夢見るディナータイム

あろまりん

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万理ちゃんが加わり、ウチの店にも潤いが。
まあ、男性陣だけじゃどうにもこうにもならない物ってある。・・・・・あるよね?



可愛らしい笑顔に、数少ない男性のお客様も嬉しそうだ。

レジも、フロアもちゃんとこなすし、晴明もほとんど付いていない。
最初の何日間かは付いていたけど、1週間も経つ頃には平気そうだ。



「あの・・・・・」

「なあに?万理ちゃん」

「できれば、焼き菓子のポップとかラッピングとかしたいんです!!!駄目ですか!?」



ぐい、と勢い込んで訊ねてきた。
毎度の事だけど、彼女はスイーツに関してはかなりの勢いを発揮する。

それだけ、総悟君のスイーツを気に入ってくれているって事だろうけど・・・・・



「ま、万理ちゃん」

「はいっ!」

「近い・・・・・」



◼︎ ◻︎ ◼︎



「す、すみませんでした・・・・・」

「いや、いいのよ!やる気があるのはいい事だよね!」



やる気の万理ちゃんを連れて、駅前の雑貨屋さんに。

ここの駅はターミナル駅だけあって、人の出入りは激しい。
だから、雑貨屋さんもたくさんあるので、物を選ぶのは困らない。

一応、気に入っているお店もあるからそこから回ることにした。



他のスタッフにはお店を閉めておいてくれるように頼んだ。

とはいえ、大亮さんも康太君も山崎君もバイトだから、結局頼むのは晴明だ。
浩一朗と総悟君は明日の仕込みとかがあるから、晴明が一番頼みやすい。



「いいぜ、女2人で楽しんで来いよ。もし荷物持ちに来て欲しかったら電話しろよ」



そう言って送り出してくれた。

なので、2人してテクテク歩く。
駅まではそんなにかからない。5分くらい、かな?



「はぁ・・・・・」

「あれ、どうしたの?万理ちゃん」

「なんていうか・・・・・皆さん素敵で、ドキドキします」

「え?」

「あ、あの・・・・・私、男の方とお付き合いしたことなくて。
高校も女子高でしたし・・・・・」

「あー・・・・・まあ、えっと、どうしよう?」

「あ、いえいえ!すごく目の保養っていうか!
巽さんはクールで素敵だし!近寄りがたいですけど!
金子さんはいつもなんていうかすごく距離が近くてドキドキしますし!
泉さんもカッコよくって、でもなんか冷たいんですけど、たまの笑顔がまた素敵で!
康太君はすごく優しくって、話しやすいですし。
森谷さんは頼れるお兄ちゃんって感じで・・・・・あの笑顔に癒されるっていうか。
山崎さんも、キリッとした顔立ちがまた・・・・・て。あの!?」

「あ、うん・・・・・万理ちゃん、面食いイケメンダイスキって言われない?」

「え!何でわかるんですか!?」



すごい、響子さん!!!と目をキラキラさせる万理ちゃん。
うん、わかるよね?わかりやすいよね?

みんなの事を話す万理ちゃんは、キラキラしてて、すごく可愛かった。
でも、なんていうか・・・・・ミーハーな空気がスッゴイ出てた・・・・・。

仲良くなっているようで、私としては嬉しいんだけど。

ま、まあいいか!いいよね?いい事にしよう!



◼︎ ◻︎ ◼︎



そして、雑貨屋さん巡りのスタート。

探すのは、ラッピングに必要な物と、ポップを書くのに必要な物。
どっちも、万理ちゃんに選ばせた。
だって、書いたり包んだりするのは万理ちゃんだし。
だったら、彼女本人が気に入ったものの方がいいんじゃないかな?と思うから。

もちろん、店に合うデザインのものにしてもらいたい。

でもそんなの言わなくたって、彼女ならきっとわかっているはず。



「どんなのにするか考えてるの?」

「あ、基本的に今のままがいいと思います!シンプルな方がいいと思うし・・・・・
飾り立てなくたって、泉さんのお菓子はとびきり美味しいですから!」

「そっか」

「ふふふ、響子さん、嬉しそう」

「だって、嬉しいもの。総悟君はあんまり顔に出さないけど・・・・・売り切れって言うと嬉しそうな顔するでしょ?
やっぱり、作ったものが売り切れるってすっごく嬉しいだろうし」

