夢見るディナータイム

あろまりん

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バーカウンターへ行けば、赤毛に魅力的なバーテンダー。
沙織が女の子になるのがわかる。
かなり前から『素敵な人がいるの!』と言っていたのだ。

私も気にはなっていた。

そうしたら、すっごいイケメン。
目が覚めるくらいの。

こんな人を連れて歩いたら、周りの人がこぞって彼を見るに違いない。

私も素敵だな、いいなって思うけど。
・・・・・確かに、この人に口説かれたらあっさり転ぶかもしれない。
でも、今は透さんをあの女から奪いたい。それが一番。



バーカウンターへ行けば、金子さんは他のお客さんと話しこんでいた。

男性2人組。
ちらり、と見れば・・・・・驚いた。
金子さんに負けず劣らずのイケメン!!!

1人は、金子さんよりも年上だろう。
透さんよりも上かもしれない。
艶のある黒髪に、紫色の瞳を持った、大人の色気のある男性。

もう1人は私達と歳は近そう。
くせのある茶色の髪に、翡翠の瞳。
猫のような印象をうける、青年。

3人で楽しそうに話してる。
声も、すっごくいい声。
紫の瞳の人は、低くて耳に優しい声。
翡翠の瞳の人は、甘くからかうような声。
金子さんも色っぽい声をしているから、聞いているだけでもドキドキする。



「なんだか、楽しそうですね金子さん」



内心のドキドキを押し殺して話す沙織。
隣にいれば、声だけでどんな感じかわかる。



「本当、楽しそう」



私も話を合わせる。
・・・・・男受けがいいように、声をほんの少し高くして。
くすくす、と笑いかける。

・・・・・下心がないと言ったら、嘘になる。

もしかしたら、この素敵な男性が私に好意を持ってくれるかもしれないのだから。

そうしたら・・・・・透さんの事も忘れられる?かも?



金子さんの願ってもない申し出に、私達は飛びついた。
男性の考えを聞きたい、という気持ちと。
ちょっとした浮気心もある。正直な気持ちだ。

沙織はきっと、金子さんに近づけるチャンスと思っているだろう。
・・・・・もしかしたら、私と同じようにあの2人と近づけたらいいなと思っているかもしれないけど。



◼︎ ◻︎ ◼︎



「じゃあ、お邪魔しまーす」
「お隣、失礼します」



沙織と私は、彼等2人を挟むように座った。

沙織は、紫の瞳の男性・・・・・巽さんというらしい。
私は、翡翠の瞳の男性・・・・・泉さんの隣に。

少し冷たい印象を受ける泉さん。
でもにこ、と笑う顔がすごく素敵だ。
瞳には悪戯っぽい色が浮かぶ。・・・・・私を品定めするみたいな瞳。



「こっちの子は・・・・・常連だな。
かなり前からここに通ってんだ」

「初めまして。木原といいます」

「どうも」
「どーも」

「んで、そっちは・・・・・」
「私の友達で、佐々木麻里子って言います」
「初めまして、佐々木です」

「どうも」
「ふうん?佐々木サン、ね」

「巽さんはちっと気難しくてな?総悟はそんなでもねえけど」

「巽さんはすぐ睨むからね」
「うるせぇな」



犬猿の仲?とでも言うのだろうか。
あんまり仲良し、じゃないのかもしれない。
だけど、お互いの事をよくわかっているから、そうしているって雰囲気がある。



「どんなお知り合いなんですか?」

「あ?ああ・・・・・俺が働いてるレストランのスタッフだ」

「へえ?そうなんですか」

「ああ。巽さんがシェフ。総悟がパティシエだな」

「わあ!こんな素敵な人が働くレストラン、行ってみたい!」
「すごく美味しい料理を作ってくれそう!」

「・・・・・まあな」
「そこらの店には負けない自信はあるけどね。
・・・・・今日はそういう話はパス。せっかく仕事終わって呑んでるんだから」

「あ、そうですよね!すみません・・・・・」



男はこういう気を配る女が好き。
どんな男でも、大抵自分を心配してくれたり、気遣ってくれる女に弱いものだ。


ちらり、と私を見た泉さん。
その瞳からは、私を気にする色は見えなかったけれど・・・・・。

でも、やっぱりすごく格好いい。
こんなに整ったイケメン、見た事ない。
大学だって、会社だって、こんな素敵な男の人に会える確率なんてないくらい。



「・・・・・んで?お嬢様たち。何か聞きたい事でもあったんじゃねえのか?」



金子さんが悪戯っぽく、笑い混じりにそう聞いてきた。
この人は、相談事を察するのが上手。
・・・・・きっと、彼女の悩みとかもこうやってうまく聞きだすんだろうな?



