夢見るディナータイム

あろまりん

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ここは、小さなレストラン。

テーブルだって、全部で10卓だけ。
1つのテーブルには4名まで。

特別なご予約用に、1席だけ、個室がある。
フロアには9卓。

たくさんのお客様は入れないので、ウチはいつも予約制。

だけど、その分お料理には気を使っているのだ。

もちろん、アレルギーや好き嫌い。
そういったお好みを予約の電話で聞いて、シェフとソムリエ兼バーテンと一緒にメニューを決める。

ある程度のコース料理を用意してあるけれど、ざっくりとしたものだけ。

あとはその季節にあった美味しい食材。
お客様の食の好みやご予算。

それを元に、メニューを決める。

ウチのコースはとてもシンプル。


**********

・前菜
・スープ
・サラダ
・パン
・サイドディッシュ
・少なめのパスタかリゾット
・メインディッシュ
・デザート

**********


これだけ。

フルコースにするか、少しメニューを少なくしたミニコースにするか。
サイドを抜いたり、パンを抜いたり、サラダを抜いたり。
そこは、予算などの都合だったりもするのだけど。

え?なんでそんなに丸投げなんだって?
だって、シェフが決めたいって言うんだもの…



「おい、待ちやがれ俺だけの所為じゃねぇだろ」



そんな事ないです、いつも貴方がアレはいやだ、これはイヤだって言うからでしょうが。



「そういうのは食材係の山崎に言いやがれ!!!」



彼は貴方の意向に沿うように動いてるもの。
結局、ぜーんぶ貴方の趣味じゃないの。



「んな事言うなら、あいつはどうなんだよ!!!」

「なんだよ巽さん、形勢が悪いからって俺にふるんじゃねえよ」



彼はまあ…料理に合わせてワインやカクテルを振舞ってるだけだし?



「だよな?」

「ざけんな」

「何言ってんだよ?アンタの料理を引き立てるワインやカクテルを選ぶのも結構一苦労なんだぜ?
そうそう何本もセラーに置いておけねえしよ」



これが、ウチのお店のメインシェフ:巽 浩一朗たつみ  こういちろうと、ソムリエ兼バーテンの金子 晴明かねこ  はるあき

彼等だけでなく、ウチで働いてくれているスタッフはいる。


***********


サブシェフ:土屋 柊つちや  しゅう

食材管理兼シェフ:山崎 晋やまざき  すすむ島田 義則しまだ  よしのり

パティシエ:泉 総悟いずみ  そうご

給仕長:東堂 圭介とうどう  けいすけ

ウェイター:森谷 大亮もりや  だいすけ火原 康太ひはら  こうた旭 万里あさひ  まり


***********


あ、私?
私は、オーナー兼支配人の眞崎 響子まさき きょうこです。
仕事は、玄関でお客様をお迎えし、毎日のお客様の管理が仕事。
勿論経営も、ね?



■ □ ■



無論、私だって最初からレストランを経営なんてしてなかった。

私はタダの会社員。
経理課にいた普通の社員だった。
それが、祖父の遺産で受け取ったのが、このお店。
といっても、小さな洋館。

あと、その隣にある家。
近くに、アパートもあるそうだ。
いいんだろうか、と思ったのだけど、近親者が私だけらしい。

───確かに、親は両方とも死んでいない。

兄妹も姉が一人だけ。
彼女は、『物件貰っても仕方ないし、お金だけでいいわ』と。

なので、私がこの物件達&お金(1/3)を貰ったというわけだ。

見に来たら、結構お洒落な作り。
モダンな内装。
このまま、誰かに貸し出せそうだ。

家は、私が住むとして。
今はアパート住まいだから丁度いい。
3DKのお家だし、私にしてみればお城だ。

誰か、こういうところでお店をやってくれる人、探そうかな。と思った。
私にはそういう才能はないだろうし。
きっと、カフェとか、小さなレストランを開きたいけど、腕はあっても場所がないって人もいるはずだ。

だけど、どうやって探す?
ネットで書き込みをするのもいいけれど、ちょっと怖いな・・・・・


■ □ ■


なんとも出来ないまま、私は休みの日に、店の写真だけ撮りに行った。

内装や、キッチン。
いろいろ、何枚も。

これを見ていれば、何かいい案が浮かびそうかも?って思ったから。

帰り道、お腹を満たすべく、近くのカフェへ入る。

んーと。何にしよう?
シェフのおまかせパスタ?

・・・・・これで行こうかな。
おまかせとはいえ、こうやってメニューに書くくらいだ。
いきなり食べれないものが出ることはないよね?



「すみません」

「はい、ご注文ですね?」

「この『おまかせパスタ』を」

「はい、好き嫌いはありますか?」

「え、ええと・・・セロリがダメなくらいで・・・」

「わかりました。少々お待ちください」



…一応聞いてくれるんだな。
どうする?それでセロリのソースのパスタ出てきたら。
間違いなく食べずに帰るけどね!

出てきたのは、きのこのパスタ。
秋だしね、美味しそう。少し鮭も入ってた。

ううう、美味しい。何味?って聞かれると困るけど、やたら美味しい。
こんな料理作れる人、レストランしてくれないかなぁ・・・・・

パスタの美味しさに浸っていると、怒声が響いた。



「ああわかったよ!出て行くさ、こんな店!ふざけんじゃねぇ!!!」

「っ、巽さん!待ってください!」

「うるせぇ!俺に触るんじゃねぇ!!!」



どかどかどか、と男の人が出てきた。

かなりのイケメン。だけど、物凄く怒っている。
エプロンを投げ捨て、シェフ姿のままだけど、店の入り口目指してまっしぐら。

パスタをまきつけたフォークを持ったまま、ぽかーん、とする私を一瞥。
ちょっと目線を合わせ、しげしげと見た後、去って行った。

申し訳御座いません、失礼致しました、と店員さんが頭を下げる。

ど、どうしたのかしら…?
あ、パスタ冷めちゃう←おい

美味しく頂いたパスタ。
でも、あの出て行っちゃった男の人が作ったのよね?

もう一度食べたくても、此処を辞めたんだったらもう食べれないよね…残念だわ。



■ □ ■



そのまま帰る気が起きず、ちょっと前に友達と来たバーに寄った。

内装も素敵だし、なにより1人でも寄れる雰囲気。
ちょっと1杯、2杯飲んで帰れるような店だった。

なんていうか、スタバとかの夜版、みたいな。

店内には、私みたいに女性1人でも結構いる。
それを前に見ていたから、ちょっと寄って帰ろうと思ったわけだ。

しかも、ここのカクテルはすっごく美味しい。
普通のなんだけど、一味違うのか。
バーテンさんの腕なのかもしれないわね。

店内に入り、『一人です』と示せば、まだ空いている店内。
ご自由にお座りください、と言われた。

奥の2人用のソファ席を選ぶ。
こういう感じが、カフェっぽくていいのよね。

オーダーは、と聞かれたので、お任せで甘くないやつを、と頼んだ。
こういうのでも、結構美味しいのを作ってくれるから。

デジカメの写真を見つつ、考える。
うーん、どうしようかな…



「どうかしましたか」



バーテンさんがカクテルを持ってきてくれた。
あれ、この人。この間も喋りかけてきてくれたイケメンさんだ。



「あ、いえ」

「なんだよ、冷たいな?忘れたのか?」

「あれ、お兄さん、私の事覚えてるの?」

「そりゃ、いい女は忘れねえさ」

「やだ何人の女に言ってるの?」

「そりゃ秘密だ。・・・・・確か、響子、だろ?」

「正解。凄いわね、一度来た客の名前覚えるなんて」

「言ったろ?いい女は忘れねえんだよ」



パチリ、とウインク。
様になるから格好いい。ファンも大勢いるんだろうなぁ。



「んで?何を悩んでるんだ、お姫様?」

「ん?仕事中でしょう?バーテンさん。こんなところで油売ってちゃダメじゃない」

「なら、カウンターに来てくれよ。客も少なくて暇でね」

「そうしようかな。適当に聞いてくれる?」

「勿論、真摯に聞かせてもらうさ」



カクテルを持ち直し、私をカウンターへ誘う。
誘導する姿がまた決まってるのがなんとも…あと制服?

かつん、とグラスを置かれ、ひとくち。



「うん、美味しい」

「だろ?前も好きだって言ったから作ったんだぜ」

「さすが。覚えてたなんて素敵ね」

「はは。・・・んで?何を聞いて欲しいって?」



ずい、と軽く肘を付き、私に近寄る。
真正面で見つめられると、ときめくわー。←ときめいてねぇ



「あのね・・・・・」



私は、こうして彼に相談した。
別に解決方法を聞きたかったわけじゃないんだけど。
第三者の口から、何か言ってもらいたかったのだ。



「なるほどな。・・・・・紹介できる奴がいるぜ?」

「え?ホントに?」

「ああ。腕は確かだ。とびっきりな」

「えー。バーテンさんなの?」

「いいや?シェフだ。しかも今日辞めてきたらしい」

「えええええ」

「ちっと待ってろよ?」



そういうと、裏に回ってしまった。

そんなにタイムリーにいるものなんだろうか。
いや、バーテンさんの知り合いなら、貸しても問題ないかもしれないけど。

どんな人なんだろ。しかも今日辞めたって。
まるでさっきのカフェみたいだな?

そんな私の考えを、神様が読み取ったのか。

バーテンさんが連れてきた男は、まさにその人で。



「・・・・・あ」

「・・・・・あ」



同時に、声が出た。



「なんだなんだ、知り合いか?」

「そんなんじゃねぇよ。俺の最後の皿を食った客だ」

「そ、そうなの。あの、あのパスタとても美味しかったです」

「なんだよそうなのか?んじゃ紹介する必要ねえかもな。
こいつは、巽 浩一朗。顔も腕もとびっきりのシェフだが、短気でな。
すぐにレストランのオーナーと喧嘩しちまうのが玉に瑕だ」

「うるせぇ」

「・・・そ、そうなのね」

「んで、彼女がその物件の持ち主。
今、借りてくれる人を探してんだと。お前、辞めたばっかで働くとこねえんだろ?」

「え、えっと、でも、店の内装とかは私わからないので、借りてくれる方に任せっきりになると思うんですけど・・・」

「そうなのか?」

「あ、はい」

「こいつに敬語なんかいらねえよ。アンタがオーナーならこいつは使用人だろ」

「おい」

「あはは」



なんだか面白い。
変なの。これが『人の縁』てやつなのかな?

請われるまま、デジカメで撮ってきた写真を見せて、今はこうなんですと説明する。



「─────内装替える必要ないだろ。このままやればいい」

「ああそうだな。作りも雰囲気もいい。そのままの方が受けそうだ」

「そうならいいんですけど。前使っていらした方が亡くなってそれっきりだそうです」

「そうなのか。でも見た限り、厨房の設備も大したもんだぜ?」

「ワインセラーもいいじゃねえか。立派だな」

「・・・・・」

「「何だ?」」

「いや、息が合ってるなと思って」

「まあ、な。俺たちは大学の先輩後輩なんだよ」
「腐れ縁だ」



道理で。なんだか仲がいいわけだ。
べったり、ではないけど、お互いをフォローし合ってるというか。



「ところで」

「はい?」

「名前は」

「あ、すみません、眞崎 響子といいます」

「響子って名前、可愛いだろ?」

「晴明にゃ聞いてねぇ」

「ひでえな」

「響子、だったな。お前の希望はねぇのか?」

「え?」

「このレストラン。お前の持ち物になるんだろ?
俺がやるにしても、他の奴に貸すにしてもだ。お前の希望はないのか?」



ちょっと、反応に困った。

考えてない、わけじゃないんだけど。
でも、それは結構儲かってるレストランじゃないと敵わないだろうし。

経理なんてやってると、大体どれくらいの売り上げが必要で、とかわかってしまう。

私の考えるレストランをやるには、かなりの売り上げが見込める店でないと経営は立ちいかない。



「響子?」

「え?」

「言ってみろ。言ったろ?聞いてやるって。遠慮すんな。俺に言ってみろよ」

「・・・・・バーテン、さん」

「なんだなんだそりゃ。俺は金子 晴明。ハル、でいいぜ?一蓮托生ってな」

「・・・・・あの。」



そして、私は夢のお店を話す。
2人とも、黙って最後まで聞いてくれた。



「そういう店、いいなって。・・・あれ?どうしたの?」

「・・・いいじゃねぇか」
「ああ。最高だぜ?カッコいいな」

「そ、そう?」

「ああ。やろうぜ?俺が客を呼んでやるよ」
「んじゃ、ソムリエが必要だろ?バーテン兼って事で俺な」

「え、えええ?」

「「その夢、乗ってやるよ」」



2人して、にや、と色気たっぷり、魅力的に笑う。

ど、どうしよう。
・・・・・人選、間違ったかも?



■ □ ■



後日、店を見に行くという事で、連絡先を交換し合ってお開き。



「なんだ、どうした?」

「いや、決まるときは一気に決まるんだなって」

「まあな。・・・・・お前が俺のパスタ食べに来たのも偶然だろ?」

「喧嘩して派手に店をやめたのもね」

「コノヤロウ」

「あはは。あれ、すっごく美味しかったの。また、食べたいって思った。
だから、貴方があそこを辞めちゃってどうしようって思ったんだ」

「そうか」

「だって、いればまたあそこに食べに行けばいいけど。
どこか別のお店に行ったら探せないもの。・・・・・だから、嬉しいわ」

「俺もラッキーだったよ」

「え?」

「あそこのオーナーは年増のババアでな。
愛人にならねぇかって毎日言われてたんだよ。堪忍袋の緒が切れた」

「・・・・・」

「客にまとわりつかれたり、そういうのが多くてな。
でも、響子の店なら、そういうんじゃない店にできそうだ。俺にとっても、『夢の店』だな」

「・・・・・巽、さん」

「浩一朗、で構わねぇよ。同じ歳だしな。・・・・・そうは見えねぇが」

「童顔なのよね・・・」

「いいじゃねぇか、可愛いんだから」

「やっぱり、ハルと友達ね・・・」



さっき約束させられてしまったのだ。

『これからは響子がオーナーなんだし、さん付けなしな』と。

上手すぎる…口が上手すぎるんだよ、ハル…
さすがは接客業というべきか。



「ま、あいつもいい話だよ」

「え?」

「晴明だ。・・・・・自分で出す酒を決められる店を出したいってのがあいつの夢。
だから、お前の夢の店は、あいつにとっても『夢の店』なんだ。
シェフの決める料理に合わせ、酒を提供する。願ったり叶ったりだろ」

「そう、だったのね・・・・・」

「俺にとってもな。料理を俺が決めてもいいってのは、シェフにとっちゃたまらないぜ。
任せとけよ、ばっちり客の入るレストランにしてやるさ」

「腕は確かだものね」

「だろう?俺はそこらのシェフに負ける腕は持ってねぇ」

「プライドの高さもね」

「うるせぇ」



なんだか、私の考えとは裏腹に、物凄いスピードで進行してる。
ドキドキする。どうなるんだろう?

無事に、レストランをオープンできるんだろうか?



「おい、響子」

「はい?」

「お前、仕事辞めるんだろうな?」

「え?」

「え?じゃねぇだろ。お前がオーナーだろ?今すぐに、とは言わねぇが。
辞めて、こっちに専念しろよ」

「マジすか」

「当たり前だろ?経営うんぬんの相談には乗れるが、実際キッチンの外を仕切るのはオーナーのお前。
他にはできねぇぞ?」

「・・・・・」

「俺も、晴明も。お前が上だから従うんだ。覚えとけよ」

「・・・・・ハ、ハイ・・・・・」



やっぱり人選、間違ったかも。
早々、暗雲が立ち込める私なのでした。

・・・・・でもあのパスタ、もう一回食べたい。
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