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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟むお風呂を済ませ、ソファで一休みしていたらうっかり寝てしまった。ふと目を覚ませば、既に部屋は暗くなっていた。
ソファに座ってたのだけど、いつの間にかベッドにいる。これは誰かが移動させてくれたんだろうな。
起きてベッドサイドの灯りを灯す。するとコンコン、と部屋のドアがノックされた。返事をすると入ってきたのはターニャ。
「あ、起きられました?コズエ様」
「ごめん、結構寝てた?」
「うーん、ちょっと遅い夜ご飯くらいの時間ですよ?」
「そっか、なら起こしに来てくれたの?」
「はい、起きたのわかりましたから」
起きたの…わかったの?どうやったの?
そこを追求するとなんか怖いのでこれはもうスルーしておこう、そうしよう。
とりあえずカーディガンを羽織ってダイニングへ。
ゼクスさんも帰っていたようで、一緒に遅めの夜ご飯を取ることになった。
今日はお魚。ムニエルにはレモンバターですよね?醤油も欲しくなる…と思っているとそっと出された。
エドの紹介してくれた商会さんて、本当に和食に欠かせないもの置いてるのよね。あまり数は入れてないみたいだけど。
「コズエ殿と食事は久しぶりですの」
「そうですね、ゼクスさん最近またお忙しいんですか?」
「まぁ色々とですな。そういえば、蓬琳国の皇子には会いましたかな」
「学園でお見かけしましたよ?あと、王妃様に招かれたお茶会の日にも少しだけ」
ゼクスさんも醤油を気に入っているようで、私と同じようにレモンバターに醤油をたらりとかけて食べている。
お箸の事も話したら面白がってしまい、セバスさんに頼んで作らせる始末。タロットワークお抱えの職人さんに作らせたらしい。私の分ももちろんあります。
「ふむ。皇子からコズエ殿にご挨拶したいと言われておるのですがの」
「えっ」
「・・・コズエ殿は、アナスタシアから預かった本は全て読まれましたかな」
「いえ、あと三冊あります」
「読んだのは、赤い皮の表紙のものですかの?」
「あー、そうです。結構厚みがある感じの」
そう答えると、ゼクスさんはふむふむ、と何か考え込んだ。ふとゼクスさんを眺めていると、何か違和感が…
「あっ!?えっ!?ゼクスさん?ヒゲどうしたんですか!?」
「えっコズエ様今更ですか!?」
私のお皿を片付けていたターニャに即座にツッコミを入れられた。えっ?もしかしてかなり前からヒゲなかったの!?ゼクスさんもセバスさんも笑って私を見ていた。
「旦那様はあまりコズエ様と顔を合わせていませんでしたからね。仕方ありません」
「そうだったかの。確かにコズエ殿と顔を合わせたのは久しぶりですからな」
いやヒゲなくなっただけで結構若く見えるんだもの!
これまでホントに魔法使いのおじいちゃん的な見た目だったのに、今はなかなかなロマンスグレーっていうか!
こうして見ると、アナスタシアさんと似てるかも。どちらもシュッとした整った顔立ちだし。これまでゼクスさんてヒゲでほとんど顔つきよくわかってなかったっていうか?あれ、眼鏡もないし…?
「ゼ、ゼクスさん・・・思ってたより若いです・・・ね?」
「そうですかのう」
「旦那様は元々お若い頃から多少お歳を召した顔立ちでいらっしゃいましたからね、今では本来の歳よりもお若く見えるのではありませんか?」
「セバス、お主言うのう・・・」
「顔を隠したいと言い出して眼鏡とヒゲを生やされたのではありませんでしたか?旦那様」
え、なんで顔隠したかったの?女性問題か何かですか?既婚者だったけどお誘いが多数来ちゃう感じなの?
