異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、2年目 ~前期~

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とんとん拍子に留学が決まり、高星カオシン皇子から正式に『10日後に出発する』と連絡が来た。

蓬琳国へ行くのは私だけでなく、護衛件お世話係として、ターニャとライラが付くことに。二人も連れて行っていいのかと聞くと、セバスさんは元より当人である二人も頷いた。来てくれるなら非常に心強い。

学園に行き、学園上層部にも話を通せば、既に国王陛下より通達が来ているとの事。私の扱いは休学としてくれるらしい。単位とかどうなるのかと思ったけど、そもそも二年次からは専用カリキュラム。単位がどうこうというよりも、本人次第な所があるためそこまで拘らないとの事だ。

キャズやディーナにも留学を説明し、エリーにも話をした。


「随分突然ですわね?もしかしてコズエ?高星カオシン皇子殿下に求婚でもされましたの?」

「それはないから」

「・・・わかりましたわ、帰ってからきちんと聞かせてもらいますわよ?」


何かある、と察したエリーはあっさりと質問を終わらせた。
キャズなんてガクガク揺さぶってまで聞いてきたのに。まあ一年ぽっきりだから!と言って許してもらったけど。
キャズからは蓬琳国の事を手紙に書いて送りなさいよ!と約束させられた。今後の参考にしたいとか…冒険者になるんだもんね、キャズ。知識はあった方がいいもんね。


「・・・あのね、エリー。こんな事エリーに頼めた義理じゃないんだけど」

「なんですの、改まって」

「アリシアさんの、事」


恋敵ライバルでもあるアリシアさんの事をエリーに頼むのはお門違いだ。それはよくわかってる。
でも、私には同性の貴族の知り合いはいない。エドやステューに頼んだ所で彼等は異性だ。また下手な噂を立てられるのがオチだろう。

もし今後何かあった時、私ならある程度アリシアさんを庇える肩書きがあったけど、この先はない。私の肩書きも借り物だから、そんなに威張ることも出来はしないけど。

『ローザリア公爵令嬢』であるエリーならば、他の貴族子女からも一目置かれる存在。十分にアリシアさんを庇えるが…第二王子を巡る恋敵ライバルである彼女に託すのは間違っているとも思う。

私の逡巡がわかっているのだろう。エリーはくすりと笑って、私の手を取った。柔らかく暖かな手。


「わかっていますわ、コズエ。大丈夫です、アリシアさんは私にとってもお友達ですもの。コズエの代わりにちゃんと見ていますわ」

「エリー、ゴメンね」

「何を謝りますの?私、きちんとアリシアさんの恋愛模様を書き綴ってコズエに送りますわ!」

「あっ、うん、そういう事じゃなくて」


ちょっと待って、貴方一応『恋敵ライバル』なんだから、アリシアさんの恋模様を面白おかしく追いかけてどうするの!?
しかしエリーは既に『燃えますわ!』とやる気を漲らせている。


「ちょ、エリー?エリー?貴方、アリシアさんとは恋敵ライバルでもあるんだからね?カーク王子の事どうするの?」

「あら、それですの?私はどちらでもいいと言ったじゃありませんの。例えカーク殿下が私を選んでも選ばなくても、私は私ですわ?婚約破棄をしたとしても、私の相手パートナーは自分で見つけますわ」


きっぱりと言い切ったエリー。こ、これは…カーク王子、貴方、早めに事を起こさないとエリーに捨てられる恐れがあるわよ…?

エリーとしては、今一番大事な事は兄の世襲問題という事で、それが無事に終わるまでは気が抜けませんの、と言っている。
なんてしっかりしたお嬢様なのでしょう。これは高星皇子?皇妃候補にエリーはいかがですか?留学中にここぞとばかりに売り込もうかしら…?

そんなこんなで、エリーは『アリシアさんの事はお任せ下さいまし!』と胸を張って引き受けてくれた。
…なんか、別のルートを引き当ててしまった感が拭えない。



*********************



さて、次は近衛騎士団だ。
団長さんにした約束を守らないとね。

私は日を改めて、学園の帰りに近衛騎士団詰所へ。
入口で『団長さんに会いたい』と告げれば、顔見知りになった門番の年配の騎士さんに案内された。

道すがら聞けば、アナスタシアさんは既に地方巡回任務へ旅立ったとの事。それはもう戦女神のように美しかったと絶賛された。
…愛馬は白馬だったりするのだろうか?見たかった。

部屋の前まで案内され、私はココン、とノックをした。入室を許可する声が聞こえたので、中へ。


「おう、お嬢」

「こんにちは、フレンさん」

「なんだなんだ?アナスタシアは留守だぞ?シオンなら自分の執務室にいるんじゃないか?」

「今日はフレンさんに会いに来たんですよ?」

「俺にか?」


ガシガシ、と頭をかく団長さん。
机の上にはドドンと書類が積まれ、一生懸命仕事中。
ホントに嫌いなのね、机仕事…。訓練の時はあんなに生き生きとしているのにね。ちょっと笑えるわ。

私が団長さんの前まで行くと、ペンを置いて伸びをする。バキバキ、と音が聞こえたんですけど?


「頑張ってますね」

「だろ~?さすがに疲れた」

「どのくらいやってるんです?」

「ん?一時間か?」

「・・・もっと頑張ってください。カイナスさんが死んじゃいます」

「何言ってんだお嬢。シオンはな、俺に付いた時から苦労するって決まってんだよ」


えっそれ決定なの?頑張れ…カイナスさん…


「で?お嬢の話は・・・と?」

「どうかしました?」

「お嬢?ちょっとこっち来な」


こいこい、と手招き。私が机を回って団長さんが座る横へ行くと、くいっと腕を引かれる。たたらを踏んだ私をひょいと抱き上げ、自分の膝の上へ。

私は団長さんの膝の上に、横抱きで抱かれた状態。
あれですよ、ちょっぴりイケナイ感じ?


「えーと?フレンさん?」

「まぁ待てお嬢。ドッキリでもしてやろうぜ」


は?と思った私にフレンさんが笑う。こっそり囁かれる話を聞くと、どうやらカイナスさんがこちらへ来る様子。さて、扉を開けてこの姿を見たらアイツはどう反応すると思う?といかにも悪戯っ子というような顔でニヤニヤしていた。

…その前に、来るのわかったって…スゴイデスネ…?

すると、扉がコンコン、とノック。団長さんが『入れ』という前にガチャっと扉が開く。と、同時に私の腰に団長さんの手が回った。は、早業…!
扉から入ってきたのは、書類に目を落としたままのカイナス副官。


「失礼します、団長。これなんですが─────」


室内に一歩入った瞬間に、言葉を発しながら顔を上げる。と、カチン、と固まった。
多分カイナス副官の目には、私が団長さんの膝の上に乗って甘えているように見えている。多分。


「・・・・・・」


ぱちぱち、と瞬きしたカイナス副官。
すると、何も言わずにパタン、と扉を閉じた。


「・・・」
「・・・なんだアイツ、何も言わずに閉じたな」

「呆気に取られたんですかね」

「何だよつまんねえな?てっきり怒鳴るか、焦って畳み掛けてくるかどっちかだと─────」

「何やってるんですか、貴方達は」


ガチャ、と再度扉を開けて入ってきたカイナス副官。
いつもより少し低い声音。何やらお怒りのご様子。

ここはあと一押し遊ばねばもったいない?私は団長の首に手を回し、甘えるように話しかけた。


「やだ、見つかっちゃいましたよ?フレンさん」

「しょうがねえなお嬢は?シオン、お前も空気読めよ」

「やだもうフレンさんてば、お尻揉まないでくださいよ」

「いいだろ少しくらい」


バカップルを目指して見ました。カイナス副官はどう出るか!?
あ、積んである書類吹っ飛ばされたら困るよなぁ?なんて呑気な事を思った私。だけど瞬時に団長さんが顔色を変えた。

あれ、どうしたんだろ?と思った私。次の瞬間には、何をどうやったのか分からないけれどひょいっと持ち上げられて、団長さんの横にストンと降ろされた。
腰に感じるのは、団長さんのものではない腕。


「あれ?」

「お遊びはそのくらいにしましょうね、お嬢さん?さて、団長。お仕置きが必要みたいですね。よりによってアナスタシア様のいない時にお嬢さんに手を出すなんて」

「待てシオン、これは冗談だ」

「何か言いましたか?おや仕事もあまり進んでいませんね、これはアナスタシア様にご報告が必要かもしれません」

「すまん許してくれちょっとした冗談だ!」


ニコニコ笑っているカイナス副官。しかし目は笑っていない。アイスブルーの瞳がものっすごい冷たい光を放ったまま、表情はとても優しいです。

あらら、これは激おこ?激おこなの?
しかし私の腰に回った腕は離れず、私は団長さんとカイナス副官に挟まれたままなのでした。
…離してもらいたいなぁ。これ私もコミで怒られてるよね…?

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