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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む「いやあ、あはは、色んな事があるもんですね」
「お嬢はホントに引き出し多すぎだろう」
「どうしたらあんな魔法になるんですか」
「いやこうなったら格好いいなって思って・・・捕縛魔法自体は授業で教わったんですよ?それからセバスさんに相談してこうしたい、って言ったらアドバイスくれてああいう事に」
「セバスチャン殿か・・・」
「授業してくれた先生も、イメージ次第で色んな物を具現化できるって言ってましたし」
「誰だよそのマッドな教師」
「お嬢さん、担当教師の名前はなんと仰るんです?」
「えーと、カーター・ツァイスって」
「・・・『論理の魔術師』かよ」
「あの人ですか、いいんですかね教師にして」
「あれ、お知り合いですか」
「ああ、まぁな。ゼクスレン殿と同じく魔術研究所の有名人だ。既存の魔法をアレンジして別の魔法を産み出す天才だな」
「凄い人なんですけどね。たまにとんでもない事する人なんで・・・しかしお嬢さんの担当教師とは」
なんか問題ある人だったのかな?でも私にはわかりやすい説明してくれるいい先生なんだけど。
確かにキャズなんかはちょっと苦手そうだけど、私にしてみれば魔法を学ぶ上でわかりやすく説明してくれる先生はありがたい。
団長さんの執務室に行くのに、カイナス副官の部屋から書類も移動させた。なんかゲンナリした団長さんだけど、仕事はしないとね。アナスタシアさん帰ってきてから怒られる方がいいならいいんだけどね。
運び終わると、ちょうどアナスタシアさんが戻ったようで執務室に入ってきた。
「帰ったぞ。フリードリヒ、それが終わるまで家には帰ってこなくていいからな」
「サクッと言ったな!」
「この机を見れば一目瞭然だろう。カイナスに任せてサボっていたな?働かぬ者に食わせる飯はない。カイナス、終わらせるまで部屋から出すな」
「了解しました」
「さて姫、待たせたな。兄上から話は聞いたか」
「はい。私に『本』を貸してもらえますか?」
「・・・わかった、持ってくるから待っていなさい。今日は私が別邸へと送る。カイナス、空いている部屋は?」
「来客用の部屋が空いてます。案内しますか?」
「頼む」
サッサと指示を出して部屋を出ていくアナスタシアさん。颯爽と去っていく後ろ姿は宝塚のスターのようです…
「では、行きましょうかお嬢さん。団長、真面目にやれば二時間あれば終わりますよ」
「くそ、それが一番苦手なんだよ!」
私はカイナス副官に促されて部屋を出る。カイナス副官が戻るまで別の騎士さんが部屋の前で見張るらしい。
アナスタシアさんはしっかり見張り用に人を連れてきていたようだ。
「本を借りに来たんですか?」
「はい、そうです」
「アナスタシア様も言付けてくだされば渡しておいたんですがね。何か話をしに来たんだと思っていたよ」
「大事な本みたいなので、手渡しがいいと言われましたら」
仮にもタロットワーク始祖の日記、なんて他人に預ける訳にはいかないだろうな。他の人が良くてもアナスタシアさんは渡さないと思った。
来客用の部屋へと移動中、ドラン達が休憩しているのが見えた。ふとエドがこちらを向き、驚いた顔をしてこちらへ来る。
「コズエ?何してんだここで」
「ちょっと野暮用。エドは訓練なのでしょ?頑張って」
「サヴァン、休憩中かもしれないが、戻っていなさい」
「申し訳ありません、カイナス副官。彼女は私の知り合いですので心配になりました。失礼します」
ゴメンね、と目で謝る。エドは今度聞かせてもらうぞ?というような目をしていた。
うう、学園で鉢合わせないように気をつけよう。あの顔は納得しないと離してくれないかもしれない。
来客用の部屋へと案内され、お茶を用意してもらった。
カイナス副官はアナスタシアさんが来るまでここで待っていてくれるようだ。
「サヴァンとは仲がいいのかい」
「前に欲しかった食材を見つけてもらった縁がありまして。彼の懇意にしている商会を紹介してもらったんです」
「なるほど、サヴァン伯爵家なら顔が広そうだ」
「カイナスさん、私にばっかり質問してズルくないですか?」
「仕方ないじゃないか。君は何も教えてくれないだろ?なら俺の方からどんどん質問しないとね」
「じゃあ私も質問しますね。カイナスさんはどうして近衛騎士になったんですか?」
