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店内のクリーニングも終わり、すでに食器等も揃ってる。
キッチン内の事は浩一朗に、セラーやバーカウンターは晴明にお任せしておいたから、すでに営業できるくらいの準備は済んでいた。
事務所で1人考える。
これからどうやって営業していこうか、って事。
いきなり、ディナーだけで・・・・・なんて無理な気がする。
一応、レストランの装いだけど、はっきり言って無名だもの。
こんな住宅街に程近くて、・・・・・埋もれてる店、いきなり出店したって、人が入るわけがない。
ここの立地自体は、駅から5分って魅力だけど。
繁華街・商店街の『駅から5分』と、
そういう地域から外れた『駅から5分』。
人通りは断然違うはず。
でもこの辺って、中小企業のオフィスが近い。
そういうオフィスビルと、住宅地のちょうど真ん中くらいと言ってもいいかもしれない。
だから、ランチとカフェあたりから人を集めた方がいいのかも。
集客できる様になってから、ディナーも営業。予約制で、人数を区切ればいいかも。
でもなー。
浩一朗の腕があって、ランチだけってもったいない?
晴明の腕もあるのに。お酒出さないってもったいない?(2度目)
「あああああああどうしよう?」
「なーに困ってんだ?お姫様」
薫り高い紅茶と一緒に顔を見せるイケメン。
・・・・・カフェ、いいかも。
こんなイケメンが紅茶やら珈琲やらサーブしてくれるなら、女性陣は並んででも入るだろう。
「ん?どうした?」
「んーん。こんなイケメンを見られるんなら、並んででも女性陣は来るな・・・・・と思っただけ」
「なんだそりゃ。・・・・・ほら。紅茶でも飲んでちょっと休めよ」
「いい香り。」
ふくよかな薫り、ってこういうのを言うんだろう。
綺麗な色。透き通って、鮮やかな紅色。
・・・・・自分で淹れるとただ苦味が残ったりとかするんだけど。
お湯の温度とか、茶葉の量とかなんだろうなあ。
「美味いか?」
「おいし。」
「これ、知り合いの店ですげえ安く手に入ってよ。味を試してくれってさ」
「・・・・・だったら私より浩一朗に飲ませた方がわかるんじゃない?
私、なんでも『美味しい』って言うわよ?大抵。」
「はは。そうかもしんねえが、やっぱり最初は女に飲んで欲しいじゃねえか」
「っ、」
「おっと、顔が赤いぜ?」
「あ、当たり前でしょ!ハルが恥ずかしくなるような事言うからっ」
「なんだ?俺は本当の事しか言ってないぜ?
何が悲しくて、最初の茶を野郎に振舞わなきゃなんねえんだよ?客じゃあるまいし」
「・・・・・美味しい。いい香り。渋みもほんのりだし」
「そっか。値段の割にはいい茶葉なのかもな」
「・・・・・いや味の違いとかわかんないから・・・・・。浩一朗に飲ませてみたら?」
「俺が何だって?」
キィ、と戸を開けて入ってきたのは巽浩一朗。
軽く腕まくりしたまま。
多分、キッチンでいろいろ片付けた後なのだろう。
「いい香りだな」
「紅茶。ハルが味見してって」
「旨いのか?」
「美味しいよ?・・・・・残念ながら細かい味の違いはわかんないけど」
「んだよ」
「私にプロの舌を求めないで」
「今、巽さんにも持ってくるから批評してくれよ」
「ああ。わかった」
ぼふ、とソファに腰掛ける浩一朗と対照的に、ドアを出て行く晴明。
反射的に煙草を点けようとした手が、懐にしまいこんだ。
「・・・・・吸わないの」
「ここじゃな。お前が嫌だろ?」
「ありがと。そうしてもらえると嬉しいな。他の部屋を喫煙所にしなきゃかしら?」
「そうだな。ま、俺と晴明だけなら下の部屋で吸うさ。
ここで吸うと、書類やらなんやらヤニ臭くなるのもなんだしな?」
「そうね。・・・・・それは避けたいかも。ここは私のオフィスだしね」
「だな。廊下の奥がロッカーか。・・・・・かなり使いやすい作りだよな、ここ」
「前に使ってらした人が、どれだけ考えて作ったのかって事よね。有難いわ」
そうしているうちに、晴明が入ってきた。
大きなポットと、カップを2つ。
どうやら、ここでお茶にしようって事なんだろうな。
「お待たせ」
「なんだよその量」
「響子がおかわりすんだろうと思ってよ」
「さっすが~もう一杯くださいな」
「あいよ」
浩一朗にサーブする前に私。
・・・・・レディーファースト、ってか?ゴメンネ?浩一朗?
