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学園生活、1年目 ~春季休暇~
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しおりを挟む「お?稽古に参加しに来たのか?久しぶりだなルーカス」
「そうなんです、今回はこのメンバーがお世話になります」
「よろしくお願いします」
先輩が近衛騎士団の人に頭を下げ、挨拶をしている。
散らばって休憩していた近衛騎士達も立ち上がり、体を動かし出していた。もう再開するのか。
アナスタシア様やクレメンス団長、副官殿はまだ奥であの平民生徒と話をしていた。
…彼女は関係者なのだろうか?
「そういえば、あちらにいる少女は?クレメンス団長のお知り合いですか?」
「ああ、そうみたいだな。アナスタシア様が『姫』と呼んでいたから身内なのかもしれない。俺達もよくは知らないんだ。知らなくていい事なんだろう、団長が言わないと言うことはそういう事だしな。アナスタシア様達の客人ってだけで十分だ」
先輩の問いに、知り合いなのだろう近衛騎士はそう答える。上官の判断は絶対、と絶大の信頼を置いているからこその答え。
俺としては彼女の素性を僅かなりとも知っているので、ただの平民生徒が近衛騎士団団長やかの姫将軍と知り合いという事がおかしいと思うのだが。
ここでタダの王国軍騎士である俺がどうこう言える立場ではないので、口を開く事はしない。
「お?そっちは期待の新人か?」
「ええ、まだ学園在学中の為、本格的に騎士団に入るのはまだ先になりますが。剣の腕は群を抜いています。ドラン、挨拶しろ」
「オリヴァー・ドランであります。ご指導よろしくお願いします」
「ああ、期待している。とはいえ、今日はその『指導』が誰になるかでよろしくで終わらないかもしれんがな」
チラリ、と団長達を見る。
さて、『護国の剣』フリードリヒ・クレメンスか、『姫将軍』アナスタシア・タロットワークか、『剣聖』シオン・カイナスか。
誰が訓練を担当するとしても、かなりの訓練となりそうだな。
********************
アナスタシアさん達が何をそんなに真剣に話し合っているのかわからないけど、向こう側ではアナスタシアさんの訓練から休憩していた近衛騎士達が立ち上がり始めていた。あれ?また何かするのかな?あれで終わりじゃないって事かな?
すると、奥の回廊から五人ほど、色の違う訓練着を来た騎士達が増えた。非番の人とか?
訓練着はグレー。デザインは同じに見えるけど。
ふと、中に見知った人を発見する。
あれってもしかして、オリヴァー・ドランじゃないの?まずいかな、思いっきり目が合ってる気がするけど。
私そんなに視力良くないから、この距離だとドランの顔がぼんやりだけど、向こうはしっかり確認できている気がする。
でも彼って無表情だから何を思っているか顔には出ないしね…でも気づいてない、なんて事はなさそう。
「どうした?姫」
「え?あ、お話終わったんですか?」
アナスタシアさんが私に話しかけてきたので、視線を彼等から戻す。三人とも私を見ていて、私の答えを待っているみたいだ。
「いえ、あちらの新しく来た騎士さん達の中に、見知った人がいた気がするので」
「おや、どなたですか?」
カイナス副官が反応し、振り返って集まっている騎士達を見る。色の違う訓練着の騎士を眺め、一人の騎士へ目を止めた。
「ああ、王立騎士団ですね」
「? 王国軍騎士、とは違うんですか?」
「いえ、同じですよ。ただ呼び方が様々なだけです。『王国軍騎士』とは私達近衛も含まれますからね。近衛騎士ではない国軍騎士達を『王立騎士団』と区別して命令系統を分けているんです」
「おー、さすが俺の副官、賢い」
「ホントですね、さすがはカイナスさん、素敵です」
「カイナス、剣を持ってこちらへ来い。もう一度私と勝負を」
「やめてくださいアナスタシアさん」
チャキ、と剣を抜こうとするアナスタシアさんを止める。
いやいやちょっと『素敵』って言っただけだから!
