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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む報告に来た騎士の顔からして、良くない報告だとはわかった。しかしそれを聞いてお嬢さんが瞬時に飛び出していった。しまった、友達のパーティか!
「っ、お嬢!くそ!」
「俺が行きます!ジェイク、オルガ、来い!」
「頼む、俺は後から向かう!」
「はい!」
「了解!」
団長の腕が空を切った。飛び出したお嬢さんはかなりの速さ。多分身体強化魔法をかけているんだろう。全く無詠唱でできるから、タチが悪い。
テントの出口に近い俺の方が早いだろう、と思って俺も瞬時に追いかけることを選んだ。
相手はマンティコアという事で、もう二人騎士に付いてくるように指示を出す。
走り出して見れば、すでにお嬢さんの姿は森の奥に消えるくらい遠かった。早すぎないか!?
俺も自分に身体強化魔法をかけて追う。付いてきた部下の騎士も同じように魔法をかけ、お嬢さんを追うべく走る。
迷いなく走るお嬢さんの背中。見失うことは無いが、追いつくこともできそうにない。全く、騎士たる俺が単なる学生の魔法使いに追いつけないってどうなんだ?
「ちょ、あの子なんであんなに早いんすか?」
「俺達も騎士団内じゃかなり早いのに」
「あー、あの子はちょっと特殊なんだ」
「副官、知り合いっすか?」
「そーいや、アナスタシア様のお客様でしたよね、彼女」
「とりあえず、彼女の事は置いておけ。マンティコアがいるとしたら、マイルズ達が入ったとしてもクロフト隊がいる以上、守りしかできないだろう。
マンティコア自体は俺達で倒すしかない。気合い入れろ」
「はいっす」
「了解」
ジェイクもオルガも俺の直属。騎士団内でもトップクラスの腕の持ち主だ。俺と三人ならなんとかマンティコアを退けられるだろう。団長が来るまで持てばいい。
遠く目の前に、木々が開けた広場が入る。そこには壊れかかった結界魔法を維持しながら後退するマイルズ達の姿。
結界内には、倒れている学生達や支えている学生が見える。
先にお嬢さんが広場へと着くが、その瞬間マイルズ達が支えていた結界魔法に亀裂が入るのが見えた。
っ、くそ、間に合わないのか!?
しかし、その瞬間に金色の鳥籠のような光が視界に走る。
********************
森の奥、みんなの反応がある方向へと一目散に走る。
私、走るの遅いんだけど!今は気にならないくらい足も動くし走れる。これは明日筋肉痛か…?
もうすぐ、と思った時、森の奥に広場が見えた。
そこには、結界魔法に守られたディーナ達と、大きな魔獣と対する騎士さん。
一瞬、大きな魔獣の姿にギョッとするけど、耐えろ私!
あんなのGODZILLAに比べたら小さい!核レーザーだって打ってこない!大丈夫さ!…たぶん。
結界内にはディーナが倒れ、側にキャズ。ケリーや他の人もボロボロになりながらも剣を構えて魔獣を睨みつけていた。
と、とりあえず間に合った?
しかし、その瞬間に結界魔法に大きな亀裂が入る。まずい、アレが壊れたら全滅END!