「ですよね?でも、売り切れるの当たり前ですよ!
ケーキもいつも美味しいし・・・・・他のお店のケーキなんて食べれないです」

「あはは、そうかも」



毎日のように、仕事の後スイーツをご馳走してもらっちゃってる。
だから、絶対に口が肥えてきてるに違いない。

他のものじゃ満足できなくなっちゃうんだよね。



同じもので、という万理ちゃんに、行きつけのお店に案内した。



今使ってる透明の袋と麻紐はここで買ってる。

他にも色違いの紐や、少しデザインの入った袋もたくさん。
買いに来るたびに、こっちにしようかウロウロ、こっちかな、とか悩んでしまう。

結局、いつものシンプルなやつにしちゃうんだけどね?



万理ちゃんに選ばせると、同じように悩んでる。
だよね~~~、迷うよね~~~?



「迷っちゃいます」

「だよね~~~私もいっつも迷って、結局一番シンプルなのにしちゃうんだよね」

「わかります、その気持ち」

「でも、紐とか変えてもいいかも。細いリボンとか?」

「あ、いいですね!!!」



そのまま2人でいろいろ吟味していく。

やっぱり、袋は透明なやつにして・・・・・
でも縛るやつはもうちょっと色々あってもいいかも。

日替わりでもいいだろうし・・・・・



「ポップは私が書きますけど・・・・・貼り付けた方がいいでしょうか?」

「ん~~~、メモスタンドに差したら?このキューブのとか可愛い」

「あ!いいですね!すぐに取替えられますし!
どこにでも置けますからいいですね!!!」



雑貨屋さんて、本当に色んなものがあるから楽しい。

同じ女でも、同じものを見ても、同じ印象とは限らないし。

万理ちゃんはピンクとか、ほんわかした感じのものが好きみたい。
形も、丸とか、桜の花びらのとか・・・・・女の子、って感じの。

私は結構色がはっきりしたものが好き。
変わった形とか・・・・・わりに奇抜なものが好きかもしれない。
それとシンプルなやつ?ナチュラルなウッド製のとか。動物の形とか。



「・・・・・」

「気になりますか?」

「フラミンゴ・・・・・」

「う、うーん?オフィスに置いたらどうですか?」

「だよね・・・・・レジには駄目よね・・・・・?」

「か、可愛いですよ!?ホントですよ!?」



フラミンゴのボールペン。
足のところがペンになってて書けるようになってる。

体のところは・・・・・飾りだよね?
立たせると、フラミンゴが立ってる感じに。

・・・・・ダメだよなあ。でもオフィスならいいかしら?
すでに水のみ鳥さんがいるんだけどさ・・・・・。



「・・・・・浩一朗に『無駄なもん買うな』って怒られそう・・・・・」

「なんか、言いそうですね・・・・・」

「晴明は『まあまあいいじゃねえか』って言うだろうけどね」

「わかりますそれ!!!」



うふふ、と笑う万理ちゃん。
その後ろに、ふと、目がいった。



店の外。
向かいにいるテナントにいる女性と目が合った。



向こうも、私と目が合った。



・・・・・・・佐々木、さん?



