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25皿目
しおりを挟む次の日、総悟君はマドレーヌを作ってくれた。
美味しいったらありゃしない。
なんだって、こんなに美味しいんだろうか・・・・・。
腕の差、なんだろうな。きっと。
クッキーとビスケットは、量を2倍にしたにも関わらず完売。
お客様に聞くと、『ここでしか買えない美味しさ』と言ってくださった。
総悟君も何気に嬉しそうにしている。
当たり前だよね、だって自分の作品がお客様に褒められるんだもの。
話し合って、クッキーとビスケットは毎日売る事にした。
他にも作ってもいいと言ってくれたのだけど、そんなに種類を増やすものでもないと思う。
それをメインにしていくのならあった方がいいだろうけど・・・・・。
ウチのメインは、ディナーだもの。
まだ始めてはいないけれど。
後々大変になって無くすのなら、最初からやらない方がいい。
それに、クッキーとビスケットだけだってこんなに美味しいんだもの。
十分じゃないのかな、って思う。
ウチはケーキ屋さんて訳じゃないし。
総悟君の味をもっといろいろ知ってもらいたいとは思うけどね。
「ま、いいんじゃねぇのか。カフェが始まればケーキだってあんだろうし」
「そうですね。手広くやっても仕方ないし。
後々、ディナーに差し支えるのはゴメンですからね」
「うん、そう思って。ちょっと寂しい気もするけど」
「大丈夫、いつだって響子さんのスイーツは作るから」
「え。・・・・・いや、それもちょっと控えないと・・・・・」
「なんで?」
「え、だって、あの、」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
無言でじーっと見つめてくる総悟君。
きっと、答えはわかってるくせに。意地悪・・・・・。
「カロリー的に・・・・・」
「太るってか?」
「はっきり言わないで!浩一朗のバカ!!!浩一朗のご飯も美味しいからいけないんだからね!!!」
「俺の所為かよ?」
「だって!!!炭水化物!!!」
「仕方ねぇだろうが。それでもキッチリコントロールしてカロリー少な目にしてやってんだぜ?
特にお前の皿はな?大亮達のは別だが」
「え?」
「野菜とか多めに盛ってるだろ」
「・・・・・」
「気付かなかったんだな?」
「・・・・・ハイ」
「前から言ってたろうが。『美味しいのはいいけど太ったらどうしよう』ってよ」
「ちゃあんと珈琲や紅茶もカロリー低い砂糖使ってるぜ?響子?」
「えええ?」
「お前だけが焦ってたんだろ」
えええ、嘘だぁ!!!
どうやら、『どうしようどうしよう』と体重が増えるの気にしてたのはしっかり皆にバレていたようで。
私に出すときは、それなりにカロリーセーブしてくれていたらしい。
・・・・・気付くかそんなん!!!
「響子さん?」
総悟君が話しかけてきた。
「大丈夫。ちゃんとカロリー少な目に作ってるから。
僕が響子さんを太らせるようなものを作るわけないでしょ?」
「え?甘い物って、そういうのアリなの?」
「僕のは全部砂糖少な目だよ。基本的に甘さは控えめにしてるから」
「そ、そうなんだ・・・・・」
「で?リクエストは?」
「・・・・・プリン・・・・・」
「うん、任せといて」
結局お強請りしてしまった。
だって、総悟君の作るものって美味しいんだもん・・・・・。すでに中毒かも。
◼︎ ◻︎ ◼︎
そして本格的にカフェタイムが始まった。
カフェのスイーツはケーキが2種類。
ランチのメニューと同じく、スタンダードなケーキが1種類と、スペシャルメニュー。
プラス・・・・・。
「ワッフルかパンケーキ。にしようかなって」
「わあ、いいじゃない!」
「まあ、ケーキは大体ショートケーキかチョコレート。またはチーズケーキかな。
スペシャルの方は、その季節によって・・・・・モンブランとか、シュークリームとか?