「カイナス、姫に近付くなら私に認められてからでなければ許さぬからそのつもりでいるように」
「心得ました、精進します」
「ああもう何が何だか」
はっはっは、とクレメンス団長はご機嫌で笑っている。
「いやマジ笑い事違いますよね?クレメンス団長」
「お嬢、俺の事はフリードリヒでいいぞ?長いからフレンだな、フレンと呼べ」
「そういう事じゃなくて」
「ん?何だシオンの事何でも教えてやるぞ?」
「それはそれで聞いときますけど」
「お嬢さん、あんまり大人をからかうもんじゃないですよ?」
困ったように笑うカイナス副官。
いやホント素敵。私の本来のどストライクゾーンに入ってるのよね、この人。歳をとるに連れて、やっぱり20代は若くて…30過ぎるとさすがに男もそれまでの女性経験とか人生経験で男の色気というか、旨味が出てくるって言うの?
渋さはまだ40超えてからだと思うからねえ。
カイナス副官とアナスタシアさんは二人揃って、訓練の為に騎士さん達の所へ。
クレメンス団長…いやフレンさんは私の側に立って行く様子はない。
「・・・フレンさんは加わらないんですか?」
「俺もあっち行ったらお嬢が暇だろ」
「いやまあそうかもしれませんけど」
「ま、途中でシオンと代わってやるからそれまで俺で我慢してくれや。それにしてもホントにシオンでいいのか?お嬢。もっと若いやつもいるぞ?」
「フレンさんて、私の事どこまで知ってるんです?というか、アナスタシアさんもですけど」
「アナスタシアはどうかわからんが、俺はお嬢の事はアナスタシアから聞いた」
異世界から来たこと、特殊な精霊の加護があり王国からの加護があること、タロットワーク一族が後見に立っている事。
何よりアナスタシアさんが『護るべき姫』としている事がフレンさんにとっては重要らしい。
いやもうそのアナスタシアさんの確信はどこから来てるのか聞いてみないとなあ…
しかし私の中身は30オーバーって事は知らない様子。だとすると私がカイナス副官ストライク!って思ってるのも変わった趣味とか思うわよねえ。
私だってドロシーの好みが私と同じストライクゾーンなことにちょっと心配しちゃったもんね。
「そうなんですか、じゃあアナスタシアさんと話さないとフレンさんとはこれ以上話せませんね」
「ん?そりゃどういう意味だ?」
「言葉通りの意味ですよ?」
「お嬢は俺の事信用してくれないのかー?」
「そうですね、『アナスタシアさんの旦那様』って事くらいの信用はありますよ」
ひっくり返してもそれ以上の信用はまだ置けない。だってこの人の事そんなに知らないし。
なんでも話していい訳じゃないしね。アナスタシアさんは『タロットワーク』だから話した所で大事にはならないだろう。
それに、ゼクスさんはアナスタシアさんに『全て』話したはずだ。だからこそアナスタシアさんは私を『護るべき姫』だなんて言い出したんだろうし。
『元王族』として『国の有益な人物』として認識したからこそ同性の自分が『護衛』となろうとしたのかなと。
…こんなふうに人の善意をまるっと信じられない所が私が素直じゃない所だよね。アリシアさんなら『ありがとうございます!』とかってお礼いうところだよきっと。
でも私はそんな簡単に信用できない。私の言葉がどう作用してしまうのかわからないから。
アナスタシアさんが旦那様であるフレンさんに言ってない事ならば、私は自分から情報を渡す訳にはいかない。
「面白くねえなぁ」
「・・・すみません、私は自分の身が一番可愛いので」
「なるほどな。なら今は諦めるとするか」
引いてくれた、とも思うけど。アナスタシアさんが何か自分に隠しているとは察しているんだろうな。私からそれを引き出そうとしていたのかもしれない。
伊達に近衛騎士団団長なんてやってないよね。剣の腕だけでなれるような役職じゃあないはずだ。
フレンさんも騎士達に訓練を付けるべく歩いていく。
アナスタシアさんに話しかけて、変わったようだ。
さて、私はアナスタシアさんと腹を割って話さなくちゃ。
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