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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む考え込んでいるカーク。これいつまで考えてるのかしら。考えて出る答えなら、ここまで悩まないわよね?
「いいわよ、もう考えなくて。ふと気づいたらその人の事が頭から離れなくなるから気にしないで」
「そういうものなのか?」
「そういうもんよ。恋は無理にするものじゃなくて、自然と落ちるものみたいよ」
「───わかった」
「その時は相談にくらい乗ってあげるわよ。お茶ご馳走してね?」
「なんでお前に相談する事になっているんだ」
「私の他に相談する人いるの?言っておくけどドランは向いてないわよ」
「・・・それは知ってる」
あっ、そこの自覚はあるんだ。まぁエドに言ってもいいけど、彼は自覚なく女の子惚れさせてるから、そういう悩みは全くないと思うのよ!だから無駄!
「あ、あと、そういえばカーク、貴方『目標』にしている人はいるの?」
「目標?・・・そうだな、やはり父上か」
「なぜにそこ?」
「何故って、父親だぞ?それに一国の王だ、目標にするならば高い方がいいだろう」
いやそりゃそうだけど。尊敬するのは父上です、ならいいけど、目標はそこじゃないでしょ、君の立場なら。
「あのね、カーク?貴方、将来『国王』になる訳じゃないのに、『国王』を目標にしてどうするの」
「は?」
「父親を尊敬するのはいいわよ、そりゃあね。でも、貴方が目標にしていかないといけないのは、ゼクスさんの方でしょ。貴方がならなきゃいけないのは、国王の片腕となる臣下なんだから」
ぱちくり、と驚くカーク。
いや、気付いてなかったんかい!
「このままいくと、シリス殿下が国王になった時、貴方がならなきゃいけないのって、国王を支える宰相って事でしょ?
今のルジェンダ陛下と、ゼクスさんみたいな関係になるわけでしょうが」
「・・・確かに、そうだな」
「貴方は王弟となる訳だから、他の貴族よりも一歩国王に近い所にいる訳よね?しかも王族の考え方と、臣下としての考え方が両方できるとなお理想的」
「・・・そういうことか」
「もしも何かあった時に、諌めるのも貴方の役目だわ。国は国王一人で動かしていくものではないからね。側にいる臣下の腕にも左右されるわよ?
その為に、貴方は一人でも多くの信頼できる部下や仲間を持たないといけないのはわかるわね?」
「お前よくそんな事思いつくな」
「当たり前でしょ?貴方の倍は生きてるのよ、人生経験多いのよ」
「・・・勉強になる」
「とはいえ、私の言うことが正解という事じゃなくて。数ある意見の一つとして聞いてね」
「わかっている」
「ならいいの。で、貴方の側近候補はドランとエドよね?できればステュー・・・、ステュアート・カーティスを引き込みなさい」
「ステュアートか?一応候補ではあるが・・・あまり興味がなさそうなんだが」
「うん、まあ、多分ないわね。だから側近とまでいかなくても、貴方側の陣営に入れる程度でいいんじゃないかしら」
「なんでそんなにあいつを推すんだ?」
「決まってるわ、彼がイエスマンじゃないからよ」
ステュアートは、多分確実にカークに興味が無い。
というか、政治というものに興味が無いのだと思う。
でも、カークには彼のような『自分の意見を曲げない』人が側にいるべきだと私は思う。うん、乙女ゲーの攻略対象者っぽいから、というだけじゃないよ!
「カーク、貴方って物事を深く考えないじゃない?」
「・・・褒めてねぇな」
「それも見ようによっては美点なんだけど。でもそれじゃこの先苦労すると思うのよ。そこでステューな訳」
「全く話が見えてこないんだが」
「ドランは貴方の意見を基本的に肯定すると思うのよ。ものすごく的外れでなければ、だいたい頷くでしょ、彼」
「・・・まぁそういう所があるか」
「彼は貴方の『騎士』だから、基本的に反対とかしないのよ。それが悪いわけじゃないんだけど。
それにエド。彼も基本的に反対とかしないでしょ?」
「そうでもないぞ、止めるのは大抵あいつで」
「でも、エドは『自分が何とかすれば収まる』って判断すると間違ってたとしても賛成してくれると思うわよ?
エドはカークを自分より上位に見てるから、表立って反対したり止めたりしないでしょ」
「・・・・・・」
黙るって事は、思うところがあるって事だ。
しかしこれからそれじゃ進歩しないわよね。
「そこで、ステューなのよ。彼は自分が納得しない限り相手が貴方だろうと平気で『嫌だ』って言う人」
「だろうな。だから何なんだよ」
「そうやって、自分の意見が否定される事で、一度立ち止まって考える癖が付くでしょ?」
「あ・・・?」
「自分の感覚で突っ走って、何度も痛い目にあったわよね?貴方はそういう所があるから、少しだけ止まって考えてみるって事を学ぶべき。じゃないと、貴方がシリス殿下のストッパーにはなれないわ」
カークは即断即決、の所がある。もちろんそのやり方が悪いわけじゃない。ただ、彼は他の意見を取り入れるって事が今までなかった。けれどステューみたいに何があっても自分の考えを曲げない、って人が近くにいたなら、カークみたいな人でも止まって考えざるを得なくなるって事。
「・・・いつでも他人の意見を受け入れろってのか?そんな事してたら取り返しのつかなくなる事もあるだろう」
「誰が『全ての事』を他人の意見任せにしろって言ってんのよ。ただ突進するだけじゃなくて、策を講じる時間の使い方を学べって言ってるの」
「・・・」
「肯定意見だけじゃなくて、否定されると『本当に自分の意見でいいのか?』って一瞬躊躇するでしょ?
そこで確信が持てるなら突き進めばいいし、少しでも迷う余地があるのなら、考え直すことも視野に入れて、って事」
「・・・なんでそんな事思いつくんだ?」
「だから人生経験の差よ。私はここに来るまでは社会で10年以上働いてたんだから」
「適わない訳だよな、全くよ」
「愕然としたわよ?最初は。また学生からやり直しとか一体『強くてニューゲーム』にも程があるだろって」
「・・・なんだって?」
「いえこっちの話」
しまったゲームの話したってわかるわけなかったか。
うっかり口が滑ったけど、こちらの人には理解できるわけもないから誤魔化そう。
「身内の贔屓目って訳じゃないけど、ゼクスさんを目標にするのはいいと思うわ。ゼクスさんになれ、って訳じゃなくて、いいと思うところを吸収するっていうか」
「なんでそんなにゼクスレン殿を推す?」
「だって、ゼクスさんは貴方と同じ境遇にいるじゃない?」
かつて第一王位継承者であり、臣下に降った人。
王族として育ち、教育を受けているからこそ、ゼクスさんは『王族』と『臣下』の両方からの考えを持ち、意見する事ができる。
それはとても珍しく、誰にでもできることじゃない。
「王家の立場にも立てるし、貴族として、臣下としての立場にも立てる。それって他の人たちには簡単な真似ができないことよね?
だって、王族として教育を受ける事はできないもの」
「・・・俺と同じ」
「そう、だからこそ貴方には、貴方にしか目指せない『立ち位置』って物がある」
「俺だけができる事、か」
「そういう事。目標は高く険しいわねぇ」
「・・・あそこに追いつけってのか?かなり遠いぞ?」
「今すぐ追いつけとは言わないけど?でも同じ年齢になる頃にはああなっていたいわよねぇ」
「くそ、茨の道だな」
「いいじゃない、道があるだけマシでしょ?」
そう、私のように道が真っ暗で見えないよりはマシだ。
今は『始祖の日記』という小さな灯りがあるけれど、それはいつ消えてもおかしくはないものだ。
それに縋ってしまったら、暗闇から魔物が出てくるかもしれない。
『絶望』という魔物が。
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