夢見るディナータイム

あろまりん

文字の大きさ
上 下
13 / 59

13皿目

しおりを挟む

オープン2日前。

来週の月曜からランチタイムのみのオープンを控え、私はお世話になった人を招いての食事会をした。



「ねえ、ちょっと皆にお願いがあるのだけど」

「ん?」
「なんだ?」
「なになにっ!?」
「おう!なんでも言えよ!」

「あのね・・・・・」



ここまで来れたのは、私の回りの人に助けられたから。

もちろん、ここにいる皆の力がなかったら出来ない事だったけど。

会社でお世話になってた人。
この物件をずっと管理してくれてた不動産の人。この人は今もアパートの管理担当さん。

そして、一応(一応?)彼氏も。



その人達を招いて、食事会をしたいと話した。



「いいじゃんソレ!」
「ああ、お世話になった人へのお返しとアピールな!」
「やろうぜ、響子。俺たちは全然構わねえさ」
「ま、本番前にいい練習だろ。土曜か?」

「うん、土曜にやろうと思って。お昼にね。ランチメニューを食べてもらおうと思って。
感想も聞けるでしょう?何かあれば、日曜におさらいできるものね」

「よーし!頑張るぜ!」
「オレだって負けねえぞ大亮さん!」
「何の競争なんだよお前等・・・・・」
「んじゃ、仕込みでもするかな。・・・・・2種類くらいでいいだろ?」

「あ、うん。それはシェフさんに任せます。お願いね?」



こうして、練習がてらの食事会を企画してみた。

土曜と言っても、明後日だから急なことかもしれない。
でも、来週オープンに向けて、少しは気構えも必要だし。

・・・・・第三者から『美味しい』って言葉が聞けたら励みになるかなと思ったのだ。



◼︎ ◻︎ ◼︎



土曜日。
とってもいい天気。よかった。

昨日、大亮さんや康太君たちの知り合いだというデザイナーの卵さんが看板を持ってきてくれた。

あまり大掛かりでもなく、小さくも無く。
でも、ふっと目を惹く不思議な看板。



「こんなもんでどうだ?」

「おおお!!!いいじゃん!!!さっすが、龍之介!」
「だな!やるじゃんか、龍之介!!!」
「お前、やっぱり才能あるよなぁ・・・・・」
「上出来だよ。腕上げたな」

「ちょ、そんな、褒めんなよ・・・・・っ」



囲まれて赤くなった子。
康太君と同じくらいの歳だと思う。



「本当にありがとう。すごく素敵な看板でビックリしちゃった。」

「あっ、いや、別に・・・・・楽しかったし・・・・・」

「ご挨拶が遅れました。オーナーの眞崎響子です」

「お、俺、あ、いや。・・・・・伊波龍之介です。今回はありがとうございました」

「え?こちらこそ。ごめんなさい、いきなりのオーダーで」

「いや!・・・・・嬉しかった。です。
俺、まだこういうちゃんとしたオーダー、あんまり受けた事なかったから。
すごく、色んなデザイン考えて。上手く形にならなかったりして。
・・・・・でも、あんたの話を聞いて。店を見に来て。すぐこれが思いついたんだ。」

