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学園生活、1年目 ~春季休暇~
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しおりを挟むアナスタシアさんがフレンさんと交代し、騎士さん達への訓練はまず基礎訓練からのようだ。
腕立て、腹筋からみたいだけれど、それってさっきアナスタシアさんと撃ち合いする前にやるべきなんじゃ…?
「どうかしたか、姫」
「いえ準備体操にしては遅いんじゃないかなと」
「ああ、あれか。あれは今の状態を見て、カイナスが相手をするかフリードリヒが相手するか吟味しているんだろう」
「なるほど、そういう事なんですね」
「近衛騎士達はいいが、先程加わった王立騎士団の者達は体を解さないとケガをするからな。もしも怪我人が出ても近衛騎士達は治癒魔法を使える者がいるから、姫は手を出さずともよい」
アナスタシアさんはそういうと、少し離れた場所に腰を下ろすよう促してきた。
いつの間に持ってきたのか、そこには簡易的な椅子が。
近衛騎士さんの一人がぺこりとお辞儀をして、また他の騎士達の所へ戻る。
私は遠慮なく腰掛けて、訓練を眺める事にした。
「姫の知り合いというのは、ドラン公爵の息子か」
「そうです、オリヴァー・ドラン様ですね。学園でもカーク王子の側にいつもいますよ」
「アレは確か第二王子の側近候補だったな。本人は堅物で真面目な気質であったと思うが。何にせよ力を付けて、近衛騎士団に入れるまでにならないと側近にもなれはすまい」
「そういう物ですか?第二王子が臣下へ降りたとしても、側近は近衛騎士でないといけないんですか?」
仕える主が王族であるならば、護衛として近衛騎士である事は必須だと思うんだけど。臣下に降りるとしたらそこまで護衛を付けないといけない訳ではないのかな?と思うけどね。
でもドラン本人としても、単なる王国騎士よりも近衛騎士である方が地位としては上だと思うから、ないよりはある方がいいかもしれない。
「ドラン本人の為に、という方が大きいかもしれないな。このまま第一王子が王太子となるならば、第二王子は公爵か、あるいは大公位を授かるかもしれない」
「大公位、ですか?」
「そうだ。一代限りの爵位となる。次世代の子供には公爵位が与えられることになるだろう。現在のタロットワークもいわば大公位と同義だからね。
兄上は面倒だと言って受け継がなかったが」
「あの、アナスタシアさん。なぜ私を『姫』と呼ぶのですか?」
これを聞かないと始まらない。
どうしてアナスタシアさんは私を『護るべき者』だなんて言うんだろう。何を知っているの?
すると、アナスタシアさんは静かに私に跪く。
「私は幼い頃、高熱を出して生死の境を彷徨った。その時、私は夢でタロットワークの始祖と出会ったのだ」
「・・・始祖、ですか?」
「ええ。最初は誰なのかわからなかった。だが繰り返し同じ夢を見た。そして、始祖はこう告げた。『遥かな未来に訪れる客人を導いてほしい』と。何の事か理解出来なかったが、何度か同じ夢を見るうちに、私には何か役割がある、その為に力を付けなければと理解した。
国の為に、一族の為に。剣の才能があった事は僥倖だった。兄上は魔法に秀で、妹は商才に、弟達もそれぞれ剣の道、士官の道へと進んだ。王族でなくなったが故に、私達はそれぞれが違う道を選び、国へ尽くす事を選んだ」
確かに。長兄ゼクスレンは魔法の道へ。次男は王立騎士団へ、三男は官僚として、長女は近衛騎士団へ、次女は商人の道に。
タロットワーク家はそれぞれ違う方向へ才能を伸ばしていったわけで。しかし凄い人達だよね。
「そして今、夢で言われた通りに姫はここへ来た。ならば、私は姫の剣となる事が務め」
「で、でも、私特に何か使命とかないですよ!」
「ああ、構わない。私の役目は『いつか姫が帰るべき所へ帰るまで』姫を護る事なのだから」
「っ、」
「帰りたいのだろう?あるべき場所へ?姫」
「・・・はい」
「でしたら、迷わなくてよろしい。我等タロットワークは姫がくれる加護を対価とし、貴方に力を貸す。兄上に聞きはしなかったか?姫が王都に、このエル・エレミアにいるだけで『守護の加護』があると」
「え?あっ、なんか豊作だとかなんか・・・でも対価?対価って何のことなのか」
「そう、それがそうだ。しかし兄上もお人が悪い。全ての事を姫に話している訳ではないようだ。
帰ったら私から話を聞いた、と言うといい。その時全て話してくれるだろう」
ゼクスさん…話を小出しにしてたのか。
アナスタシアさんの事『怖い』って言ってたの、もしかしてまだ自分が話してないことがあるから、それを怒られると思って『怖い』って言ったんじゃ…?
