夢見るディナータイム

あろまりん

文字の大きさ
上 下
10 / 59

10皿目

しおりを挟む
あれから、大亮さんと康太君は毎日こっちに顔を出すようになった。
どうやら、彼等がやっていた仕事は、会社ごと仲間達に託したらしい。

確かに、未練も愛着もあったようだけど、『違う道を歩く事にしたんだからよ、潔くいかねえとな!』なんて言っていた。
そんな思い切りのいいのも、大亮さんらしいと言えばらしいかもしれない。
・・・・・康太君は少し寂しげだったけれど。

創業から一緒に作り上げた仲間と道を分かつのは、やっぱりキツイらしい。

大亮さんは新しいことに生き生きしちゃって、そうは見えないけれど。
康太君は勿論楽しそうではあるのだけど、多少ぼんやりと考え事をしている時がある。

気になってはいるのだけど・・・・・
はたして私が聞いてもいい事なのだろうか?



そんな、オープンに向けて準備中のある日の事。



▪️ ▫️ ▪️



「あれ。1人?」

「ああ、大亮さんならハルさんに引きずられて買出しに行ったぜ?」

「はは、ハルも大亮さんや康太君が来てくれて嬉しそうだからね」

「そうかな?巽さんといい、ハルさんといい・・・・・人使いが荒いんだよな」

「あはは、ん~じゃあお願いしにくいかな・・・・・」

「え、何々?響子さんの頼みならいいぜ!」

「何それっ」



『いやー男の頼みだとアレだけど女の人の頼みは聞かないと!』なんて独自の理論。
それって、晴明や浩一朗も同じような事言ってたような・・・・・?
意外に考え似てるんじゃないの?それとも似ちゃったの???



