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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む日当たりや温度、湿度共に適温に調整されているサロン。
その中の一角に、ゆったりと寛ぐ男性の姿があった。
私がサロンへ入ると、本を読んでいた顔が上がる。
「お嬢さん、具合は大丈夫なんですか?」
「す、すみませんカイナスさん。ものすごくお待たせしましたよね・・・!?」
「あー、そうですね。でも色々と本を読ませてもらっていましたのでとても有意義な時間でしたよ」
苦笑するカイナスさんは、本日私服のようだ。近衛騎士団の制服…鎧姿や隊服しか見た事なかったから新鮮。
シャツにベスト、皮のパンツにショートブーツ。お洒落ですねぇ、さすがに。このくらいの歳になれば、自分に似合う物似合わない物がきちんとわかっているし、若者みたいにゴテゴテ飾り立てもしない。まぁその辺りは人の好みに寄るのだろうけど。
同じ私服でもシリス殿下やカーク殿下はアクセサリーがある程度あってもそれがよく似合っているからね。
向かいのソファへ座ると、カイナスさんもまた腰を下ろしてくれた。テーブルの上には茶器セットと、数冊の難しそうな本。持ってきたのかな?
「その本、持ってきてたんですか?」
「いえ、これらはゼクスレン様の書斎よりお借りしたんですよ。執事さんが『どれでも好きなものを』と許可をくれましたのでね。さすがはゼクスレン様の書斎ですね、こんなに貴重な本がたくさんあると思いませんでした」
どうやら、カイナスさんは割りと読書家?なのかもしれない。見てみると高位な魔法の本ばかりだ。私には読もうという気すら起きてこない…
だいたい高位魔法の事はゼクスさんやセバスさんに噛み砕いて教えてもらっている始末。
「お腹とか空きませんでした?」
「いえ、そこまでは。普段から朝と夜しか食べていませんしね。昼は軽く摘む程度ですから、そこまで気にしませんでしたよ。お茶はさすがにいつも俺が飲むのとは違って美味しいですし」
「そ、そうなんですか」
「昨日のことがありましたから、体調が少し心配だったんです。経緯は全て団長がアナスタシア様に報告したようで、今日は朝から『様子を見てこい』とご命令をいただいてしまってね」
「す、すみません!カイナスさん忙しいのに」
「いえ、今日は俺は非番だったんですよ」
「非番!?お休みですよね!?だったら尚更じゃないですか!」
貴重な休みの時間を四時間も無駄に!?
しかももう昼も過ぎて三時のティータイムだよ!?一日無駄にさせちゃったんじゃないの!?
しまった、どうしよう!と思う私をカイナスさんは面白いというように笑って見ている。笑い事じゃないですけど!
「いや参ったな、お嬢さんに気負わせてしまいましたね。俺は非番でもいつも近衛騎士団詰所にいて、ほとんど出掛けたりしてないんですよ。結局訓練に参加したりしてね。大体の近衛騎士は同じように過ごしていますかね、婚約者がいればまだ違うんでしょうが」
「お休みに出掛けたりしないんですか?」
「うーん、結局何かあれば呼び出されてしまうし、そうするとどこか遠出だったりすると困るからね。街をぶらぶらするくらいかな。買い出しに行く時もあるけれど、それも月に一度行けば済んでしまうしね。だから今日ここに来て貴重な本が読めるのは俺にとってはかなり有意義な時間なんですよ」
お茶も美味しいし、街のカフェに行くより居心地もいいしね、とウインク。まあそう言ってくれるのであれば少しは気は晴れるけれども。
…図書館?いや、ブックカフェとでも思えばいいのかな?