ロールケーキもありだよね?」
「うん、そうね。ケーキが2種類に、ワッフルかパンケーキか。いいじゃない」
「それも週変わりでね。今週はパンケーキにしようかな」
「ふふ、来る人楽しめるわね」
トッピングはバターとメープルがセット。
プラスでジャムやクリーム、チョコレートソースを付けられるように。
珈琲や紅茶とセットでこっちも500円で。
飲み物のおかわりは一度だけ。
ケーキは単品では一切れ300円で。
持ち帰りも可能。
・・・・・でもなくなる恐れ、ありだなあ・・・・・。
ま、いっか。残っちゃうよりはマシだよね?
カフェは、大盛況だった。
ランチの後、そのままいてくれる人もいた。
OLさんがおやつに買いに来てくれたりもした。
ケーキ類は14時過ぎてから出すようにしたから、ランチタイムとの混雑は防げる。
ま、昼にしかこれなくて買えない・・・・・という人もいるかもしれないけど。
こればっかりは仕方ないわよね。
通り道に大学生もいるので、カフェタイムには結構女子大生が来た。
言うまでもないだろう。
女の子たちが、イケメンにメロメロですよ・・・・・?
何度か、携帯で撮ろうとしたお客様もいた。
その都度、私がやんわりと注意するのだけど。
「申し訳ありません、お客様。彼等にもプライベートがありますので撮影はご遠慮願えますか」
「・・・・・どうしてもダメですか?」
「彼等の了承があるのなら別ですが、店内での撮影は禁止させてもらってます。
彼等にも普通の生活がありますから」
「・・・・・少しくらい・・・・・」
「ではお客様。お客様も許可なしに写真を撮られても平気ですか?」
「それは・・・・・」
「店員達も人間です。勝手に自分の写真を撮られるのはいい気持ちはしません。ですから・・・・・」
「・・・・・わかりました、すみません」
こういうやり取りも珍しくない。
けれど、ウェイター自身よりもオーナーである私が言う方がいいのだ。
あまりに度が過ぎるのなら、出禁にさせてもらう事も考える。
携帯で簡単に写真が撮れるのも考え物ね・・・・・。
◼︎ ◻︎ ◼︎
「あ、あの」
お会計が終わった後。
1人の女の子が話しかけてきた。
見ると、可愛らしい女の子。
白い肌に、ふっくら桜色の頬。
黒いキレイな髪の毛。
「なんでしょうか?」
「ここ、アルバイトは募集してないんですか?」
「ええと、募集してないわけではないんですけど」
「じゃ、じゃあ、私、ここで働きたいんです!!!」
ぐっ、と握り拳を作り、頬を上気させて喋る。
キラキラした瞳。
ううう、可愛いんですけど、この子・・・・・。
「え、えっと・・・・・」
「だっ、ダメですか!?」
「ダメ、じゃないのですけど。時間が短いし、あまりお給料も・・・・・」
「大丈夫です!頑張ります!!!」
おっと、被せてきたよ!!!
ずずい、と迫るような迫力。
押され気味な私を見かねたのか、大亮さんが寄ってきた。
「オーナー。上で話したらどうだ?」
「あ、そうね。・・・・・森谷君、お任せしてもいいかしら?」
「ああ。いいぜ?」
ニカ、と笑顔で請け負ってくれた。
大亮さん、頼りになるわ・・・・・。流石はアニキ!!!
