異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、2年目 ~前期~

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『拝啓、シリス殿下

お仕事はお忙しいですか?
またたくさんお話を聞かせて下さいませ。
お茶会にお誘いしてもいいですか?
          花麗ファオリー


ぱさり、と手紙を置く。

先日蓬琳皇国より第一皇子と第二皇女をお迎えし、ひと時の時間を持った。どうやら私は皇女のお眼鏡に叶ったようで、それから日を空けず手紙が来るようになった。

婚約破棄をしてから、国内国外問わず姫君方から文を貰う頻度が増えたが、流石に他国の皇女ともなると、おざなりにするわけにもいかない。蓬琳皇国とは長く友好を結んでいるし、これからも友好関係は必要になるだろう。


「けれど、ね・・・」


かの姫君を私の正妃に、との思惑もあるようだが、それは全く考えられない。年の差はよくある話で壁とはならないかもしれないが、なんと言っても幼すぎる。
彼女に私の伴侶としての器量を求めるのは少し無理があるだろう。

ふぅ、と仕事もある程度の目処が付いたところで一休み。控えていた使用人に頼み、お茶を運んできてもらうと、ココン、とノックの音。


「どうぞ」

「ちょうど休憩のようね?いいかしら、シリス?」

「ええ、一息入れようとしていました。どうぞ、母上」


母上はするり、と優雅に部屋に入ってソファに腰を下ろした。私も対面の席へ移動すれば、使用人が私と母上の分のお茶を入れ直す。


「少し話をしようと思って。休憩の邪魔をしたかしらね」

「いえ、そんなことはありませんよ」

「そう?蓬琳の皇女殿下に文の返事を書かなくていいのかしら?」

「三日と空けず来る文に書く内容もなくなってきましたよ」

「あら、そんなに?随分気に入られたものね?あの後、庭園へも案内を強請られたのでしょう?」

「あの時母上が許可してくださらなければ、行かずに済んだんですよ?」

「あのままコズエとお茶をするには少し気分が悪かったのよ。皇女殿下のワガママを聞いて差し上げれば、すんなりとお帰り頂けると思ってね」


父上が手が離せなかった為、母上と私で相手をしたのだが。皇女殿下はよくも悪くも話好きのようで、さすがの母上も辟易したようだ。

『昼の庭園も見たい』と言った皇女殿下に、断りを入れようとしたのだが、早くこの場を去りたかったらしい母上は私に案内を押し付けてさっさと自室へと引っ込んだという…


「皇女殿下をコズエにも見せようと思いましたのよ」

「コズエ殿は面白い生き物が来た、とでもいうような目をしていましたよ」

「あらまあ。さすがはコズエですのね。それにシリス?貴方コズエに勝負を挑んだのですって?」

「それくらいしておかないと、コズエ殿はいつまで経っても私を意識してはくれないと思いましたのでね。少し卑怯だとは思いましたが、宣戦布告させてもらいましたよ」

「卑怯?」


そう、女性を口説くのに少しばかり卑怯な手を使った。
本当はもっと時間をかけるつもりではあった。しかしコズエ殿は多少強引にでも気持ちを伝えておかないと、いつまでも相手として見てはもらえない。焦った、と言われても仕方がない。


「・・・この所、城の古い文献を読み漁っているようですわね?」

「ええ。何かヒントがないかと思いまして。・・・しかし、成果は上がりませんね。異世界から人が来た、という記述を見つける事はまだできていません」


そう、彼女のことを少しでも知りたい。せっかく『王族』という身分にいるのだから、人よりも多く知ることのできる知識がある。

過去、異世界から人が来たことがあるのか。そして、『帰る方法はあるのか』と。


「帰還方法を探しているんですの?」

「ええ、一応。もちろん帰って欲しくはありませんよ?できることなら私の隣にいて欲しい。母上もそうなのでは?」

「私はコズエの望む通りになればいいと思っていますわ?もちろん、残ってくださるのならば嬉しいですけれど」


『帰れるけれど残る』のと、『帰れないから残る』のとでは意味が違う。もちろん私の隣で幸せにする自信はあるし、帰れなくなったとしても後悔させないように愛する自信もある。

だが、できれば私は彼女自身の意志で、隣にいることを選んで欲しいと思う。そう思わせる為に、私は出来るだけの努力を惜しまない。


「帰還方法を教え、それでも残って欲しいと求婚プロポーズするのが理想なので、探し続けるつもりではいますよ。
・・・ですから母上?もう少し他の女性達とのデートを少し減らしてください」

「あら、そんなにセッティングしたかしら?」


ほほほ、と優雅に微笑む母上。

そう、コズエ殿にも言ったが、母上とコズエ殿は私に正妃候補を選ばせる為の競走レースを開催している…
主に母上だが。しかし言い出したのはコズエ殿の様なので、ちょっとした意趣返しとして『宣戦布告』させてもらったようなものだ。

手当り次第、と言ってもいいくらい、色々な家の出の姫君とデートをセッティングされている。
週に一度、二度は予定が入れられており、今日はどこどこの姫君、明日はあちらの家のお茶会だのと、公務の間にそれはもう予定を詰められている。


「母上、私には公務もあるのですよ?あまりに予定を詰めすぎなのでは」

「あら、貴方の父上はこれくらい女性と遊んでいらしたのよ?息子の貴方も平気ではなくて?」


何してるんですか、父上…!
これは母上の長年の恨みか何かなのでは?というか私に対して復讐してどうするんですか!


「でも確かにやりすぎたわね?これからは少し調整する事にするわ」

「・・・そうしてください」

「でも蓬琳の皇女とのお茶会は入れてなくてよ?貴方、あの方は苦手でしょう?」

「流石に疲れましたね、あの日は」

「私もよ。コズエにたくさん愚痴を聞いてもらってしまったわ。エオリアにもね」


あの日も、庭園を見るまで帰らない!という皇女をどうしようかと思ったが、兄である高星カオシン殿下の懇願もあり、少しの間だけの庭園散歩をした。
カークも顔を引き攣らせて逃げていたし、合わないのだろうなと思った。


「次はカークに相手をお願いします」

「そうね、それもいいわね」


済まない、カーク。でもこれも社会勉強だからね。



******************



校外学習から戻り、馬車でお屋敷へ帰る。
クエストをこなした森から学園に戻ると、いつのまにかタロットワーク別邸に連絡が行っていたようで、ターニャ達が迎えに来てくれていた。

私は学園に戻る頃にはすでに体調も戻っていたのだけど、大事を取ってという事で、すぐにお屋敷へ戻らされた。
手や足の痺れもなくなっていたし、通常に戻っていたんだけどなぁ。ターニャ達も『お言葉に甘えさせていただきます』という事で、私を連れてササっとお屋敷へ戻った。


「ただいま戻りました~」

「お帰りなさいませ、コズエ様」


迎えてくれたのはセバスさん。私に向かってきちんとお辞儀をしてお迎えしてくれる。


「アナスタシア様より本をお預かりして参りました。お部屋にお持ちいたします」

「あっ、はい!ありがとうございます!」

「急がなくとも結構ですよ。何やらお疲れのご様子。先にお風呂に入られて落ち着かれてはいかがですか」


確かに。魔力切れ、なんて初めてだったし…
今はもう支障はないのだけど、微妙に体が重いような気がする。

私はセバスさんの言葉に甘え、ゆっくりとお風呂に入る事にした。湯船に浸かれば、体がほぐれていく感じがする。
思っていたより疲れていたみたいだ。…身体強化魔法ブースト使ってかなり走ったしなぁ。これは明日起きたら筋肉痛…なのでは?

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