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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む再度、ノートを開く。
最初に書かれていたのは、彼の苦悩。
********************
『ここはどこだ?どうしてここにいる?』
『剣?魔法?』
『嘘だろう、子供の読み物じゃあるまいし』
『妻や息子にはもう会えないのか?』
『これからどうしたら』
初めのうちは、そうした弱音や迷い、憤り。
きっと私も同じように、こちらへ転移してきたのだとしたら、取り乱したのだろう。
けれど幸運にも…この場合は幸運といってもいいのだろうか?
私は魔術研究所の召喚実験によって異世界へと転移。権力者に保護され、今に至る。
スタート地点が違いすぎて、ため息が出る。
だからと言って私もこの彼と同じ事を考えなかった訳ではない。元の世界には、家族がいる。結婚はしていないから夫や子供はいなくとも、姉やその子供たち。そして友達。大切なものはある。
…そういえば今更だけど仕事とかどうなってんだろ。家賃とか…?私って死んだ事になってるのかしら?それとも行方不明者?
この手の疑問はこっちへ来てからずーっと繰り返しふと考える事ではある。答えが出ないから、いつも考えは堂々巡りなのだけど。
できたら私がこちらへ来たのと同じタイミングで元の世界に戻してもらいたいものである。神様がいるならそういうことにしてください、お願い。
思考が逸れてしまったけれど、ゆっくりとページを追っていく。
それによると、彼はどうやら『蓬琳国』にいたらしい。
はっきりとそう書かれているわけではないけれど、『食べ物がほとんど同じだけど名前が違う』だとか、『米は煮るものじゃなくて炊くものだ』とか、『中国なのか?日本なのか?』などと書いてある。
一応、この世界の事を学んだ私としては『蓬琳国』の確率が高いのかな?と思う。そうじゃなくてもその近くの国だろう。
エル・エレミアはヨーロッパって感じだし、トルク・メニール王国はオリエンタル…アラブ風?サルマール王国も欧風な感じだし。
基本的にこの世界は、欧風の風潮が強い。その中で蓬琳国は海を隔てている国だ。だからこそ文化が違うとも言えるのだと思うが。
この大学ノートに書かれていたのは、彼が蓬琳国でどのように暮らしたかだった。細かく書くような性格ではなかったようで、途中途切れる事もかなりあった。
しかし心許せる友人が出来て、住むところができて、魔法を使えるようになって、とできることが増えていく様子はわかる。
そして彼はまだ見ぬ地を、知識を求めて大陸へと渡る。
手探り状態で前に進み、危ない事もあったようだ。村を見つけ、大きな町へと移り、できることをしていくうちに、彼は『彼女』に出会う。
『呆れるほど、気が合わない』
そんな文章にくすりと笑いが漏れる。
どんどん内容に彼女の事が増え、気になっているのだろうなと思う。
『彼女に本当のことを言ってみようか』
『いや、それはできない』
『言ったらどう思う?』
秘密を抱える事への苦悩、葛藤。
彼はずっとこの秘密を隠していたのだろう。
私のように元から事情を知っている人がそばにいてくれたのは、本当に幸運だったのだなと思う。
けれどそれも、彼がいたからだ。彼という先人がいたからこそ、私はタロットワークの庇護を受けられたのだから。
大学ノートは、途中で終わっていた。
彼がどうなったのかは書かれていなかった。
…おそらく、彼は元の世界に戻ることはなかったのだろう。
いやもしかしたら、帰ったからこそノートは途中で終わっているのだろうか…?わからない。
この続きは、ここにはない。ならば、もしかしてどこかにある?
『蓬琳国』───彼が最初にいた国。
そこに行けば、何か手がかりはある?
ふぅ、とひと息。これで全ての日記を読み終わった。
これからどうする?このまま学園生活を続けていくのもいいだろう。魔法について勉強を心ゆくまでした、とは言えない。
帰還方法に付いてはお手上げだ。今の状態では全くと言っていいほど手がかりがない。それこそ始祖マデインの残した魔術書を片っ端から読ませてもらうしかないかな?
どうしようか、と思う私にふと思い出した事があった。
『蓬琳国の皇子が話をしたいと言っています』
ゼクスさんの言葉を思い出した。そして、日記を全て読んでからにしようと言ったことも。───ゼクスさんは知っていたのではないだろうか。マデインの日記に出ていた異世界人が、元は蓬琳国に降り立ったという事を。だから、私がこれを読み終わるまで待った?
私は身を起こし、部屋を出てセバスさんを呼んだ。
********************
「そうですか、読み終わりましたか」
「ゼクスさん、本当の事を言ってもらえますか?今の時点で、私が元の世界に戻れる可能性はありますか」
そう言った私を、ゼクスさんは申し訳なさそうな瞳を返す。
ああやっぱり、と思わずにはいられない。
「・・・すまん、それについては見つかっていないのだ」
「でしょうね。召喚魔法の研究はどうですか?」
「精霊を呼び出す事はできるようです。しかし、異世界の扉を開く事はできないようですな。あの時も開こうとして開いた訳ではないので」
「始祖の日記にも、異世界人である『彼』が帰ったという記述は見ませんでした。もしかしたら戻ったからこそないのかとも思いましたけど、おそらく違います・・・よね?」
「・・・そうですな、始祖マデインの伴侶たる男性はこちらで最後を看取ったと言われております。マデインが先に天寿を全うし、その子供達に見守られて伴侶たる男性も天寿を全うしたと記されております。
───タロットワークの代々の墓所に眠っていますが、一度お参りしますか?」
「はい。よければお願いします」
「わかりました、ご案内しましょう」
「ゼクスさんは、自分の祖先に異世界人がいたと知っていたんですか」
「・・・いえ、私もあの日記を読んで知りました。この事を知るのは、あの日記を読んだ父とアナスタシア、私だけです」
部屋にはセバスさんも控えているけれど、この人は数に入らないようだ。『影』としているからだろうか。
「コズエ殿、蓬琳の皇子の事はどうしますか?」
「ゼクスさんは、異世界人の彼が蓬琳国にいた事を知ってますよね。だからですか?」
「それもありますな。ですが、他の理由もあります。
・・・実は、蓬琳国には彼以外にも異世界人がいたという逸話があるのです」
「・・・えっ!?」
「コズエ殿ならば、皇子から何らかの話が聞けるかもしれません。
元々蓬琳国とは長年の付き合いではありますので、こちらに挨拶に来る事は有り得る事。コズエ殿がタロットワークの庇護を受ける身と知っているでしょうから、交流を持っておきたいと思っているのでしょうな」
「そういうの聞くと、やっぱりタロットワーク・・・というかゼクスさん偉い人なんですよね」
「若気の至りですかな」
「多分違います」
あの日記を読み終わり、ゼクスさんから教えて貰ったのもあって、私も蓬琳国に少し興味が出てきた。
皇子と少し仲良くなったら、話を聞く機会もあるだろうか。
ゼクスさんは数日中に皇子と会う日を設定してくれるそうだ。
彼からも『いずれ正式に挨拶を』と言われていた。…何か私に話したいことでもあるのだろうか…
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