一口飲んで、感想を漏らす。
「ま、お前の腕だな。茶葉は安いかもしんねぇが、旨い。これなら客に出せるだろ」
「そうか?ならコレを定期的に仕入れるようにするかな」
「あ、っと、確認なんだけど?」
「「なんだ?」」
「・・・・・キッチン用の材料もなんだけど?その材料費はいったいどこから出してるの?
自腹切ってるんでしょう?」
少し気まず気に視線をそらす2人。図星、よね?
「こら2人とも」
「んだよ」
「気にしなくっていいんだぜ?」
「気にします。何度もご飯作ってくれてるけど。それは浩一朗のポケットマネーでしょ?」
「・・・・・まあな」
「ダメよ、そんなの。ちゃんとお金出すから」
「いいんだよ。光熱費は俺じゃなくてお前だろ?まだ開店しちゃいねぇんだ。
これは俺の勉強も兼ねてやってんだから、お前の財布から出すこたねぇ。」
「・・・・・・・」
「この茶葉も。気にすんなよ?これは俺が自分で買っただけだからな?」
「ハルまで・・・・・」
「店が始まったら、もちろん遠慮せずにちゃんと予算組んで買い付けるさ。
でも、まだ試作段階だろう?だったら、お前に出してもらうのはだめだ。」
「だって・・・・・」
「これは、俺達の勉強なんだよ。他はどうだか知らねえが、俺はこうしてやってきたんだ。
新しいメニューを作るときは、自分で買って試作する。いつもそうだったぜ?」
「俺も同じだ。店の金で作るんなら、それは『店の作品』になる。
今までお前に食わせてたのは、単なる『俺の作品』だ。だから構わないっつってんだよ」
なんだか言い負かされてる気がした。
彼らは『自分の勝手でやってるのだから』と言う。
でも、今の状態で収入があるわけじゃないって思うんだけど。どうなのかしら?
・・・・・今までどおり、お給料を払えるとは限らないのに。
「響子?」
「おい、どうした」
「ん?・・・・・ああ、ちょっとね」
「どうしたってんだよ?」
「ま、『俺等に払える給料少ないのに』とか考えてたんだろ?こいつの事だから」
「え、何でわかったの」
「顔を見りゃわかんだよ。そんなの気にしてんじゃねぇよ」
「気にするでしょ!お金って大切でしょ!無かったら生活できないでしょ!!!」
「響子、落ち着け。俺はまだあそこでバーテンしてるし、収入無いわけじゃねえ。
巽さんなんて、今まで法外な給料貰ってたんだから、かなり持ってるんだろ?」
「ま、独立資金として溜め込んでたしな。2~3年は働かなくてもなんとかなるくらいは」
「ぎゃ。金持ち!!!何なのそれ!!!」
2~3年って!!!
どんだけ貰ってたの、浩一朗!!!
晴明、まだバーテンさんしてたんだ。売れっ子っぽいしなぁ。
「それより。どうすんだ?レストラン。」
「何か考えてたんじゃねえのか?響子」
「ん~~~。一応ね?」
「なんだよ」
「聞かせろよ」
最初はランチとカフェくらいから始めようかと思ってる事を話した。
最初からディナータイムだけのレストランなんて無理だし。
だとしても、ずっと開けてるのもキツイ。
それこそ、最初のウチはあんまり客が入る見込みなんてないんだし。
だったら、ランチに絞って営業するのもいいかなと。
「・・・・・ま、妥当だろうな」
「だな。先ずは集客がメインだし」
「うん。浩一朗の腕が勿体ないかなって思うけど。
・・・・・ハルの腕も。昼間っから酒を出すわけにもいかないし。」
「俺は構わねえよ。まだ向こうでバーテンやっててもいいんだしな。
ランチタイムは紅茶や珈琲メインでやればいいんだろ?」
「俺もいいぜ。ランチとはいえ、ここで客を掴まないとな?