「そうなんです。いいですか?」

「ああ、いいぜ?今日は俺だけじゃなくて、この2人からも意見が聞けるかもな?」

「え、いいんです・・・・・か?」

「ま、聞いて意見言うくらいはいいだろ?2人とも?」

「ま、僕は構わないけど」
「・・・・・俺もか?」

「違う意見が聞けた方が参考になんだろ?」

「はい!お願いします!!!」
「私からも是非!」



沙織と一緒に、頭を下げる。
上目づかいに頼み込めば、男性は弱い。
じっと見つめると、一瞬冷たい視線を感じたけれど、口元をふっと緩ませて笑う。

一瞬にして、大人の男の色気が全開。

冷たく硬質なアメジストが、柔らかく匂うラベンダーへと。



「しょうがねぇな。・・・・・どんな意見だろうと知らねぇぞ?
俺達は思った事をそのまんま言うだけだからな?」

「そ、それでいいです!」

「あーあ巽さんてば、いいとこ取り。
そうやって女の子口説いてるんですか?」

「総悟・・・・・お前な」

「はいはい、それで?君達の話って何?」

「えっとですね・・・・・」



そうして、沙織が話し始める。
友達の話なんですけど、と前置きをして。

私もそうそう、と頷きながらも心臓が爆発しそうだ。

詳しく話すわけではないけれど、かいつまんで話していく。



「鉄の心臓の持ち主だね、その子」

「そっ、そんな事ないですって!」

「だって、彼女持ちの男を誘惑して成功。でも失敗。
それでも諦めずにまた誘惑してるんでしょ?面の皮厚いよね」

「一刀両断だな、総悟・・・・・」

「僕、そういう女の子って嫌いだから。ハルさん好きなわけ」

「んな訳ねえだろ。俺もお断りだ」

「でしょ?好きっていう人いないでしょ、そんなの。
知らないで騙されてる人はどうか知らないけどね」

「・・・・・ちっと待て。まだ先があんだろ?全部話せ。それからだな」

「っは、はい・・・・・」



泉さんは嫌い、だって。
確かに、端から聞いてたらそんな女願い下げかもしれない。

でも、本人は真剣なのに。

・・・・・男の人は、そう思うんだろうか。



◼︎ ◻︎ ◼︎



まあ、彼女等を誘ったのは俺だ。
うまく響子関係の話を聞き出せれば・・・・・と思ったんだが。

常連の彼女から悩み相談と称して始まった話は、まさにどんぴしゃ。

一瞬、顔が変わったんじゃねえかってくらい俺は驚いた。
・・・・・多分、巽さんと総悟も内心驚いてんじゃねえかと思う。
2人ともしれっとした顔して聞いていたけどな?



まあ、内容は・・・・・言わずもがな、って所だ。



友達が、彼女持ちの彼を好きになってしまった。
その相手の彼女に悪いと思いつつも、好きな気持ちを止められない。
彼も、彼女をまんざらでもないようで、今はかなり深い関係なのだと。

一度は、その彼も彼女を大事にしたいから、とその友達を突き放したようなのだが。

その彼と彼女も、お互いの仕事で行き違い、距離が離れている。

諦められない気持ちに火が付き、彼に再アタックした友達。
今では、彼とまた付き合っているのだという。

だが、その彼は未だに彼女と別れた様子はない。
友達としては、彼女と自分、どちらが大事なのか。
彼女と会っているようには見えないし、一体どうしたら彼を自分の物にできるのか。

そういう立場から、男性は何を思っているのか教えて欲しいというもの。



・・・・・。


まあ、俺も昔は女遊びは派手だった。
巽さんもかなり派手だった。

わからなくもない。その状況。

だがしかし・・・・・。
それをぶっちゃけていいもんなのか?


