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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む近衛騎士団の施設から帰ってきた日、ゼクスさんから話を聞きたいと思っていたんだけど、仕事が忙しいみたいで数日お屋敷には戻って来なかった。
早く帰ってこないかな、と待っているうちに日は過ぎ、新学期が始まった。
二年に進学し、私は魔術科の所属となった。
ディーナやドロシー、メグとは専攻科が違うので授業はほとんど別々。
この学園は基本知識を一年次に全て学ぶので、あまり会わなくなってしまった。
それでもお昼くらいは、と食堂に集まってランチをしながらお互いの話をしたりして、友情を育んでいる。
魔術科の授業は、魔法の基礎理論から始まってそれぞれの魔法の有用性や応用についてしっかりと学べる。
個人の理解度によって、カリキュラムはある程度バラツキがあるので、個別に授業が組まれる。
理解度毎にチームを組んで、大まかにはそのメンバーでカリキュラムを進め、足りない部分は別枠で個別指導が行われるという形だ。
「また一緒だねキャズ!」
「まあこうなるわよね」
「色々聞けるからキャズいると便利だよね」
「それは私もだけどね。しかしコズエは攻撃魔法に全く適正ないっていうのがね・・・」
一ヶ月ほど経ち、色々授業を受ける中で実技テストがあったが、私はやっぱり攻撃魔法は発動しなかった。
元々そういう事を学園側にも申し出ていたんだけど、もしかしたら?という事もあり、カリキュラムには組み込まれていたんだけど無理でした。
まあ使えなくてもなんとかなるって。
とりあえず結界魔法は上手く使えるしね!
…ところでバリアとシールドって違うの?
個別に魔法あるの?と思っていたら別にありました。
結界魔法は自分の周りに半球状の防御幕を展開する魔法。
防盾魔法は任意方向に不可視の盾を発生させるものらしい。こちらは可視・不可視は術者本人のイメージ次第で自由自在だとか。なんか格好いいやつにもできるよ!と担当教師に熱弁されました。
私的には結界魔法は鳥籠みたいな感じで発生させたいなぁとか思っていて、そこをうまく展開できるようにしようと思案中です。
こういうの、想像力次第でアレンジ可能っていうのがまたたまらなく楽しい…マニア心をくすぐるわ!
初級魔法を教えてもらい、実技テストをした結果、攻撃魔法は無理、支援魔法や生活魔法、治癒魔法は問題なし、との事。
********************
今日も授業を一通り終え、いつものようにお屋敷へと帰ってくると、セバスさんが迎えてくれる。
何やら神妙な顔をしているな、と思ってたらゼクスさんが帰ってきています、と教えてくれた。
「セバスさん?ゼクスさんに私が話したいことあるって言いました?」
「はい、お伝えしてあります。準備が整いましたら、旦那様の書斎へお越しください」
「わかりました」
私は一人で自室へ戻り、着替えを済ませる。
アナスタシアさんの所から戻ってきてから、ずっとゼクスさんと話をしないとと思っていた。
けれどゼクスさんも忙しく、なかなか屋敷へと戻って来ていなかった。仕事を優先してもらいたかったので、時間を作ってくださいとだけ伝えてもらっていたのだ。
あれからひと月。ゼクスさんの方でも私に話す内容をまとめてくれたと思う。時間稼ぎとは思わないけれど、あちらにも私に話せる事と話せない事もあるだろう。
私は部屋の前でひとつ深呼吸。
コンコン、とノックをすると『入りなさい』といつもより静かな声が響いた。
「今大丈夫ですか?」
「ああ、構わんよ。待たせてスマンの」
「いえ。その代わり『期待』していますよ」
「・・・わかっとるわい」
とほほ、とという顔をするゼクスさん。
言いたくなかったのかな?いつまでもこうやってのんびり過ごしていたいと思うのは私も同じだ。
だけど進まなければいけない。帰還方法を諦めてはいないのだ。まだ何も始まってなんていないんだもの。
ソファに腰掛け向かい会う。
いいタイミングでセバスさんが来て、お茶を入れてくれる。そのまま部屋を出ていくかと思えば、ゼクスさんの後に控えて立つ。
私がその様子を見ると、セバスさんも頭を下げて断りを入れた。
「本日のお話には私も同席させていただきます」
「私は構いません。説明は二度手間でしょうから」
