異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、2年目 ~前期~

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「で、最初に度肝を抜こうと思うんですけど。私、異世界から来たんです」

「は?」

「まあそう来ますよねーそれが普通の反応ですよね」

「待て待て何言ってるんだお嬢」


しかし、私は団長さんが言葉を挟んでくることに遠慮の『え』の字も考慮すること無く、これまでのことを話した。

私はこの世界アースランドの人間ではないこと。
魔術研究所で行われていた召喚魔法の実験中の暴走事故イレギュラーで来てしまったこと。
何の因果か、見た目の年齢が若返ってしまっていること。
私には『異世界の高位精霊の加護』があり、現在その恩恵があるが故にこの国エル・エレミアに客人として迎えられていること。その為に『タロットワーク』の庇護を受けていること。

そして、とんでもないことに全属性の魔力を持っていること。けれど攻撃魔法が使えないこと。

帰還方法を探すために、こうして学園に通いながら魔法の勉強をしていること───私に関する情報を包み隠さず話した。


「・・・こりゃ参ったな」

「まあどこの売れない作家の書いたお話かと思うでしょうけど、本当です」

「─────いや、そうじゃない。さっきまであの薬を持ち出すなんて正気を疑ったが、お嬢の判断は本物だよ」


こんな話、外部に出せん…そう呟いてソファの背もたれに寄りかかり、腕組みをして難しい顔をした。


「だが、合点が行く点もいくつもある。その歳にしちゃ大人びた事を言っているかと思えば、その歳で知らないとおかしいような常識がすっぽり抜け落ちていたり。かというと驚くような深い知識を持っている節すらある。
異世界から来た、ってんならこっちの常識なんざないだろうし、見た目通りの歳じゃないのなら、思慮深さは頷けるってもんだ」

「・・・常識、ないですか?」

「平民にしても貴族にしても基本的な事が抜けてるような事があるからなぁ、お嬢は。っと、お嬢は失礼だな。すまん」

「いいえ、私フレンさんに『お嬢』って呼ばれるの好きなのでそのままでお願いします。精神的にはそんな若作りしてどうするって年齢なんですけど、この姿になってから若干自分の考えが若い頃に戻っているような変な感覚なんですよ」

「そういうもんか?・・・しかし男の好みも納得と言えば納得だな。シオンがいい、なんて年増好みだと思っていたが元々その年代ならなあ」

「元の年齢でもちょっと若いんですけど、カイナス副官くらいからフレンさんくらいまでの年齢が私にとってはちょうど許容範囲ストライクゾーンなんですよね」

「お?俺も入るのか?」

「むしろフレンさんくらいが一番しっくり来ますよね。まぁこの見た目だと犯罪級だと思いますし、アナスタシアさんという奥様がいますから手を出しませんけども。独身ならとっても魅力的ですよ」

「こっちとしちゃ女は若くてもいいけどな」

「即座にダメ人間発言しないでくださいよ、フレンさん」


こちらの男女の好み…というか、恋愛における常識感は、私の持つ感覚とは全く違うものと思っていい。とはいえ私も割りと緩い方だけど。
一夫多妻制、とも違う。平民ならばそれが主流なようだけど、貴族に限って言えば愛人を持つことや不倫関係を持つことはステータス、有り体にいえば『良くあること』だ。

倫理観の違いと言ってしまえばそれまでだが、夫や妻が居ようとも『一時的な恋人』というものは暗黙の了解として認められる風習がある。

私達の社会にしてみればその倫理観は『ふしだら』なものだろう。だがこの世界…この国エル・エレミアでは違うのだ。
貴族が愛人を囲うのは当たり前だし、夜会でのお誘いは楽しみの一つでもあるのだ。どーなってんのよ、と思うのは致し方ないことだが。

だから団長さんの発言はあっち地球の常識感にしてみれば『不潔!最低!』ってなもんだけど、こっちエル・エレミアにしてみれば『ありがち』な意見の一つだ。
年齢離れた夫婦や愛人関係なんて掃いて捨てるほどあるんだもの。閑話休題。


