異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

文字の大きさ
上 下
70 / 158
学園生活、2年目 ~前期~

93

しおりを挟む


「いやあ、あはは、色んな事があるもんですね」

「お嬢はホントに引き出し多すぎだろう」
「どうしたらあんな魔法になるんですか」

「いやこうなったら格好いいなって思って・・・捕縛魔法バインド自体は授業で教わったんですよ?それからセバスさんに相談してこうしたい、って言ったらアドバイスくれてああいう事に」

「セバスチャン殿か・・・」

「授業してくれた先生も、イメージ次第で色んな物を具現化できるって言ってましたし」

「誰だよそのマッドな教師」
「お嬢さん、担当教師の名前はなんと仰るんです?」

「えーと、カーター・ツァイスって」

「・・・『論理の魔術師』かよ」
「あの人ですか、いいんですかね教師にして」

「あれ、お知り合いですか」

「ああ、まぁな。ゼクスレン殿と同じく魔術研究所の有名人だ。既存の魔法をアレンジして別の魔法を産み出す天才だな」
「凄い人なんですけどね。たまにとんでもない事する人なんで・・・しかしお嬢さんの担当教師とは」


なんか問題ある人だったのかな?でも私にはわかりやすい説明してくれるいい先生なんだけど。
確かにキャズなんかはちょっと苦手そうだけど、私にしてみれば魔法を学ぶ上でわかりやすく説明してくれる先生はありがたい。

団長さんの執務室に行くのに、カイナス副官の部屋から書類も移動させた。なんかゲンナリした団長さんだけど、仕事はしないとね。アナスタシアさん帰ってきてから怒られる方がいいならいいんだけどね。

運び終わると、ちょうどアナスタシアさんが戻ったようで執務室に入ってきた。


「帰ったぞ。フリードリヒ、それが終わるまで家には帰ってこなくていいからな」

「サクッと言ったな!」

「この机を見れば一目瞭然だろう。カイナスに任せてサボっていたな?働かぬ者に食わせる飯はない。カイナス、終わらせるまで部屋から出すな」

「了解しました」

「さて姫、待たせたな。兄上から話は聞いたか」

「はい。私に『本』を貸してもらえますか?」

「・・・わかった、持ってくるから待っていなさい。今日は私が別邸へと送る。カイナス、空いている部屋は?」

「来客用の部屋が空いてます。案内しますか?」

「頼む」


サッサと指示を出して部屋を出ていくアナスタシアさん。颯爽と去っていく後ろ姿は宝塚のスターのようです…


「では、行きましょうかお嬢さん。団長、真面目にやれば二時間あれば終わりますよ」
「くそ、それが一番苦手なんだよ!」


私はカイナス副官に促されて部屋を出る。カイナス副官が戻るまで別の騎士さんが部屋の前で見張るらしい。
アナスタシアさんはしっかり見張り用に人を連れてきていたようだ。


「本を借りに来たんですか?」

「はい、そうです」

「アナスタシア様も言付けてくだされば渡しておいたんですがね。何か話をしに来たんだと思っていたよ」

「大事な本みたいなので、手渡しがいいと言われましたら」


仮にもタロットワーク始祖の日記、なんて他人に預ける訳にはいかないだろうな。他の人が良くてもアナスタシアさんは渡さないと思った。

来客用の部屋へと移動中、ドラン達が休憩しているのが見えた。ふとエドがこちらを向き、驚いた顔をしてこちらへ来る。


「コズエ?何してんだここで」

「ちょっと野暮用。エドは訓練なのでしょ?頑張って」
「サヴァン、休憩中かもしれないが、戻っていなさい」

「申し訳ありません、カイナス副官。彼女は私の知り合いですので心配になりました。失礼します」


ゴメンね、と目で謝る。エドは今度聞かせてもらうぞ?というような目をしていた。
うう、学園で鉢合わせないように気をつけよう。あの顔は納得しないと離してくれないかもしれない。

来客用の部屋へと案内され、お茶を用意してもらった。
カイナス副官はアナスタシアさんが来るまでここで待っていてくれるようだ。


「サヴァンとは仲がいいのかい」

「前に欲しかった食材を見つけてもらった縁がありまして。彼の懇意にしている商会を紹介してもらったんです」

「なるほど、サヴァン伯爵家なら顔が広そうだ」

「カイナスさん、私にばっかり質問してズルくないですか?」

「仕方ないじゃないか。君は何も教えてくれないだろ?なら俺の方からどんどん質問しないとね」

「じゃあ私も質問しますね。カイナスさんはどうして近衛騎士になったんですか?」

「ん?それは簡単だね。団長に聞いたかもしれないけど、俺は侯爵家の次男でね。侯爵家を継ぐ訳でもないから、別の貴族の家に婿入りするはずだったんだけど、その相手を他の奴に取られてしまってね。唯一できたのが騎士になる事だったんだ。
貴族の子息、ってのは家を継ぐ以外は他の家に婿入りするか、騎士になるかなんだよ」

