25 / 59
24皿目
しおりを挟む「こんなもの?」
「ううう、美味しそう~~~総悟君たら天才っ」
「あはは、もっと作る?クッキーだけじゃなくて、こないだのビスケットも焼こうか」
「食べたい!!!」
「じゃあ作るね」
「うんうん!!!」
「オイお前等、そんなに作ってどうすんだよ・・・・・」
そりゃ食べるに決まってるじゃない?と返せば、若干疲れたような顔をしたイケメン2人。
いいじゃない、どうせ浩一朗も晴明も食べるくせに。
◼︎ ◻︎ ◼︎
本当に、総悟君は手際が良かった。
さっさかと手順を進め、あっという間に仕上げていく。
そうしたら後はオーブンに放り込むだけ。
そのうちいい香りがしてくる。
しかも時間を計っている感じでもないし、覗き込むことすらしない。
それでも丁度いい時間に取り出せるのだ。
・・・・・なんだその体内時計?
「よっと。いい感じだね」
「・・・・・ねえ?」
「ん?なあに、響子さん」
「時間、計ってないわよね?」
「うん」
「なんで、わかるの?」
「焼き加減?」
「そう」
「勘だけど?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・もう聞くの止めとけって、響子・・・・・」
いやでもさあ?
気になるじゃない?そういうの?
でも浩一朗もそうか。
いつもパスタの茹でる時間、計ったりしてないもんね。
晴明だってそう。珈琲の抽出時間や、紅茶の葉の量。
目分量でやってるもんね?
プロってのはそういうものなんだな、きっと。(ということにしておこう)
ほどよく余熱の取れた焼きたてのビスケットを1枚齧る。
さくさく、あつあつ。
「おいツマミ食いしてんじゃねぇよ」
「ひゃってふぁ」
「飲み込んでから喋れ」
「・・・・・・・(もぐもぐもぐ)」
「・・・・・」
「・・・・・・・(もぐもぐもぐ、ごくん)、さくっ」
「食うな!!!!!」
だってさ~?止まんないんだもん~いいじゃない?
「あはは、響子さん、美味しい?」
こっくり。
「ふふ、ならいいよ。これ響子さんが持って帰りなよ」
「え、いいの?」
「いいでしょ。明日はクッキーだけでも」
「わーい!!!」
「あ、ずりいな。俺にもくれよ」
晴明も横からひょいひょいと取っていく。
浩一朗にも包んであげた。なんだかんだと言って、これ気に入ってるの知ってるからね。
「さて。明日も作る?」
「ん~~~。どうする?」
「僕は作ってもいいよ?ビスケットは明日作ろうか」
「そうだね、少しお願いしようかな」
「わかった。んじゃ、今日はこれでね」
「うん、引き止めてゴメンね総悟君」
「ううん、楽しかったから。巽さんのご飯も美味しかったですしね」
「フン」
「性格最悪だけど、腕は最高なんですよね巽さんて」
「おい総悟!」
「あはは、じゃあ僕はこれで。ハルさんもまたね」
「ああ。明日な」
ひょい、と逃げるように出て行ってしまった。
猫みたい。
総悟君が帰ったあと、私はクッキーをラッピング。
10個包んで、150円て感じ?
今日使ったペーパーに包み、駅近くの雑貨屋で買ってきた麻紐で縛るだけ。
格安で売るのだから、ラッピングにお金はかけません。
最初は100円かな~なんて言っていたのだけど。
晴明が『もうちょい取ったらどうだ?』と一言。
浩一朗も『後々ちゃんとした商品として売るんだったら、安くしねぇ方がいいぞ』と。
でもそうだよね、総悟君の腕は一級品。
このクッキーもそこらで買うのよりも美味しいんだからそれなりに取るべきかもしれない。
それでもラッピング適当だし。
本格的に売るのであれば、もう少し包装にお金をかけるとして。
今週のみはこの値段で行こうと決めた。
・・・・・来週からは、もうちょっとラッピングちゃんとして200円くらい取るようにしよう。
量を少なくして100円のも作ってもいいしね?
