異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、2年目 ~前期~

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冷ややかに怒るカイナス副官。そして平身低頭で小さくなる(実際には小さくはない)団長さん。
これ終わったら次私よね?それは避けたい。

一通りお小言を言って満足したのか、カイナス副官は私に向かって視線を移し、口を開いた。しかしさせません!
私はぎゅむ、とカイナス副官に抱きつく。


「ごめんなさいカイナスさん!許してください、ちょっとしたドッキリだったんです!」

「ちょ、お嬢さん?」


両手を回し、ぎゅっと抱きつく。今日は鎧ではなく通常の隊服。何ていうの?コート?みたいの着ています。格好いいのよね、この服装。スラッと見えてさ。
あーやっぱり鍛えている男性よねえ、感触的に美味しいです!もちろん女の子の方が柔らかくて抱き心地はいいけれど、男性には男性の良さがある。

ほら私留学しちゃうし?冥土の土産っていうかそんな感じ?
一年後戻ってきた時にはカイナス副官は既にどこぞのご婦人に売約済みになってるかもしれないし。思い出作りってやつよ。

見上げて必殺上目遣い。あざといわ、私。

カイナス副官も目が合うと困ったように慌てる。隣では団長さんがグッジョブ!とばかりにニヤァ…と笑った。


「これでシオンも同罪だな?アナスタシアに切られてくれよ」

「なっ!図りましたねお嬢さん!」

「いや別にそこまで計算高く考えた訳じゃないですけど、怒られる倍率は減るかなって」

「ダダ漏れてるぞ、お嬢」


怒るタイミングを逃し、カイナス副官もため息を付いた。それを確認して私もそっと離れた。十分計算高いわね、私。


「・・・もういいです。今後は気をつけましょうねお嬢さん」

「はーい」
「はーい♡」

「ふざけてると怒りますよ団長」

「ひっでえな、愛する副官へのサービスだろうが」

「だったら仕事してください、仕事」


こんなやりとり毎日やってるんだろうなぁ。頑張ってカイナス副官。他の人には団長さんのお世話は務まらないわ。アナスタシアさんもいないしね。


「はーやれやれ。それで話を戻すか?お嬢の話は何だ?」

「だからフレンさんとお話しに来たんですって」

「団長とですか?」
「俺と?」


私が話し出すのを待っているんだろう。団長さんもカイナス副官もこちらを見る。だけど私は切り出さない。この話は団長さんにしかする気はないからだ。そんな私を見て、団長さんは眉をひそめる。


「どうしたお嬢?話があるんだろ?」

「はい、なので待ってます」

「待ってる?」
「・・・もしかして俺は邪魔ですか?お嬢さん」


言葉の代わりに頷く。その仕草に驚く二人。


「シオンに聞かせたくない話か?」

「はい。・・・フリードリヒ・クレメンス。約束を果たしに来ました」


そう告げた私に反応した団長さん。カイナス副官も真剣な顔になり、私に話しかける。


「それは俺も聞くわけにはいきませんか」

「遠慮してください。私が『約束』したのは彼一人です」

「・・・シオン、部屋を出ろ。命令だ」

「・・・・・・了解しました」


カイナス副官が離れる前に、私に聞こえないように二人で短いやり取り。後で話す、とか言ってるのかな?残念、私はそれをさせるつもりはないんだなあ。

カイナス副官は一礼して部屋を出ていった。パタン、と扉の閉まる音。私は団長さんに促されてソファセットの方へ。


「これでいいか?」

「はい。後はこれを・・・と」

「何だそりゃ」

「ゼクスさんからもらいました。魔術研究所謹製の魔法具マジックアイテムだそうです」


持ってきていたマジックバッグから取り出した魔法具マジックアイテム。今日私が団長さんに話をする為に、ゼクスさんに用意してもらった特別品だ。


「・・・何をする気だ?」

「えーと、その前に失礼しますね。『結界魔法・排除キープアウト』」

「・・・おいおいおい」


この魔法もセバスさんと今日の為にアレンジしましたよ!ものすごい疲れたよ!これの為に三日かかったんだから!イメージは過去に読んだマンガからできてたけど、実際に使えるようにするには大変だった!

その名の通り、外部からの干渉を排除するもの。音も聞こえなくなるし、気配もほとんど感じなくなるみたい。元々の遮音結界を張る魔法を習得しようと思ったんだけど、あれ結構難しくて…なんか四苦八苦してたら、全然違うものができちゃった。でもこれ私にしか使えない魔法らしい。異世界人特有?やれやれ。


「ここまでするか?」

「だって、扉の向こうでカイナスさんがこっそり聞き耳立ててたら意味ないですし。フレンさんと同期してるかもしれないし。でもこれならも遮断しますからね!」

「はああああ!?」

「で、あと一つ。こっちも団長さんにしてもらわないと話が進まないんですよ」


魔法具マジックアイテム…と言っても、それは飲み薬だ。けれどこれを飲んで聞いた話は、に話そうとすると内容を忘れるらしい。
…え、何その呪われた薬?と思った皆さん、私も思いました。しかしこれは実際昔から使われている魔法薬だそうです。作った人?タロットワークの誰からしい…


「・・・マジかよ」

「あれ、知ってます?」

「任務で見た事はある。まさか自分が飲むハメになるとは思いもしなかったがな」

「・・・さすがは近衛騎士団団長。話が早いですね。私がこれからする話は人に話してもらいたくないものです。うっかり口を滑らせると『影』が『コンバンハ』ってしに来る可能性があるので、こちらをお持ちしました。さすがにアナスタシアさんの旦那様を儚くさせたくないですから」

「・・・やっぱり聞かないことにするっていう選択肢はあるか?」

「それでもいいですよ?私はどちらでも構いません」

「─────覚悟を決めろ、ってこういう事かよ」


苦虫を噛み潰したような顔。けれど選択肢は委ねた。後は彼が決める事だ。私はその結果に従うに過ぎない。


「─────フリードリヒ・クレメンス。私は今日『近衛騎士団団長』としての貴方ではなく、『アナスタシア・タロットワークの伴侶』である貴方に話をしようと思って来ました。
けれど、国を護る『義務』のある貴方には、枷を付けないと私は話をする事ができないのです。私は包み隠さず真実を話すつもりです。それが貴方に対する誠意だと思いますから」


アナスタシアさんの伴侶となる事を選び取った彼には、聞く権利がある。けれどそれを他の人に話す事はルール違反だ。このルールを決めたのは私だけど、譲るつもりはない。
『国の為』だからと腹心に話を共有させる訳にはいかないのだ。


「この薬の『効力』は?」

「当事者は私、アナスタシア・タロットワーク、ゼクスレン・タロットワーク、そして貴方のみです」

「成程。徹底しているな。・・・わかった、飲もう」

「・・・気に止まずとも『関わりたくない』と思った時に副官に話そうとすれば全てを忘れます。二度と思い出す事も無い」

「わかっているさ」


小瓶の蓋を開け、一息に飲んだ。
ごくり、と嚥下する喉。…しかしアレってどんな味なの?サラッとしてるの?ドロっとしてるの?

サクッと飲んだとこから、バリウム系じゃなさそうだけど。
無味無臭なのかしら?


「・・・なんだお嬢?」

「それって美味しいです?味ないんですか?」

「ん?水だな。味はないし、匂いもない。そうじゃないと知らずに飲ませたり出来んだろ」

「あ、そういう事もあるんですか」

「後味が微妙に甘いけどな」


そうなんだ…これって結構メジャーなお薬なのかしら…

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