異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、2年目 ~前期~

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お茶会から帰り、夕食を食べてから部屋へ戻る。
私が部屋へ入る時に、セバスさんが声を掛けてくる。


「コズエ様、お茶の用意は部屋の中にしておきました。明日から三日間学園にはお休みの連絡をしますので」

「はい、お願いします」

「お食事は決まったお時間にお運びしますか」

「そうしてもらえますか?」

「かしこまりました。いつでもお呼びください」


始祖の日記を読むから、一人にしてほしい。
そう頼んだ私に、屋敷の人は誰も「否」とは言わずにただ、私がしたいようにさせてくれた。

楽な服に着替え、ソファに座り、日記を手に取る。

タイトルは何も無い。
朱色の皮の表紙。
古びた本。けれどバラバラに壊れてしまうような危うさはない。魔法で保護されているからだろう。

ページを開けばそこには数日前に見た書き出し。

『三日、時間が取れる時に読み始めること』

深呼吸をひとつして、ページをめくる。
声に出して読める文字ではない。
書くことのできる文字ではない。

けれど、私には意味がわかる。文字を目で追うと、その文字が示す意味が頭の中に浮かぶ。不思議な感覚。

いつもと同じ、本を読む時の感覚通り、私はその文章の持つ力に引き込まれていくようにのめり込んでいった。




********************




『この日記は、私の記録帳。

何があったか、何をしたか。
誰にあったか、誰と別れたか。

私に起こる事を忘れないように、記す。

この記録がいつか誰かの道標になるように』


この日記は、そんな書き出しから始まっていた。

いつか誰かの道標、彼女は私がこの世界アースランドへ来ることを知っていたのだろうか。
予感?想像?アナスタシアさんはどう思ったんだろう。
ゼクスさんもこの日記を読んだはずだけど。

マデイン・タロットワーク。

『タロットワーク一族の始祖』

彼女がどうしてそう呼ばれるようになったのか。
もちろん彼女にも、両親がいたはずだ。

しかし、彼女が物心ついた時には孤児であったらしい。
この頃は神殿もなく、同じ境遇の子供が寄り集まって暮らしていたらしい。村のようなコミュニティの中、大人達が多少の世話をして、子供達は暮らしていたそうだ。

その中でマデインは魔法の力に目覚め、その不思議な力で村の力となっていく。
『魔術』という学問としては認知されていなかった時代なので、神の力とされ、重宝されていたのだと。

小さな小競り合いがあっても、大きく発展するような事もなく。マデインは成長して、村を出る。
旅をして、より多くの知識を求めたそうだ。

旅の途中、大きな街や別の国で学びながら、マデインは一人の男性と出会う。

その男性は恐ろしく高い知識を有し、途方もない魔法の力を持っていたと。
マデインはその男性と知り合い、互いに知識を交換したり、魔法を教えたりしているうちに男女の仲となった。
愛し合うようになった二人は、一緒に各地を周り、より知識を求める旅を続けるようになる。

旅の末に、マデインとその男性はある場所に終の住処を定める。その村は小さなものであったが、徐々に人が増え、町となり。緩やかに年を重ねる事にどんどん人が増えて遂にはひとつの小さな国となるまでになったと。

マデインと男性には、幾人もの子供を授かる。
そしてその子供達もまた、大きな魔法の才に恵まれたという。

その国の中でも大きな力を持ち、カリスマ性のあったマデインは人々をまとめるリーダーであり、伴侶である男性のサポートもあってその小さな国の『王』となった。

国土も土の恵みがあり、天候や魔物の脅威も薄いその国には、移住を希望する者も多く、周辺国から攻められる脅威があっても『タロットワーク一族』の力は大きく、蹂躙される事はなかった。
そうしてひとつ、またひとつと小さな国々がくっつき、連合国となり、マデインが50歳をすぎる頃には『エル・エレミア王国』の基礎が出来上がるまでとなったと…


「・・・この、マデインの伴侶が・・・異世界人」


そう、途中途中で出てくる『伴侶』となった男性。

マデインも最初はその人がどこから来たのかかなり探っていたようだけど、その人も少しずつしか話をしてくれなかったらしい。

そして決定的なのが『こことは違う場所から来たのだという』という記述だ。
マデインは世界線が違う?別の世界?どこに?など、走り書きしているページがあった。
そのページには文章というよりも、聞き出したことをただ書きなぐっただけ、という印象の方が大きかった。
そこから読み取れる単語には、『異世界』『科学?』『日本』という単語があった。