ふと、いい匂いがしてくる。サロンの入口方向を見ると、ライラがワゴンを押してくるところだった。あ、エッグベネディクトか。
「失礼いたします。コズエ様、お食事をお持ちしました」
「ありがとう、うわ、さすがの再現率」
「セバスさんが腕を奮いましたから」
過去食べたエッグベネディクトに勝るとも劣らないビジュアルのやつが出てきた。ホントにざっくりとした説明しかしてないのに驚きの再現率…私の脳内イメージ見えてるのかしら?セバスさんて。
私の目の前にサーブされる皿を見て、カイナスさんも驚いた様子。
「・・・これ、何だい?」
「え?エッグベネディクトです」
「えっぐ・・・べね?」
しまった、これはあちらの食べ物だったー!
タロットワーク別邸では当たり前になっているあちら産のレシピも、こっちの人にとってはお初だよね!?
私は『食べたい』っていうだけでどんどん作ってもらっちゃってるけど、基本的に全てのレシピはこのお屋敷以外には出回らないようにしっかりとした規制がされている。
…まぁこのお屋敷にいるのタロットワークの息がかかった人だけだしね?漏らそうものなら粛清されちゃうよね?わかんないけど。
「・・・」
「えと。食べます?」
「えっ?・・・いいのかい?」
「えーと。ライラ?」
「セバスチャンさんがご用意していますのでお待ちくださいませ」
そう言うと、セバスさんがワゴンをカラカラ運んできた。こうなる事を予測していたのか、カイナスさんの分も作っていたらしい。
私はカイナスさんの前に用意されるのを待って、食べることにした。
「どうぞ、カイナス伯爵閣下」
「すみません、色々と。しかし私はまだ『伯爵』として名乗っておりませんので、どうかご容赦を」
「申し訳ございません、本日は公務でいらっしゃっている様子ではありませんでしたので、『近衛副官』とお呼びするのはいかがなものかと思いまして」
「お気遣い痛み入ります。そうですね、この年で侯爵子息を名乗るのも烏滸がましいですね。伯爵で結構です」
なんか政治的なやり取りを見た。カイナスさん『伯爵』って呼ばれたくないのかなー?とはいえ侯爵家の名前を名乗るのも微妙?よくわからないなぁ。
セバスさんは、このレシピはタロットワークのシェフのオリジナルだから、外には漏らさないで下さいと茶目っ気たっぷりにカイナスさんに口止めしていた。グッジョブです、セバスさん。
しかしエッグベネディクト、これってそこまで秘密レシピにしなくても良さそう。だってこれに使ってるソース…オランデーズソース?だったかしら?これ元々あったものだし。
最初は白身魚のムニエルにかけて出されたのよね。なんか食べるうちにどこかで食べたことある味だなぁと思いながら何度か食べていたら、ピンと閃いた。
下地のパン…マフィンだってあってたし、ポーチドエッグだって元々ある卵料理だし?サーモンもベーコンもチーズも素材自体はこちらにだってあるものだ。
ただ、それをこんな形で組み合わせて食べる人がいなかった、ってだけで。
「・・・よく思い付きましたねこんなメニュー」
「ホントですよね~でもこれ美味しいから好きです。ボリュームもありますしね」
「確かにね。見た目も華やかだし、ランチの軽食にピッタリだね。女性達にも人気が出そうだ。
・・・こちらのメニューはタロットワークお抱えのレストランやカフェで出す事はないのですか?」
気に入ったのだろう、カイナスさんはセバスさんにそんなことを聞いた。ん?タロットワークってレストランとかカフェ経営しているの?
セバスさんはふむ、と少し考え込むポーズ。
…もしかして本当に商品化させるつもりでいるんじゃないだろうか?リコッタチーズのパンケーキも、学園のカフェでのみ出すようにしてるんだったよね。あれもカフェで出したら売れそうよね。
「そうですね、旦那様と相談してみなければなりませんが、カイナス伯爵のお墨付きとなれば、考えざるを得ませんね」
「はは、私の意見なんて大したものではないですよ。またこれを食べたいと思っただけのことです。こちらへ来る訳にもいきませんからね」
「お気に召したようで何よりです」
まぁこれくらいなら王都で流行らせてもいいんじゃないかなぁ?なんて呑気なことを考えながらもぐもぐ食べる私でした。うん、おなかいっぱい。
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