でも、確かにここに来たばかりの私にあれこれ『加護』やら『対価』やら『守護』やら言われても頭がパンクしてただろうし、これで良かったのかもしれない。
「フリードリヒには全てを話してはいない。あれはタロットワーク一族ではない故、このような事を話した所で理解される事はないと判断した。
今、姫は私がこう言う事に疑問もあるだろうが、兄上から話を聞いてから判断してもらいたい。その時『今』私が何を言っているのかわかると思う」
「わかりました。ありがとうございます、アナスタシアさん」
「ふふ、子を産めぬ私にとって、姫は我が子も同然。その精神は私同様、淑女であろうが、ここは私に護られてほしい」
「あの、その病ですけど。どんな感じです?」
「・・・何故だ」
「・・・あちらの世界では婦人病は多数あります。かく言う私もかつて似た病にかかっていました。
もしかしたら、少しは治療できる薬か治癒魔法を創り出すこともできるかもしれないので」
「なるほど。私はもう期待してはいないのだ。あまり気にせずとも良い。私の『子供』はこの国に住まう全ての民と私に付く部下の騎士全てと思っている」
「アナスタシア・・・」
「それはいいな。姫、私の事はこれからそう呼ぶといい」
笑う顔は既に迷いなく、まるで『聖女』のように神々しいものだった。まさに『剣の女神』というにふさわしいかのようで。
私は心がぎゅっと握り潰されるかのように痛んだ。
********************
「さて、それでは私はドランを締め上げて来るとしようか」
「え?」
「先程から見ていれば、余程自分の腕に自信がある様子。あれでは今後の剣の修練に差し支えるだろう。このあたりで一度自信を折ってやらねば」
フフフ、と笑ってアナスタシアさんは去っていった。同じ騎士団員と打ち合いをしていたドランを引っペがし、直々に剣を交えだした。すぐに剣は跳ね飛ばされ、またすぐに拾いに行かされる。
…頑張れ、ドラン。これはきっと君のためになる、はず?
入れ違いにこちらへ来たのは、カイナス副官。
私の隣に立ち、フレンさんとアナスタシアさんが訓練を付ける様子を眺める。
「やれやれ、二人揃って元気だと思いませんか」
「・・・そうですね」
「・・・何か、ありましたか?」
「いえ。どうしてですか?」
「先程までのお嬢さんとなんだか違う様なので。団長やアナスタシア様と話された事で何かありましたか?」
こういう時は黙って知らないふりするのが大人の対応ではないのかな、と思うけれど、カイナス副官は彼なりに子供である私を心配しての事なんだろう。
それでも私は彼に返す言葉なんてないんだけど。
カイナス副官は私をじっと見ている。反応を返さない私を心配したのか、不審に思ったのか、しゃがみ込んで私と目線を合わせてきた。
「心配事ならば相談に乗りますよ」
「・・・そうですか?ならどうしてカイナス副官はおひとりなんです?将来を誓い合った方はこれまでいなかったんですか?」
「え」
カイナス副官はぱちくり、と目を見開いて驚く。
私は笑顔を作り、彼に質問を続けた。
「だってそんなに素敵なのにおひとりなんて。信じられないんですよね。どなたか好きな方がいたけど結ばれなかったとか?」
「いやそんな事は」
「なら・・・好みがうるさいとか?それとも理想が高くてなかなか決めきれない、とか」
「~~~、誤魔化す気ですね?」
「ごめんなさい、カイナスさん。これは誰かに話して解決とか、気が楽になるとか、そういう事じゃないんです。
私が、私の力で解決しないとどうしようもない事。心配してくれるのはとても嬉しいんですけど、ね」
私はそう言って微笑む。ごめんなさい、という気持ち。
カイナス副官は私を穴が開くほどじっと見て、ため息をついた。
「俺では力不足、ですね」
「そんな事ないですよ。気にかけてくれたって事が嬉しいので、声をかけてくれてありがとうございます。
・・・で、私の質問には答えてくれないんですか?」
そう聞くとカイナス副官は困ったな、と照れ笑い。
話題をすり替えた、という訳ではないけど。
でもこれは私が自分で解かないといけない問題だからね。
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