そう思っていると、セバスさんは苦笑しつつ、まだゼクスさんの奥様がご存命であった頃から、ゼクスさんは夜会に出ればモテモテだった事を教えてくれた。
「でもまあ確かにその顔なら納得で・・・」
「儂もまだまだ捨てたものではないですの」
「・・・でもその話し言葉がご年配な感じを引き出してますけど」
「ヒゲを伸ばし出してから、形から入ろうとしたら癖になりましてな・・・意識して変えれば普通に話せるのだが」
「あ、ホントですね」
「旦那様は城にいる時はこうですよ、コズエ様」
そうなんだ、会議とかしてる時はこっちなのかな?でもどちらもゼクスさんて事には変わりないけれど、おヒゲのないこちらならば普通に話してもらう方がしっくりくるというか。
ゼクスさんはゴホン、と咳払いをして話を戻した。
「蓬琳の皇子の話でしたな。皇女は近日中に国へ戻るようだが、皇子はコズエ殿と話をしたい様子。良ければ近いうちに機会を設けたいと考えていますが、どうですかなコズエ殿」
あまり王族とか貴族と会う事を勧めて来なかったゼクスさん。それなのに蓬琳国の皇子にはその限りではないらしい。何か考えがあるんだろうか?
返事をせずに考え込んだ私に、ゼクスさんは目元を柔らかく緩ませて口を開く。
「・・・返事は始祖の日記を読み終わるまで待つとしましょう。コズエ殿にはそちらを優先した方がよろしかろう」
「え、あ、はい。そうします」
「そうなさい」
ではお先に、と席を立ったゼクスさん。セバスさんはその背中に向けてお辞儀をして見送った。
私も食事を終えたので自室に戻ると、すぐにコンコンとノックの音が。
「失礼致します」
入ってきたのはセバスさんだった。手に数冊の本を抱えている。後ろにはライラがワゴンを押して入ってきた。またお茶を用意してくれたようだ。
「こちらがアナスタシア様からお預かりしたものです」
「はい。・・・あれ?これは返さなかったんですか?」
テーブルに置かれた本は、全部で四冊。最初に借りてきた厚めの日記もあった。
「いえ、お返しに行ったのですが、アナスタシア様が数日中に遠征に出てしまうとの事。ですので帰るまでこちらもコズエ様の手元に置いておく方がいいだろうとの事でした」
「あ、騎士団のお仕事ですか?」
「そのようですね」
そっか、もう一度読み返したくなるかもしれないもんね。アナスタシアさんがいないのであれば、すぐに借りることは出来そうにないし。
ここはアナスタシアさんの好意に甘えよう。
「あ、でもどうしましょう?私の部屋にこれを保管しておける金庫とかないですよ」
「保管ですか?」
「だってこれ大事なものじゃないですか」
「ならば、コズエ様が出かけている時は私が責任持って預かりましょう」
セバスさんはニッコリ笑ってそう言ってくれた。
このお屋敷の中で盗難、なんてある訳ないけれど、やっぱりこれは大事なものだろうから。アナスタシアさんがどうやって保管しているのか知らないけど、さすがに普通の本みたいにそこらに置いておくのもちょっと怖い。
セバスさんが管理してくれるなら安心だ。
では、とセバスさんとライラが部屋を出ると、私は大きく息を付いて、テーブルに置かれた四冊の本を見る。
初めに借りた、赤い皮の表紙の厚い本。
そして、紐綴じされた1cmくらいの厚さの本が二冊。
…そして、最後の一冊。
これは他に比べるととても薄い。
薄いけれど、私の度肝を抜いたのは、間違いなくこの本。いや、一冊のキャンパスノートだ。
あちらの世界では馴染み深い、大学ノート。
それはかなり古いもので、表紙も端が擦り切れていた。
これ以上ボロボロにならないように、これも魔法で守られているのかもしれない。
「これを、ここで見るなんてね・・・」
これが目の前にある事の事実。確かに、異世界から…ううん、地球から人が来ていたことの証明。
どれから読めばいいのだろう。この大学ノートから読むべきなの?それとも、別のこちらの紐綴じ?
読みたい、読むのが怖い、その二つの気持ちがまたも自分の中で相反していた。
しばし立ち尽くして決めかねていたけれど、体の倦怠感が勝って読む気力が薄れてしまう。
…これ明日起きてから考えよう。
頭回らなくてどうしたらいいのかわからないや。
私はふらふらとベッドに戻り、もそもそとお布団に包まる。明日起きたら読み始めよう。そう心に決めて───
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