92 / 158
学園生活、2年目 ~前期~
115
しおりを挟む死ぬほど緊張する。この空気。
『謁見』は緊張するからなんとか穏便に…!とお願いはしたから少ない人数でとなったけれど。
シリス殿下とかカーク殿下まで呼ばなくても良くなーい!?
「さて、コズエ様からお話があるとか。『例の書簡』に関することかな?」
「・・・はい、そうだと思います」
応接セットで国王陛下と向かい合う。
私の隣にはゼクスさんが座り、後にはセバスさんが涼しい顔つきで立っている。
私の前には国王陛下、並びに王妃陛下。
その右隣の席に、シリス殿下とカーク殿下が座られている。
部屋の中には、七人だけ。
扉の外には見張りとして兵士さんがいるけれど、部屋の中は遮音結界が張られている。ゼクスさんだけどね。
********************
高星皇子が帰った後、ゼクスさんに話をした。
翌日には国王陛下へ話が通り、恐らく高星皇子からもアプローチはあったのだろう。できるだけ早く会談の場を設けたいという話が来た。
高星皇子の話からすると、すぐにも帰りたいと思っているはず。
あまり時間をかけていられないな、と思って、国王陛下の時間が許す最短の日で結構ですと返事すると、その二日後には会談の場が整った。なんていう迅速対応…
そうして緊張気味に王城へ来てみれば、部屋にはロイヤルファミリー勢揃いですよ…シュレリア様は同席するだろうなと思いましたけどね?まさか王子二人も揃うとはね…
「ふむ。蓬琳国の皇太子より書簡が届いた。『コズエ・ヤマグチ殿を留学目的で我が国へと招聘したい』と。それは本当かね?」
「まあ」
「なっ、」
「はっ!?」
「・・・はい。先日高星皇子直々にご招待をいただきました。私自身の事情も鑑み、お受けする事にしました」
「ゼクスレン、それは其方も同意しているのか」
「はい陛下。我等タロットワークも同意しております」
「ならば、私がどうこう言うこともあるまいな」
「父上、何を・・・」
私がこの世界の人間であれば、ここまで大仰な事にはならなかったと思う。タロットワークの娘であったとしても、だ。
しかし私は異世界人だ。そしてこの国は今、私の持つ『加護』によって護りを得ている。それでも手放す、という陛下はまたすごい判断をしているものだと思った。
いきなりの話に驚きの声を上げるのは、カーク殿下だ。
シリス殿下は何かを考えているのか、難しい顔をしている。
けれど、あっさりと留学を認めた陛下だけど、厳しい顔をして私に向き直った。
「しかし、ただ黙って国を出す事はできぬ。何故かはわかっているね、コズエ様?」
「私の『加護』ですか?」
「それもある。だが、このまま貴方を国から出してしまえば、『平民』のままとなってしまうのだ。それはいくら蓬琳国の皇太子が『護る』と言っていても容認できん。そこで、だ。ゼクスレン」
「はい。コズエ殿には『タロットワーク』の一族となる事を了承してもらう手筈となっております」
そう、ゼクスさんとセバスさんが言っていた『我慢』がこれ。
いくら高星皇子が護るとはいえ、単なる『コズエ・ヤマグチ』ではどうしようもない事がある。それは身分制度だ。
エル・エレミア王国に限らず、どの国でも貴族と平民の身分差はどうしようもない。何かあった時にやはり身分が物を言うのだ。
もしも蓬琳国で何かあった時、高星皇子の手が届かなかった時の場合において、自らの身を守る為に『タロットワーク』の名前を名乗る事を受け入れてほしいと。
『タロットワーク』の名前は王族ではなくなったとはいえ、絶大の権力を誇るものだ。各国に『タロットワーク一族』はいて、それなりの地位や名誉を手にしている。
この名前を名乗ることで、おいそれと手を出せなくなるのだ。
『タロットワーク』は旧王族。それは他の国においても『大公位』と同じ地位となる。例え『大公』と名乗らなくても、だ。なんていうチート…
「話は聞いています。自分の安全の為ですし、タロットワークを名乗る事に異議はありません」
「コズエ、いいのね?そうなると貴方は唯一の『タロットワークの適齢期の令嬢』となるのだけど」
「・・・はっ!」
「・・・その顔はそれに気付いてはいなかったわね?」
「えっ?留学の間だけでしょ!?」
「いやそういう訳にも行くまい。『タロットワークの姫が他国に留学する』という事になるのだからな」
「えええ、ちょ、ゼクスさん!?」
「すまん」
「申し訳ありません、コズエ様」
えええええ!留学のための我慢じゃないのぉ!?
随分あっさりと留学許可したなーって思ってたけど!
で、でもタロットワークって貴族…じゃないし?厳密には貴族かもしれないけど、そういう集まりとか行かなくてもいいんでしょ!?