「ん?それは簡単だね。団長に聞いたかもしれないけど、俺は侯爵家の次男でね。侯爵家を継ぐ訳でもないから、別の貴族の家に婿入りするはずだったんだけど、その相手を他の奴に取られてしまってね。唯一できたのが騎士になる事だったんだ。
貴族の子息、ってのは家を継ぐ以外は他の家に婿入りするか、騎士になるかなんだよ」
「そういうものなんですか?」
「まあそうだね。騎士になれば働き次第で男爵位までは授かる事もできる。伯爵位は限られるけれどね」
そうなのか、騎士になるって結構出世しようと思えばある程度の爵位を授かる事もできるのか。
それこそ団長とか副官の座を得る事ができれば、爵位をもらえるようになるんだ。
となると、カイナス副官も個人の爵位をもらえる?のかな。
「じゃあカイナスさんは?」
「俺も一応伯爵位を持ってる。だから『カイナス伯爵』になるね」
カイナス副官によると、騎士団に入り、ある程度の昇進…つまり武勲を立てると皆一律『騎士位』の称号を得るそうだ。
また、さらにひと握りとなり何かしらの基準があるが、大隊長職で男爵位、副官で伯爵位など、爵位を授かるのだそうだ。
これは王家からその時々で叙勲が行われるそうで、カイナス副官は既に伯爵位を授かっているらしい。
それを名乗ってもいいんだろうけど、お家の事情があるようでまだ『カイナス伯爵』とは名乗っていないとか。
大抵、騎士団から抜けると『男爵』とか『伯爵』とか名乗るようになるみたい。あと結婚する時も。お相手の家とか絡むからね。
「カイナスさん伯爵なんですね、だったらホントに結婚相手なんて選り取りみどりじゃないですか」
「・・・そう簡単にはいかないんだよ?」
「カイナスさんに探す気ないですもんね」
「そんな事ないよ」
「じゃあ『彩華宴』でしたっけ。明後日、夜会ありますよね?行ってくださいね」
「・・・なんでそんな事知ってるんだい?」
「私貴族の友達いますので話だけは聞くんです」
そう、これはエリーから聞いた。なんでもお花見の季節って事で、『春の夜会』としては大きなものらしい。
王城で美しく咲く庭の花をこれでもかと飾り、昼から夜までやるらしい。疲れそう。
私はその次の日にシュレリア様からお茶会に誘われています。夜会じゃないからOKしたけど。
「私、友達に言っておきますからちゃあんと行ってくださいね!」
「・・・参ったな勘弁してくれないか」
「大丈夫ですよ、今年は第一王子っていう大きなエサがありますし、蓬琳の第一皇子もいるそうですから」
そう、二大プリンスが出ちゃうんです。え?カーク王子?彼はほら婚約者いるから。二大プリンスはまだ婚約者がいないという事で、現在フリーのお嬢様達はドレスの注文に躍起になっているそうだ。どこのクチュリエもてんてこ舞いだとか。
見たいなぁと思いはしたが、私は私で始祖マデインの日記という一大イベントを控えているのでそんなチャラついた所に行っているヒマはない。
「君は行かないのかな?」
「そんな事してる暇ないんですよ。アナスタシアさんから借りた本に付きっきりになりますから」
「そんなに読むのが大変な本なのかい?」
「ええ、私のこれからの人生を決めるくらいに」
大げさに聞こえたかもしれないが、本当の事だ。
ここに何が書いているのかによって、私の今後の方針が変わるかもしれない。学園行ってる場合じゃないかもしれないし。
そんな話をしていると、アナスタシアさんが入ってきた。
「待たせたね、姫」
「いえ、カイナスさんがいてくれましたから」
「ご苦労、カイナス」
「いえ、とんでもありません。それがお探しの『本』ですか」
「何か聞いたのか?」
「ええ、お嬢さんが『人生を変えるかも知れない本』だと」
「・・・そうかもしれないな」
私へとそっと渡される本。適当なページを開けば、そこには知らない言語が踊っていたが、意味はわかった。
大丈夫、問題なく読めそう。それが顔に出たのか、アナスタシアさんは柔らかい声を出す。
「大丈夫そうだな、姫」
「はい、読めそうです。ありがとうございます」
「その他に後数冊ある。とりあえず一冊でいいだろう。読み終わったらまた次を渡す。それでいいな?」
「はい、全部借りると読み終わるまで寝れなさそうなので、その方がいいかもしれません」
今だって、すぐに読みたい衝動を抑えるのがやっと。でも怖い、と感じる気持ちもある。
私は意識していなかったが、カイナス副官が添えてきた手に、自分の手が震えていた事に気付かされた。
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