夢見るディナータイム

あろまりん

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それから3日。
特に何もなく過ごした。


お店の鍵は、浩一朗と晴明にも渡しておいた。


私は仕事だけど、彼等はその間、中を見ておきたいらしい。
機材やら、調理器具。
倉庫や、フロア、ワインセラーにバーカウンター。

結構、フレンチレストランとしてやっていける装備はガッチリ整っていると電話が来た。



「ま、これなら掃除するだけで済むぜ」

「え、本当?」

「ああ。知り合いにそういう奴いるから任せていいか?」

「え、あの、私来週からなら行けるから、それからでもいいのよ?」

「遅い」

「えっ?」

「こっちはやりたくて仕方ねぇんだよ。晴明もウキウキしちまってよ。
どんな酒を入れようか、どうしようかって張り切ってるぜ?」

「そ、そうなのね」

「ま、俺も人の事は言えないがな」

「あら、そうなの?」

「ああ。思ってたよりも本格的なキッチンでな。
早いとこ、あそこで料理してみてぇんだよ。何、費用はこっちで出すから心配すんな」

「ちょっと待って、ダメよそんなの」

「キッチンは俺の領域。セラーやバーカウンターは晴明の領域だ。
自分の場所を綺麗にするのは当たり前だろうが。・・・・・他の部分は、迷惑代だ」

「なに、その迷惑代って」

「お前を辞めさせるの早くなっちまったしな」

「それはこっちの都合もあったんだし」

「いいんだよ。男が出す、って言ってんだ。女は黙って聞いとけ。
・・・・・ていうか、もう依頼しちまったからな」

「事後じゃない!!!」

「なんかエロい響きだな」

「バカ!そういうのは彼女に言いなさいよ!!!・・・・・もう、やっちゃったのね?」

「ああ。明日には業者が入る予定になってる」

「・・・・・そう・・・・・ま、いいわ。貸し、一つあったしね。」

「そういう事だ。今度の休みは付き合えよ?」

「あ、ごめん、彼氏と約束なの。
・・・・・まだ、ちゃんとゆっくり説明してないのよ」

「そうか。ちゃんと話して、おかねぇと、な」

「うん。心配させたし。」

「んじゃ、時間開いたら連絡しろ。俺でも晴明でもいい。
どっちかは空いてるからな。いいな?」

「ええ。任せちゃってごめんね?でも助かるわ」

「ああ。いいんだよ。んじゃあな、おやすみ、響子」

「おやすみなさい、浩一朗」



それにしても、凄い行動力。
晴明もそうだけど、浩一朗も本当に凄い。

これ、と決めたらさっさか片付けちゃう。

頼もしいのはいいんだけどね?



彼等に任せておこう。
私なんかより、ずっとずっと向こうの世界に詳しい人だ。

来週から、徐々に教えてもらおう。
少しでも、早く。役に立ちたいものね。



■ □ ■



最後の日。
お世話になった人達に、ちょっとしたお菓子を持ってご挨拶回り。

さすがに5年もいれば、いろいろとお世話になったところも多い。

16時くらいから回り始めたんだけどね。
もう、17時半だよね!!!



最後は、営業部。
ここの部長さんや、事務さん(佐々木さんじゃなく)にはお世話になった。



「笹さん」

「あ、眞崎ちゃん!もう~~~辞めないで~~~~」

「ごめんあと30分だし」

「酷い!でもそこが好き☆」

「・・・・・まさしくMだよね、笹さんて」



この人、笹原都子さん。
営業部の、お姉さん的存在だ。

私より、3つ上。
もう結婚されてるんだけど、子供がいないから働き続けてる。

20歳からこの会社にいるから、ホントに生き字引だ(笑)



「寂しくなるなあ、同世代の子少ないし」

「あーん、それを言ったら私だって寂しいー」

「眞崎ちゃん、戻っておいでー」

「いや私は次のステージで輝くから!ってバカな挨拶はさておいて。
これ、皆さんで食べて頂戴。」

「お、おおお。ミルフィーユ。美味しいよね、コレ」

「ボリュームあるから、いいよね」

「ありがと、嬉しいわ。」

「ふふ、レストランが軌道に乗ったら、ご招待するからね?」

「うん、勿論!なんでもイケメンいるそうじゃないの」

「ふふふよだれ垂れちゃうわよ」

「マジで!旦那に内緒でドレスアップしなきゃ」

「やあだ、笹さんってば」



あははウフフと話していれば、部長さんが手招きした。



「おっと、呼び出し」

「いってらっしゃい。部長も寂しいのよ、眞崎ちゃんいなくなるから」



デスクに行けば、ほんわり優しい顔の部長。
会議では鬼らしいけどね・・・・・。



「お邪魔しております」

「寂しいよ、今日で最後なんだね」

「はい。お世話になりました。各務部長。」

「こちらこそ。経理にはさんざんお世話になりましたよ。君がいなくなると厳しいね」

「いえいえ。水澤さんが新人パワーで頑張ってくれます。
ずっと私が教えてきたんですから。たまにちょっとうっかりさんですけど、几帳面ですから」

「おや。期待しようかね」

「はい」

「それにしても。・・・・・栗原と結婚して寿かと思ってたんだがなぁ」

「あはは、まだそういうタイミングじゃないんですよ」

「そうかね?あいつもそろそろ身を固めてもいいと思うけどね。
君が奥さんになるのなら、あいつも安泰だろう」

「ふふ、そうでしょうか?」

「勿論だよ。いい奥さんがいて、一人前の旦那になるんだ。男は家庭がしっかりしてないとね。
外で頑張ってきて、家で癒されないと困るだろう」

「そうですねえ。確かに」

「だから、君ならいい奥さんになるだろうし」

「どうしてもそこに戻るんですね?」



この人は本当に私と透の結婚式でスピーチがしたいんだ、だの
子供はきっと可愛いはずだ!と喋る。

・・・・・うーん。結婚、ねえ?



「部長、お茶ですぅ」

「ああ、置いといてくれ」



佐々木さんが、しゃなり、とお茶を運んできた。
こういう男に対しては、きっちりお嬢さんのふるまいらしい(笹さん情報)



「では、部長。お世話になりました。お体にお気をつけてくださいね」

「ああ。君も息災でな。・・・・・頑張りなさい」



多分、次の仕事を知ってるんだと思う。
気遣いが嬉しい。
こういうところで、レストランの事を言うようなそんな無粋な事はしない人だ。


笹さんのところへ戻り、少し喋っていると、佐々木さんが近寄ってきた。



「お疲れ様です、眞崎さん」

「あ、お疲れ様です、佐々木さん」
「・・・・・」←笹さん

「大変ですねぇ、リストラ、なんて。怖いですぅ」

「そうねー」

「頑張ってくださいねぇ?」

「ええ、ありがとう。もう次は決まっているから、大丈夫なの」

「・・・・・へえ・・・・・栗原さんも、知ってるんですか?」

「ええ。この間、話したから」

「ふうん、眞崎さんて、仕事も男も手早いんですねぇ。私、尊敬しますぅ」

「は?」

「この間の人は、次の彼氏さんですかぁ?2人も?」



かなり大きな声でまくし立てる彼女。
こういう事ができるのも、今日が最後と思って、やってるんだろう。

ホント、この子の心臓、鉄かもしんないわ・・・・・



「ちょっと、佐々木。口を慎みなさい」

「ええ~~~だってぇ?私見ましたしぃ?素敵な男の人が2人、眞崎さんと一緒にいたの」

「・・・・・」

「それでも。ここで貴方が口を挟む事じゃないでしょう」

「ああ、そうですかあ?すみませぇん」



わざとにも程があるけど。

何人かは、興味本位で私を見ているのだから、計算ずくなのだろう。
まったく、・・・・・どこで覚えるの?そういうの?

さて。どうしようか。変に答えると、後々透がやりにくいだろうし。



「ごめんなさぁい、眞崎さん」

「・・・・・いいえ。構わないわ。彼等は次の仕事のビジネスパートナーなの。
貴方が考えるような関係ではないわ。悪いけど」

「・・・・・へえ、そうなんですかぁ?それって、ホストクラブですかあ?イケメンだったし」



きゃらきゃらきゃら、と笑う。
悪気はないですよ、とでも言うように。

・・・・・この子、本当に頭が悪い。
見た目だけなんだろうな。悪知恵は働くけど、どうするのこんなんで。

これから、貴女はここで仕事してかなきゃいけないのに。



「確かに格好いいけど。彼等は腕のいいシェフとバーテンダーよ?失礼じゃない?」

「・・・・・」

「佐々木さん、貴女、もう少し考えて喋りなさいね?
今の一言。彼等が聞いていたら、訴えられてもおかしくない暴言よ?」

「・・・・・っ」

「それと。金輪際付きまとったり、悪戯電話止めてね?
悪いけど、メールと電話、記録は残してあるから。いつでも訴える準備は出来てるのよ?
私がこの会社を辞めたら、もう後輩ではなくなるから。
・・・・・黙ってないから、そのつもりでね?佐々木麻里子さん」

「っな、」



唇を噛み締め、凄い目で私を睨む。
こんな風に、侮辱されたことはないんだろうな。

でも、私も堪忍袋の緒が切れた。

私だけならまだしも。浩一朗や晴明を侮辱したのは許せない。
・・・・・確かにホストっぽいけど←こら


踵を返し、かつかつ、と音を立てて去って行く。
まあ、もう定時だしね?



「ちょっと、眞崎ちゃん、何されてたの!」

「まあ、・・・・・悪趣味なメールとか、イタ電とか?そういうのですよ」

「あんのクソ女・・・・・」

「待って!笹さん!顔怖い!!!シワできるわよ!」

「あらやだ」

「いいのよ、これで他人だし。次やったらマジで訴えるから。金取るわ」

「おおお、怖い」

「当たり前でしょ?ああいう女は一度ガツンとやらないと。
・・・・・でも刺されたくないから、ほどほどにしないとね!」

「・・・・・そうよねぇ、あの子、何考えてるかわかんないし。
ていうか仲良くなりたくないし!」



やっぱり、嫌われてるままなのね。
でも、辞めないんだから、根性はたいしたもんだと思うのよね。

・・・・・違う方向にそのエネルギー向けたら、凄いんじゃないかしらね?



■ □ ■



その後。
透と待ち合わせ。・・・・・ていうか、会社の出口ね?



「お待たせ~」

「お待たされ~」by cowcow

「何それ懐かしいんだけど」

「車、回してきたぜ。食いに行く?俺んち?」

「んん~~~透の家。何か買ってこ。ゆっくりしようよ」

「了解!・・・・・っと。花、すごいな。持つよ」

「ありがと。課長が奮発してくれちゃったの」



一抱えはある花束。
お花は好きだから嬉しいけど。これ、電車だったら大変だったわ・・・・・。



「透がいてくれてよかったー」

「これ、電車はキツイな」

「そうなの。綺麗だから勿体ないものね?透の家にも2・3本飾ってあげるわ」

「任せる。響子はセンスいいからな」

「ふふ、褒めて褒めて」



そんな会話を交わしつつ、車に乗る。
ふう、と一息ついていると、佐々木さんだ。

透を見て、駆け寄ってきた。

車にはスモーク貼ってあるから、私がいるとは思ってないのかもしれない。

送ってください、とでも言っているのかな。
さあ、頑張れ、透!!!
ニヤニヤして見ることにした。



頑張って食い下がっている(と思われる)佐々木さん。
断り続ける透(多分)



・・・・・飽きた。

仕方ない。携帯でも鳴らしてやるか。



「・・・・・もしもし!」

「遅いぞう」

「申し訳ありません!」

「さあ!アドリブ開始だ!!!」

「はい、はい・・・・・」

「むなしいね」

「わかりました、家に戻りましたら、メールで送らせていただきますので」

「ピザ食べたくない?」

「はい。1時間以内には。はい。・・・・・・よろしくお願いいたします」

「んじゃ、切り上げてきて?」

「了解しました。では」



上手いな、劇団員になれるかもよ?

断りつづけ、車に戻ってきた。
じっと、見つめる佐々木さん。

・・・・・本当に。好きなんだろうか。


ちょっと、可哀想にも思える私。
だって、透が最初にしっかり断ってれば、こうならなかったんだよね?


どうしたら、彼女は別の男に目を向けるだろうか。
浮気相手の女だってのに、なんだか気になってしまった。



「はー。参った参った」

「しっかりしてくださいよ旦那」

「すいません、親分」

「お腹減ったわー?ピザ食べたくない?」

「お前、そんな事言うから、俺噴いちゃいそうだったよ・・・・・」

「あはは、悪い」



部屋に着き、ピザとサラダを取り、ビールで乾杯。
お疲れ様ー、と2人でのんびり。



食べながら、これまでに起こった事。

浩一朗との出会い。
晴明に助けられたこと。
2人を雇おうと思ったこと。
私が思い描く、理想のお店。

いろいろ話をした。



「もしかしたら、上手くいかないかもだけど」

「ま、専門家が付くんだし。お前は金銭感覚バッチリだから、俺は結構イケると思うぜ」

「そうかな?」

「ああ。後は、従業員次第じゃないか?」

「そうだね・・・・・あの2人だけじゃ無理だし。がんばろうっと!」

「そうだな。頑張れ、響子」

「うん、ありがと」



優しく抱きこまれ、キスを交わす。

そのまま、ベッドで愛し合う。
たまにしか寝ないけど、それもまたいいものだ。



・・・・・でも。浮気した、ってばれてるの知ってるのかな、透。



すやすやと眠る彼の顔を眺め、ふと思う私。

この先、どうなるかわからないけど。
このまま佐々木さんが、透を追いかけるのなら。
私に何かしてくるのなら。

考えなきゃいけないんだろうな。



・・・・・あの2人に相談してみようかなぁ。
腐っても男だし。

そういうの、手際よく片付けそうだわ・・・・・慣れてそうだもの。


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