「あのね、近くにアパートがあるんだけど。そこを見に行くの。
よかったら、康太君ついてきてくれると助かるんだけど」

「いいぜ!行く行く!!!暇だし!!!」

「じゃあちょっと待ってて。浩一朗に言ってくるから」



康太君を残して、キッチンに向かう。
音がしているから、浩一朗がいるはずだ。

ひょい、と中を覗くとキッチンの色々なところをチェックする人影。



「浩一朗」

「ん?なんだよ」

「ちょっと外に出てくるから」

「ついてってやろうか?」

「ううん、康太君を誘ったから。借りてくわね?」

「そうか。・・・・・アパートでも見に行くのか?」

「大当たり。あそこ、従業員用の寮にしようかと思って。
近いし、もしも夜遅くなっても帰りやすいでしょ?」

「なるほどな。今はいいかもしんねぇが。ディナー始めたら遅くなっちまうからな」

「うん。家賃はナシで、光熱費だけは自費で。・・・・・その分お給料安くても我慢してくれるかな?」

「十分だろ。大亮や康太なんて喜んで引っ越すんじゃねぇか?
今はルームシェアしてるが、やっぱり1人の部屋が欲しいだろうからな」

「・・・・・と思って、下見に連れてこうと思って。いいかしら?」

「ああ。行って来いよ。昼は用意するからな?帰ってこいよ?」

「はーい。」

「午後は俺に付き合えよ。メニュー、ある程度決めたからな」

「もう?早いわね・・・・・」

「早くはねぇだろ?オープンは来月って言っても、もう2週間しかないんだぜ?
早めに決めちまわねぇと、材料の仕入れとかも考えねぇとな」

「そっか・・・・・メニュー表とかもいるもんね。あと制服も」

「そういうこった。・・・・・さっさと行ってきちまえよ?」

「ふあーい」



そうかー。時間はあると思ってたけど、意外にやる事いっぱいあるもんね。
キッチンから出てくれば、康太君が心配そうな顔をした。



「どうした?響子さん?」

「ん?何もないよ?」

「いや、なんか不安そうな顔してたぜ?
まさか、巽さんに苛められたのか!?」

「下手な事言うんじゃねぇよ、康太」

「うげっ、巽さんっ」



出てきた浩一朗にごつん、と拳骨をもらう康太君。
痛え、とぴょんぴょん跳ねる。



「お前は大げさすぎんだよ」

「んな事ねえ!!!巽さん、力加減おかしいだろ!!!」

「うるせぇな。ほら、早く行って来いよ」

「はーい」
「はーい」



仲良く返事をして店を出た。
ちょっと楽しいかも。



▪️ ▫️ ▪️



歩いてアパートへ向かう。

車出さなくていいのか?って聞かれたけれど、アパートまではホントに歩いて2~3分。
車を出して行くほどの距離じゃない。



「すぐだよ?ほんの2~3分だし」

「そうなのか?んじゃ、歩いてくか」



たわいない話をしながら到着。



「近っ!!!」

「だから言ったじゃない」

「いやこんなに近いと思わなかったんだって・・・・・」

「えーと。下からでいいか」

「は?どゆ事?見る部屋決まってんじゃねえの?」

「いや、全部の部屋見たことないし。内装とか一緒なのかしらね?」

「はあ?全部?何で?」

「何でって。なんか部屋ごとに微妙に内装違うって話なんだよね・・・・・」

「そうなのか?でもよく不動産屋が鍵貸してくれたな?普通立ち会うだろ?」



しきりに首を捻る康太君。
・・・・・あ、そうか。彼は此処が私の持ち物だって知らないんだ。
不動産屋さんから、借りるために下見に来たと思ってるのかも。



「響子さん、家あるのに部屋なんて借りるのか?」

「あ、いや、違うの。ここ、私のなの」

「え?」

「えっと、このアパートの大家さんは、私なの」

「えーーーーーーっ!!!!!」

「まーそうなるよね」

「嘘だ!!!凄えじゃん!!!」

「遺産で貰ったのはいいんだけど、中を見てないのよね。
だから今日はそれを確認しに来たの。1人じゃなんだし、康太君一緒なら、クリーニング必要かもわかるでしょ?」

「あー。なるほどな!!!任せとけよ!!!」



ぱあ、と笑顔を見せる康太君。
コロコロと表情が変わるのが、なんだか可愛らしい。わんこみたい。



「えー、では1部屋目」

「おー。ぱちぱちぱち。」



ガチャ、と鍵を回し、中に入る。

中は普通の1K。
部屋の間取りは・・・・・Kが3畳くらい?部屋は8畳くらいあった。
結構広い作り。クローゼットもあるし、収納もある。窓もそこそこ大きい。
一応ベランダ付きだし、エアコンも完備。



「おおお、風呂とトイレ別。いいよな!」

「それは外せないよねー。でも洗面は一緒?」

「だな。まーそれくらいはいいんじゃねーの?」



壁はクリーム色。結構いい部屋かも。



「クリーニング済んでるみたいだな。築何年?」

「10年くらいみたい。ま、いい物件かもね」

「だなー。んじゃ、次行こうぜ」

「はーい」



それから次々と部屋を移動。

間取りは一緒。広さも。
でも3階はロフトがあった。コレも3畳くらいかな。

部屋の違いは、それくらいだった。
部屋の壁紙はクリーム色だけど、微妙に模様が違うくらい。

模様っていっても、じっと見ないとわかんないくらい。
大した事ないかな。

後は角部屋が窓が1つ多いくらい。



「・・・・・あんま変わんなかったね」

「だな」

「うーん、普通だな。でも使いやすそうな部屋で良かったかも」

「・・・・・なあ、響子さん」

「ん?」

「頼む!!!俺に一部屋貸してください!!!!!」

「え」

「今、大亮さんとルームシェアしてんだけどさ。
やっぱ男とはいえ、ずっと一緒は辛いからさ・・・・・」

「まあ、確かに。お互いに部屋ないとちょっと不便だよね」

「そうなんだよ。金ないし、そんな贅沢言ってられないってのもそうなんだけど。
家賃はちゃんとバイトして払うから!!!」



土下座でもしそうな雰囲気。どうやら、色々あるらしい。
でも、いい年した男が2人。
一緒に住むには、ちょっと厳しいよね?ずっとは辛いよね?