「そういうものなんですか?」

「まあそうだね。騎士になれば働き次第で男爵位までは授かる事もできる。伯爵位は限られるけれどね」


そうなのか、騎士になるって結構出世しようと思えばある程度の爵位を授かる事もできるのか。
それこそ団長とか副官の座を得る事ができれば、爵位をもらえるようになるんだ。

となると、カイナス副官も個人の爵位をもらえる?のかな。


「じゃあカイナスさんは?」

「俺も一応伯爵位を持ってる。だから『カイナス伯爵』になるね」


カイナス副官によると、騎士団に入り、ある程度の昇進…つまり武勲を立てると皆一律『騎士位ナイト』の称号を得るそうだ。
また、さらにひと握りとなり何かしらの基準があるが、大隊長職で男爵位、副官で伯爵位など、爵位を授かるのだそうだ。
これは王家からその時々で叙勲が行われるそうで、カイナス副官は既に伯爵位を授かっているらしい。

それを名乗ってもいいんだろうけど、お家の事情があるようでまだ『カイナス伯爵』とは名乗っていないとか。
大抵、騎士団から抜けると『男爵』とか『伯爵』とか名乗るようになるみたい。あと結婚する時も。お相手の家とか絡むからね。


「カイナスさん伯爵なんですね、だったらホントに結婚相手なんて選り取りみどりじゃないですか」

「・・・そう簡単にはいかないんだよ?」

「カイナスさんに探す気ないですもんね」

「そんな事ないよ」

「じゃあ『彩華宴』でしたっけ。明後日、夜会ありますよね?行ってくださいね」

「・・・なんでそんな事知ってるんだい?」

「私貴族の友達いますので話だけは聞くんです」


そう、これはエリーから聞いた。なんでもお花見の季節って事で、『春の夜会』としては大きなものらしい。
王城で美しく咲く庭の花をこれでもかと飾り、昼から夜までやるらしい。疲れそう。

私はその次の日にシュレリア様からお茶会に誘われています。夜会じゃないからOKしたけど。


「私、友達に言っておきますからちゃあんと行ってくださいね!」

「・・・参ったな勘弁してくれないか」

「大丈夫ですよ、今年は第一王子っていう大きなエサがありますし、蓬琳の第一皇子もいるそうですから」


そう、二大プリンスが出ちゃうんです。え?カーク王子?彼はほら婚約者いるから。二大プリンスはまだ婚約者がいないという事で、現在フリーのお嬢様達はドレスの注文に躍起になっているそうだ。どこのクチュリエもてんてこ舞いだとか。

見たいなぁと思いはしたが、私は私で始祖マデインの日記という一大イベントを控えているのでそんなチャラついた所に行っているヒマはない。


「君は行かないのかな?」

「そんな事してる暇ないんですよ。アナスタシアさんから借りた本に付きっきりになりますから」

「そんなに読むのが大変な本なのかい?」

「ええ、私のこれからの人生を決めるくらいに」


大げさに聞こえたかもしれないが、本当の事だ。
ここに何が書いているのかによって、私の今後の方針が変わるかもしれない。学園行ってる場合じゃないかもしれないし。

そんな話をしていると、アナスタシアさんが入ってきた。


「待たせたね、姫」

「いえ、カイナスさんがいてくれましたから」

「ご苦労、カイナス」
「いえ、とんでもありません。それがお探しの『本』ですか」

「何か聞いたのか?」

「ええ、お嬢さんが『人生を変えるかも知れない本』だと」

「・・・そうかもしれないな」


私へとそっと渡される本。適当なページを開けば、そこには知らない言語が踊っていたが、意味はわかった。
大丈夫、問題なく読めそう。それが顔に出たのか、アナスタシアさんは柔らかい声を出す。


「大丈夫そうだな、姫」

「はい、読めそうです。ありがとうございます」

「その他に後数冊ある。とりあえず一冊でいいだろう。読み終わったらまた次を渡す。それでいいな?」

「はい、全部借りると読み終わるまで寝れなさそうなので、その方がいいかもしれません」


今だって、すぐに読みたい衝動を抑えるのがやっと。でも怖い、と感じる気持ちもある。
私は意識していなかったが、カイナス副官が添えてきた手に、自分の手が震えていた事に気付かされた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...