メニューは考えてるのか?んな高いものを出すわけにもいかねぇんだろ?」
「そうね。会社員をターゲットにするのであれば、ワンコインが一番だと思うんだけど。
プラス、100円でミニサラダやスープを付けるとかね?」
「なるほどな。『気軽に入れる店』を目指すって事だろ?」
「そう。ランチは『気軽に入れる店』。でもこの先のディナーは『贅沢を味わえる』みたいなコンセプトにしたらどうかなって思って。・・・・・どうかしら?」
「いいんじゃねぇか。メニューもそうコストがかからないものにすりゃ、ワンコインも出来るしな。
1日30食、とか50食、にすればなんとかなるだろ」
「一応、営業時間は区切ってしまおうと思って。
11:30~14:30くらいで。ラストオーダーは14:00。
メニューも、パスタランチを2種類。
1種類はスタンダードなものを。もう片方は・・・・・そうね、週変わりにしたらどう?
手に入る食材だって、季節によって違うだろうし。そこはシェフに任せるわ?」
「ああ、いいぜ。スタンダードも2週に一度変えてもいいかもな」
サクサク話が進む。
私の話は結構思いつきが多いんだけど。
それに色を塗り、形にしていくのは私ではなく2人の力だ。
この先も、こんな風にやっていきたいなあ、と思った。
そうすると、晴明がぽつり、と言った。
「なあ?そうすると人手が足りなくねえか?」
「ん~~~、そうなのよね・・・・・。
私がウェイトレスしてもいいんだけど。できれば2人くらい欲しいわよね?」
「お前は金勘定担当にしとけ。金銭関係は他の奴にさせない方がいいだろ。
それに、店内を見て客を割り振るのも、お前がやった方がこの先いいんじゃねぇのか?」
「そうだな、響子はそういう仕事した方がいいかもな。
・・・・・そうすると、俺もウェイターに回るとして。飲み物はストックで作っておけばいいだろ?」
「だな。・・・・・あと2~3人は欲しいか。」
「でも、いるかしら。そんな時間だけバイトしてくれる人なんて」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・募集、してみようかしら?でも時給とかどのくらい?7~800円くらい?」
うーん、と考え込んでしまった。
まだ営業出来てないのに、時給とか考えてる場合じゃないかも?
私そういうのピンとこないのよね・・・・・
そんな中、浩一朗が携帯を取り出し、どこかへ電話。
「?」
「あ、なるほど」
「え?何?」
「まあいいから見てろって。」
にや、と笑う晴明。
そうしているうちに、誰かと話し終わったようだ。
誰にかけたの?と聞くと、すぐにわかるからちょっと待て、と言われた。
・・・・・?
視線を晴明に投げても、にや、と笑うだけ。
やあね、その自分達だけわかってる感じ。気になりすぎるわ?
▪️ ▫️ ▪️
30分程立っただろうか。
晴明の携帯が鳴り、下に降りていった。
ほどなく、2人の客を連れて入ってくる。
「おっす、響子さんっ」
「やほー、響子さんっ」
「大亮さん?康太君?」
入ってきたのは、お決まりの2人。
・・・・・え、もしかして?