そう、向かいのショップにいる女性。
佐々木麻里子さんだ。

いつものとおり、くるくる巻いた髪。
白いコート。



私を見て、うふ、と笑う。
・・・・・なんていうか、勝ち誇ったような、微笑み。



そのまま、隣にいる男性の腕に縋りつくように身を寄せる。

私の位置からは、男性の顔は見えない。
ちょうど、商品があって肩あたりからしか見えないのだ。



佐々木さんは、そのままくっ付いて喋りかける。

楽しそうに笑い、腕にくっ付き。
そして、またもう一度、私を見て笑った。



『どう?』



とでも言うように。

・・・・・もしかして。あの、相手の人・・・・・。



すっと、向こうが動く。

佐々木さんと一緒に歩く男性の横顔は。



予想はついていた。
隣に歩く、彼女が嬉しそうにくっ付く男性は誰なのか。

・・・・・透。

彼も、まんざらでもなさそうに彼女に腕を貸している。
端から見れば、『恋人同士』にしか見えない。

どう見ても、ただの『同僚』とか『職場の仲間』には見えない。



うまい具合に、彼女が自分の方に顔を向けるようにしてるらしく、透がこちらを見ることはない。
その代わり、彼女は私の方を向いたまま。

透と話し、時折嬉しそうに笑いながらも、私の方へ目線を向けて嗤う。



『貴女の彼は、私のものよ?』



とでもいうように、挑戦的に。



「響子さん?」

「っ、」



ふと見ると、万理ちゃんが気遣わしげに私を見ていた。



「どうか・・・・・しましたか?」

「ん?あ、ううん、なんでもないわ」

「・・・・・でも、なんか、」

「なんでもないよ。知ってる人がいたような気がしただけ」

「・・・・・なら、いいんです、けど・・・・・」



心配そうに私を見る万理ちゃん。

多分、私は呆然とした顔をしていたのだろう。
それを間近で見て、万理ちゃんは不安になってしまったんだと思う。

こんなところで、見るなんて思わなかった。

別に変ではない。
彼等の、私のいた元会社は、この駅を乗換駅として使う人も多い。
それに、ここは結構発展してるから、帰りに寄る人も珍しくはない。



でも。



あんなに堂々とされると、ねえ・・・・・?



その後も心配そうにする万理ちゃんを急かし、必要な物を買って帰った。
少し遅くなってしまったから、材料は私が持って帰る。彼女はそのまま家に帰した。

・・・・・少し、1人になりたかったから。



◼︎ ◻︎ ◼︎



家に帰る。

店はすでに、灯りが落ちている。
さっき、携帯を確認すれば浩一朗も晴明も総悟君も『帰る』とメールが来ていた。

結構、うろうろしてたからなあ・・・・・。



材料はそのまま玄関先に置いて、リビングへ。

ソファにばすん、と寝転がる。



「・・・・・そっか・・・・・」



さっきの光景が蘇る。

楽しそうに歩く2人。
まんざらでもなさそうな顔の透。
嬉しそうに笑う佐々木さん。

そして、・・・・・あの、勝ち誇ったような笑み。



気がついてない訳じゃない。

晴明から、佐々木さんがバーに来た話を聞いてから。
私は透のマンションには行かなくなっていた。

仕事が忙しかった、というのもある。

デートは大抵外ご飯。
そして、触れ合ってもキスまで。

連絡は2~3日に一度は取っていたけれど。



『別れた』わけではない。
でも、それに近い感じになってきていたのも確か。



潮時、なんだろうか。

お互い、口にはしないけれど、仕事の忙しさを盾にしてなあなあになっていた。
『恋人同士』というよりは、『友達』のようになっていたかもしれない。



「別れる、か」



・・・・・。



あれ?



私、今まで、どうやって男の人と別れてた???



ふと、思い起こせば、ちゃんと別れる事ってなかったかもしれない。

大抵、連絡を取らなくなってフェードアウト。
それか、同じように疎遠になって、男性の方から『別れようか』と聞かれて『うん』と答えてた。

きちんと会って、話をして『別れよう』と言う事ってない。



「え。・・・・・どうやって切り出すもの?」



ど、どうしよう。
いざ、別れを切り出す時って、何を話せばいいの?

いきなり『別れましょう』とか言えばいいの?
食い下がってきたらどうするの?

あ、でも浮気してんのは向こうだからそこをつつけば勝てる!?
ってか、勝ち負けなのか!?



そんな事を考えているあたり、本当に透に未練がないかもしれない。

むしろ、どーぞ持ってっちゃって!!!くらいの感じだ。
フラフラされるのは2度目。
今更戻ってこられても、もう私は彼を信用しないと思う。



「んん~~~~~、女として、干からびた?」



そんな考えも出てきてしまった。

毎日、イケメンのスタッフで潤ってるから、特定の彼氏がいらないのか?
今は仕事の方がウキウキしちゃうしね・・・・・。


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