異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

文字の大きさ
上 下
84 / 158
学園生活、2年目 ~前期~

107

しおりを挟む


お風呂を済ませ、ソファで一休みしていたらうっかり寝てしまった。ふと目を覚ませば、既に部屋は暗くなっていた。

ソファに座ってたのだけど、いつの間にかベッドにいる。これは誰かが移動させてくれたんだろうな。

起きてベッドサイドの灯りを灯す。するとコンコン、と部屋のドアがノックされた。返事をすると入ってきたのはターニャ。


「あ、起きられました?コズエ様」

「ごめん、結構寝てた?」

「うーん、ちょっと遅い夜ご飯くらいの時間ですよ?」

「そっか、なら起こしに来てくれたの?」

「はい、起きたのわかりましたから」


起きたの…わかったの?どうやったの?
そこを追求するとなんか怖いのでこれはもうスルーしておこう、そうしよう。

とりあえずカーディガンを羽織ってダイニングへ。
ゼクスさんも帰っていたようで、一緒に遅めの夜ご飯を取ることになった。
今日はお魚。ムニエルにはレモンバターですよね?醤油も欲しくなる…と思っているとそっと出された。
エドの紹介してくれた商会さんて、本当に和食に欠かせないもの置いてるのよね。あまり数は入れてないみたいだけど。


「コズエ殿と食事は久しぶりですの」

「そうですね、ゼクスさん最近またお忙しいんですか?」

「まぁ色々とですな。そういえば、蓬琳国の皇子には会いましたかな」

「学園でお見かけしましたよ?あと、王妃様に招かれたお茶会の日にも少しだけ」


ゼクスさんも醤油を気に入っているようで、私と同じようにレモンバターに醤油をたらりとかけて食べている。
お箸の事も話したら面白がってしまい、セバスさんに頼んで作らせる始末。タロットワークお抱えの職人さんに作らせたらしい。私の分ももちろんあります。


「ふむ。皇子からコズエ殿にご挨拶したいと言われておるのですがの」

「えっ」

「・・・コズエ殿は、アナスタシアから預かった本は全て読まれましたかな」

「いえ、あと三冊あります」

「読んだのは、赤い皮の表紙のものですかの?」

「あー、そうです。結構厚みがある感じの」


そう答えると、ゼクスさんはふむふむ、と何か考え込んだ。ふとゼクスさんを眺めていると、何か違和感が…


「あっ!?えっ!?ゼクスさん?ヒゲどうしたんですか!?」

「えっコズエ様今更ですか!?」


私のお皿を片付けていたターニャに即座にツッコミを入れられた。えっ?もしかしてかなり前からヒゲなかったの!?ゼクスさんもセバスさんも笑って私を見ていた。


「旦那様はあまりコズエ様と顔を合わせていませんでしたからね。仕方ありません」

「そうだったかの。確かにコズエ殿と顔を合わせたのは久しぶりですからな」


いやヒゲなくなっただけで結構若く見えるんだもの!
これまでホントに魔法使いのおじいちゃん的な見た目だったのに、今はなかなかなロマンスグレーっていうか!

こうして見ると、アナスタシアさんと似てるかも。どちらもシュッとした整った顔立ちだし。これまでゼクスさんてヒゲでほとんど顔つきよくわかってなかったっていうか?あれ、眼鏡もないし…?


「ゼ、ゼクスさん・・・思ってたより若いです・・・ね?」

「そうですかのう」
「旦那様は元々お若い頃から多少お歳を召した顔立ちでいらっしゃいましたからね、今では本来の歳よりもお若く見えるのではありませんか?」

「セバス、お主言うのう・・・」

「顔を隠したいと言い出して眼鏡とヒゲを生やされたのではありませんでしたか?旦那様」


え、なんで顔隠したかったの?女性問題か何かですか?既婚者だったけどお誘いが多数来ちゃう感じなの?

