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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む今だけは、対等な相手。
これから先どうなるかわからないが、このひと時はきっと俺にとって『大事なもの』になる。
認められたい、ただそれだけ。
「祈願祭で、想いが受け取れない話を父上から聞いて、俺はすごく悔しかった」
「悔しい?」
「ああ。お前にできて、どうして俺に、俺達にはできないのかって。でも考えてみれば当たり前だったのかもな。民の想いを受け取れるだけの器が、俺にはまだないんだから」
彼女の目が変わる。興味深い物を見つめる瞳。
きっと、俺がどう変わるのかを見ているんだろうと思った。
祈願祭を終えて、新年を迎え。俺には新しく家庭教師が付いた。父上ではなく、兄上が手配した教師達だった。
『きっとカークに必要になるから』
兄上はそう言って、数名の教師を俺に付けた。
そしてその日から今までとは違う『教育』が始まった。これまでも王族の義務として帝王学を学んできた。
学園で学ぶような知識ではなく、王族の一員として、国を導いて行くための思想と知識。
だが、始まったのは国を支えていくために必要な思想と知識の勉強。
視界が開けていくようだった。同じ題材の授業にしても、これまでとは違った考え方をする授業。
国王としての考えからが『こう』ならば、臣下として示す考え方は『ああ』なるのかと。
面白いように知識は自分の中に蓄積され、それと同時に今までの事が全然別の見え方をしてきた。
そして今までの自分の行動、言動がいかに『王族』として足りないものだったのかという事を。
兄上に話をすれば、兄上自身も同じ経験をしたと話してくれた。兄上の時はゼクスレン殿が教師を連れてきたらしい。
兄上に臣下としての考え方を学ぶ事が必要なのかと問えば、兄上は上から見ただけでは物事の在り方は見えてこない。そう教えて貰ったんだよ、と笑った。
そして兄上は俺に同じように、考え方の多様性を示してくれた。ありがたい事に。
「・・・確かに、貴方はシリス殿下が国王となった時に片腕として国を支えていかないといけないものね。
もしシリス殿下が何らかの事情で国を継がなくなった時は、貴方が国王にならないといけないし」
「兄上が王にならない事などないだろう」
「わからないでしょ?もしかしたら他国の王に迎えられる事が絶対にない、と言えるの?
もしかしたら、貴方がその立場になるかもしれないのよ?」
「・・・俺?」
「そりゃそうでしょ、今後どこぞの第一王女に見初められて婿に入るって事もないとは言えないんだし。その時は王族の務めとして国と国との架け橋になるのでしょ?」
「確かに、その可能性もないとはいえないか」
「私、あと聞きたいことあるんだけど」
「なんだ?」
彼女から俺に?何かあっただろうか。
また何かからかう内容なんじゃないだろうな?
しかし彼女は真剣な顔で、俺に質問をする。
「カーク、貴方エリザベスの話を聞いてどう感じたの?」
********************
その瞬間、さっきまで凛々しく語っていた顔が、年相応の男の子になった。あらやだかわいい。
カチン、と固まったかと思うと思いの外動揺し、お茶を飲もうとして焦っている。純粋か!