「巽さん、何か用か?」
「お前等、ここでウェイターやれ」
「「はあ!?」」
「賄い出してやるから」
「「乗った!!!!!」」
「え、ちょ、そんな簡単に」
後ろで腹を抱えて笑う晴明。
「お前等、飯につられすぎだろ!!!」
「なっ、ハル、俺は飯につられた訳じゃないぞ!」
「そうだぜ、ハルさん!オレたちは役に立ちたくてだな!!!」
いつものぎゃんぎゃん言い合いが始まる。
ぽかーん、とした私に浩一朗が告げた。
「ま、こいつらなら最初は賃金無しでも、飯さえ食わせときゃいいだろ。」
「い、いいの?」
「本人達がいいんだから、いいんだろ?」
そ、それはありがたいけど。
しかも2人とも、タイプの違うイケメンだから女性客にモテる気がする・・・・・。
こういうランチに来るのは女性が多いから、客寄せにもなるけど。
「ちょ、大亮さん、康太君?それでいいの?」
「あ?構わねえよ!こっちも助かるしな!」
「そーそー」
「え?どうしたの?」
「仕事、上手くいってねえんだ」
「えっ?そうなの?」
「っつーか、他の仲間とちょっともめててさ。俺等は俺等でやってきてえんだが・・・・・」
「他の奴等がさ。大手に組み込まれた方が、いいんじゃないかって。
どうしようかと思ってたんだ。オレたち。」
「・・・・・そうなんだ・・・・・」
「今は住むとこも大亮さんとシェアしてんだけどさ。
2人で、違う仕事でも探すかって話してたとこ。だから助かるんだよな」
「昼間の時間だけなんだろ?夜は他でバイトして繋ぐからよ!本格的にレストランがオープンしたら、直で雇ってくれよな!!!響子さん!!!」
・・・・・。
いいんだろうか。こんな簡単に従業員2人ゲット・・・・・。
全然知らない子を雇うよりも、浩一朗や晴明が知ってる人の方がいい事は確か。
ランチ時間だけのオープンも、形になってきた。
その後、彼等を加えて話をして、とりあえずプレオープンとして来月からやってみようという事になった。
もしいい方向に動いたら、もっと時間を延ばしたり、カフェ時間も作ろうと。
どんどん動き始める。
ドキドキと、ワクワクが半々。
怖い、とも思う。
でも、彼等がいてくれるから、頑張れる気がする。
レストランのオープンまで、あと半月。
キッチン内の事は浩一朗に、セラーやバーカウンターは晴明にお任せしておいたから、すでに営業できるくらいの準備は済んでいた。
事務所で1人考える。
これからどうやって営業していこうか、って事。
いきなり、ディナーだけで・・・・・なんて無理な気がする。
一応、レストランの装いだけど、はっきり言って無名だもの。
こんな住宅街に程近くて、・・・・・埋もれてる店、いきなり出店したって、人が入るわけがない。
ここの立地自体は、駅から5分って魅力だけど。
繁華街・商店街の『駅から5分』と、
そういう地域から外れた『駅から5分』。
人通りは断然違うはず。
でもこの辺って、中小企業のオフィスが近い。
そういうオフィスビルと、住宅地のちょうど真ん中くらいと言ってもいいかもしれない。
だから、ランチとカフェあたりから人を集めた方がいいのかも。
集客できる様になってから、ディナーも営業。予約制で、人数を区切ればいいかも。
でもなー。
浩一朗の腕があって、ランチだけってもったいない?
晴明の腕もあるのに。お酒出さないってもったいない?(2度目)
「あああああああどうしよう?」
「なーに困ってんだ?お姫様」
薫り高い紅茶と一緒に顔を見せるイケメン。
・・・・・カフェ、いいかも。
こんなイケメンが紅茶やら珈琲やらサーブしてくれるなら、女性陣は並んででも入るだろう。
「ん?どうした?」
「んーん。こんなイケメンを見られるんなら、並んででも女性陣は来るな・・・・・と思っただけ」
「なんだそりゃ。・・・・・ほら。紅茶でも飲んでちょっと休めよ」
「いい香り。」
ふくよかな薫り、ってこういうのを言うんだろう。
綺麗な色。透き通って、鮮やかな紅色。
・・・・・自分で淹れるとただ苦味が残ったりとかするんだけど。
お湯の温度とか、茶葉の量とかなんだろうなあ。
「美味いか?」
「おいし。」
「これ、知り合いの店ですげえ安く手に入ってよ。味を試してくれってさ」
「・・・・・だったら私より浩一朗に飲ませた方がわかるんじゃない?
私、なんでも『美味しい』って言うわよ?大抵。」
「はは。そうかもしんねえが、やっぱり最初は女に飲んで欲しいじゃねえか」
「っ、」
「おっと、顔が赤いぜ?」
「あ、当たり前でしょ!ハルが恥ずかしくなるような事言うからっ」
「なんだ?俺は本当の事しか言ってないぜ?
