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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む始祖マデインの日記。
別邸へと帰り、自室へ入る。お気に入りのソファに座り、さて読もうと決意し、深呼吸。
だ、大丈夫大丈夫。きっと手がかりがある。
ドキドキと、不安。その感情がごちゃ混ぜになって、読みたいのか読みたくないのかわからない。
そっと本を開くとそこには─────
『三日、時間が取れる時に読み始めること』
「・・・なにこれ」
何この注意書き。三日?三日かかるのコレ?
えっどうしよう、明日も明後日も学園の授業あるよね?しかもお茶会もあるよね?
私はそのページを見続けた結果、お茶会を終えてから学園を休んで時間を取ろう、と決めた。
さ、先送りにした訳じゃないんだからね!
本当なんだからね!!!
********************
学園の授業を集中力散漫なまま過ごし、シュレリア様主催のお茶会へ来た。
今回はエオリアさんも欠席。なんでも風邪を引いてしまった様子。昨日の夜会もお休みしたと聞いた。
何かお見舞いに届けた方がいいのかな?
風邪の時は定番な桃缶だけど、こっちにはそんなものないわよね?あったとしても庶民用?そしたら桃をシロップ漬けにすればいいのか?
と思いながらもセバスさんに言ってみると、やはりシロップ漬けという概念は貴族にはなかった。風邪にはミルク粥とからしい。パン粥ね。
私なら普通に白粥がいいな…と言うと本邸のシェフへ伝えます、と言ってくれた。そっか、本邸にも米ブーム来てるんだっけ。
今日のお茶会も普段着でOKよ!とお許しがあるので、ドレスではなく五分袖のブラウスにスカートとショールという春のお出かけスタイル。
いいのかねぇこんな楽な格好で…まぁ主催者がそう言うのならいいのだろう。そういう事にしておこう。
王城に付き、王妃付きのメイドに案内されて東屋へ。
庭園は驚くほどの花で飾られていた。
「えっ・・・これ、全部どこから・・・」
「元々こちらに植えていたものもありますが、他の場所で咲いていたものを切って持ってきているのもあります。
昨日は『彩華宴』でございましたし、王妃様がコズエ様をお呼びすると言ってそのままに」
す、凄すぎる…花見っていうと私は桜を思い浮かべる。
けれどこちらの世界には桜はないのかもしれない。もしかしたら他国にはあるかもしれないけど、このエル・エレミアにはなさそうだ。ちょっと残念。
けれどそこに咲き誇るのは、ダリアに似た花。
それこそ白、ピンク、赤、紫、黄、橙…と大きさも様々な花がふんだんに咲いていた。
「これ、何ていう花ですか?」
「これは『エレミア』の花と言います。この国の名前にもなっている花です」
はー、ダリアっぽいけど少し違うのね。香りはごく僅かで、これだけ咲いていてもむせかえる香り、とはならない所が素晴らしい。
これだけあると薔薇だと『うっ』ってなりそう。
メイドさんは手早くお茶の用意をしてくれて、私はのんびりお花を眺めて待つ。
テーブルにも花籠があったりと目に楽しい。
「王妃様が参りますまでおくつろぎ下さいませ」
「ありがとうございます」
シュレリア様は少し遅れるようで、私には先にお茶を楽しんでいて貰いたいと言付けていたそうだ。
大変ねぇ王妃って。きっと来た時には『聞いてちょうだい!』とかってなるんだろうな。
私はお茶を頂きつつ、周りの花々を見て楽しむのだった。
どれくらい時間が経ったのだろう。全く気にしていなかったけど、気付くと誰かがこちらへ近付いてくるのが見えた。
見た感じ男性。シュレリア様ではないな、と思いながら見ていると、それはカーク王子だった。
「・・・母上より伝言だ。すまないがもう少しかかるから、俺を相手に暇を潰してくれと」
「あらまあ。忙しいのねシュレリア」
「ああ。今、蓬琳の皇子と皇女が来ている。父上の手が離せないので、母上と兄上がお相手しているんだ」
「なるほど、確かシリス殿下落としに来てるんだっけ」
「・・・お前そんなストレートに」
「どう取り繕ったって一緒じゃない?向こうはシリス殿下の正妃の座を射止めに来てるんだから」
私はカーク殿下を促して東屋へ。小上がりみたいになっているから、靴を脱いで座る。あー楽ちん。
カーク殿下はちょっと戸惑い気味だけど、靴を脱いで上がり、向かい側に腰を下ろした。
「お茶はセルフサービスだから、自分で注いでね?シュレリアも同じ事してるからね?」
「・・・これがお茶会なのか」
「堅苦しい決まりを取り払って、楽しくお喋りする場なのよ。嫌なら帰りなさいな」
「んな訳にいかないだろ。俺から志願して来たんだからな」
ちょっと仏頂面ながらも、カップに紅茶を注いでいるカーク殿下。やっぱり自分じゃやらないのかしら?でも、今後そういう事もやらないといけなくなる時だってあるのだから、なんでもできる方が得よね?
カーク殿下は一口紅茶を味わうと、咳払いをしてから話を始めた。
「今日は、俺が母上に頼んで代わりを務めさせてもらった。お前とちゃんと話をしたかったから」
「そうなんですか」
「・・・この茶会の間だけでいい、普通に話してくれ。『殿下』の敬称も要らない。いや、呼ばないでくれるか」
真っ直ぐに私を見る瞳は、いつかの彼とは少しだけ違った。甘やかされて育ったお坊ちゃんの瞳が、少しだけ大人になった色。
彼の心境に変化があったようだ。その成長に免じて、私は少しの間、彼を『普通の男の子』として見る事にした。
「変わったわね、貴方」
「そうか?・・・なら嬉しいが」
「ええ、少しだけど大人になったみたい。これまでは甘やかされて育ったお坊ちゃんでしかなかったけど」
「耳に痛いな。確かに俺は『甘やかされて育ったお坊ちゃん』だ」
前までならば怒っていただろう。けれど今の彼は苦笑してその言われ方を受け取った。彼にどんな心境の変化があったのだろうか。私が彼と言葉を交わしたのは、あの祈願祭から、実に五ヶ月程経つ。
「祈願祭の後、父上より『貴方』の事は聞いた。全てではないかもしれないが」
『お前』から『貴方』に呼び方が変わる。
確かに国王陛下から話を聞いたことの証。
「まさか、倍ほども人生経験を詰んだ女性だとは思わなかった。これまでの非礼をお詫びいたします、レディ」
「・・・うん、キモいから普通に戻してくれていいわよ」
「・・・キモいってなんだ」
「気持ち悪い?」
「そうじゃねぇよ!意味が分からねぇ訳じゃねぇ!」
「おやおやまだまだ修行が足りないわね」
「・・・く、くそ」
「まぁいいわ。で?自分からここに来たって事は、私の質問に対する答え見つかった?」
「答え、という程じゃないが。ただ言えるのは俺にはまだそれを答えられるだけの積み重ねが足りない、という事だ。甘えに聞こえるだろうが、それが正直な俺の評価だと思う」
彼は、自分を第三者目線で見た結果を話した。
そう、君に必要だったのは、それかもね。
私はクスッと笑って答える。
「成長したわね、カーク?驚いたわ。何が君をそうさせたの?今はそっちが聞きたいわ」
「───ああ、わかった。聞いてくれるか」
彼もまた、今まで見た事のない笑顔をした。今まではどこか『王子様』の笑顔だったけど、これがきっと『カーク・トウ・アルゼイド』の顔なんだろう。
アリシアさんの前では、きっとこの顔で笑うんだろうな。
そんな事をふっと思った。
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