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学園生活、1年目 ~後期・Ⅱ ~
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しおりを挟む一瞬にして、びしょ濡れの状態から元に戻った縦ロール令嬢。いったい何が起きたのか把握できない様子だ。
周りのお嬢様達も何が何だかわからない様子だ。
確かにアリシアさんが紅茶を掛けられ、そして縦ロール令嬢がわざとらしい謝罪。
そこから皆さん目を逸らしてしまっていたから、多分一部始終を見ていた子はいない。
しかし私の白々しい謝罪と水音、縦ロール令嬢の喚き声。それらを聞いてはいただろうが、今見てみれば縦ロール令嬢が濡れている様子は全くないのだから。
アリシアさんもスカートを捲って、自分が紅茶を掛けられた所を確認していた。が、すでに私の治癒魔法で火傷は消えている。
あれ?あれ?と首を捻っているけど、私は今縦ロール令嬢を睨みつけているのでそれどころではない。
「あ、あな、あなたっ、いったいなにをっ」
「あら?蒸し返します?」
「っ、ヒッ」
友好的に微笑んだつもりだが、何やら縦ロール令嬢は怯えて後ずさった。しまった何か黒いものが出ているかもしれない。
そこまで不穏な空気が漂っていたのか、さすがにエリーがこちらへ来た。
「皆様、どうかしましたの?」
「あら、エリー。別に何でもないわよ?」
「・・・コズエがそう言うのなら、そういう事にしましょうか?そんな所でどうなさいましたの?ラドラー侯爵令嬢」
「・・・あら、ラドラー侯爵令嬢と仰るのね、貴方」
名乗りもしなかったから、名前を聞く手間が省けた。
ラドラー侯爵令嬢、って事はアレか。ドランの婚約者候補。
オリヴァー・ドランは婚約してはいないが、国内の貴族に何人か婚約者候補がいるという話は聞いていた。
もちろんコレはメグの情報網からなんだけど。公にはしていないみたいだけど、本人も騎士団に所属する事が決まっている為、学園在籍中に婚約する事はないようだけど、ある程度家同士で話が進むことはあるようだ。ラドラー侯爵令嬢とは、そういう婚約手前の関係。
しかし、ここ最近ドランとアリシアさんの噂も立てられている。本人達はそこまで親密ではないのかもしれないが、元々女性と噂を立てられる程、ドランは周りの女生徒と交流はない。
夜会に出た所で、大抵カーク王子の側近として控えているために、女性と触れ合うことも少ない。
だからだろう、このラドラー侯爵令嬢は、アリシアさんを脅威と見たのだ。将来の婚約者を取られないようにするために。
「な、なんでもありませんわ!失礼!」
「ちょっと、その前に」
「な、なんですの!?」
「失礼な真似をしてすみませんでした」
先手必勝、と私はラドラー侯爵令嬢に頭を下げた。
まあ証拠ないけど、ピッチャーの水おもいっきりぶっかけたからね?一応ね?一応。
ラドラー侯爵令嬢もポカン、と一瞬戸惑ったけれど、私が頭を下げたのを見て、反っくり返るかのように威張り出した。
「わ、わかればよろしいのよ!」
「でしたら、貴方もしなければいけないことがありますよね?」
「えっ?」
「さぁ、どうぞ」
私はアリシアさんの前から退く。すると、ラドラー侯爵令嬢とアリシアさんは向かい合う形になった。
私がラドラー侯爵令嬢に何を要求しているのか、彼女は瞬時に悟ったようで、たちまち顔を赤くして異を唱える。
「なぜ私が平民如きに頭を下げないとなりませんの!?」
「あらあらあら?侯爵令嬢ともあろうお方が、まさか自分が何をしたかも覚えていらっしゃらないなんて事はありませんよね?」
「っく、貴方!」
「まさかとは思いますけど、侯爵家では悪いことをしたら謝る、なんて今どき平民の子供でも教えてもらう初歩的なマナーの一つも教えてもらえないだなんて非常識な教育がされているだなんて事は絶対にありえないと思うんですけど、どう思います?ローザリア公爵令嬢」
「・・・まさか、貴族ともあろう者がその程度の常識もないだなんてあり得ませんわ、コズエさん」
私の嫌味ったらしい言葉に何かを感じ取ったのか、エリーはさらっと私に合わせてくれた。
多分、自分の見てないところで何か嫌がらせをされたのだろう、と察してくれたのかもしれない。
ラドラー侯爵令嬢はプルプルプル、と羞恥に耐えていたが、勢いよく頭を下げ、噛み付くように言葉を吐いた。
「申し訳ごさいませんでしたっ!」
「これでいいかしら?アリシアさん」
「あ、はい、私は、大丈夫です!」
「そう、なら良かった」
ラドラー侯爵令嬢は頭を上げると、アリシアさんではなく私を睨み付けた。ふむ、私を敵に認定した?別にいいけどね、別にね。
…私今まで新しく入った新人何人も泣かせてきた事あるけどいいのね、私に喧嘩売って。そのメンタルぽっきり折るわよ本当に。
心配そうなエリーを席に戻し、私も再度席に座る。同じテーブルのお嬢様達はとても静かだった。とても。やり過ぎたかな?