何が悲しくて、最初の茶を野郎に振舞わなきゃなんねえんだよ?客じゃあるまいし」
「・・・・・美味しい。いい香り。渋みもほんのりだし」
「そっか。値段の割にはいい茶葉なのかもな」
「・・・・・いや味の違いとかわかんないから・・・・・。浩一朗に飲ませてみたら?」
「俺が何だって?」
キィ、と戸を開けて入ってきたのは巽浩一朗。
軽く腕まくりしたまま。
多分、キッチンでいろいろ片付けた後なのだろう。
「いい香りだな」
「紅茶。ハルが味見してって」
「旨いのか?」
「美味しいよ?・・・・・残念ながら細かい味の違いはわかんないけど」
「んだよ」
「私にプロの舌を求めないで」
「今、巽さんにも持ってくるから批評してくれよ」
「ああ。わかった」
ぼふ、とソファに腰掛ける浩一朗と対照的に、ドアを出て行く晴明。
反射的に煙草を点けようとした手が、懐にしまいこんだ。
「・・・・・吸わないの」
「ここじゃな。お前が嫌だろ?」
「ありがと。そうしてもらえると嬉しいな。他の部屋を喫煙所にしなきゃかしら?」
「そうだな。ま、俺と晴明だけなら下の部屋で吸うさ。
ここで吸うと、書類やらなんやらヤニ臭くなるのもなんだしな?」
「そうね。・・・・・それは避けたいかも。ここは私のオフィスだしね」
「だな。廊下の奥がロッカーか。・・・・・かなり使いやすい作りだよな、ここ」
「前に使ってらした人が、どれだけ考えて作ったのかって事よね。有難いわ」
そうしているうちに、晴明が入ってきた。
大きなポットと、カップを2つ。
どうやら、ここでお茶にしようって事なんだろうな。
「お待たせ」
「なんだよその量」
「響子がおかわりすんだろうと思ってよ」
「さっすが~もう一杯くださいな」
「あいよ」
浩一朗にサーブする前に私。
・・・・・レディーファースト、ってか?ゴメンネ?浩一朗?
一口飲んで、感想を漏らす。
「ま、お前の腕だな。茶葉は安いかもしんねぇが、旨い。これなら客に出せるだろ」
「そうか?ならコレを定期的に仕入れるようにするかな」
「あ、っと、確認なんだけど?」
「「なんだ?」」
「・・・・・キッチン用の材料もなんだけど?その材料費はいったいどこから出してるの?
自腹切ってるんでしょう?」
少し気まず気に視線をそらす2人。図星、よね?
「こら2人とも」
「んだよ」
「気にしなくっていいんだぜ?」
「気にします。何度もご飯作ってくれてるけど。それは浩一朗のポケットマネーでしょ?」
「・・・・・まあな」
「ダメよ、そんなの。ちゃんとお金出すから」
「いいんだよ。光熱費は俺じゃなくてお前だろ?まだ開店しちゃいねぇんだ。
これは俺の勉強も兼ねてやってんだから、お前の財布から出すこたねぇ。」
「・・・・・・・」
「この茶葉も。気にすんなよ?これは俺が自分で買っただけだからな?」
「ハルまで・・・・・」
「店が始まったら、もちろん遠慮せずにちゃんと予算組んで買い付けるさ。
でも、まだ試作段階だろう?だったら、お前に出してもらうのはだめだ。」
「だって・・・・・」
「これは、俺達の勉強なんだよ。他はどうだか知らねえが、俺はこうしてやってきたんだ。
新しいメニューを作るときは、自分で買って試作する。いつもそうだったぜ?」
「俺も同じだ。店の金で作るんなら、それは『店の作品』になる。
今までお前に食わせてたのは、単なる『俺の作品』だ。だから構わないっつってんだよ」
なんだか言い負かされてる気がした。
彼らは『自分の勝手でやってるのだから』と言う。
でも、今の状態で収入があるわけじゃないって思うんだけど。どうなのかしら?