「そうか、スマンの。・・・アナスタシアからは何か聞いたかの、コズエ殿」
「アナスタシアさんにとって私が『護るべき者』という事だけです。これ以上はゼクスさんに話を聞くようにと。」
「そうですか。では、お話しましょう」
長い、話だった。
いつの間にか、陽が傾き、途中で夕食を挟むくらい。
その間、私はゼクスさんの、いや『タロットワークの物語』を聞いていた。
セバスさんは微動だにせず、ずっと後ろで立っていた。
********************
それはアナスタシアさんが5歳の頃。
ゼクスさんは当時22歳。流行病があった事で、一時期子供が産まれても上手く育たない事があった。
タロットワーク家でも子供が産まれてもすぐに亡くなっていたそうだ。だからゼクスさんとアナスタシアさんは親子近く年の差がある。
高熱を出し、三日三晩眠り続けたアナスタシアさん。ようやく熱が引いて起き上がれる様になると『不思議な夢を見た』と言うようになった。そしてその夢は毎日のように見るのだと。
アナスタシアさんは小さな頃から、不思議な夢を見る子供であったらしい。その為『小さな聖女』と呼ばれる程だったそうだ。大人しく淑やかな子供であったとか。
「・・・大人しい?アナスタシアさんが?」
「ええ。高熱で寝込むまでは、です。小さい頃のアナスタシアは本当に大人しく女らしい子供でしたぞ」
「はい、お可愛らしいお人形のようでした」
今のアナスタシアさんからは想像つかない…だってものすごい凛々しく格好いい女の人ですが…?
目覚めたアナスタシアさんがおかしい、とお付きのメイドから報告を受け、ゼクスさんが話を聞きに行ったそうだ。
アナスタシアさんはしっかりとした口調で、夢に見た事を話した。そして城の地下にある宝物庫に行きたいと。
ゼクスさんはアナスタシアさんを抱き上げて、宝物庫へ向かったらしい。妹が単なる興味で宝物庫へ行きたいなんて言わない子である事は、兄であるゼクスさんが一番良く知っていた。
その時、第一王位継承者であり、王太子として教育を受けるゼクスさんは父親の国王…ジェムナス・タロットワークに許可を取って宝物庫へ向かった。
途中、先祖の絵がかかっていた回廊の途中で、アナスタシアさんは『夢に出たのはこの方です』と指差した。
その人こそ、タロットワーク一族始祖、『マデイン・タロットワーク』その人だった。
マデイン・タロットワーク。
タロットワーク一族始祖であり、このエル・エレミア建国の祖。小さな独立国家から、周辺の小国家を統廃合し、現在のエル・エレミアの基礎を作り上げた女傑。
大いなる魔力を有し、慈悲深く、人を惹きつける器量を備えたカリスマ性のある魔術師であったそうだ。
そして二人で降りた宝物庫で、アナスタシアさんはひとつの鍵を取り出した。
『夢で貰いました。これで開く箱がどこかにあります』
その言葉を鵜呑みにした訳ではないが、探してみると奥に安置された鍵付きの箱。その中には始祖の残した数々の魔術書と日記が数冊あった。
筆跡は間違いなく、始祖マデインのもの。公式に残された書類や魔術書と同じ文字に、夢であったその人は間違いなく始祖なのだと確信したようだ。
「・・・物語みたいですね」
「そう思えれば楽だったんですがな。アナスタシアの魔力パターンはどうやら始祖マデインと同じらしく、それ故に夢という形でメッセージを授かったのでしょう。
鍵付きの箱は、始祖マデインが自ら魔法で鍵を掛けていたようで、父や儂では開けられなかったのです。しかしアナスタシアにはあっさりと開いた」
「魔力パターン、ってわかるものなんですか?」
「ええ、わかりますよ。人によって違うものですからな。使った魔法を調べれば、それが誰の使ったものかわかるようになっているのです。
残された魔術書、魔法具、それらから始祖マデインの魔力パターンは記録に残っています。そしてその魔力パターンはアナスタシアと同じ。もちろん子孫ですからこういったことは珍しくもない。これまでに同じ魔力パターンの子孫がいなかったとは言えませんが、珍しいでしょうな」
なるほど、魔法でメモリーを残していたみたいな感じかな。アナスタシアさんがその始祖さんの残したメモリーを読み取れるように成長し、その結果の高熱という事も考えられる。
ほら、重いデータを取り込んだらパソコンも熱くなっちゃったりするもんね。
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