そのページ、そしてこの本を読み終わった私には、すでに『始祖の伴侶は異世界人』という事が事実としてのしかかってきた。


「・・・日本、って事は、日本人だったのかしら。でもマデインが生きていたのって1000年前?1000年前っていうと何時代よ?」


声に出して疑問点を呟いたが、時間がリンクしているとも限らない。もっと近代の人が時間を遡ってマデインの時代に降りたとも考えられるのだ。
でなければ『科学』という単語は出てこないだろう。

1000年前とすると、鎌倉時代?いや、もっと前として室町時代?北条政子とかその辺りでしょ?そんな時代の人間が『科学』なんて言うだろうか。


「それに、この人・・・帰らなかった、って事よね」


マデインと結ばれ愛し合い、子を成した異世界人。
もしも元の世界地球に帰った、のならその記述がない事はおかしい。ならば彼はそのままこの世界アースランドに残ったはずだ。

帰らなかったのか、のか。
その差は小さいようでとても、大きい。

読み終わった時はもう朝で、私はそのまま寝入ってしまった。目が覚めた時は夕方で。驚くほどに私は疲れていたようだ。本を読んだだけだというのに。

軽く食事を済ませて、またもう一度最初から読む。そんな事を三度繰り返せば、いつの間にか三日は過ぎていた。

本の内容と、自身の思考に没頭し、時間が経つのが早かった。とても。それでも私の中で何かの結論は出ない。

私の他にもこの世界アースランドには異世界人がいた。
その人は元の世界地球には帰らなかった。
帰る方法があるのか、それともないのか。それはまだわからない。


「コズエ様、体調はいかがですか」

「うーん、いいような悪いような」

「本は読み終わりましたか?」

「はい、なんとか。続きを読まないとなんとも言えないって感じですね」


三日ぶりにきちんとお風呂に入り、食事を済ませると、セバスさんがそう話しかけてきた。

ご飯は部屋に運んでもらってたし、ちゃんとシャワー浴びたり、寝たりとか一通りちゃんとやってはいたけど、みんなの手を借りることはなかったので、きちんと顔を合わせて話すのは久しぶりだった。
ちょっとしたニートだった、私。


「ですが、コズエ様が話をしてくださる様になって良かったです」

「え?」

「お部屋にいる際にお声をかけましたが、心ここに在らず、といった様子でしたので」


…セバスさん来たっけ?全く記憶にない。
というか、気付いたらご飯が置いてあったり、シャワーの支度が出来てたりしてた気がしてたんだけど…
それって私があまりにも考えに耽っていたから気付かなかっただけで、皆普通に出入りしてた?こっそりシュパパパ!ってやってると思いこんでた、私。


「それはすみませんでした」

「・・・いえ、コズエ様にしてみればそれだけの事があの日記には書かれていたのだと思いますので」

「セバスさんは何が書いてあるか読んだことは?」

「いえ、私はございません。それを読んだのは旦那様と、亡き大旦那様。そしてアナスタシア様だけです」

「そう、なんですね。ゼクスさんは何か言っていましたか?」

「いえ、旦那様は何も。読まれた当時も難しい顔をしておいででした。けれど我等には何も言うことはありませんでしたよ」

「気になりますか」

「いいえ。旦那様が何も申されないのならば、我等が知るべきことではないのでしょう。ならばそれで十分です」


こういうの聞くと、セバスさんは本当にゼクスさんを心から信頼しているのだなと思う。主人が不要とするならば、仕える自分は知らなくてもいいって言いきれちゃうんだものね。

セバスさんは私に優しく微笑み、お茶を入れ替えてくれる。


「明日から学園には行きますか?」

「はい!お弁当お願いしますとマートンに言ってください」

「そうですか、学園から連絡が来ていまして、明日は騎士科と魔術科合同で冒険者ギルドのクエストをするそうですから、そのつもりで来てくださいとの事でした」

「えっ?冒険者ギルドのクエストですか?」

「はい、授業の一環だそうですよ。何か採取クエストだとか」


なるほど、校外学習的なやつかな?
少しはいい気分転換になりそうだし、よかった。
でも、本の続きアナスタシアさんに借りに行きたかったんだけどな。
そう思うと、セバスさんは流石の受け答えを。


「よろしければ、私がアナスタシア様の所へ出向きますが、どうしますか?」

「え?いいんですか?なら、借りた本を返すので、また続きを借りてきてもらえませんか?」

「かしこまりました」


うん、よかった。早めに読んでおきたいしね。
セバスさんが代わりに行ってくれるのならありがたいし。

明日は採取クエストらしいし、楽しみだな。

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