・・・・・今までどおり、お給料を払えるとは限らないのに。
「響子?」
「おい、どうした」
「ん?・・・・・ああ、ちょっとね」
「どうしたってんだよ?」
「ま、『俺等に払える給料少ないのに』とか考えてたんだろ?こいつの事だから」
「え、何でわかったの」
「顔を見りゃわかんだよ。そんなの気にしてんじゃねぇよ」
「気にするでしょ!お金って大切でしょ!無かったら生活できないでしょ!!!」
「響子、落ち着け。俺はまだあそこでバーテンしてるし、収入無いわけじゃねえ。
巽さんなんて、今まで法外な給料貰ってたんだから、かなり持ってるんだろ?」
「ま、独立資金として溜め込んでたしな。2~3年は働かなくてもなんとかなるくらいは」
「ぎゃ。金持ち!!!何なのそれ!!!」
2~3年って!!!
どんだけ貰ってたの、浩一朗!!!
晴明、まだバーテンさんしてたんだ。売れっ子っぽいしなぁ。
「それより。どうすんだ?レストラン。」
「何か考えてたんじゃねえのか?響子」
「ん~~~。一応ね?」
「なんだよ」
「聞かせろよ」
最初はランチとカフェくらいから始めようかと思ってる事を話した。
最初からディナータイムだけのレストランなんて無理だし。
だとしても、ずっと開けてるのもキツイ。
それこそ、最初のウチはあんまり客が入る見込みなんてないんだし。
だったら、ランチに絞って営業するのもいいかなと。
「・・・・・ま、妥当だろうな」
「だな。先ずは集客がメインだし」
「うん。浩一朗の腕が勿体ないかなって思うけど。
・・・・・ハルの腕も。昼間っから酒を出すわけにもいかないし。」
「俺は構わねえよ。まだ向こうでバーテンやっててもいいんだしな。
ランチタイムは紅茶や珈琲メインでやればいいんだろ?」
「俺もいいぜ。ランチとはいえ、ここで客を掴まないとな?
メニューは考えてるのか?んな高いものを出すわけにもいかねぇんだろ?」
「そうね。会社員をターゲットにするのであれば、ワンコインが一番だと思うんだけど。
プラス、100円でミニサラダやスープを付けるとかね?」
「なるほどな。『気軽に入れる店』を目指すって事だろ?」
「そう。ランチは『気軽に入れる店』。でもこの先のディナーは『贅沢を味わえる』みたいなコンセプトにしたらどうかなって思って。・・・・・どうかしら?」
「いいんじゃねぇか。メニューもそうコストがかからないものにすりゃ、ワンコインも出来るしな。
1日30食、とか50食、にすればなんとかなるだろ」
「一応、営業時間は区切ってしまおうと思って。
11:30~14:30くらいで。ラストオーダーは14:00。
メニューも、パスタランチを2種類。
1種類はスタンダードなものを。もう片方は・・・・・そうね、週変わりにしたらどう?
手に入る食材だって、季節によって違うだろうし。そこはシェフに任せるわ?」
「ああ、いいぜ。スタンダードも2週に一度変えてもいいかもな」
サクサク話が進む。
私の話は結構思いつきが多いんだけど。
それに色を塗り、形にしていくのは私ではなく2人の力だ。
この先も、こんな風にやっていきたいなあ、と思った。
そうすると、晴明がぽつり、と言った。
「なあ?そうすると人手が足りなくねえか?」
「ん~~~、そうなのよね・・・・・。
私がウェイトレスしてもいいんだけど。できれば2人くらい欲しいわよね?」
「お前は金勘定担当にしとけ。金銭関係は他の奴にさせない方がいいだろ。
それに、店内を見て客を割り振るのも、お前がやった方がこの先いいんじゃねぇのか?」
「そうだな、響子はそういう仕事した方がいいかもな。
・・・・・そうすると、俺もウェイターに回るとして。飲み物はストックで作っておけばいいだろ?」
「だな。・・・・・あと2~3人は欲しいか。」
「でも、いるかしら。そんな時間だけバイトしてくれる人なんて」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・募集、してみようかしら?でも時給とかどのくらい?7~800円くらい?」
うーん、と考え込んでしまった。
まだ営業出来てないのに、時給とか考えてる場合じゃないかも?