すると総悟が、呆れた、とばかりに言った。



「僕は無理。そういう子、嫌い」



ばっさり切った!!!!!!!



流石に、俺も巽さんもぎょっとした。
総悟はそのまま、こともなげに言う。



「ていうか、その子、その彼女のお下がりの男で満足な訳?」

「え、」

「だってさ?その男の部屋、行ってるんでしょ?
きっとその部屋で彼女と幸せに過ごした場所。そこで愛し合える訳?」

「・・・・・ちょ、総悟」

「ハルさんは後で。今は僕の意見でしょ?
だって、そのベッド、前は彼女といい事してたんだろうし。
全く知らない女が相手ならまだしも、知ってる女の人でしょ?
なんとも思わない訳?それで」

「ど、どうなんでしょう・・・・・」

「あ、そうだっけ。『友達』の話だったよね?
君達のどっちか、の話じゃないんだもんね?」



にっこり、と天使の微笑み。
・・・・・俺には悪魔の微笑みにしか見えねえんだが・・・・・。



「ま、いいんじゃないの?奪いたければ奪えば?
僕はそういう女の子は嫌い。相手にもしたくない。
でも、その男もそれだけ愛されてるんなら、気付かない方が幸せかもね?」

「「・・・・・」」



黙った2人。
なんとも言いがたい雰囲気だ。

カラン、とグラスの氷が解けて崩れる音。



「・・・・・ま、総悟の言い分にも一理あるな」

「巽さん」

「俺の意見としては、だ。
・・・・・その男は、自分が欲しいときに慰めてくれる女を欲したんだろ。
だから、一度は彼女を選んだが、今はその女を選んだ。それだけだ」

「・・・・・どういう事、ですか?」



恐る恐る、と言った具合に訊ねた、浮気相手の佐々木麻里子。
巽さんも、総悟越しにひたり、と視線を合わせてゆっくりと話す。



「最初は、ただの遊びだったんだろ。その男も。
若い女が、自分目当てにちやほやしてくれる。悪い気分はしねぇさ。男ならな」

「・・・・・」

「ま、そーですね」
「それは一理あんな」

「だが。それは一時しのぎだ。いつか目が覚める時がくる。
どんなに美味い料理だって、ずっと食い続ければ飽きるだろ。
いつも食ってる料理が一番、自分の口に合うと思い出す」

「女は、料理じゃないです」

「ただの例えだ。つまりはそういう事だ。
やっぱり、自分が安らげる相手は彼女だと気付いた。だからその男は、その女より彼女を選んだ」

「っ・・・・・」



きゅ、と唇を噛み締めて俯く。
そんな表情をすれば、『その友達は自分』だというようなものだが・・・・・気付いちゃいねえんだろう。


その後の言葉を俺が続ける。



「で、だ。彼女と元鞘に戻ったが・・・・・彼女ともうまくいかなくなっちまった。
自分も、彼女もお互いの仕事で忙しく、タイミングが合わない。
どんなに具合のいい相手だろうが、会いたくても会えねえなら、少し気持ちがぐらつくもんだ。
そこをどううまく収めていくかが鍵だが・・・・・」

「そこで、その女が再び、男に近づいた。
寂しい男はあっさりとその女になびいた訳だな。・・・・・ちっと情けねぇ話だが」

「そういうもの、なんですか?」



不思議そうに、常連の子が聞いた。



「君達だってそうじゃないの?
彼氏が忙しくて、連絡とれなくて。放って置かれた時に、他の人から好意を寄せられたら?
それが、前まで仲良くしていた人だったら?クラッときちゃうんじゃないの?」

「・・・・・否定、できないかも・・・・・」

「たかがちょっと、と思っても、そういう時は魔が差すもんだ。
それは人間だから仕方ねえ、と思うかもしれねえ。でもな。
その時に『失いたくない誰か』が胸にいれば、拒絶する。だが・・・・・」