「何動揺してんのよ」
「なっ、ど、動揺なんてしてない」
「してるでしょ、わかりやすいのよ貴方」
「─────驚いたさ」
ごくごくっ、と紅茶を飲み干し、もう一杯お茶を注ぐ。
湯気の立ち上るカップをじっと眺めて、そうぽつりと呟いたカーク。そこにいたのは普通の男の子だった。
「エリザベスが、あんな風に考えているとは思わなかった。いや、思いもしなかった」
「カーク、エリザベスの事好き?」
「っ、な、当たり前だろう」
「本当に?」
「本当だ」
「それって、『女』としての好き?それとも『家族』としての好き?」
彼は目を見開いた。確かに、カークはエリザベスを好き、なんだろう。でもそれは『どういう』好きなのか考えた事はあるのだろうか。
「エリーの話、全部聞いていたのよね」
「ああ」
「エリーの言う事、どう思ったの?」
「どう、って」
「貴方がアリシアさんを好きなら、エリーは身を引くって聞いて。貴方、その時エリーの事を思った?それともアリシアさん?」
「───っ、」
その顔を見て、私はやっぱりね、と思った。
カークの中で育つ恋は、まだまだ小さな蕾。
自分で自覚すらする事のできない、不完全なもの。
それがどちらに向けられてのものなのか、私には推し量る事ができないんだけど。
「カークはまだまだ子供ねぇ。初恋もまだなんでしょ?」
「なっ、ちがっ」
「私の初恋は、10歳くらいだったかなあ。学校・・・学園みたいなところね、そこで同じクラスの男の子に」
「お前の世界ではそんな子供の頃から学校に行っていたのか」
「何言ってるの?こっちの世界では、皆6歳の頃から学校に通うのよ」
「っ、はぁ!?庶民が、か?」
「あのね、私の世界では『王族』はいないのよ。似たような高い地位にいる人達がいるけど、国を動かすのは一般市民・・・こちらで言う平民で、それも皆で選ぶのよ?」
「国を動かす代表を選ぶ、ということか?」
「ええ、そうよ。皆でその代表者がどんな国にしたいかって事を聞いて、自分達の代表にするならこの人、って選ぶの。
で、国民は皆、6歳になったら学校に通って勉強するのよ。それこそ15歳までね。希望すれば22歳くらいまで高等教育を受けられる」
「じゃあ、お前はどれだけ勉強したんだ」
「私?私は20までね。そこからは働いてたから」
「・・・その割にはあんまり頭がよくないのか?いつもテストでは上位にはいないだろ」
「バカね、学生生活16年目をなめるんじゃないわよ?そんなのわざと狙って点数落としてるに決まってるでしょ?私みたいな普通の人がトップ取って目立ってどうするのよ?」
「は?わざと間違えてるのか?何のために?」
「そんなの王子様にトップを譲る為に決まってるじゃない。私が本気で点数取りに行ったらトップ3に入っちゃうわよ?そんな事してどうするのよ?アリシアさんとか特待生なのに上位に入れなかったらかわいそうじゃない」
「なら一度くらい全力でやってみたらどうなんだ?」
「それで何かいい事あるの?あのくらいの点数取っておけば、そこそこ教師からのウケも良くてちょうどいいのよ」
「・・・腹黒いな」
「そもそも私が学園に行ってるのは無理なく魔法を学ぶ為であって、学力トップになりたい!とかコネを作りたい!って訳じゃないんだからいいのよアレで」
そう、そういう事はやりたい人に譲っておけばいいのだ。私は自分の目的の為に学園に行っているのであって、自分の優秀性をひけらかす為ではない。
「で?カークは初恋いつなの?まだなの?」
「子どもの頃、メイドを追いかけていたことなら」
「バカね、そんなんじゃないわよ。その人の事を思うと、胸が苦しくなって。その人の事ばかり目で追いかけて。声が聞けるだけで嬉しくなって。あの人の隣に行けたら、って思うようになるの。そんな事ない?」
「・・・それが、恋、か」
「そうよ。コントロールなんてできない。どうしてこの人なのかなんてわからない。でも、惹き付けられるのよ」
「・・・・・・」
黙り込むカーク。そう、彼にはまだ訪れていないのかも。それとも、意識していないだけ?貴方はそうやってアリシアさんを目で追いかけている事に気付いていない。
けれど、エリーの事も大切に想っているはずだ。でなければあの時、話を聞いていた貴方の顔はあんなに迷った顔をしていなかったはず。カフェの階段で佇んでいた君は、アリシアさんの所に行くのを躊躇してたんじゃなくて、エリーを追いかけようと迷っていたんだよね?
どちらに転ぶのかまだわからない。だってほんの少しのきっかけで、君はどちらかの少女に恋をするはずだ。
今はまだ、自分の事でいっぱいで、踏み出せずにいる。
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