90 / 158
学園生活、2年目 ~前期~
113
しおりを挟むその姿は王者の資質を備えていた。
顔を上げ、その目は真っ直ぐに私を射抜く。
鋭くもあり、毅然とした瞳。
国の衣装なのだろう、王城で見た時の服とは違うけれど、似た作りの服。キラリと耳元にあの楕円のピアスが目を引く。
「ようこそ、高星皇子殿下」
「お招きに感謝を、タロットワークの主よ。ゼクスレン・タロットワーク殿。一度きちんとお話をしてみたいと思っていました」
「これは光栄です」
優雅にゆったりと礼をする高星皇子殿下。
後には数人の部下を連れての登場。あの賑やかな皇女様がいないだけよかったと思ってしまった。
場所を応接室に移動して、めいめいに腰を下ろす。
私は特に話すことなく、会話はゼクスさんと高星皇子で進んでいく。一国の皇子…皇太子である高星殿下は国の代表だけあって、凛とした雰囲気を崩さずに話をしていた。
前に学園で見た時よりも、更に大人っぽい。
これが『蓬琳国皇太子』としての顔なのだろうと思った。
ふと気付くと、高星皇子が手を上げ、お付きの方達を全て部屋から下がらせた。何も言わずに従う所を見ると、予め言い含めてあったのかもしれない。
部屋の中にゼクスさん、皇子、私だけになると、皇子が口を開いた。
「さて、これでいいでしょう。・・・そちらの姫君の紹介もしてください、ゼクスレン殿」
「お気遣いありがとうございます。彼女は我がタロットワークで庇護をしております。コズエ・ヤマグチと申します」
…こういう時なんて言えば。『はじめまして』じゃないし、『二度目まして』もおかしいじゃない?
私は何と言えばいいか迷い、ぺこりと頭を下げるだけに落ち着いた。うーん、難しいわね…
すると、ゼクスさんは席を立った。
え?なんでいなくなるの…?私の視線に気づき、ゼクスさんは優しく笑って言う。
「こういう時は『あとは若い二人でごゆっくり』てなもんじゃろ?」
「合ってるけど今は違うと思います」
つい突っ込んだ私。それに高星皇子が苦笑して言葉を繋いだ。
「すまない、私が頼んだ。お前とは忌憚ない意見を交わしたい。それには私の連れも邪魔だし、ゼクスレン殿にも出来れば外してほしい旨を頼んだのだ」
「何か不埒な事があれば、何をされても文句は言えませんぞ殿下?宜しいのですな?」
「わかっている。この『日華月輪』にかけて違う」
左耳に付けられた、楕円のピアス。
それに触れて、高星皇子はゼクスさんへと誓う。
よくわからないけど、それって彼にとってかなり大事なものみたいね。ゼクスさんもそれを見て深く頷いた。
パタン、とゼクスさんが出ていく扉の閉まる音。
それを皮切りに、皇子はどさりとソファの背もたれによりかかる。
「あー、窮屈だ」
「・・・」
「悪いな、こっちが素だ。だからお前も気構えずにしてくれ」
「仮にも一国の皇太子がそれでいいの・・・?」
「民の前できちんと『皇太子』として振る舞えれば何の問題もないだろう?」
きっちりと止められた服のボタンも一つ二つ外し、楽にし始めた。
えーと?私はどうしたら…?
高星皇子は紅茶の入ったカップを引き寄せ、飲む。ただのそんな仕草も気品があって、やっぱり生まれながらに教育を受けている皇族ってのは些細な仕草も絵になるなと思う。
「さて。コズエと呼ぶがいいか?俺の事は高星で構わない」
「そ、そんな砕けた感じでいいの?」
「俺が『いい』と言っているんだ。他に誰の許可が必要だ?もしも俺の連れに何か言われても、俺がそう言ったと言えばそれで済む」
傲慢にも聞こえる話。でも何故かそれが『当たり前』とストンと理解した。不思議だな、シリス殿下にも『王の資質』とも言うべきカリスマ性を感じたけど、彼にも感じる。人の上に立つことがあらかじめ決められているかのよう。
「私と話したい、って事だったけど・・・何かあるの?」
「ああ、大アリだ。回りくどい事は嫌いだから、単刀直入に言う。コズエ、蓬琳国へ来てくれないか」
「・・・はい?」
「そう言われて『はいそうですか』と言えない事はわかっている。先にこちらの事情を明かす。お前が蓬琳に来る事で受け取るメリットも教える。だから全て聞いてから判断してくれ。
だが、先に言っておく。俺はお前を国に連れていく事を諦めない」
サクサクと小気味よく話す高星皇子。
『お前が欲しい』とでも言うような強引なお誘いに若干トキメキを感じたのは仕方のない事と言えよう。
…オラオラ系が好きなんだ、しょうがないよね!
しかし、高星皇子から聞かされる話は、単なる色恋沙汰の話とは全く異なっていて。彼が次期皇帝としてやらなければならない事の素地になるものだった。
********************
「・・・まず最初に、異世界人がとんでもない加護を持っているのは知っているな?」
「とんでもない・・・って、まさか周りの土地に祝福を与えるって事を言っている?」
「その通りだ。そして俺達の国・・・蓬琳国には今すぐにでもそれが必要だ。現状、人がどうこうできる範疇を超えて天変地異が起きている。長雨による洪水、日照りによる旱魃、魔法で天候や精霊の加護を求めても焼け石に水の状態だ」
驚いた顔をしたコズエ。このエル・エレミアにいたのでは全く想像もできないだろう。俺もそう思ってしまった。故国のアレは一体何なのかと。
数十年に渡り、蓬琳国の惨状は目に余る。
たくさんの民や文官が寝る間を惜しんで対策を打っても、自然の前には無力と言ってもいい。
この状態を打破する為、皇太子である俺が自ら他国へ打開策を見つけに国を出た。本来ならば弟達に行ってもらいたかったのだが、当人達も治めている領地の被害を抑えるのが精一杯でどうにもならない。
病床にある父上が『行け』と言って下さらなければ、俺も国を出ることなどできなかっただろう。
周りの心ある文官、弟や妹達、後宮に詰める父上の正室や側室達、母上の後押しもあり、俺は3年間の留学を決めた。
泣いても笑っても3年。そこで成果を持って帰れなければ、蓬琳国は滅ぶ。
これまで巡ったトルク・メニール王国、サルマール王国では我が国でもできそうな工業や農業のノウハウを学んだ。
もちろん逐一故国へ頼りを出し、始めてもらっている。自然災害に対する備えとして少しずつ根付いている事も知らせが来ている。
しかし、根本的な解決にはなっていない。
エル・エレミア王国には、大陸でも名高い魔法使い達がいる。魔術研究所の長たるタロットワーク一族の当主。彼に繋ぎを取れれば何かの手助けを期待できるかもしれない、という一縷の望みをかけて来た。
そして出会った。蓬琳国でも皇族…皇帝になる者のみが知る、異世界人の渡り人たる姫君に。
「我が国には、異世界人が降りたという事実が伝わっている。これは皇位を継ぐ者だけに知らされる秘中の秘だ。俺も皇太子となった時に父親である皇帝から知らされた」
「・・・もしかして、何か書物があったりする?」
「ああ、ある。しかし古い言葉で書いてあるからそう簡単には読めないんだがな。俺も少ししか読めない」
「・・・」
「気になるか?」
意地悪だな、と思いつつも聞く。
うまく彼女の協力を得なければ、国は滅亡の道を辿る。
───彼女から協力する、と言ってくれたら俺も心を痛めずに済むのだがな。
387
お気に入りに追加
10,641
あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる