異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、2年目 ~前期~

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その姿は王者の資質を備えていた。
顔を上げ、その目は真っ直ぐに私を射抜く。
鋭くもあり、毅然とした瞳。

国の衣装なのだろう、王城で見た時の服とは違うけれど、似た作りの服。キラリと耳元にあの楕円のピアスが目を引く。


「ようこそ、高星カオシン皇子殿下」

「お招きに感謝を、タロットワークの主よ。ゼクスレン・タロットワーク殿。一度きちんとお話をしてみたいと思っていました」

「これは光栄です」


優雅にゆったりと礼をする高星カオシン皇子殿下。
後には数人の部下を連れての登場。あの賑やかな皇女様がいないだけよかったと思ってしまった。

場所を応接室に移動して、めいめいに腰を下ろす。
私は特に話すことなく、会話はゼクスさんと高星皇子で進んでいく。一国の皇子…皇太子である高星殿下は国の代表だけあって、凛とした雰囲気を崩さずに話をしていた。

前に学園で見た時よりも、更に大人っぽい。
これが『蓬琳国皇太子』としての顔なのだろうと思った。

ふと気付くと、高星皇子が手を上げ、お付きの方達を全て部屋から下がらせた。何も言わずに従う所を見ると、予め言い含めてあったのかもしれない。

部屋の中にゼクスさん、皇子、私だけになると、皇子が口を開いた。


「さて、これでいいでしょう。・・・そちらの姫君の紹介もしてください、ゼクスレン殿」

「お気遣いありがとうございます。彼女は我がタロットワークで庇護をしております。コズエ・ヤマグチと申します」


…こういう時なんて言えば。『はじめまして』じゃないし、『二度目まして』もおかしいじゃない?
私は何と言えばいいか迷い、ぺこりと頭を下げるだけに落ち着いた。うーん、難しいわね…

すると、ゼクスさんは席を立った。
え?なんでいなくなるの…?私の視線に気づき、ゼクスさんは優しく笑って言う。


「こういう時は『あとは若い二人でごゆっくり』てなもんじゃろ?」

「合ってるけど今は違うと思います」


つい突っ込んだ私。それに高星皇子が苦笑して言葉を繋いだ。


「すまない、私が頼んだ。お前とは忌憚ない意見を交わしたい。それには私の連れも邪魔だし、ゼクスレン殿にも出来れば外してほしい旨を頼んだのだ」

「何か不埒な事があれば、何をされても文句は言えませんぞ殿下?宜しいのですな?」

「わかっている。この『日華月輪』にかけて違う」


左耳に付けられた、楕円のピアス。
それに触れて、高星皇子はゼクスさんへと誓う。
よくわからないけど、それって彼にとってかなり大事なものみたいね。ゼクスさんもそれを見て深く頷いた。

パタン、とゼクスさんが出ていく扉の閉まる音。
それを皮切りに、皇子はどさりとソファの背もたれによりかかる。


「あー、窮屈だ」

「・・・」

「悪いな、こっちが素だ。だからお前も気構えずにしてくれ」

「仮にも一国の皇太子がそれでいいの・・・?」

「民の前できちんと『皇太子』として振る舞えれば何の問題もないだろう?」


きっちりと止められた服のボタンも一つ二つ外し、楽にし始めた。
えーと?私はどうしたら…?

高星皇子は紅茶の入ったカップを引き寄せ、飲む。ただのそんな仕草も気品があって、やっぱり生まれながらに教育を受けている皇族ってのは些細な仕草も絵になるなと思う。


「さて。コズエと呼ぶがいいか?俺の事は高星カオシンで構わない」

「そ、そんな砕けた感じでいいの?」

「俺が『いい』と言っているんだ。他に誰の許可が必要だ?もしも俺の連れに何か言われても、俺がそう言ったと言えばそれで済む」


傲慢にも聞こえる話。でも何故かそれが『当たり前』とストンと理解した。不思議だな、シリス殿下にも『王の資質』とも言うべきカリスマ性を感じたけど、彼にも感じる。人の上に立つことがあらかじめ決められているかのよう。


「私と話したい、って事だったけど・・・何かあるの?」

「ああ、大アリだ。回りくどい事は嫌いだから、単刀直入に言う。コズエ、蓬琳国へ来てくれないか」

「・・・はい?」

「そう言われて『はいそうですか』と言えない事はわかっている。先にこちらの事情を明かす。お前が蓬琳に来る事で受け取るメリットも教える。だから全て聞いてから判断してくれ。
だが、先に言っておく。俺はお前を国に連れていく事を諦めない」


サクサクと小気味よく話す高星皇子。
『お前が欲しい』とでも言うような強引なお誘いに若干トキメキを感じたのは仕方のない事と言えよう。
…オラオラ系が好きなんだ、しょうがないよね!

しかし、高星皇子から聞かされる話は、単なる色恋沙汰の話とは全く異なっていて。彼が次期皇帝としてやらなければならない事の素地になるものだった。



********************



「・・・まず最初に、異世界人がとんでもない加護を持っているのは知っているな?」

「とんでもない・・・って、まさか周りの土地に祝福を与えるって事を言っている?」

「その通りだ。そして俺達の国・・・蓬琳国には今すぐにでもそれが必要だ。現状、人がどうこうできる範疇を超えて天変地異が起きている。長雨による洪水、日照りによる旱魃、魔法で天候や精霊の加護を求めても焼け石に水の状態だ」


驚いた顔をしたコズエ。このエル・エレミアにいたのでは全く想像もできないだろう。俺もそう思ってしまった。故国のアレは一体何なのかと。

数十年に渡り、蓬琳国の惨状は目に余る。
たくさんの民や文官が寝る間を惜しんで対策を打っても、自然の前には無力と言ってもいい。

この状態を打破する為、皇太子である俺が自ら他国へ打開策を見つけに国を出た。本来ならば弟達に行ってもらいたかったのだが、当人達も治めている領地の被害を抑えるのが精一杯でどうにもならない。
病床にある父上が『行け』と言って下さらなければ、俺も国を出ることなどできなかっただろう。

周りの心ある文官、弟や妹達、後宮に詰める父上の正室や側室達、母上の後押しもあり、俺は3年間の留学を決めた。
泣いても笑っても3年。そこで成果を持って帰れなければ、蓬琳国は滅ぶ。

これまで巡ったトルク・メニール王国、サルマール王国では我が国でもできそうな工業や農業のノウハウを学んだ。
もちろん逐一故国へ頼りを出し、始めてもらっている。自然災害に対する備えとして少しずつ根付いている事も知らせが来ている。

しかし、根本的な解決にはなっていない。
エル・エレミア王国には、大陸でも名高い魔法使い達がいる。魔術研究所の長たるタロットワーク一族の当主。彼に繋ぎを取れれば何かの手助けを期待できるかもしれない、という一縷の望みをかけて来た。

そして出会った。蓬琳国でも皇族…皇帝になる者のみが知る、異世界人の渡り人たる姫君に。


「我が国には、異世界人が降りたという事実が伝わっている。これは皇位を継ぐ者だけに知らされる秘中の秘だ。俺も皇太子となった時に父親である皇帝から知らされた」

「・・・もしかして、何か書物があったりする?」

「ああ、ある。しかし古い言葉で書いてあるからそう簡単には読めないんだがな。俺も少ししか読めない」

「・・・」

「気になるか?」


意地悪だな、と思いつつも聞く。
うまく彼女の協力を得なければ、国は滅亡の道を辿る。

───彼女から協力する、と言ってくれたら俺も心を痛めずに済むのだがな。

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