「そうなの?見に来たなんて知らなかったわ?」

「あ、いや。夜に、こっそり見に来たんだ。ちょっと行き詰ったから」

「そうなのか?言ってくれればオレも来たのに」

「康太につき合わすまでじゃなかったんだよ。俺も結構行き詰っちゃってて、ふらっと来ただけだから」

「そうなのか。でも、これすっげえよ!!!」



白を基調に、碧の飾り文字。
シンプルで、でも目に優しいデザインだ。

少し古ぼけた洋館の外見のこの店にしっくりふさわしい。


『la place idéale』


ラ・プレース・イデアル。理想の場所、という意味だそうだ。これは浩一朗がつけた。

前に、『私の夢の店』って話をしたからだろうか。
それに、この店は浩一朗にとっても、晴明にとっても、そういう場所になってくれているんだろうか。



お客様にとってもそういうお店になるといいんだけど。
そういうお店にしたいなあ。
・・・・・がんばろっと。



こっそり闘志を燃やす私。

龍之介君に、感謝しなくっちゃね。





お昼時間に合わせて、店のドアを開ける。

一応、12時を目安に来てくださいってメールはしておいたのだけど。



店の敷地の石畳を歩き、道路へと出れば、懐かしい声。



「せんぱーーーーい!!!!」



顔を上げれば、葉月ちゃん。
課長に、笹さんが歩いて来ていた。



「いらっしゃい、葉月ちゃん。課長。笹さんも。」

「お招きされましたぁ!」
「来ちゃったわ」
「お招きありがとう、眞崎さん」

「どう致しまして。どうぞ、中へ」



中へ案内すれば、晴明がスタンバイしてくれていた。

案内をお願いすれば、にっこりと魅力的に笑う。
その笑顔に葉月ちゃんと笹さんのテンションが上がりまくっている・・・・・。
ニコニコしながら付いていく課長。

そうしていると、不動産の担当さんと彼女さん。
後は透が着いた。



「すごいな、中も本格的だな」

「そうじゃなきゃ営業できないでしょうが」

「そうだけどさ。・・・・・楽しみだな」

「味は保証するわ?でも感想は素直に言って欲しいな」

「それも勉強、だろ?」

「その通り」



3つのテーブルに、3組のお客様。



課長と葉月ちゃん。
笹さんと、透。
不動産の担当さんと、彼女さん。



今日のお客さまは、この6人だけだ。

テーブル1つに、1人担当を付ける。

課長達のテーブルには、康太君が。
笹さんのテーブルには、晴明が。
担当さんのテーブルには、大亮さんが。

・・・・・これは、私が決めたわけじゃなく、彼等が決めたらしい。


ま、練習を兼ねてだからね?
お客様には、美味しくご飯を食べていただくのが、肝心だもの。



「ようこそお出で下さいました。今日はゆっくり味わって下さい。
感想も、思ったことそのまま聞かせてください。来週からのオープンの励みや糧にしようと思います」



挨拶すれば、拍手してくれた。
ちょっと恥ずかしい。



最初は、サラダにスープ。
グリーンサラダと、コンソメのスープだ。
ランチメニューに出すのは、これくらいシンプルな方がいい。

スープの中身は、今日はトマトに卵。
後はその日の材料で変える、と言っていたっけ。



それから、パスタを2種類。
ミートソースに、きのこのクリームパスタ。
来週月曜に出すメニューだ。



・・・・・美味しそう。
後で食べさせてくれるって言ってたけど。



「・・・・・どお?葉月ちゃん?」

「すっごく、美味しいです!そこらのパスタ屋なんて目じゃない!!!通いたい!!!」

「ホント?でも美味しいの、わかる。いい匂いだもん」

「先輩もここで食べましょうよう」

「いやいやそういう訳にいかないでしょ。後で頂くから、ね?」



課長もうんうん、と頷いていた。



「いやー本当に美味しい。パスタはあんまり食べないけど、これならたまには来たいなあ」

「あら、嬉しい。和食好きの課長にそう言われると自信付きますね」

「うん、正式にオープンしても来るよ。今度は奥さん連れてね」

「お待ちしてます」



そのまま、笹さんと透の席へ。



「どう?2人共」

「美味しい!ホントに。同じパスタでもこんなに違うのね」
「いやホント。ミートソース、俺好きだけどこんなに旨いの食ったことないかも」

「あら嬉しい」

「ちょっとそれより。いい男じゃない!涎出そう」

「待って、ご飯を褒めて」

「あのイケメンたちも一役買ってるわよね・・・・・」



うんうん、と頷き、ぱくぱく食べる笹さん。面白い・・・・・。

透は少し遠慮気味だけど。
そりゃそうか。あの時以来だものね?晴明を見るの・・・・・。



不動産の担当さんも、彼女さんもご満悦。
『また是非食べに来たいです』と言ってもらえた。



メニューに関しては大成功。

一通り、ご飯を終わった所で、珈琲や紅茶を出した。
そのまま、皆には奥に下がってもらって、私だけフロアに残って皆に話を聞いた。



正直に言って、とお願いしたけど。

『正直、ここまで本格的なものが出来てるとは思わなかった』

と言われた。



これは繁盛するよ、と課長と透。

絶対、常連になりたい!!!と叫ぶ葉月ちゃんと笹さん。それに担当さんの彼女。

脱帽です、と担当さん。



気になっていた、彼等のサービスについてはどうか、と聞けば問題ないよ、と言われた。
これが一番気になっていた。

私はフロアでサーブする立場じゃないから。
それに、礼儀作法もちゃんとしたわけじゃない。
どんなもんかな、と思っていたのだ。

晴明はバーテンだけあって、それなりに客あしらいは上手いと思ってた。
でも、康太君と大亮さんはどうかな?と思っていたけど。
本人達曰く、『バイトでウェイターやってたから任せて!』と言っていたけど。
本当にしっかりやっててくれて、嬉しかった。



お茶を飲み終わって、お見送り。

浩一朗も出てきて、みんなにご挨拶。

あまりのイケメンシェフに、葉月ちゃんのテンションがおかしな事になっていた。
笹さんなんて、夢見る乙女状態。

浩一朗もにこやかに笑顔を振りまいて、何匹の猫を飼ってるのか・・・・・。

ともあれ、食事会は見事に成功。
とりあえず、来週のオープンに向けての不安は消えた。



◼︎ ◻︎ ◼︎



「っあーーーーー!!!疲れた!」
「あー!!!気ぃ使ったな!!!」
「お前等、そんなんでどうすんだよ?」

「お疲れ様、皆。ありがとう」



浩一朗が皆のお昼の分を運んできてくれる。
康太君と大亮さんがテーブルを整えて、晴明が水を注ぐ。

席について、食べながら話し始めた。



「味は皆満足してたみたいだな」

「うん。流石は浩一朗。みんな美味しいって言ってくれたわ。
これでワンコインは安いって。もう少し上げた方がいいのかしら?」

「いや。今のままでいいだろ。そんなコストもかかってねぇしな。利益もある」

「なら、いいんだけど。浩一朗、キッチンは大変じゃないの?」

「ま、一度に20人前作れとかじゃなきゃな。ソースは作っておくから、パスタを茹でる時間だけがネックか?
でもこればっかりは仕方ねぇからな。注文から10分くらいで出せればいいだろ」

「そう、ね?一応ランチにはスープをサービスで付けるから、それで時間繋げるからね」

「だな。フロアの方は平気なのか?」

「ああ!平気だぜ!」
「なんか昔バイトしてたの思い出すよな」
「ま、こいつ等は昔ウェイターのバイトしてたし。俺もバーテンだけにその辺は大丈夫だ」

「うん、お客様達も全然問題ないって言ってたわ。安心した」



嬉しそうな皆。そうだよね、今まで第三者から見られる事が無かったからそこが不安材料だった。
でも、今日の食事会をしたことで、少し自信がついた。

・・・・・勿論、私もね?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

“その後”や“番外編”の話置き場

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,458pt お気に入り:684

あのね、本当に愛してる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,906pt お気に入り:95

わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:12,349pt お気に入り:2,599

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,954pt お気に入り:720

誰かを気持ちよくさせるお仕事です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:160

異世界転生、授かったスキル【毎日ガチャ】って…

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,257pt お気に入り:502

処理中です...