君。
きっと、彼女ができたらこうやって甘い時間をくれるんだろうな。

イスを持ってきて座る。

作ってくれてる後姿を眺めていると、玄関方面から音がした。



「おはようございます」

「おはよう、万理ちゃん。あれ、どうしたの」

「えへへ・・・・・今日賞品を運ぶと思って。来ちゃいました」

「なんていい子なの、万理ちゃん!」

「キャ」



ぎゅう、と抱きしめてみた。
だって、何も言ってないのに自分から手伝いに来てくれるだなんて!!!

ふと、視線を感じると。

万理ちゃんの後ろに、万理ちゃんがいた。



「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・ドッペルゲンガー?」

「誰が」



おおお、突っ込みが入った。すごい。

驚く私を他所に、総悟君はちらり、と視線を寄越しただけ。
あれ、驚かないな・・・・・。



「か、薫!ちゃんとご挨拶してよぅ!」

「薫?あれ?万理ちゃんが2人?じゃなくて?」



離した万理ちゃんは慌てるように、もう1人の万理ちゃんもどきに並ぶ。←ひどい

少し照れたような万理ちゃん。
その横に、ちょっと不貞腐れたような顔をする、そっくりなもう1人。



「紹介します。私の双子の兄で、薫です」

「どーも。旭  薫です」

「うわわわわ、そっくり!可愛い!女の子みたいだけど男の子!」

「響子さん、落ち着いて」



総悟君からも突っ込まれた。
だってだって!可愛いのが2人も!
普通、男女の双子ってもっとこう・・・・・こんなに可愛くていいの!?



「初めまして、オーナーさん。いつも万理がドジばかりしてご迷惑掛けてます」
「ちょ、薫!」

「あ、えっと・・・・・」

「ほら、困ってる。本当にドジばっかしてるんだろ、万理」
「ち、違うもんっ」

「まあ、この間ラッピング用品ひっくり返してたけど。見事にね」

「い、泉さぁぁぁぁん!!!」

「・・・・・やっぱりね。迷惑掛けてんじゃないよ、万理」
「ううううう」



はっ!と我に返れば、万理ちゃんがドSの2人組に囲まれ涙目に。

そんな表情も可愛いと思う私もドSでしょうか。



「ま、万理ちゃん!頑張ってるから!ねっ!?」

「ううううう、響子さん・・・・・」

「気休めはいいです」
「そうだよ、はっきり言わないと」

「ドS2人は黙りましょうね?」

「・・・・・」
「・・・・・えーと、もうすぐ焼けるよ?響子さん」

「食べる」



あっさり鞍替えした訳ではない。念の為。



総悟君は手際よく、万理ちゃんと薫君の分も焼いてくれた。
勿論自分の分も作り、4人でブランチにする事にした。



「うーん、美味しい」

「ですねっ」
「・・・・・確かにね」

「お褒め頂いて恐縮ですっと。響子さん、紅茶飲む?」

「あ、私やるわよ?」

「いいよ、持ってくるから座ってて」



総悟君は本当にレディーファーストっていうか。
大抵、私が動く前にさっさと自分で動いてしまう。
お姫様気分はいいのだけど。・・・・・なんだか恥ずかしいというか。



「で。万理ちゃんはどうして薫君も連れてきてくれたの?」

「あ、えっと。一度店を見たいって、薫が・・・・・」
「一応ドジでダメな妹が厄介になる店ですからね。ご挨拶をしておきたかったのと、確認に」

「そんな事ないわ。万理ちゃんが来てくれて凄く助かってる。
妹さんが心配なのね、薫君。お兄さんが優しくて羨ましいわね、万理ちゃん?」

「あ、えっと、・・・・・はい」
「そんなんじゃ・・・・・ないのに・・・・・」



同じ顔で、同じようにはにかむ2人。
なんだろう、いけない気持ちが湧いてくる気がする・・・・・。



「紅茶、遅いですね」

「あ、もしかしたらケーキ焼いてるから動けないのかも」

「わ、わたし」
「僕が取ってきます。・・・・・万理は黙って座ってな。落として割るから」



すっと動いてキッチンへ。
あんな事言うけど、妹を心配しているのはわかる。
ちょっと言い方がアレだけど、ね・・・・・?



