異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、1年目 ~春季休暇~

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アリシアさんを先に帰し、私とエリーはちょっぴり秘密のお話をする事にした。
さっきの『監視』のお話もアリシアさんには『まあそこまでいかないわよ!』と言っておいたので気にやまないとは思う。多分。


「アリシアさん、気にしてるかしら」

「私もあそこまで踏み込む事はありませんでしたわね、反省しますわ」

「・・・そこまで『聖』属性の魔力の持ち主、ううん、アリシアさんて重要視されてるの?」


『監視』とは穏やかじゃない。しかしエリーがそう言うってことは、有り得るって事だ。
エリーも紅茶に口を付け、目を伏せる。


「コズエがどこまで事情に詳しいかわかりませんけど、『聖』属性の魔力の持ち主というのは本当に一握りなのですわ。だからこそ、神殿は対象者が産まれたらすぐに使者を送りますの」

「そこまで?」

「神殿も必死なのですわ。『聖』属性の魔力の持ち主は昔よりも少なくなっているみたいですから。とはいえ絶やすわけにもいかないでしょう?
生まれつきでなく、後天的に属性が出たという事は、かなり特殊なのです。ですから神殿はアリシアさんを諦めはしないと思いますの」


思ったより大変だった、アリシアさん。
元々少ない属性の持ち主なのに、ふと後天的に得る事ができるなら、確かにそのカラクリを解明したいと思うのだろう。

…そのうち『聖女』認定とかされちゃったりして。


「それに、今学園ではカーク殿下と仲がよろしいでしょう?星夜祭ではダンスまでしていましたし」

「ダンスもまずかった?」

「いいえ、婚約者がいてもダンスくらいは大した事ではないんですのよ。ただ、相手が『アリシアさん』という事が問題ですの」


そういう事か。いかに婚約者がいる身とはいえ、夜会のダンスのお相手なんか、他の令嬢も務める事がある。
しかし相手が『後天的に聖属性を獲得した』『アリシア・マール』だった事がまずかった、と。

学園での噂がやたら多い、と思ったのもこれか。他の女生徒ならばともかく、『アリシアさん』だったから他の貴族生徒達もあそこまで過剰に騒いだ訳だ。


「アリシアさん、他の誰と仲良くしても噂になるって事ね」

「その通りですわ。もしアリシアさんがカーク殿下と・・・となれば王家と神殿のパワーバランスにも影響が出るかも知れませんわね。実際にどうなるかはわかりませんけれど」

「ねぇエリー?前にアリシアさんがカーク王子を好きなら諦める、って言ってたのは本心?」

「ええ、そうですわ」


エリーはそう言うと、少し改まるように話し出した。


「・・・コズエには違和感があるでしょうね。どうして、って」

「私ね、前にカフェでアリシアさんとエリーと初めて話した時に『ワタクシの婚約者に手を出さないで』って言うと思ったの。でもエリーは言わなかった」

「はい」

「カーク王子を好きではないのか、それとも家族としての愛情しか湧かないのか、それとも誰か他に好きな人がいるのかの三択かなって」

「・・・コズエは鋭いですわね。こんな話、他の令嬢には理解してもらえないと思っていましたわ」


まあ年頃の令嬢にはわかるまい。しかし『好き』には人それぞれあって、『異性』としての愛情と『家族』としての愛情はまた違う。
そして、愛しているからこそ自分ではなく他の人と幸せになって欲しいと願う気持ちもある。
ただ相手を恋うる感情だけを『愛』とは呼ばないという事を『私』は知っている。


「・・・ただ相手を好き、ってだけでなんとかなると思うほど私は単純じゃないのよ」

「まあ、お母様のような事を言いますわね」


ウフフと笑うエリー。そうですね、気分は母親です…
子供産んだことないから、100%わかるとは言わないけど!


「カーク王子の事は好きですわ。ただ、それはコズエの言うように『家族』としての愛情に近いのではないかしら。だからこそ、もしもあの方に本当に愛する相手が現れたのなら、私はその方と幸せになって欲しいと思いますの。
王族の伴侶となる事を拒否している訳ではありませんけど、何よりも幸せになって欲しいと思いますから」

「エリー・・・」

「貴族の娘として産まれたからには、嫁ぎ、子を成す義務があります。お祖母様もお母様もそうして血筋を守って来られた。私だけがその義務を果たさなくていいなんて思いはしませんわ。
その相手が誰であろうと、私はローザリア公爵家の長女として役目を果たします」


まだ、15~6歳の少女がここまで自分の運命を受け入れているとは。私は頭が下がる思いだ。私、同じ年の頃何してたんだろう?ただ呑気に高校通ってたっけなぁ。


「・・・カーク王子と婚約破棄したら、シリス王子とか」

「・・・」

「えっ、あるの」

「可能性としてはありますわ。シリス殿下と近しい年代の方は皆様、婚約あるいは結婚していますから。近隣諸国にも年の合う姫君はいらっしゃらないし、そうなると私にも白羽の矢が立ちますの」

「弟王子の婚約者を兄王子がってアリなの?」

「ない、とは言えませんわ。幼少期から婚約してはいましたけど、既成事実もありませんもの。公に公表したのも夏でしょう?」

「もしかして打診された?」

「正式に、ではありませんわ。お父様からそれとなくカーク殿下とアリシアさんの事を聞かれたくらいで」


あ、暗躍している…!もしかしてシュレリア様主催の『プリンセスレース』の余波がここに!?
ごめんエリー、本当にそうなら言い出しっぺは私か…?

エリーは血筋、身分共に申し分ない。幼い頃から王族の伴侶となるべく教育を受けているし、相手が王弟から国王にランクアップするだけだ。第一夫人として振る舞う素地はあるし、王妃となるべく仕上げをするだけで完璧。

…うん、並んでも美男美女カップル。


「コズエ?何か不穏な事を考えていませんこと?」

「えっ?いやさぞかし美人な子供が産まれそうだとか思ってないわよ?」

「考えてるじゃありませんの。私、知ってましてよ?シリス殿下はコズエにコサージュを贈る仲なのですって?」

「ブフッ」


むせた。盛大に。
まさかエリーがそこを付いてくるとは!


「いやあのエリー、それは」

「私、王妃様からある程度のお話を聞いてますの」

「シュ、シュレリア・・・」

「あらまあ、お互い名前を呼び合う仲って本当ですのね?すごいことですわよ、コズエ」


シュレリア様!いったいどこまで話をしたの!?
私から探らないとどこまで話をしていいかわからない!
まさか異世界人とか、中身は30オーバーとか言ってないよね!?

エリーにおそるおそる聞いてみると、そこまではバラされてないようで、シリス殿下が私に興味がある事、そしてフリーのお嬢様達でシリス殿下の正妃の座を競わせたい事を話されたのだそうだ。
それもこれも、カーク王子がアリシアさんに興味がある、という前提での話になるが。

だからエリーはアリシアさんに直接『カーク殿下とはどうなのか?』を聞きに来たのだ。それによってはエリーが今後どう動いていくかを決める為に。


「・・・エリー、私はシリス王子の隣には立てない。私には貴方のように国を、民を、命を背負う覚悟はないから」

「コズエ・・・」

「だから私は彼の気持ちを受け入れる訳にはいかない。他にも理由はあるけれど、私が今エリーに開示できる情報はこれが一番の理由」

「コズエ、私だけでなく他の令嬢達にもそこまで『国を背負う』覚悟をしている子はいませんわ。私もこれからその覚悟をしていかなければならなくなるのかも知れませんけど・・・」

「けど、彼の隣に立つのならその覚悟がなければいけない、と私は思うの。私はで精一杯。彼を支え、国を支える国母とはなれない。
今すぐその覚悟がなくても、その覚悟をできる人でなければいけないと私は思う。でもエリー?貴方にはその下地があるでしょう?」


そう、彼女にはその下地がある。『貴族の娘として産まれたからには、意に沿わない人にも嫁ぎ、子を成す』覚悟のある彼女には。
きっと他の令嬢達にも、その覚悟がある人はいる。そういう『国』もしくは『家』にその身を捧げる覚悟のある女性ヒトならば、気持ちの強さひとつで『国母』となる決意をするだろう。

そういう人でなければ、人の上に立つ器量はない。私はそう考えているからこそ、私にはその資格はない。
方法があるのなら、必ず自分の世界地球に帰る、という覚悟をしている私なのだから。

私はすでにこちらアースランドあちら地球を天秤にかけ、結果を出してしまっているんだもの。

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