「・・・・・その瞬間、誘惑を選んだ、ってことは・・・・・・そういう事だ」



しん、と静まる会話。
店に流れるジャズだけが、場を満たした。


常連の彼女が、口を開く。



「どういうつもり、なんでしょうね。その彼も。彼女も」

「どういうつもり、って?」



総悟が後を引き継いだ。
それを受けて、彼女は総悟を見つめて話す。



「彼は、まあわかるんです。どっちも失いたくないのかなって。
でも彼女は?もう自分の彼が、浮気してるってわかってるのに・・・・・」

「・・・・・それは、まあ・・・・・」
「どうなんだろうなあ・・・・・」



俺と総悟が考えこんだ時。
巽さんがずばっと言った。



「考えてんじゃねぇの?」

「「「は?」」」



俺、総悟、常連の彼女がハモった。

面倒臭そうに巽さんが話す。



「だから。その浮気した彼氏にどうやって言うか悩んでんじゃねぇのか?
浮気、1度目じゃねぇんだろう?恐らく最初のも気付いてるだろうが。
2度目、ともなりゃどう言おうか考え中なんじゃねぇのか?」

「あぁ・・・・・」
「成程・・・・・」
「それも・・・・・ありますよね・・・・・」

「言えばいいのに」



ぽつり、と佐々木が言った。感情を込めない口調で。



「怒ればいいじゃない。なんなのよ。仕返しでもするっていうの?」

「ちょ、麻里子!」

「何よ、上から目線で!ムカつくのよ、あの女!!!」



キレた。
どこがどう地雷だったのか全くわからねえが。

女のヒステリーは怖い。



「何いきなりキレてるの、君」

「煩いわね!いいでしょ別に!」

「カルシウム足りないんだって、ハルさん」
「俺に振るな!総悟!」

「お前等、少し黙っとけ」



はぁ、とため息を付く巽さん。
そして、斬れるような冷たい瞳を向けて、言い放った。



「てめえがどう思ったか知らねえがな。人の男に手を出した。
それだけで、そいつにはその彼女に詰られるのは覚悟しなきゃなんねぇだろうが。
『男が悪い』って言うのかもしんねぇな?ああ、そうさ。男だって悪い。だがな?」



ぎろり、と睨みつける。



「てめえが初めにちょっかい掛け始めたのが原因だろうが。
その彼女に嫉妬して、勝手にライバル扱いして食い下がった。
・・・・・人の所為ばかりにしてんじゃねぇよ」

「っ、」

「まあ、覚悟すんだな?その彼女から何をされようと甘んじて受けろ。
お前等の話を聞いてると、その男は近いうちにその彼女に振られるだろうよ。
2度も同じ女にちょっかい出されてホイホイ付いてくような男を繋ぎ止める女じゃねぇだろうしな。
お前はお下がりでもらえた男と宜しくやりやがれ。・・・・・良かったな」

「っ、な、何よ、何よ!!!わかったような口聞いて!!!」

「・・・・・君、馬鹿じゃないの?
そんな態度取ってて、未だにその『友達』が『自分』だってバレてないと思うわけ」

「えっ、あ、あのっ!」
「う、煩いわね!」

「君も、友達は選んだら?
それに、そういう事してるってわかったら止めるのも友達の役割じゃないの?」

「・・・・・」
「っ、く・・・・・」



涙を浮かべ、悔しそうに俺達を睨む佐々木麻里子。

俺も、巽さんと総悟と同じ意見だから、それ以上は口にはしない。

バッグとコートを引っつかみ、急いで出て行く彼女。
それを追いかけようとした常連の彼女。



「っ、あ、えっと、」

「行ってやれよ。友達だろ?ここは奢りにしてやるから」

「あ、すみません!ごめんなさい!!!」



ばたばた、と出て行く彼女。
友達を心配するのは上出来だ。

後に残るのは、疲れた顔の2人。



「あーつかれた」
「グッタリだな」

「お二人さんよ・・・・・もう少し手加減してやれなかったのか?」

「仕方ないでしょ。生意気なんだもんあの子」
「最終的に勝手にキレたのはあの女だろ」

「そりゃそうだけどな・・・・・」



店長が何?と聞きに来たが、濁しておいた。

一応、『客同士のいざこざ』みてえなもんだしな?
彼女等の勘定は、巽さんがまとめて支払っていった。
・・・・・そういう所が、女にモテる所なんだよな、巽さん・・・・・
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