彼女を上のオフィスへと連れて行く。
中に入れて、ソファへと座らせると、いいタイミングで晴明がアイスティーを持って来た。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございますぅ・・・・・」
「オーナー」
「ありがとう、金子君。下は任せるわ。何かあったら呼んでね」
「はい。・・・・・ごゆっくり」
にっこり、と営業スマイルを色気と共に振りまき、彼女が真っ赤に。
おいおい、夜の営業スマイルは封印しなさいっての・・・・・。
「どうぞ。少し飲んで落ち着いてね」
「あ、はい!すみません、私・・・・・」
「いいえ。ちょっとビックリしたけど」
「そっ、そうですよね・・・・・」
しゅん、と子犬のようになってしまった。
さっきまでは勢い良かったのに。
「名前を教えてもらえるかしら?」
「はい!旭 万理です。」
「旭さん。・・・・・ここで働きたいのかしら?」
「はい。お願いします」
「・・・・・あのね、ウチは長い時間営業してないの。今は18時まで。
だから、カフェだけの仕事だと、4時間くらいしかアルバイトしてもらう時間がないの。
それでも、ウチで働きたいのかしら?」
「はい。・・・・・ダメでしょうか?」
「ダメ、という訳ではないのだけど。・・・・・旭さんは学生さんかしら?」
「あ、はい。もうすぐ卒業です」
ここの奥のほうにある短大の学生さんらしい。
英文科、らしいのだけど。
アルバイトで、ケーキ屋さんで働いていたと言っていた。
「・・・・・働いていた?」
「はい。・・・・・辞めてしまったのですけど・・・・・」
「何かあったのかしら?差し支えなければ話してもらえる?」
どうやら、この可愛さが裏目に出たようだ。
ストーカーに付きまとわれたらしい。
ケーキ屋ともなれば、制服が可愛い。
しかもこの清純チックな可愛さ。
どうやらストーカーにあいやすいタチらしく。
1度や2度ではないらしい・・・・・。
その度、双子のお兄さんがなんとか追っ払ってくれたらしいのだけど。
「お店の方にも迷惑がかかってしまって。・・・・・辞めてくれないかって」
「ああ・・・・・そうなの・・・・・」
「私、ケーキが好きで。売ってると楽しい気持ちになって。
喜んでくれるお客様を見ると、更に嬉しくて。
接客の仕事が好きなんです。」
「なるほどね。笑顔が可愛いものねぇ・・・・・」
「え、あのっ」
かあ、と真っ赤になる旭さん。
うーん、これはストーカーが出るのも頷ける。
「で、ウチを気に入ってくれたわけは?」
「ケーキ。すっごく美味しかったです。私が今まで食べてきた中で一番。
ランチも食べた事あるんですけど・・・・・。美味しくて。
食べてるお客様の顔も、とっても幸せそうで。こんなお店で働けたらなって・・・・・。
なので、無理を承知で聞いてしまったんです。ごめんなさい」
「あ、ううん?別にいいのよ?」
うーん、雇ってもいいんだけど・・・・・。
「わかりました。明日から来られる?」
「えっ!?は、はい!!!!!」
「何時から平気かしら」
「え、えっと、曜日によるんですけど・・・・・明日は14時から働けます!」
「なら、14時に。そのまま入ってきて頂戴。私はレジにいるからね」
「はい!ありがとうございます!!!」
「一応、履歴書をお願いね?で、サイズ、いくつ?」
「え、えと・・・・・7号で・・・・・」
「じゃあ、私のでいいわね。ブラウスとか持ってる?白いの」
「はい!」
「じゃあ持ってきて。ロッカーはあるから。髪は今日みたいにまとめて。ピアスもしてないもんね」
「はい。あの、ありがとうございます!」
「ううん、人が足りないと思ってたのよね。毎日来れる?」
「はい。頑張ります!」
「ランチから出れるなら、出てもらえると嬉しいなあ」
「出ます!!!」
「いい返事ねー。お給料は少し安いかもだけど・・・・・。ケーキ、食べたい?」
「う、は、はいっっっ!!!!!」
・・・・・一番力が入った。
いいな、この子。気に入っちゃった。
うまく行けば、ディナーが始まる頃には、正式に雇っちゃえるかも?
そんな事を考えているとは思ってもいないだろう、彼女。
目をうるうるさせて、嬉しそうに帰っていった。
いいね!!!!!
可愛いウェイトレスさん!!!!!
潤いって、こういう事だよね!!!!!
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