「やれやれ、こりゃ参ったな。口を噤まざるを得ない話だ」

「なんか『これで終わり』みたいな事言ってますけど、まだ本題に入ってないんですけど?」

「はあ!?これが秘密なんじゃないのか!?」

「何言ってるんですか、今のは前フリですよ?」

「この話が前フリだと!?どういう事だよ!」

「これまでの話は、単なる私の身の上話じゃないですか。これだけならさっきのお薬なんていらないですよ。だってここまでは王族の方々、タロットワークの直系兄弟、別邸にいる『影』達全てが知っている事なんですから」

「ちょっと待て、じゃあ何を話そうって言うんだ」

「言いましたよね、私?『タロットワーク始祖の日記』を読んでから話をすると。その話はまだ何もしていませんよね?」


ぐっ、と息を飲んだ団長さん。
そう、私の身の上話ならば知っている人間は多くいる。けれど、この先の話───タロットワーク始祖の日記に纏わる話は、先程言った『当事者』のみが知るべき話だ。

タロットワーク始祖の日記、あれを読んだのは先々代国王たるジェムナス・タロットワーク、ゼクスレン・タロットワーク、アナスタシア・タロットワーク。そして私だ。
現在ジェムナス先々王陛下はお亡くなりになっているから、除外とする。

今回、団長さんに話をする事はゼクスさんに相談してある。結果、あの魔法薬を渡されたという訳だ。それを使うも使わないも私次第、と渡された。
アナスタシアさんには、ゼクスさんが通信魔法コールを飛ばして伝えた。アナスタシアさんからは『姫の良きように』と簡潔な一言を貰った。

これを知って団長さんが何を思うかは分からない。けれど、この人はアナスタシアさんの伴侶となる事を自ら選んだ人だ。ならば同じ重さを背負ってもいいのだと思う。・・・それが近衛騎士団団長として抱えきれないのならば忘れればいい。これは私が用意した逃げ道だ。


「じゃあ行きますよ、・・・って言いたいんですけど喉乾きません?」

「おいおいおいおい!」

「だって私ばっかり喋ってるじゃないですか?」

「あーわかったわかった、茶でも用意するか。そういや、あの薬ってまだ有効なのか?」

「もう1本ありますから大丈夫です!」

「・・・なるほどな」


ちょっぴりトホホな顔をした団長さん。だって本題はここからだもの。私の話もおいそれと漏らしていい内容じゃないけどね!



********************



お嬢が喉が乾いた、と言うので部屋を出て近くにいた騎士に頼んだ。やれやれと思いながらも先程の話を思い返す。…確かに外部に話すには危険な話だ。『異世界人である』という事もだが、俺としては『全属性の魔力持ち』という点においてもだ。

現在『全属性の魔力持ち』はゼクスレン様だけになる。過去、国王の座に付いてきたタロットワーク一族は『全属性の魔力持ち』だったはずだ。
先々代国王であるタロットワーク最後の王、ジェムナス陛下も然り。次代国王とされていたゼクスレン様も然り。…その後『全属性の魔力持ち』の人間はいないとされている。


「どうなっている、これは・・・偶然なのか?」


知らず、口からこぼれ落ちた。誰も周りにいないからいいものの、誰かいたらさっきの話も消えちまうな。
茶の用意を申し付けた騎士が戻ると同時に、シオンも来た。俺はシオンに目配せをして足を止めさせる。茶は部屋に運ばせた。


「・・・どうですか、団長」

「悪い、話せなくなった。『胡蝶の夢』だ」

「っ!?」


お嬢が持ってきた魔法薬の名前だ。お嬢は知らなかったみたいだが、アレには『胡蝶の夢』と名前がある。
見知り得た情報も、口に出せば泡沫の夢と消える。全くよく出来ただよな。

俺もシオンもこの薬については嫌という程知っている。任務において使われる事もあるものだからだ。


「・・・そこまで、ですか」

「知りたきゃお前も『覚悟』決めるんだな。とはいえお嬢がその資格もないが」

「─────わかり、ました」


さて、俺も戻らなければ。お嬢の事だから今シオンとあっていることも気付いているだろう。
見た目通りではなく、彼女は別の世界で生きてきた『大人の女』なのだから。しかしシオンにこの事だけでも言ってみたいもんだな?そうすりゃお嬢に対して思い悩む事もなくなるだろう。しきりに年齢差がどうこう言ってたしな?

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