「いいよ」

「えっ!?マジ!?」

「その代わり、給料安いけど我慢してくれる?」

「するする!!!」

「ていうか、ここ、従業員の寮にしようと思って。
家賃はナシだけど、光熱費は自分で持ってもらうよ?」

「それくらい当たり前だって!!!やった!!!1人部屋!!!」

「ま、ディナー始めたら、あんまり早く帰れないかもしれないしね・・・・・
電車無くなったりしたらアレだから、ここに住んでもらうようにしようと思って」

「あー。確かに。その方がオレ達にとっては有難いけど・・・・・いいのか?」

「うーん、お給料そんなにいっぱい出してあげられないかもしれないから。
その代わりと言ってはなんだけど、住む所を提供しようかなって。
空き部屋は普通に賃貸にしようかと思うけど。」

「勿体ないもんな。ここ、10部屋はあるだろ?」

「そうだね。3階建てだけど、1階が2部屋、2階と3階が4部屋。
一応玄関はオートロックだし、防犯はいいだろうしね」

「いいなー。な、いつ越してきてもいいんだ?」

「え?いつでもどうぞ?今の所全部屋空いてるよ?」

「マジで!?何階にしようかなー」

「とりあえず、店に戻って決めよう。管理会社さんにも言わなきゃね。
大亮さんはどうするかなあ?」

「どうだろ?でもここ借りれるんなら越してくるかもな?」

「んじゃ、店に戻って話そう?お昼、浩一朗が用意してくれるって言ってたし」



並んで店に帰る。
店の前まで来ると、車から荷物を降ろす大亮さんと晴明を発見。



「おお?お前等どこ行ってたんだ?」

「ちょっとねー」
「大亮さんには内緒!」

「なんだよ!俺にも教えろよ!!!俺はハルにこき使われて大変なんだぞ!!!」

「何言ってんだよ、大して動いちゃいねえだろうが」

「お疲れ様、2人とも」



ぎゃんぎゃん言いながらも、康太君は大亮さんを手伝って荷物を中へ運ぶ。
仲いいもんね、ホントに。



「ああ。それにしてもどこ行ってたんだよ響子?康太と2人だなんて」

「ふふ。すぐそこだよ」

「すぐそこ?・・・・・ああ、アパートか?」

「当たり。下見にね」

「どうだった?」

「結構綺麗だし、一人暮らしにはいいんじゃないかな?
康太君も気に入って、早く引っ越したいって」

「はは、成程な」

「ハルはどうするの?今の家で平気?」

「ああ。そのうち俺も移動するかもしれねえが、今のとこはまだいい。
多分巽さんもじゃねえか?」

「・・・・・浩一朗もハルもいいとこ住んでそうだもんね」

「お前には負けるよ。家持ちだもんな?」

「どういたしまして。とりあえずこれで結婚できなくても住むとこには困らないかもね!」

「何言ってるんだよ?いつでも嫁に貰ってやるから言えよ?」

「キャーしびれるー」

「棒読みじゃねえか」



だってねえ?
こんなにイケメンでいい男。他の女が離さないでしょ。

素敵だな、って思うけど。

私よりも他にいい女が大勢いるもの。本気になるわけがない。だから私も本気にしない。
コレくらいの距離感が一番いい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜

長岡更紗
ライト文芸
島田颯斗はサッカー選手を目指す、普通の中学二年生。 しかし突然 病に襲われ、家族と離れて一人で入院することに。 中学二年生という多感な時期の殆どを病院で過ごした少年の、闘病の熾烈さと人との触れ合いを描いた、リアルを追求した物語です。 ※闘病中の方、またその家族の方には辛い思いをさせる表現が混ざるかもしれません。了承出来ない方はブラウザバックお願いします。 ※小説家になろうにて重複投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私の主治医さん - 二人と一匹物語 -

鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。 【本編完結】【小話】 ※小説家になろうでも公開中※

桃と料理人 - 希望が丘駅前商店街 -

鏡野ゆう
ライト文芸
国会議員の重光幸太郎先生の地元にある希望が駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。 居酒屋とうてつの千堂嗣治が出会ったのは可愛い顔をしているくせに仕事中毒で女子力皆無の科捜研勤務の西脇桃香だった。 饕餮さんのところの【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』】に出てくる嗣治さんとのお話です。饕餮さんには許可を頂いています。 【本編完結】【番外小話】【小ネタ】 このお話は下記のお話とコラボさせていただいています(^^♪ ・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339 ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283 ・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』 https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/582141697/878154104 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ※小説家になろうでも公開中※

伊緒さんのお嫁ご飯

三條すずしろ
ライト文芸
貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。 伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。 子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。 ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。 「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。 「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にも掲載中です!

処理中です...