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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む二人きりで話した高星皇子の話は驚くものだった。
まず、蓬琳国は今、危機的状況にあるらしい。
自然災害が襲い、人の手で復興させるにも上手くいかない状態にあるようだ。なんとか人外の加護を借りて、人の手で復興できるまでに戻したいと。
そこはちょっと好感が持てた。全てを神様任せ、精霊任せにするのではなく、あくまで人の手で復興できるレベルになるまでの力を借りたいということだからね。
その為に私の…『異世界人が持つ高位精霊の加護』が必要だって事だ。私自身には自覚はないけれど、いるだけで豊穣やら気候の安定が起こるってんだから…
確かに今の蓬琳国には願ったり叶ったりの人材だろう。私に無理して治せ!とか言われるわけじゃないだろうしね。
「・・・何しろ我が国には絶対的に魔法の使い手が少ないんだ。だから精霊の加護を受けた者が少ない。皇族であればそれなりに魔力を持って産まれてくるから、上の地位に付けばそれなりに加護を振りまけるんだが」
「あ、そういうもんなのね?」
「守護する精霊は、契約者である主の意向に添うからな。『民に祝福を』と願うならばそういう方向に力を使ってくれる。
だからこそ皇族には高い品位が求められる」
この歳で真っ直ぐに国の行先を憂う事ができるのは、まさしく蓬琳皇族の教育の賜物だろうなと思う。高星皇子を育てた方は立派な方なんだろうなぁ。
「最初は我が国に少ない『聖』の属性持ちの女子生徒を篭絡して国に連れ帰る気でいたんだがな」
「アリシアさんの事?」
「ああ。見た目もいいし、俺の皇妃としてもよかったんだが。何でもこの国の第二王子の気に入りと来た。表立って争ってまで迎える事はしたくなかったからな」
うーん、噂は一人歩きしている…
やっぱりカーク王子がアリシアさんお気に入り、って話はもう学園中…下手したら国中に広がってるんじゃないの?大丈夫かしらね。
「だが、お前を見つけた。異世界人であるお前ならば、魔法の研究をしなくても国の荒廃を押しとどめる事はできる。
無理に俺の皇妃となって欲しいとは言わない。留学という形で構わない。一年でいい、俺の手を取ってくれないか」
高星皇子は自らソファを降り、私の目の前で跪いた。
その瞳には、何も犠牲にしたとしても構わないという強い意志。
「一年というのは?」
「俺の予想ではそれである程度国の状況は良くなる。ただ一年手をこまねいて見ているつもりは無い。お前がいる間、こちらも手を打つ。一年と言ったのは、それ以上お前を拘束するのは無理だろうと思ったからだ」
「よく、無理やり連れていこうと思わなかったわね」
「そんな事をして何になる?言っただろう、精霊は主の意向に添うものだと。お前を無理に国に連れて行って、今より悪い状況を引き起こしたらそれこそ本末転倒だ。だからお前には自分の意思で『協力したい』と思って来てもらわないと意味が無いんだ」
真剣な瞳に、少し心が揺れた。
彼は本当に『国の未来を憂う』気持ちで私に膝を折っている。
そんな事をしなくてもいい、ただ命令すればいい身分の持ち主であるというのに、だ。
「・・・協力するのも、やぶさかではないのよね」
「っ! 俺にできることならば何でもしよう。留学に来てもらう形にしようと思うが、望むなら皇妃としても迎えるし、俺の権力の及ぶ範囲であれば全て叶える」
「ちょ、なんかすごい大盤振る舞いだけど?」
「それだけお前には価値があるんだ。国にとっても、俺にとってもな」
「私が望むのは、異世界人の事なの。叶えてくれると言うのなら、蓬琳国にある異世界人の記述がある書物を全て見せて欲しい。
できれば、貴方達皇族のみが知るという知識も」
「わかった、叶える」
「そんな即決でいいの!?」
「俺は皇太子だ。・・・数年以内に、いやいつ皇帝の座に登ってもおかしくないんだ。父上は病床だと言っただろう?本来ならば政務も無理をしているからな。国に戻ったらすぐに皇帝にならなければならないかもしれない」
「えっ・・・大丈夫なの?お加減は?」
「今のところはなんとか大丈夫だ。だから早く戻って安心させたい。本来ならお前にも、もっと時間をかけて交渉する予定だったが・・・」
すまない、と頭を下げる高星皇子。
なりふり構っていられない、という事なのだろう。
私にできること、なのであれば力を貸してもいい。
その見返りに、私は私の知りたい知識を手に入れられるのだから。
「わかったわ。蓬琳国へ行く。ちゃんと守ってよ?」
そう言うと、高星皇子は膝を折ったまま、私の手を取る。
私の手の甲を自身の額に押し当て、厳かに告げた。
「蓬琳皇国皇帝が一子、高星の名において貴殿に心からの感謝と親愛を捧げ、護り抜く事を誓う」
「っ、」
ドキリ、とする。
その声音は真剣で、熱が篭っていて。
誓句を告げて私の手に口付けた彼は、とても誇り高く真剣な眼差しをしていたから。
ただ『愛してる』と言われて口付けられるよりも遥かに、『大切にする』という意思を感じた。
「と、とにかく、留学するにしても許可を取らないと。私の場合、ゼクスさんと・・・多分国王陛下にもかな」
「そうだな。俺の方からも正式に申し入れをする」
ドギマギした私を他所に、高星皇子はしれっとした様子で立ち上がると、別室に控えた自分のお付きの人達の所へ。
う、うーん?ああいうの慣れてるのかしら?さすがは皇太子!
こっちがしなくてもいいドキドキをしてしまった感…
高星皇子はすぐにも行動する、と言って帰っていった。
多分、公式に私を蓬琳国へ連れて行くための段取りをしにいったんだろう。私もゼクスさんに話をしないとな。
蓬琳国のお客様が帰ってから、私はゼクスさんとセバスさんの二人に話を通した。
ゼクスさんはこの事を予想していたようで、ただ『わかりました』とだけ言った。
「ならば国王陛下にも謁見の場を作らねばならんな」
「そうですよね、単に『行ってきます』じゃ済まされない感じですよね?」
「それもそうですがコズエ様。コズエ様には少々我慢してもらわないとならなくなるかもしれませんね」
「え?」
「そうだのう。これも留学に行く為には仕方ないこととして受け入れてくだされよ、コズエ殿」
「え?え?」
********************
「・・・・・・それにしても、驚きましたね皇子。まさか『誓句』を捧げるとは」
「言うな」
乳兄弟でもある洸牙がからかうように言う。
タロットワーク別邸から、迎賓館に戻る馬車の中。ここには俺と洸牙しかいない。
「惚れましたか」
「そうではない。だが、国の為に来てもらうのだ。あれくらいしなければ誠意なんて伝わらないと思った」
「おやおや。俺としては皇妃として迎える為に捧げたのかと思いましたよ。異世界人と言っても何ら変わりないですからね。俺としては皇妃教育さえしてしまえば、彼女を高星の妃とするのは賛成ですよ」
「言ってろ」
あの時、口が自然と『誓句』を述べた。確かに蓬琳国へ来てくれる事に謝意を見せなければと思ったのは事実だが…『親愛』まで誓うことはなかったのか?
だがあの時はすんなりと言葉が出たんだ。自分でもわからん。
さて、一刻も早く国へ戻らないと。無辜の民の命が損なわれることは避けねばならない。皇族として、一人の皇国民としても、だ。
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