私そういうのピンとこないのよね・・・・・
そんな中、浩一朗が携帯を取り出し、どこかへ電話。
「?」
「あ、なるほど」
「え?何?」
「まあいいから見てろって。」
にや、と笑う晴明。
そうしているうちに、誰かと話し終わったようだ。
誰にかけたの?と聞くと、すぐにわかるからちょっと待て、と言われた。
・・・・・?
視線を晴明に投げても、にや、と笑うだけ。
やあね、その自分達だけわかってる感じ。気になりすぎるわ?
▪️ ▫️ ▪️
30分程立っただろうか。
晴明の携帯が鳴り、下に降りていった。
ほどなく、2人の客を連れて入ってくる。
「おっす、響子さんっ」
「やほー、響子さんっ」
「大亮さん?康太君?」
入ってきたのは、お決まりの2人。
・・・・・え、もしかして?
「巽さん、何か用か?」
「お前等、ここでウェイターやれ」
「「はあ!?」」
「賄い出してやるから」
「「乗った!!!!!」」
「え、ちょ、そんな簡単に」
後ろで腹を抱えて笑う晴明。
「お前等、飯につられすぎだろ!!!」
「なっ、ハル、俺は飯につられた訳じゃないぞ!」
「そうだぜ、ハルさん!オレたちは役に立ちたくてだな!!!」
いつものぎゃんぎゃん言い合いが始まる。
ぽかーん、とした私に浩一朗が告げた。
「ま、こいつらなら最初は賃金無しでも、飯さえ食わせときゃいいだろ。」
「い、いいの?」
「本人達がいいんだから、いいんだろ?」
そ、それはありがたいけど。
しかも2人とも、タイプの違うイケメンだから女性客にモテる気がする・・・・・。
こういうランチに来るのは女性が多いから、客寄せにもなるけど。
「ちょ、大亮さん、康太君?それでいいの?」
「あ?構わねえよ!こっちも助かるしな!」
「そーそー」
「え?どうしたの?」
「仕事、上手くいってねえんだ」
「えっ?そうなの?」
「っつーか、他の仲間とちょっともめててさ。俺等は俺等でやってきてえんだが・・・・・」
「他の奴等がさ。大手に組み込まれた方が、いいんじゃないかって。
どうしようかと思ってたんだ。オレたち。」
「・・・・・そうなんだ・・・・・」
「今は住むとこも大亮さんとシェアしてんだけどさ。
2人で、違う仕事でも探すかって話してたとこ。だから助かるんだよな」
「昼間の時間だけなんだろ?夜は他でバイトして繋ぐからよ!本格的にレストランがオープンしたら、直で雇ってくれよな!!!響子さん!!!」
・・・・・。
いいんだろうか。こんな簡単に従業員2人ゲット・・・・・。
全然知らない子を雇うよりも、浩一朗や晴明が知ってる人の方がいい事は確か。
ランチ時間だけのオープンも、形になってきた。
その後、彼等を加えて話をして、とりあえずプレオープンとして来月からやってみようという事になった。
もしいい方向に動いたら、もっと時間を延ばしたり、カフェ時間も作ろうと。
どんどん動き始める。
ドキドキと、ワクワクが半々。
怖い、とも思う。
でも、彼等がいてくれるから、頑張れる気がする。
レストランのオープンまで、あと半月。
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ライト文芸
国会議員の重光幸太郎先生の地元にある希望が駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
居酒屋とうてつの千堂嗣治が出会ったのは可愛い顔をしているくせに仕事中毒で女子力皆無の科捜研勤務の西脇桃香だった。
饕餮さんのところの【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』】に出てくる嗣治さんとのお話です。饕餮さんには許可を頂いています。
【本編完結】【番外小話】【小ネタ】
このお話は下記のお話とコラボさせていただいています(^^♪
・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/582141697/878154104
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
※小説家になろうでも公開中※
伊緒さんのお嫁ご飯
三條すずしろ
ライト文芸
貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。
伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。
子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。
ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。
「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。
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