異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、1年目 ~春季休暇~

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「手温い!次!」

「お、お願いします!」

「手を動かせ、手を!」

「くっ!!!」


全員、模擬剣を構えてアナスタシアさんに向かっていくけれど、二合、三合打ち合うと吹っ飛ばされてしまっている。
頭から仲間に突っ込んで行く人やら、伸びている人やら…


「あああああ」

「絶好調だな、アナスタシア」

「と、止めません?」

「無理だろう、アレは。それにこれはいつもの事だから気にしなくていい」


これ、普通なのか…騎士って大変だなぁ。
しかし見ていると、剣の腕に年齢は関係無さそうだ。若い子の方が未熟なのかと思いきや、割と食い下がって打ち合いをしていたりなんかする。

お、私の好みな感じの騎士様発見!


「あ、いい男」

「どれどれ?・・・お嬢、割と歳上が好みなのか」

「男って30前後からが色気が出てくると思いません?」


次の相手になるのだろう、一人の騎士。

ウォーミングアップをして備えている。
年齢は30前半かな?長身で細身ではあるけれど筋肉がしっかり付いた体付き。うーん、素敵だわ…


「おーい、アナスタシア、次のヤツ、お嬢が好みだってよ」

「えっ、ちょ、団長さんっ!」

「・・・そうかなるほど、では私が腕の方を確かめてやるとしよう」

「あああアナスタシアさんっ!別にちょっと素敵だと思っただけですよっ!?」

「任せておきなさい姫!貴方の身を任せるに値するかどうか確かめるだけですから!」


いやだから違うって!好みって言っただけー!
そんな交際を申し込んできた彼氏をぶっ飛ばすお父さんみたいな事言ってないでー!

名指しされた騎士もギョッとして構える。
ごめんなさいごめんなさい名も知らぬイケメンさん!
私が『あっちょっとタイプ♡』とか思ったばっかりに!

しかしアナスタシアさんの斬撃をかろうじて捌いている姿を見ると、これはかなりの手練れの様子。


「あ、あれ?あの人強いですね?」

「ああ、あいつは俺の副官だ」

「え?ええーーー!?」

「あれでもいいとこの次男でな。カイナス侯爵家のシオンってんだ。お嬢いい男に目を付けたなあ?あいつまだ嫁も婚約者もいないぞ?」

「えっ、チャンス!?」

「おーいアナスタシア、お嬢が嫁になりたいそうだぞー」

「はっはっは、任せておけ!」

「待ってー!!!ちょっといいなって思っただけですー!!!」


ぎらり、とアナスタシアさんの目が光った気がする。さっきまでの勢いよりさらに鋭さを増した動きに、副官さんは受け止めきれず体制を崩され、こちらへと吹っ飛ばされてき来た。ぎゃー!大変だ!!!

私は慌てて吹っ飛ばされて来た副官さんに駆け寄った。
脳震盪を起こしているかもしれない。団長さんは苦笑いしてあーあ、と言いながらしゃがみ込んだ。


「あああああ大変」


私はそっと膝枕をして、大きな怪我をしていないかチェックする。見た目には怪我してなさそうかな?
回復魔法ヒールを発動させて、意識を戻す。すると副官さんはゆっくりと目を開いた。


「おーお、よくやったなシオン」

「だ、団長・・・勘弁してくださいよ・・・」

「仕方ないだろ?いい男は女を守ってやられるもんだ」

「まあそりゃあそうですけど・・・」

「しかしお嬢の魔法は大したもんだな。あれだけ盛大にアナスタシアにやられておいてすぐに目が覚めるなんざかなりの腕前と見た」

「え?あ、」


シオン、と呼ばれた副官さんは私を仰ぎ見る。
私の膝枕で横たわっていることに気付き、ポリポリと頬をかきながら身を起こした。


「済まない、ありがとう」

「あ、いえお気になさらず」

「いい感触だったろ?」

「そうですね、って団長何を言わせてるんですか」


立ち上がり、カイナス副官は私に向けて手を差し出した。その手に捕まって私も立ち上がる。
やっぱりカイナス副官格好いいわー、なんでこの人独身なのかしら、周りの女性陣何をしているのかね、こんな素敵な人を放っておくなんて。


「どうだお嬢、いい男だろ」

「ええホントに。もったいないですねぇ私がもう少し歳上なら確実にアタックします」

「何言わせてるんですか団長・・・こんな若いお嬢さんに俺みたいなオジサンはもったいないですよ」

「そんな事ないですよ?男は30過ぎてからが一番色気があっていいですよね」

「・・・ってな訳だ。お前も案外捨てたもんじゃないな?」

「からかわないで下さいよ、団長、お嬢さんも」


そうよね、こんないい年齢な男が私のような小娘に『素敵』と言われた所で困るだけだろう。チッ、もったいない。
アナスタシアさんを見ると、変わらずどんどん騎士さんたちをちぎっては投げ、ちぎっては投げと繰り返している。

そうしているうちに全員総当りを終えたのか、アナスタシアさんはこちらへと歩いてきた。


「今日は調子がよかったな、カイナス」

「はっ、ありがとうございます」

「それにしてもあれだけ痛めつけたのに元気だな?足りなかったか?」

「いや勘弁して下さいよ、アナスタシア様」
「お嬢がさっき回復魔法ヒール使ってたからな、そのせいだろう」

「おや、姫が?」


じっとアナスタシアさんが私を眺めた。団長さんとカイナス副官まで。う、視線が痛いのですが?

すると、アナスタシアさんが団長さんとカイナス副官に対して爆弾発言をした。


「ではお前達二人で模擬戦してみたらどうだ?」

「は?」
「団長と、ですか?」

「そうだ、私だけでは姫もつまらないだろう?」


えっ?私に降る…?しかし団長さんが戦うところもちょっと見てみたいなぁとか思ったりしたり。
カイナス副官もまだ見てたいしなぁ。


「お嬢?見たいか?」

「遠慮なくどうぞ?お嬢さん」

「み、見たいです」

「そうだろう、決まりだな」


じゃあ張り切らないとなぁー、なんて言う団長さん。それに対してカイナス副官も苦笑いだ。


「安心しろカイナス。お前にはきちんとハンデを設けてやる」

「アナスタシア?」
「アナスタシア様?」


アナスタシアさんはポン、と私の肩に手を置く。
ん?私?私が何か?


「姫、カイナスの補助に入りなさい。好きなだけ魔法を使って構わない」

「えっ!?」

「元々姫を呼んだのはこの為だ。私とフリードリヒで戦うのもいいが、姫はカイナスを気に入ったようだからな?ならばここはフリードリヒとカイナスで男同士で戦ってもらおうじゃないか」

「おいおい、お嬢に補助に入られたら俺負けるだろ」
「そんな事ないでしょう、彼女の補助があっても俺が団長に勝てるとは・・・」


えーと、もしかしなくても団長さんも無双な感じなのかしら?アナスタシアさんレベル?だとすると私の魔法かけた所でそんなに変わるかな?

…まあ試しにやってみるのも面白そうだけど。

という事で?団長さん対カイナス副官のガチバトル。
アナスタシアさんは私が補助に入っていいって言ってたけど…私の使える魔法ってそんなにないんだけどなー?

と、思っている間に始まってしまった。
二人とも真剣な顔でガッチリ組み合い、剣を打ち合っている。…格好いいなぁ二人とも。
互角に見えているけれど、徐々にカイナス副官が押されていく。あっ、しまった身体強化魔法ブーストかけとこ。

私は大体の魔法が無詠唱で使える。とは言っても簡単な魔法ばっかりだしね?

一瞬副官さんの周りがキラキラっと光が散る。
すると明らかに動きが良くなった。あ、すごいや。
一流の剣士さんには効くもんだなぁ。私が使った時はクロスボウ持ち上げるの楽になった程度だったのに。
やっぱり基礎体力違うとこうも差が出るんだなぁ。

あ、こっそり団長さんに能力低下魔法ウィーク使っちゃお。


「っ! そりゃねーだろ、お嬢!」


あ、バレた。しかしこの魔法使うとどうなるんだろ?
これ自分で使うの嫌だし、とはいえ誰かに使った事なかったりして。


「はっはっは、愉快愉快」

「くっそ、負けてたまるか!」
「どうしました団長?今日は俺とお嬢さんの勝ちですね!」

「シオンお前覚えてろよー!」


ガキン!と音がして剣が飛ぶ。しかしそれは私とアナスタシアさんの方へ。
え?あ、危な…?

瞬間、目の前を銀色の閃光が走る。
キン、と軽い音を残して私の前に立つアナスタシアさんの剣が鞘に収まり、ポトリともう一本剣が落ちた。

あれ?何があったんだ?

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