異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、2年目 ~前期~

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2/28 この話を持ちまして、しばらく休載致します。
すみません、来月仕事が忙しくて書く暇が…
4月再開を目指します、お待ちください。


********************


まさかの『アナスタシアさんを私にください』攻撃にノックアウト寸前の団長さん。でもね、これは私じゃなくてアナスタシアさんの為だったりする。


「あのですね、フレンさん。私、本当はいい歳なんですよ」

「ああ、そうみたいだな」

「でも、私は子供が望めない体

「っ!?」

「ちょっとした病気と、あとは加齢ですね。なので、アナスタシアさんの気持ちもわかる部分はあるんです、


アナスタシアさんは、団長さんに愛人を囲わせて子供を産ませている。夏にはもう一人産まれるのだそうだ。クレメンス家は本妻腹ではないが、男児を二人授かっている。そして本妻は愛人を認め、その愛人腹の子供達にクレメンスの名を名乗る事を許し、後継とするつもりがある。

アナスタシアさんから全てを聞いた時は、私も何も言えなかった。
自身は王女として他国に嫁ぎ、子を成し、血を繋げることが───愛のない政略結婚をする事がだと思っていたから、愛人に子を産ませて家を継がせることに何の障害もない、なんてしれっと話をしていたけれど。

私は聞いたのだ、女としてそれは受け入れ難い事じゃないのかと。

すると、アナスタシアさんはとても儚い笑顔をして笑った。子を産めないこの体に価値を見出してくれた『あの男』に対する感謝を表すにはこれくらいでは足りないのだと。
そして、『私』という剣を捧げる主がいる自分に、これ以上の幸せなど必要ないのだと。

そして、泣く私にアナスタシアさんは頼み事をした。私はそれを叶えることを約束した。私に剣を捧げる、なんていうこの優しい女性の心を守りたいと思ったから。


「フレンさん、アナスタシアさんは愛人の子供達を本邸に入れて教育をしていくことを望んでいます」

「・・・そういや、何度か言ってたな。確かにそろそろ子供に教育をしていかないとならないんだが。アナスタシアからもキャロルに言ってるみたいだが、キャロル自身はアナスタシアが本邸にいるのにそんな事できないって───そうか、その為か」

「それもあります。でも私としてはそれだけじゃないと思っています。と思います」

「っ、お嬢・・・!」

「前にも言いましたよね。女なら、愛する人の子供を産んでこの腕に抱きたいと思うって。父親にしてあげたいって思うって。
それが愛人の手を借りて実現したのは嬉しい事でも、やっぱりどこか受け入れ難い所はありますよ、やっぱり。それが貴族の在り方と言われたら、この世界の人間じゃない私としては『言いたいことはわかるけど、それとこれとは違う』としか言えないです」

「・・・すまん」

「いやいいんですよ、フレンさん。だからアナスタシアさんは私にください。お互い想い合っているのは知ってます、なので住まいを移すだけで構いません。
・・・私は数日後に蓬琳国へ留学に行きます。期間は一年。ですから、私がまたこの国エル・エレミアに戻ってくるまでの間に、アナスタシアさんをタロットワーク別邸へ行かせてあげてください」


言葉が出ない様子の団長さん。嫌なんだろうな、アナスタシアさんを家から出すの。元々クレメンス家に入ってもいない彼女。縛るものなんて何も無い。愛する人が手の届かない所へ行ってしまうという気がするのだろう。


「─────わかった、アナスタシアの好きにさせよう」

「ありがとうございます」

「・・・くそっ、喜び勇んで行くアナスタシアの姿しか浮かばねえ!!!」

「安心してください、アナスタシアさんのことは私が幸せにしますから!」

「うおおおおお、悔しい!なんで俺じゃねえんだアナスタシア!
・・・ん?待てよ?お嬢、今留学するって言わなかったか?」

「言いましたけど」

「はあ!?何でだ!?しかも数日後って早いだろ!」

「もっと早く挨拶に来る予定だったんですけど、この結界魔法習得するのに時間かかっちゃって」

「何してんだお嬢!」


だってこの話するのに、この魔法って必須だったんだもの。仕方ないじゃない?おいそれと話していい事じゃないしさ。
とはいえ団長さんをタロットワーク別邸へ呼ぶ、となると大義名分がいるし・・・


「話をかいつまんで説明すると、何やかんやあってですね」

「その『何やかんや』がすごく重要な気がするが」

「帰還方法を探してるんですけど、この国にヒントが少ないので、蓬琳国に恩を売る代わりに情報流してもらいに行くんです」

「・・・多分もっと政治的な秘密があるんだろうが、お嬢の説明にかかるとものすごいあっさりした理由に聞こえるから不思議なもんだな」

「いえ、合ってますよ?この説明で。フレンさんには国王陛下からお話があるんじゃないですか?全てじゃないかもしれませんけど」


長々と話をしたようで、窓からは夕日が差し込んで来ていた。そろそろお暇しないとね。冷めたお茶を飲み干すと、団長さんはポットから温かいお茶を注ぎ直してくれた。


「ありがとうございます」

「気にすんな。・・・もしかしてさっきシオンに抱きついたのは留学するのも関係あるか?」

「鋭いですね、フレンさん。青春の思い出ってやつですよ。
カイナスさん素敵だし、この間夜会にも出ましたよね?その時のことを友達から聞いたところ、世の女性達からも需要がある気配を感じ取りましたからね。
これは一年留守にする間、どこぞの貴婦人から想いを寄せられてゴールインしないとも限らないじゃないですか?そしたらこんな小娘が相手になるわけないですしね」

「んな事ないだろ?体が少女ってだけで、」

「でも、は言えませんよね?フレンさん」

「あーーーー、そういう事かよ」


ふふふ、と私は笑う。カイナスさんは確かに魅力的だ。男としても、騎士としても、性的な魅力を感じている。けれど私はこの世界に残る気は今のところはない。帰るまでの間、恋人になってくれるのであれば願ってもないのだが、この事情を明かせる訳でもない。


「私が元の世界地球に帰るまでの間、恋人になってくれるっていうのであれば大歓迎ですけどね。見た目小娘ですけど『女の悦び』は知ってるつもりですし」

「お嬢の口から出る台詞とは思えんな」

「お口チャックしときます」

「お嬢はこちらで暮らす気はないのか?」

「・・・フレンさん。もし、貴方が見知らぬ世界に着の身着のままで飛ばされたらどうしますか?」

「ん・・・?」


この質問、今まで何人の人に聞いてみたいと思っただろう。
皆、私に優しくしてくれる事はありがたく思っている。いきなり現れた人間を保護し、手厚く世話をしてもらっている。感謝こそあれ、不満など持てるわけがない。

───でも、こればかりは忘れることはできない、


「皆さん、優しくしてくれます。待遇だって、元の世界地球で暮らしていた頃に比べたら、破格の待遇かもしれない。
でも、ここアースランドに、私の愛する家族はいません」

「・・・」

「愛した男性ヒトがいた訳ではありません。子供がいる訳でもない。けれど、向こうには私の家族が───姉がいて、その子供達がいて、友人がいて、職場の仲間がいて、私の家が、居場所帰るところがあるんです。諦めることなんてできない」

「お嬢、悪かった」

「フレンさんも、きっと帰りたいと思いますよ。だってこの世界アースランドには、フレンさんの、フレンさんだけの居場所帰るところがあるでしょう?」


これから先の事はわからない。もしかしたら、溺れるくらい愛する人が出来るかもしれない。やるべき事を見つけるかもしれない。

けれどやはり、『帰りたい』と願う気持ちは消えることがないだろう。自分自身でその気持ちに納得できる答えを見つけることができるまでは。

今はまだ、何も見つけてないのだから。



********************



そして、数日後。
私は船上の人となる。見送りは極小数で、ゼクスさんとセバスさんだけ。

蓬琳国の皇太子が帰国、ともなれば盛大にセレモニーを開かなければならない。その影に隠れて、私はひっそりと出航した。
沖合いで高星カオシン皇子の乗る大型船に合流する予定。

船はこじんまりとしたもので、高星皇子自らが用意してくれた。腹心の部下と言って紹介してくれた人が、案内をしてくれるとのこと。
私はターニャとライラを連れて乗り込む。荷物はマジックバッグで運ぶので、少なくて済む。持てないものは後日送ってくれるようだ。

さて、この先何が待っているだろう?
私は希望と不安を胸に、まだ見ぬ新しい国へと旅立った。

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