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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む次の日、授業が終わって近衛騎士団施設へ行こうとする私。ふと、中庭に人が集まっているな、と気付く。
何かあったのかな?平民生徒、貴族生徒問わずいる所を見ると…
…。
……。
これは…イベントフラグ回収の予感!!!
きっとゲームだったら私の頭の上にピコーン、と電球マークでも付いたかもしれない。
私はササッと近寄り、人の間から覗き込む。
えー、見えません。
「うー・・・」
「見えないの?」
「もーちょっと左・・・!」
「背が低いって大変だね」
「喧嘩売ってる?・・・ってステュー」
「やあ久しぶり。元気してた?」
私の横で面白くなさそうに返事するイケメン。
彼は長身を生かして皆の頭の上から騒ぎの中心を見ている。くそう、悔しい…
「何見えるの?」
「そうだね、留学生があのうるさい子に話しかけてるみたいだよ」
「うるさい子・・・?」
「僕の演奏を勝手に聞いては勝手に拍手していく子」
「わかりづらい!」
「アレだよアレ」
ちょっと退いてくれる?と周りの生徒に氷のような微笑み。女子生徒は見蕩れて横に退き、男子生徒は引きつって退く。
人垣が割れて見えたのは、アリシアさんと、話しかけている男子生徒。黒髪を結い上げ、サイドに細い三つ編みを垂らす。片耳に特徴的なピアス。大きく長い楕円形。
色鮮やかなバンダナがオリエンタルな雰囲気を醸し出している。
「あの人が留学生?」
「そうみたいだね、僕も今日初めて見たから」
「ステュー?」
「僕、新学期になってから今日が初登校なんだよね。ずっと演奏旅行してたからさ」
「えっ、そうだったの?」
「うん、周りの国を回ってた。あ、これお土産ね。あげる」
はい、と持っていた紙袋を私に。中を見ると色々な小箱が入っていた。これ何入ってるの?
「ピアスとか、指輪とか。そんなに高くないやつ選んどいたよ。君が普通に付けられるようにね」
「え、いいの?」
「うん、だから僕のピアノ練習聞きに来てね」
「わかった、それくらいはね」
しかし、さすがはアリシアさん…!
留学生とのイベントを引き起こしているとは!さすがの乙女ゲーヒロイン!何もしてなくても向こうからイベントやって来るのね!
何を話しているんだろう?耳をすませると、少しだけ会話が聞こえてきた。
「お前がアリシア・マールか?」
「え?はい、そうですけど。どなたですか?」
「俺は『蓬琳皇国』第一皇子、高星という」
「へっ!?皇子様!?」
「見てくれも悪くない。お前、俺の国へ来い。正妃が嫌なら、側妃でもいい」
「えっ?ええっ!?」
くい、とアリシアさんの顎を摘んで持ち上げる。
彼女の顔を覗き込み、ニッと微笑んだ顔は紛れもなく王者の顔だ。
傲慢で、不遜で、自信家の顔。
けれど彼にはその表情がこの上もなく魅力的だ。
アリシアさんも顔を真っ赤にして、はくはく、と口をパクパクさせていた。
「・・・餌を強請る魚みたい。金魚だね」
「冷静に解説しないで、ステュー」
「ま、いいんじゃない?玉の輿だよ?蓬琳皇国って『聖』属性の魔力持ち少ないし」
「あー、なるほど」
「そんな事言ってないで助けてくださいよぉ、コズエさんっ」
はっ!と我に返ったアリシアさん。私とステューがいるのに気づき、助けを求めてきた。
そんなアリシアさんの行動を笑って見ている高星皇子。
ひた、と、私とステューを見て近付いてきた。
「ほう、ステュアート・カーティスか。お前の演奏は聞いたことがある。心に響く美しい音楽だ」
「それはどうも、高星皇子」
「お前のその誰を前にしても変わらない態度も俺にとっては好意的に映る。人前でコロコロ態度を変える奴は信用ならないからな。・・・そっちの女は?お前の女か」
「今のところ違います」
「今じゃなくても違います」
「あ、酷いなぁ、今後君が僕に惚れない可能性がない事もないでしょ?」
「ステューの音楽は好きだけど、ステューの彼女になるのは無理があるわ」
「やれやれ、ガード硬いなぁ」
「はっはっは、なるほど身持ちの硬い平民生徒か。口説き落とすのも難しい遊びだな、カーティス」
私の目の前まできて、彼は私に膝をついて手を取る。
・・・おや?アリシアさんみたいに無理やり視線を合わせると思ってたから警戒したんだけど。
手に口付け、私と目を合わせた彼の視線は強い。
何か強い意志を持つ、青の瞳。
立ち上がりざま、彼は私にだけ聞こえる小声で囁いた。
『正式な挨拶はいずれまた』
「っ!?」
ばっ、と彼は身を翻し、脇に控えていたお付きの人間と共にその場を去っていった。
…何?正式な挨拶、って何?