私は出し惜しみすること無く、全力で魔法を紡ぐ。
「『結界魔法』!」
虚空に金色の光が走る。鳥籠をモチーフにした私の結界魔法は、下から上に向かって一気に鳥籠を完成させた。同時にさっきまで貼られていた魔法が砕け散り、魔獣が奮った爪の一撃は私の魔法に弾かれる。
ああよかった、と思ったつかの間。
私は地面に腰を下ろしていたキャズに向かって転び、ダイビングしていた。
「んぎゃぁぁぁあ!」
「イタタタタタ!何!?コズエ!?何してんのよ!」
「ご、ゴメン、止まれなかったの」
「ったく、あんたって子は!!!でも助かったわ、これってあんたの魔法よね。間一髪」
ギュッ、と抱き締め返してくれるキャズ。
うん、良かった無事で。ホッと息をついた私の横を素通りした三つの影が、魔獣に斬りかかった。
「っ、副官!」
「無事かマイルズ?」
「はい、間一髪で魔法バリアが間に合いました。ありがとうございます!」
「・・・礼は後にしろ!ジェイク、オルガ、俺と攻撃に回れ!マイルズ達は学生達を守りつつ、援護しろ!」
魔獣に斬りかかったのは、カイナス副官だった。
私の後ろを追ってきていたのかもしれない。でもそんなことに気を配ってる暇なんてなかったから。
キャズもそれを見て立ち上がった。
「コズエ、ディーナをお願い。私の魔法じゃ治しきれないの」
「わかった、任せて」
「私はケリー達を治すわ。よろしく」
キャズに変わってディーナを膝枕する。所々に怪我がある。意識がない所を見ると、脳震盪でも起こしているのかな?もしかしたらもっと重症かもしれないけど、ここで詳しく見ている時間はなさそうだ。
結界魔法自体はあの魔獣のブレスにも耐えているから気にすることもないし、ここはできるだけ最高の魔法を使う方がいいのかもしれないな。
キャズはすでにケリー達に回復魔法を使い始めていた。まだキャズには余裕がありそうだから、あっちは任せてもいいね。
私はディーナに向けて、今できる最大の回復魔法を使う事にした。
「『完全治癒魔法』」
淡い燐光の粒がディーナを取り巻く。
どうか目を覚ましますように。
********************
目の前では正しく金色の鳥籠が出現。すぐに不可視化して見えなくなったが、マンティコアが攻撃するとその周囲の部分のみ、鳥籠のケージが浮かんで見える。
…あんな高位結界張れるんですか、お嬢さん。
不可視化するのはわかりますが、あんなふうに鳥籠のイメージ作る人はいないのでは。
頭の中は疑問符でいっぱいだが、目の前にはマンティコア。油断していい相手ではない。
マイルズを狙うマンティコアの腕を狙って斬撃を浴びせれば、マンティコアは唸り声を上げて下がった。
その下がった瞬間を逃さず、部下達に命令をして体制を整えた。さて、どこまでやれる?
ジェイクとオルガ、俺でなんとかマンティコアの力を削いでいると、またも耳を疑う声が届く。
「『完全治癒魔法』」
がくん、と足から力が抜けそうになる。
なんだその魔法!!!俺でも数回しか見た事がない、高位の回復魔法じゃないのか!?しかも『聖』属性の魔力がないと使えないはずでは!?
騎士達の中で気付いたのは俺だけのようで、少し剣筋の乱れた俺にオルガが声を掛けてきた。
「どうしました、副官!」
「っ、なんでもない!叩くぞ!」
終わってからお説教しなければ、と思う俺の体に湧いてくる力。チラッと後ろを確認すれば、お嬢さんがこちらを見ていた。手を胸の前で組み合わせ、こくん、と頷いて来る。
参ったな、期待されているなら応えないと、男が廃る。
お嬢さんの身体強化魔法ならば、俺でも単体でマンティコア討伐も可能そうだ。やるとするか。
しかし、マンティコアも必死に抵抗してきた。
ジェイクもオルガも奮戦しているが、爪の一撃は脅威だ。
これ以上近づけばやられるのはこちらの方。とはいえ、近づかなければ首を落とせない。
距離を詰めることができれば、今の俺の力なら倒すこともできる。どうする?
ジェイクとオルガがマンティコアから距離を取った瞬間。
お嬢さんの声が飛ぶ。
「『捕縛魔法・影』!」
マンティコアの影から、幾本もの黒い影が這い上がって締め上げる。動きを封じ、口も閉じさせてブレスを封じた。
この期を逃さず、俺は攻め込んだ。俺に続いて、ジェイクやオルガ、マイルズ達の魔法攻撃。
程なく、マンティコアは倒れた。
処理は部下に任せるとして、だ。
振り返る俺の目に、友達に抱きついているお嬢さん。
倒れていた友達が目を覚ましたらしい。…そりゃ完全治癒魔法で起きないやつはいないだろうが。
他の学生達も、もう一人の回復役によって怪我は治った様だ。マイルズ達は自分達で治したのだろう。ジェイク達を手伝うべく、走り寄ってきた。
さて、なんて団長に話すべきか。
遠くから近づいてくる気配を感じながら、俺は篭手を外しつつ溜息を付くのだった。
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