◼︎ ◻︎ ◼︎
次の日。
総悟君はビスケットを作り。
半分は大亮さんと康太君のお腹に消え。(もちろん山崎君もしっかり食べていた)
残りをラッピングして、レジ横に置いてみた。
もちろん、『パティシエ加入記念・サービス品』として。
ランチを食べたお客様が、買ってくれたらいいなと思い。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・一瞬で売り切れたけど?なにこれ。
開始、30分程で売り切れました。
ランチ食べて帰るお客様がどんどん買っていく。
まだ食べてないお客様まで。
曰く『食べ終わったら売り切れそうだから』だって。
まあ、置いてた量もクッキーを10袋、ビスケットも10袋しかなかったけど。
「・・・・・すげえな」
「いやー、びっくりした」
「売れるわ、マジで」
「もっと作ろうか?明日」
そ、そうですね・・・・・。
実際、私もこんなに売れるだなんて全く思っていなかったわけです。
昨日サービスで配ったし、だから何人か買ってくれるかなって・・・・・。
「まあ、いい事じゃねえか。ウチの看板商品にもなりそうだな」
「ま、あれは簡単だし。量を作ればいいならいくらでもいいよ?」
「焼き菓子だしな。ちょっとオフィスで摘むのにも丁度いいんだろ」
「そうかもね・・・・・でもビックリしちゃった。」
「だよなあ!俺も驚いた。パスタ持って行ったら、クッキーの包み持ってる人多くてさ」
「だよな。客で『買いたかった!』って言ってる人結構いたぜ?」
「そうなんだ・・・・・明日はもっと多くしなきゃダメかしら」
「だな・・・・・倍にしてみたらどうだ?」
「え!?そんなに売れるかしら!?」
「確実に売り切れると思うぜ?」
「オレもそう思う」
「俺もだな!」
「遺憾ですが、俺もそう思います。泉君の腕は抜群ですから」
「ふうん?山崎君からそんな発言が出るなんてね」
「俺は、素晴らしいものは素晴らしいと言ったまでの事です」
「君、僕の事嫌いだろうからさ」
「き、嫌いでは!・・・・・少し、苦手ですが」
「だよね」
「総悟。山崎を苛めるんじゃねぇ。・・・・・だが、俺も賛成だ。
お前の菓子は旨い。客に味を知ってもらうのはこの先にとってもプラスになるだろうからな」
「だな。カフェタイムで総悟のスイーツが食えるだろうが・・・・・
持ち帰りで焼き菓子があれば更に売り上げも伸びるだろうしな。どうだ?響子」
「・・・・・私は構わないの。でも、それが総悟君の負担になるようなら・・・・・」
「僕は平気だよ?」
にっこり、と笑顔を向ける総悟君。
「これくらい軽いよ。焼き菓子は作り置きできるしね。とはいえ1日くらいだけど。
ケーキなんかの生菓子以外にも売り上げが出るんなら、僕は賛成。
それを目的で来る人もいるかもしれないしね?」
「そっか。それもあるわよね・・・・・」
カフェでも、ケーキだけを買いに来るお客様だっている。
店内で食べるだけではないんだもの。
そんなに種類豊富にしなくても、クッキーとビスケットくらいでもいいかも。
・・・・・個人的にはマドレーヌとか食べたいですが。
「あれ。何かリクエストある?」
「え」
「顔に書いてある」
・・・・・。
にこにこ笑いながら聞いてくる総悟君。
他の皆も苦笑しながら私を見る。
浩一朗に至ってはすでに呆れ顔。それでも瞳は優しいけど。
「マドレーヌ、食べたいなあ、なんて」
「いいよ。作ってあげる」
「本当!?」
「勿論。売り物にはしないよ?」
「うん!楽しみ!!!」
「あ~いいなあ、総悟!オレ達も食いたい!」
「俺も!!!総悟!!!」
「わかってるってば。ちゃんと康太や大亮さん達にもあげますよ」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ皆。
総悟君がなんだか幼稚園の保父さんのようだ。
それでも、彼等に混じって笑う彼は、楽しそうで。
彼のようなパティシエを迎えられたことを、すごく嬉しく思った。
・・・・・ただ、カロリーコントロールはしなくちゃね・・・・・。
23
お気に入りに追加
619
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる