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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む失礼いたします、と騎士さんがお茶を運んできてくれた。大きめのポットと、カップを二つ。長丁場になるよ、とでも言ったのかな?団長さん。
コポコポ、とお茶を注ぎ、一礼して去っていった。
事務仕事を主にするああいう線の細い騎士さんもいるものなんだなぁ。戦闘とかには出ないのかな?
団長さんは部屋を出て戻ってこない。もしかしなくても、カイナス副官と話をしているのかもね。あの薬飲んでるから滅多なことは話せないだろうけど、『どうして』話せないのかは伝えられるはずだ。そんな事を考えていると、団長さんも戻ってきた。
「悪い悪い、待たせたな」
「いいえ、構いませんよ。『女房役』に話す事もあったんでしょうし」
「・・・その言い方をするって事は、誰と話してたのかお見通しかよ」
「あら、当たってました?ここでの『女房役』といえば一人しかいませんものね」
「そうだな。とはいえアレ飲んじまったから言わねえけどな」
「いいんですよ別に言っても。忘れたくなったらそれが一番ですからね。知らなければ危ない橋を渡ることもなく、自分のお仕事だけに集中できますしね」
「・・・言わねえよ。今のところは、な」
グビ、とカップに注がれたお茶を飲み干す。さっき入れたばかりだけど冷めてたのだろうか。新しくお茶を注いだ団長さんに、私はさっきの魔法薬をもうひと瓶出した。
「じゃ、こちらもグイッと」
「・・・やっぱ飲まなきゃだよなあ」
「飲まないで聞く選択肢もありますけど、その場合明日の朝が迎えられるかどうかが怪しくなるんですけど、いいですか?」
「飲む一択しかないな」
「・・・ちなみにアナスタシアさんからは『私の好きなようにしていい』と言われてます」
その一言を聞いた瞬間、団長さんが瓶に伸ばしていた手を一瞬、止めた。受け取り方によっては、『生死は任せる』と聞こえるような言葉だ。夫である団長さんの命も、私に委ねたようなものだから。
そんな事を聞かされて、動揺しないわけが無い。愛する妻は、私情よりも選び取ったのは『私』という事になるのだから。
瓶を開け、中身を一気に飲み干す。その姿を見て、私は再度『結界魔法・排除』を発動させる。私を見る団長さんの瞳は、真剣なものだった。
「─────聞かせてくれ、お嬢。君の答えを」
「わかりました」
********************
そうして、私は『始祖マデインの日記』にまつわる全ての事を話した。
幼いアナスタシアさんの事。王城の地下、宝物庫で見つけた日記達。そして、変わったアナスタシアさん。臣籍降下に始まり、今に繋がる全ての話を。
団長さんは、両手を組み、身を乗り出すように前傾姿勢となって、私の話を一言も漏らさないようにしようと聞いていた。
「─────これで、『始祖の日記』にまつわる話の全てです。アナスタシアさんが何をどう考え、どう思って行動しているのかは私にも全てわかるわけではないんです。こればかりは本人だけが知る事なのでしょう」
「あのアナスタシアが、大人しいっていうのがな・・・日記を読んだことで性格が変わったというのも・・・」
「そこはフレンさん自身が、アナスタシアさんに聞いてください。多分、それを聞いてもいいのは『夫』であるフレンさんだけなんだと思います」
「・・・そう思うか?」
「アナスタシアさんを『伴侶』として迎えた貴方だからこそ、聞く権利もあると思います。でも、アナスタシアさんが言う『だから話せない』っていうことも私はわかるんです。フレンさん、私の話を全て聞いても、近衛騎士団団長の地位を捨てて、アナスタシアさんの絶対的な味方となれますか?無理ですよね」
「それは・・・・・・」
「アナスタシアさんもそれをわかっているからこそ、自分から話すことがなかったんだと思います。彼女もその立場ゆえにできること、できないことがあるのを身をもって知っているから。
でも、私にはそういうの全くわかりません。だからアナスタシアさんは『私にならフレンさんに納得できるような答えを出せる』って言ったんじゃないですかね」
そう、私はこの世界の人間じゃない。だからこそ『信念に命をかける』とか、『国に忠誠を捧げる』とかどこぞの隊員みたいに『心臓を捧げよ!』とか理解できないし、実行出来ない。
私としても『日本』という国は好きだし、愛着もあるけれど、『お国のために』的な考えはないからね。
「───これは私の考えですけど、アナスタシアさんはこの『始祖の日記』を読んだこと・・・始祖が夢に出てきてコンタクトを取ったことで、自分のすべき役割を見出したんだと思うんですよね。それは『王族』『王女』『タロットワーク』っていう外枠の事じゃなくて、『アナスタシア』という一人の人間として何をすべきなのかってことを」
「それは何だと思うんだ?」
「知りませんよそんなこと」
「・・・お嬢、もうちっとでいいから真剣に考えてくれないか」
「わかるわけないですよ、だって私『アナスタシアさん』じゃありませんもん。むしろ私が同じ目にあったとしても『夢、夢。アレ全部夢だし』って知らないふりしますよ多分」
「それはちょっと無責任すぎないか?」
「いえ全然?だってそれって何に対する『責任』なんですか?」
驚いた顔をした団長さん。ほら、多分そこから違うんだよね。私はそんな夢見ても『自分の使命キタコレ!』とか思うような性格してないもの。むしろこちらの人にとっては、愛国心とか忠誠とかそういう下地があるから、受け入れやすいのかもしれないけど。
「私の使命なんて、両親からもらった命を天寿まで全うする、って事くらいしかないですよ。あわよくば受け継いだ遺伝子を子供を産んで後の世代に繋げる、的な?」
「いやまあ、それもそうなんだが」
「フレンさん、私が住んでいた元の世界には忠誠を捧げるような主なんていませんし、魔法だってありませんから未知の存在や偉大な存在なんてものを真剣に捉えている人なんてほんのほんのひと握りです。
国の象徴的存在である『天皇』や『皇族』はいますが、政治的権力はなく、単なる『象徴』でしかありません。国を動かすのはこちらでいう『王族』はなく、『平民』の中から選ばれた代表者が集まって国を動かしていくんです」
「そんな国が・・・あるのか?」
「ありますよ、私達の世界では『国王』を抱く国は数十分の一じゃないですかね?ほとんどが今言ったような政治形態ですよ」
「それはまた・・・」
「ピンと来ませんよね、わかります。まあこの話はいずれまたしましょう。フレンさんに興味があるのならですけどね」
「そうだな、面白そうだ」
意外にも食いついた団長さん。思ってるよりもインテリ?
「で、アナスタシアさんの事に戻しますけど。アナスタシアさんとしては『私を護る』って事が自分のやるべき事、としているみたいなんですよ。その他の事・・・例えば騎士団に所属してる事とかはそれに付属した事というか」
「・・・そう言われると、その卦はある。お嬢がこちらに来てから、アナスタシアからは何度かタロットワーク別邸に住まいを移したいと言われていた。何故かを聞いてもはっきりとした事は言われなかったから、許さなかったんだが。今の話を聞いたら腑に落ちた。アナスタシアはお嬢を側で護りたいから、だったんだな」
「そうなんですか?じゃあちょうどいいですね。アナスタシアさんを私にください、フレンさん」
「はあ!?」
「いいじゃないですか、離縁してくださいとか言ってませんから」
「いやいや待ってくれお嬢。なんでそうなるんだ?」
慌てる団長さん。これは今日イチ慌てているのでは?これを見ると団長さんてアナスタシアさんに惚れ込んでいるんだなあと思わざるを得ない…
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