「いいお兄さんだね」

「はい・・・・・。いつも私を心配してくれて。優しい兄です」

「可愛いしね」

「そ、そうですか?」

「そっくりだよね・・・・・男女の双子でここまで似るのって珍しいんじゃない?」

「そうかもしれません。小さい頃は、薫が私の服を着てよく入れ替わって大変でした」

「あらあら」

「学校の先生も間違えちゃって。私が2人!って」

「あはは、面白そう」

「笑い事じゃありませんよう!」

「いや面白いし」



もう響子さんっ!とぷりぷり怒る万理ちゃんも可愛らしい。

薫君もそっくりだけど・・・・・少し、男の子っぽい目の色だ。
その気になれば、まだ入れ替わったりできそうな・・・・・気がする。多分。

ほどなく、トレイに紅茶を乗せた薫君。
その姿は落ち着いていて、手馴れている感じがした。



「お待ちどおさま」

「ありがとう、薫君」
「ありがと、薫!」

「どういたしまして。・・・・・さっきの彼、やっぱりケーキに手を取られてました」

「そう。予約が11時だからね。それに合わせて作ってるから」

「そうなんですか。・・・・・凄いですね」

「あら。興味がある?」

「少しだけ」

「薫は高校生の時、カフェでバイトしてたんです。ね?薫?」

「ちょっとだけね」

「そうなのね。運んでくるの、手馴れてる感じがしたから」



そっか、ウェイター経験があるから、さっきも慣れてるように見えたんだな。

たわいない話をしているうちに、予約の時間が迫る。
総悟君が顔を出した。



「万理ちゃん。デコレーション済んだからラッピングお願いしていい?」

「は、はい!」



呼ばれた万理ちゃんはパタパタ、と走っていく。
それを見つめる薫君。



「ね」

「はい?」

「見にいこっか」

「は?」

「見たいじゃない、総悟君のバースデーケーキ。どんなのかしら?」

「・・・・・普通、デコレーションは決まってるんじゃ?」

「ううん?全部彼にお任せだから。決まったのってないのよ」

「はあ?」

「行きましょ。どんなのか興味あるし」

「ちょ、ま、待ってください!」



薫君を置き去りに、私はキッチンへ向かう。
あたふたと付いてくる薫君。

キッチンへと入れば、総悟君のケーキが見えた。



「わお。美味しそう~~~」

「ですよね!」

「まあね。これでも控えめにしたんだよ?」

「「・・・・・これで?」」

「予算上、このくらいかなって」



そうは見えない、としか言い様がないんだけど。
でもそう言われると、飾りに使ってるのはチョコレートのプレートに、苺。
後はクリームでデコレーションしただけのシンプルなもの。

・・・・・でも、すっごく素敵なのよね・・・・・。



「腕の差よね」

「まあね。変なものは出せないし」

「しゃ、写真撮らなきゃ!!!」

「うわ・・・・・」



変にテンションの上がる万理ちゃんを押さえて、薫君が覗き込む。
その口から出るのは、賞賛のため息。



「美味しそうね」

「はい・・・・・」

「ふふふ、今度食べにいらっしゃいな」

「そうします」

「あれ、万理ちゃんが持って帰ってないっけ」

「お、泉さん、しーーーーーっ!!!」

「「・・・・・」」



どうやら、万理ちゃんは持って帰るケーキは内緒で自分のお腹に納めているようだ。

薫君はしれっと冷たい目で万理ちゃんを見て、ふいっとそらした。



「か、薫!ごめんなさい!」

「別に」

「の、残しておこうと思うんだけど!つい!!!」

「つい、・・・・・ね」

「あうううう」



こんな所で兄妹間の確執が。
・・・・・食べ物の恨みって恐ろしい。

なんだかんだバレながらも、万理ちゃんはちゃんとラッピングを済ませ、お客様に渡した。



受取りに来たお客様も嬉しそうに、大事に持って帰った。

そんなお客様を優しい目でみる総悟君。
やっぱり、こういう一瞬が味わえるのって、いいわよね。



「ところで響子さん、賞品持っていかなくていいの」

「はっ!!!忘れてた!!!」

「「「・・・・・響子さん・・・・・」」」



しょ、しょうがないじゃない!!!
総悟君のパンケーキ美味しかったし!!!
デコレーションケーキも目の保養だったし!!!

それに、可愛い双子ちゃんまで来てくれたんだもの!!!

忘れちゃうくらい、しょうがないわよね!?



その後、慌てて皆で賞品を運んだのは言うまでもない・・・・・。

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