そう思っていると、セバスさんは苦笑しつつ、まだゼクスさんの奥様がご存命であった頃から、ゼクスさんは夜会に出ればモテモテだった事を教えてくれた。


「でもまあ確かにその顔なら納得で・・・」

「儂もまだまだ捨てたものではないですの」

「・・・でもその話し言葉がご年配な感じを引き出してますけど」

「ヒゲを伸ばし出してから、形から入ろうとしたら癖になりましてな・・・意識して変えれば普通に話せるのだが」

「あ、ホントですね」

「旦那様は城にいる時はこうですよ、コズエ様」


そうなんだ、会議とかしてる時はこっちなのかな?でもどちらもゼクスさんて事には変わりないけれど、おヒゲのないこちらならば普通に話してもらう方がしっくりくるというか。

ゼクスさんはゴホン、と咳払いをして話を戻した。


「蓬琳の皇子の話でしたな。皇女は近日中に国へ戻るようだが、皇子はコズエ殿と話をしたい様子。良ければ近いうちに機会を設けたいと考えていますが、どうですかなコズエ殿」


あまり王族とか貴族と会う事を勧めて来なかったゼクスさん。それなのに蓬琳国の皇子にはその限りではないらしい。何か考えがあるんだろうか?

返事をせずに考え込んだ私に、ゼクスさんは目元を柔らかく緩ませて口を開く。


「・・・返事は始祖の日記を読み終わるまで待つとしましょう。コズエ殿にはそちらを優先した方がよろしかろう」

「え、あ、はい。そうします」

「そうなさい」


ではお先に、と席を立ったゼクスさん。セバスさんはその背中に向けてお辞儀をして見送った。
私も食事を終えたので自室に戻ると、すぐにコンコンとノックの音が。


「失礼致します」


入ってきたのはセバスさんだった。手に数冊の本を抱えている。後ろにはライラがワゴンを押して入ってきた。またお茶を用意してくれたようだ。


「こちらがアナスタシア様からお預かりしたものです」

「はい。・・・あれ?これは返さなかったんですか?」


テーブルに置かれた本は、全部で四冊。最初に借りてきた厚めの日記もあった。


「いえ、お返しに行ったのですが、アナスタシア様が数日中に遠征に出てしまうとの事。ですので帰るまでこちらもコズエ様の手元に置いておく方がいいだろうとの事でした」

「あ、騎士団のお仕事ですか?」

「そのようですね」


そっか、もう一度読み返したくなるかもしれないもんね。アナスタシアさんがいないのであれば、すぐに借りることは出来そうにないし。
ここはアナスタシアさんの好意に甘えよう。


「あ、でもどうしましょう?私の部屋にこれを保管しておける金庫とかないですよ」

「保管ですか?」

「だってこれ大事なものじゃないですか」

「ならば、コズエ様が出かけている時は私が責任持って預かりましょう」


セバスさんはニッコリ笑ってそう言ってくれた。
このお屋敷の中で盗難、なんてある訳ないけれど、やっぱりこれは大事なものだろうから。アナスタシアさんがどうやって保管しているのか知らないけど、さすがに普通の本みたいにそこらに置いておくのもちょっと怖い。

セバスさんが管理してくれるなら安心だ。

では、とセバスさんとライラが部屋を出ると、私は大きく息を付いて、テーブルに置かれた四冊の本を見る。

初めに借りた、赤い皮の表紙の厚い本。
そして、紐綴じされた1cmくらいの厚さの本が二冊。

…そして、最後の一冊。
これは他に比べるととても薄い。
薄いけれど、私の度肝を抜いたのは、間違いなくこの本。いや、一冊のキャンパスノートだ。

あちらの世界地球では馴染み深い、大学ノート。
それはかなり古いもので、表紙も端が擦り切れていた。
これ以上ボロボロにならないように、これも魔法で守られているのかもしれない。


「これを、ここで見るなんてね・・・」


これが目の前にある事の事実。確かに、異世界から…ううん、地球から人が来ていたことの証明。

どれから読めばいいのだろう。この大学ノートから読むべきなの?それとも、別のこちらの紐綴じ?

読みたい、読むのが怖い、その二つの気持ちがまたも自分の中で相反していた。
しばし立ち尽くして決めかねていたけれど、体の倦怠感が勝って読む気力が薄れてしまう。

…これ明日起きてから考えよう。
頭回らなくてどうしたらいいのかわからないや。

私はふらふらとベッドに戻り、もそもそとお布団に包まる。明日起きたら読み始めよう。そう心に決めて───

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...