「・・・・・・し、しょうがないですよ!でも、貴族の集まりとか断固拒否しますから!」
「よいよい、構わんよ。それとだな。留学は一年。終わったら必ずこのエル・エレミアへ帰ってきてもらいたい。よろしいかな?」
にこ、と優しい顔をした国王陛下。その隣でシュレリア様も娘を見るような、なんとも言えない顔をする。
「必ず戻ってきて下さいませ?コズエ?貴方は私のかけがえのない友達なのですから。・・・まぁ皇太子に絆されて皇妃となってしまう事もないとは言えませんからね?けれど一年後には必ず戻ること。それが留学を許可する条件ですわ」
ねえあなた?と国王陛下を見るシュレリア様。
国王陛下も鷹揚に頷き返す。私の『帰る場所』を作ってくれるつもりなんだろうな。私は無言で頷き返した。
「・・・さて。名前は『コズエ・タロットワーク』でよろしいのかな?」
「あ、いえ。こちらの名前に倣おうと思いますので・・・『コーネリア・タロットワーク』と名乗ろうと思います」
「コーネリア、か。よい名だ」
なんとなーくつけた名前。さすがに『コズエ』のままだとしっくりこないしなーと思って。一音だけ残して、横文字っぽい名前…と考えて付けた。
まぁキャズとか友達には今まで通り『コズエ・ヤマグチ』で通すつもりだけど、留学中は『コーネリア・タロットワーク』で通そうと思っている。
これはゼクスさんがタロットワークの名前を名乗ってもらいたいと言ってきた時に考えた。ゼクスさんもセバスさんもそれがいいと言ってくれたしね。
********************
とりあえず国王陛下に了承を貰ったということで私は退席。
ゼクスさんはまだ細かい所を詰めるという事で残る。
私はセバスさんと王城を後にすることにした。
「待ってください、コズエ殿」
階段を降りていると、上から声がかかる。見上げればシリス殿下が追いかけて来ていた。セバスさんは『ごゆっくりどうぞ』と先に馬車のある方へと歩いて行ってしまう。
私はシリス殿下が降りてくるのを踊り場で待つことに。
「どうかしましたか?」
「貴方という人は・・・私がどれだけ驚いたか」
私の前に立ち、ふうとため息。
微笑むとゆっくりとした足取りで、馬車のある出口方面へとエスコートしてくれる。歩きながら話そうって事かな。
「留学とは、驚きました」
「私もです。何だか勢いで決まってしまって」
「・・・留学は、皇太子殿下のためですか?それとも別の目的があって?」
その問いかけに驚いて足が止まる。シリス殿下も振り返り、私に近づいた。距離はほんの一歩の距離。
「すみません、醜い嫉妬です。貴方が高星皇子に取られてしまうのではないか、と。申し訳ありません」
「・・・びっくりしました。そうですね、そう思っちゃいますよね?私が留学するのは、他でもない私自身の為ですね。後は・・・偽善、でしょうか」
「偽善、ですか?」
「シリス殿下は知っていますか?蓬琳国の状況を」
「かなり酷いようですね。彼の国の皇族や文官達も必死に建て直しをしているようですが、自然に太刀打ちできないようです。我が国からも支援をしていますが、現状維持が精一杯なようです」
さすがはシリス殿下。友好国の事もしっかり把握している。
エル・エレミアからも支援を送っているんだ。それでも現状維持が精一杯で好転できてはいないと。
「・・・確かに、コズエ殿が行けば、好転するかもしれませんね。すぐにも結果が出る訳ではないでしょうが、これ以上の悪化は防げるでしょう」
「そう聞いて、私にできることをしようと思いました。・・・一番の目的は蓬琳国にある異世界人の記録ですけどね」
「・・・なるほど、蓬琳国には過去に異世界人がいた事があるのでしたね」
「ご存知なんですね」
「私も次期王太子として教えられる知識がありますからね」
エル・エレミア王国と蓬琳皇国。友好国同士ではあるけれど、互いに知識を共有してはいないだろう。それでもある程度の他国の情報を得られるのが『次期国王(皇帝)』になる立場の人間という訳だ。
「・・・気をつけてください。国を離れてしまえば私は貴方を守る事はできない」
「ええ、気をつけます。利用されるだけではなく、こちらも利用させてもらおうと思っていますから。タロットワークの名前があるならば、下手に手を出せはしないでしょうし。『影』も付いてきてくれるそうです」
「そうなのですね。少し、安心しました。
───一年後、貴方を驚かせるように私も精進します。次にこうして会える日を楽しみにしています、愛しい姫」
手を取り、口付けられる。情愛の深いロイヤルブルーの瞳。
真摯に注がれるその想いに、キュンとしなければ女じゃないわよね。
タロットワーク別邸へと向かう馬車に乗りながら、アナスタシアさんに合わずに留学する事だけが気がかり。
できれば会いたかったけど…帰ったら通信魔法でも飛ばしてみようかな?届けばいいんだけど…
381
お気に入りに追加
10,641
あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる