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学園生活、1年目 ~春季休暇~
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しおりを挟むエリーと話していると、コンコンと扉のノックが。顔を見せたのはアルさんだった。
「エリザベスお嬢様、旦那様と奥様がコズエ様にご挨拶したいと」
「そう、通して差し上げて」
エリーの言葉に、アルさんは扉を大きく開く。入ってきたのは壮年の男性と女性。
アルさんによれば、この人達がローザリア公爵夫妻だろう。エリーの両親。
ローザリア公爵はゲオルグさんと同年代だろうか。しかしローザリア公爵夫人はかなり…若い?20代に見えますが…?
「はじめまして、タロットワークの姫君。エリザベスの父、キール・ローザリアと申します。こちらは私の妻のナキア」
「はじめまして、姫君。エリザベス様がお世話になっております」
「ご丁寧にありがとうございます。コズエ・ヤマグチです。エリザベス様とは仲良くさせていただいております」
私も立ち上がり、彼等に向けてお辞儀を返す。
しかし娘なのに『エリザベス様』って言った?これはもしかして後妻さんですか?
顔を上げて二人を見ると、どちらもエリーの髪色とは似つかない。瞳の色はローザリア公爵と同じ濃いピンク色ではあるが。
エリーをチラリと見ると、にこ、と他人行儀な笑みを両親へと向けていた。これは…確実に後妻決定かな…?
「お父様、私、コズエとお話がまだ終わっていませんの」
「そうか、邪魔したね。では私達は行こうかナキア」
「はい、それでは失礼いたします」
ぺこり、と私に一礼して出ていくローザリア公爵夫妻。
パタン、と扉が閉まるとエリーのため息が聞こえた。
「気付きまして?コズエ」
「あれって、エリーのお母様じゃないわよね?」
「ええ、私のお母様は亡くなりましたの。ナキア様は数年前にお父様と再婚した方。元々は愛人でしたのよ」
「えっ?愛人を正妻に据えたの?」
「ええ。一応公爵夫人が必要でしたから」
「・・・怒ってる?」
「怒ってはいませんわ。認めてもいませんけど」
はい、怒ってます。しかしローザリア公爵よ、愛人随分若くないか?いったいいつから囲ってたんだろう。
公爵ともなると、やっぱり社会的にも夫人の助けが必要なんだろうなぁ。エリーが支える訳にもいかないしね。
「あの方、元々は平民の女性なんですの。蔑む訳ではありませんわ。貴族の男にとって愛人を持つというのは嗜みだとお母様も認めていましたから」
「え、エリー?嫌なら話さなくていいんだけど?」
「何を言ってますの?こんな愚痴を話せるのなんてコズエだけなのですから聞いてくださいまし」
チクショウ、宥め透かして丸めこもうとしたのに無理だった。これアリシアさん先に帰したのこれが目的だったのかも…
********************
ローザリア公爵、キール・ローザリアには幼い頃から婚約者がいた。セオドア侯爵家のメルティーナ嬢。エリザベスの母親だ。
二人は結婚し、二男一女を授かった。しかし、その結婚生活は冷えきったものだったらしい。
ローザリア公爵には愛人が三人いた。一人は男爵家の三女。一人は子爵家の次女。そして平民の女性。
男爵家と子爵家の女性は、夜会で知り合ったのだろう。年の頃もメルティーナ夫人とさほど変わりないくらい。
しかし、平民の女性は違った。彼女が公爵の愛人となったのは、15歳にも満たない少女の頃だったそうだ。
「ちょ、ちょっと待って。さっき見たご婦人、若かったわね?」
「ええとてもお若くていらしてよ?確か今20歳ではなかったかしら」
「ええええええええ」
待て待て待て、公爵。さすがにロリが過ぎないか?源氏物語を地で行ったのか?ちゃんと年齢考えて関係持ちましたよね?
しかし20歳って…思ったより若かった!もっと年齢行ってると思ったわ。化粧の差かしら?
エリーはこの話をどこから聞いたのかと思ったら、まさかの母親からだったらしい。メルティーナ夫人は、亡くなる前数年前から臥せっていたらしく、病床からエリーにこの話をしたらしい。重い!重いよお母様!
『他人から全く違う話を聞かされるよりも、当事者である自分から聞かせておきたかった』という事らしいのだが。
その時、齢10歳だったエリーは、当時からしっかりしていた子供だったようで、きちんと分別を持って話を聞いたらしい。
私だったら何言ってるかわかんなかっただろうな…
ローザリア公爵はどこでナキアさんと出会ったのかは言わなかったそうだ。けれど屋敷に連れ帰り『愛人にする』とメルティーナ夫人へと告げた。
自分の娘と5つしか変わらない年の子供を、だ。
最初は使用人として養う為に引き取ったのかと思ったそうだ。『愛人』だなんて嘘だろうと。しかし、ローザリア公爵は彼女にも別邸を与え、他の愛人同様に通った。そこで何をしていたかは知りたくもなかった、と。
「けれど、私はアルベルトに言って調べさせたのですわ。いったいいつから彼女と『愛人関係』にあったのかを」
「いやもう抉らなくてもいいかと・・・」
「さすがにお母様が亡くなってからですわよ?私も子供でしたもの。けれどお父様があの人を『妻にする』と言った時ですわ。私が調べさせたのは」
「えっもうそのあたりとか聞きたくないかな・・・」
ちょっとゲンナリした私。けれどエリーは吐き捨てる様に言った。父親は今の自分と変わらない年頃の娘に『愛人関係』を持ったのだと。
「ギリセーフ・・・」
「何言ってますの!」
「いや最悪もっと若い時点でとか思ったし!」
「・・・そう思うとまだ救いはありましたわね」
「でしょ・・・?まぁ娘としちゃ気持ち悪いわね」
「ハッキリ言ってくださるとスっとしますわ」
歳が離れたカップル、なんて珍しくもない。しかし同じ年頃の娘がいるのにいけしゃあしゃあと関係を持つのは頂けないわよね。
さすがに自分の父親がそうなら嫌だわ。とはいえもっと年齢を重ねてればそこまで嫌悪感ないけど、十代にはキツいよなぁ。
「うーん、50歳と30歳のカップルならそこまでじゃないけど、35歳と15歳はキツい。なんでかしらねこの感覚」
「わかりますわ、何なのでしょうね。それがきっかけというわけでもありませんけれど、お母様は結婚当初からお父様とは心を通わせる事はなかったと言いましたわ。初めからお父様には愛人が・・・身分違いで結ばれなかった相手がいましたのよ。ナキア様ではありませんけれどね」
そうか、だからエリーはアリシアさんに言ったのか。『その気があるのなら身を引く』と。
エリーの一番身近に、『別の相手を愛していながら結婚した夫婦』という前例があったのだ。
愛してもらえない、振り向いてもらえない。
そんな『女』の生涯を見て、聞いてきたのだ。同じ道を歩むくらいならば、婚約破棄くらい容易いものだろう。
「平民の方が、貴族社会へ溶け込むのはそう簡単ではありませんわ。あの方が今苦労しているのを見ていますし。とはいえ私はあの方を『母親』とは認められませんから、協力する気はないですわ。それはあの方がご自分で選ばれた道なのですから、ご自分の力で切り開いていただかなくてはね」
「ま、そうよね。認められなくてもやるしかないわよね、だって好きでその場所にいるんだろうし」
「ええ。ですから私の『お母様』は一人だけなのですわ。でももしもアリシアさんが頑張る、というのであれば協力したいと思いますの。だって彼女は何事にも一生懸命で、ひたむきなんですもの」
エリーもここまでたくさんの努力をしてきた。だからこそ、同じように目標に向かって努力する人への助力は惜しまないのだろう。
やっぱりいい子だよね、エリーって。幸せになって欲しいなぁ…シリス殿下の隣、ダメかしら?
「コズエ?私、簡単に王族になる気はありませんのよ?だって私はコズエこそその場に相応しいんじゃないかって思いますもの」
「えっ!?何それ無理だって!」
「そんな事ありませんわよ?だって、コズエこそ誰よりも『玉座に立つ者の覚悟』を理解しているじゃありませんの。私はそんな事まで考えが及びませんでしたわ」
そ、それは無駄に人生重ねてるからです!アラフォーともなると、色んな風景が見えるものなんですよ!
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