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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む朝起きると、体が…動かない…
「い、・・・痛い」
もう、手も足も全部ビキビキする…!
全身筋肉痛!ベッドから降りようと体を横にしただけでも痛い!!!これは昨日身体強化魔法かけて全力疾走した結果だよ!絶対!
ベッドの端まで転がるのに、じわじわと体を動かす。
いつもならゴロリン、と転がって起きるけど、今日はそんな事できなーい!無理!!!
「おはようございます、コズエ・・・様?」
「お、おはよう、ライラ」
「何をしてらっしゃるのですか」
「全身、痛くて、動けない・・・」
ぱちくり、と瞬きしたライラ。すぐに昨日の郊外授業に思い至ったのか、私の側まで来て一言。
「コズエ様、回復魔法で楽になるのでは?」
「・・・あ」
はい、ライラの言う通りでした。回復魔法かけたら痛くなくなりました。
てっきり二、三日この痛みに耐えるのかと思っていました。
昨日の郊外授業があったので、今日は学園の授業がお休み。高レベル魔獣が出た事もそうだけど、明日がもう週末のお休みになるので休養日にしたみたい。
なので私としてもゆっくり残り三冊の日記に取り掛かれるというものだ。
朝食を取り、お茶の用意をして自室に戻る。
目の前に四冊の本。
「・・・と、とりあえず紐綴じをパラッと」
さすがに最初に大学ノートを取る勇気が出なかった。
だって確実に異世界人…同郷の人のノートだもん!
紐綴じの方から読み始めてみる。すると、最初に読んだ日記よりはざっくばらんな書き付けのようだった。
アナスタシアさんが言っていたように、国を作るにあたっての決まりとか、そんな事が色々と書いてある。
話し合いの内容であったり、決まり事であったり。
この紐綴じの二冊は、最初に読んだ分厚い日記を書くための雑記帳みたいなもののよう。
薄かったこともあり、サクッと読んでしまった。
「やっぱり、こっちだよね・・・」
少し冷めた紅茶をひと口。緊張からか乾いた口の中を潤して、私は大学ノートを手に取った。
表紙には何も書かれていない。
深呼吸をして、表紙を開く。一ページ目には何も書かれていなかった。人によるけど、最初のページってすぐに目に付くから書かない人もいるわよね。
ごくり、と飲み込んで、そっとページをめくった。
『ここは何処だ?どうして俺はここにいる?』
「っ、あ」
そこにあったのは、日本語。
一番最初に飛び込んで来た文章。
それは私もこの世界へ来てから何度も自分の中で問いかけた言葉。
見開きのページには、そんな文章の羅列。
このノートの持ち主が、持て余した不安をノートに書き付けたのだろう。
「っ、は、はっ」
そんな文章を見ていたら、心臓がバクバクしてきた。
息が、うまく吸えない。
落ち着かなきゃ、と頭は働いていても自分の体は、心はうまくいかないようだ。
ヤバい、これって過呼吸だよね?ゆっくり息を吸って、って思うけど上手くいかない。酸素が足りない。
これ、コンビニの袋とか被ってスーハーすれば治るって聞いたような気がするけどここにそんなものないし!
そんな事を考えている間にも、過呼吸はおさまらない。
苦しい、どうしよう?と思っていると視界が徐々に狭くなってくる。あー、貧血?これはアウト…
目を閉じる瞬間、部屋の扉が開いたような気がした。
********************
目が覚めた時には、私はまたもやベッドの住人。
ゆっくり目を開けた先には、心配そうなライラとセバスさんの顔が見えた。
「コズエ様、お加減はいかがですか」
「・・・わたし、」
「お部屋に入りましたらソファから落ちる所でした。貧血かと思いましたので、ベッドへとお運びしました」
セバスさんのゆっくりとした声。やっぱり過呼吸からの貧血で倒れたのね。視界が塞がる直前に部屋の扉が開いたような気がしたけど、あれはセバスさんだったのかも。
私はもそもそと体を起こす。ライラが背にクッションを添えてくれた。
「ごめんなさい、過呼吸みたい」
「そうでしたか。今は大丈夫ですか?」
「うん、平気です。・・・ちょっと焦っちゃって。驚きすぎちゃいました」
何に、とは言わなくても通じているだろう。
セバスさんもライラも何も聞いてこないから。ライラが差し出すコップを貰って中身を飲むと、レモン水だった。うん、さっぱりして美味しい。
「コズエ様、お腹空いてませんか?」
「え?・・・うん、空いてる」
レモン水飲んで思ったけど、結構お腹空いてるみたい。
あれ、いったいどのくらい意識がパーンしてたんだろ?
「私、どのくらい寝てました?」
「そうですね、今はいつもでしたらコズエ様はおやつの時間でしょうか」
「えっ!?ランチ逃した!?」
「コズエ様・・・」
しまったランチ食べてない!今日はパスタにしてもらおうと思ってたのに!そんな思いからふと漏らした言葉に、ライラは呆れたようにジト目で私を見た。すみません、責めないでください。
「でしたら、軽食をお作りしましょうか。パンケーキはいかがです?」
「はい、お願いします!できれば甘いのよりしょっぱいのがいいんですけど」
「・・・でしたらこの間レシピをお伺いした『エッグベネディクト』はいかがです?」
「えっ!?あれ作れるようになったんですか!?」
「タロットワークの執事たるもの、主の要望に応えられなくてどうします」
ふふふ、と笑うセバスさんの片眼鏡がキラリと光る。…その台詞、どこかの黒い執事で聞いたような?こっちにもいるの!?ねぇ、いるの!?
やったやった、とベッドから降りる私に、セバスさんがさらに追い打ちをかけるかのような問いを投げてきた。
「ところでコズエ様。カイナス伯爵がいらしておりますが」
「・・・ハイ?どちら様ですって?」
「近衛騎士団副官を務めておられます、カイナス伯爵でございます」
…は?カイナスさん?なんで?
思い当たるふしのない私は、セバスさんに答える事ができない。ぱちぱち、と瞬きをする私。
「アナスタシア様の名代、ということでしたのでサロンにてお待たせしております。コズエ様は体調不良でお休みになっているとお伝えしたのですが、お目覚めになるのを待つということで」
「えっ?いつから待ってるんですか?」
「そうですね、かれこれ四時間くらいは」
「えええええ!ちょ、そんなに待たせてるんですか!?さすがにお帰りになられた方がいいのでは!?」
「そうお勧めはしたのですが、何分アナスタシア様より『会うまで帰るな』と言われているそうで。御本人もゆっくりさせてもらうと仰るので、軽食や本でもてなさせて頂いております」
「お、降ります!」
お食事もそちらへ運びます、とのセバスさん。
いやいやカイナスさんどんだけ待ってるの!お仕事中だから帰れないの!?
私は焦って見た目を整え、階下へと降りるのだった。
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