「どうしたの、コズエ」
「だ、大丈夫でしたか?コズエさん?」
「ん、いや、大丈夫」
「それにしても、気に入られたねキミ。気をつけないとカーク王子と彼で国交問題に進展するから気をつけなよ」
「えっ!?何でですか!?」
「カーク王子と高星皇子で君を取り合うだなんてどうでもいい事で国交問題に発展させないでよね、って事」
んじゃあね、とヒラヒラ手を振りながらステューは帰っていってしまった。学園に来たのは、私にお土産渡すためだから、と言って。
いや、授業は…?まぁステューみたいな貴族の嫡子になると学園って勉学より貴族同士の社交場だもんね。
混乱しつつあるアリシアさんをなだめて、私は当初の目的である近衛騎士団施設へと向かう事にした。
********************
学園から近衛騎士団施設は割と近い。歩いても行けるので、私は散歩代わりに歩いて向かった。
アナスタシアさんに会いたいという事を伝えると、騎士さんが奥の部屋へと案内してくれるみたいだ。
この間とは違う部屋の前でこちらへ、と促されて中へ。
「失礼します・・・って、アレ?」
「いらっしゃい、お嬢さん」
中には机で仕事をするカイナス副官。近衛騎士団副官だけあって、書類仕事もあるようだ。
どうぞ、と椅子を進められて座ると、すぐにお付きの騎士さんが飲み物を持ってきてくれた。
「すみません、ちょっと手が離せないので少しだけ待っていて下さいね」
「え?あ、はい。でもあのー」
カリカリカリ、とペンを進めるカイナス副官。
うむ、真剣に仕事をするイケメンは見る価値ある。
5分ほどだろうか、一定の書類を見終えたカイナス副官は席を立ち、私の方へ来た。
向かい側のソファへ腰を下ろし、私に対してにこやかに微笑む。
「すまないね、待たせた」
「女を待たせるなんて酷い人」
「・・・そんなセリフはちょっと早いんじゃないかい?」
「そうですね、このセリフはベッドの上でないと」
「グフッ」
スマートにお茶に口を付けるタイミングでブラックジョークを飛ばしてみる。見事にむせた。
「まぁ冗談です。私アナスタシアさんに会いに来たんですけど」
「っ、ゲホゲホっ、大人をからかわないで下さいよほんとに。すみません、アナスタシア様は会議に行っているんです。小一時間程で戻ると思うんですが」
「会議、ですか」
あー、そうか。その可能性考えてなかった…
やっぱり先に通信魔法飛ばしておけば良かったな。そう思うとカイナス副官は先取りしたように告げる。
「アナスタシア様にはこちらから通信魔法を飛ばしました。すぐに戻るからもてなすようにと」
「そうですか、わかりました。カイナスさんお忙しそうですから、私適当に暇つぶしますから構わなくていいですよ」
「そういう訳にもいきませんよ。アナスタシア様が戻られるまで俺では不足ですか?」
「そういう訳でもないですけど。その机の上の書類の山見ちゃうと」
ああ、とカイナス副官も苦笑する。
「この書類はほとんど団長に行くものですから大丈夫ですよ。俺の見る分は済んでますからね。後はこれを団長の部屋に移動させるだけです」
「・・・フレンさんこういうの嫌いそうですね」
「いつもいつも逃げてはアナスタシア様が捕まえて執務室に監禁してますから」
ああ…目に浮かぶ…
アナスタシアさんが不在時はさっと逃げてしまって捕まらない。なので一時的にカイナス副官の所へ来るそうだ。
カイナス副官もさらっと目は通すようにはしているらしい。急ぎの物は先に通すのだとか。
「・・・苦労してますね」
「いつもの事です」
「・・・なら、ちょっと手助けしましょうか?」
「お嬢さんが?」
「追い込んでもらえたら捕まえられると思いますよ?」
こないだ習った魔法、セバスさんに協力してもらってアレンジしたんだよね。まだ数回しか実験してないからちょっと試したかったり。
団長さんなら頑丈だし、ちょっとくらい平気だよね?
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