「あ、あの、コズエさん?」
「え?」
「すみませんでした、私のせいで」
「いやいいのよ、誘ったのは私だし。さすがにあんな非常識な嫌がらせを堂々としてくるとは思わなかったから、私もおもいっきり反撃したけどね」
目の前にある、空っぽのピッチャー。2リットルくらい入ってた?しかし全部ぶっかけたからな…
「私、かけられた紅茶の事でいっぱいで何したのか見えなかったんですけど、もしかして、あの」
「すごく手応えあったわ」
「そ、そうですか・・・」
目の前のピッチャーを見るアリシアさん。その他のお嬢様。まさか皆これをぶっかけられるとは思ってなかっただろう。
「言ったでしょ?売られた喧嘩は三倍にして返す、って」
「そ、そうでしたね・・・」
にっこりと笑って見せたのだが、アリシアさんの笑顔は引きつっていた。おかしいな?
********************
授業終わりに、教師に呼び止められた。
恐らくさっきの事だろうな。アリシアさんは心配そうに見ていたけど、私はエリーと先に行くように促した。
「何のお話かわかりますか?ミス・ヤマグチ」
「ラドラー侯爵令嬢から何かありましたか?」
「ええ、貴方に恥を欠かされた、と」
「それはまた」
「一応、私も注意をする前に、貴方からも話を聞いておくべきだと思いましてね」
「そうですか。ラドラー侯爵令嬢が何をどうご説明したのか知りませんが。
先に手を出したのはラドラー侯爵令嬢です。アリシアさんに向かって、紅茶を注ぎました。彼女の手に向けて」
「まっ!」
「ポットから直接かけられたのですから、どのくらい熱いかはお分かりですよね?彼女をこの授業へ誘ったのは私です。ですので何もしないわけにいかないと思って、その場にあったピッチャーの水をラドラー侯爵令嬢へ引っ掛けました」
「あら、まあ・・・」
「その後、火傷の手当が先だと思いましたので、アリシアさんに治癒魔法を。その後ラドラー侯爵令嬢の濡れた服を乾かすために乾燥魔法を使用しました。失礼を働いたのは事実ですので、彼女には謝罪をしました。それはあの場にいた生徒に聞いていただいて構いません。ローザリア公爵令嬢もその場にいましたので」
「そうでしたか、分かりました。貴方のした事は褒められたことではありませんが、事情が事情だけに貴方だけを責めるのはお門違いですね」
ふぅ、とため息を付く教師。
ご迷惑おかけしてすみません、ホントに。
「今後、ラドラー侯爵令嬢が貴方に嫌がらせをしてくるかもしれませんが・・・」
「周りに被害が及ばない程度にお返ししますから、大丈夫です。コレもありますし」
私はゼクスさん作の魔法具を見せる。あの時紅茶をかけられたのが私だったら、どんな反応をしていたのだろう、コレ。何が起こるのか分からないのよね。
わかりやすく侯爵家の力で何かしてこようとも、私の後見はタロットワーク家だ。何かできようはずもない。逆に口封じされるんじゃなかろうか。侯爵は触らぬ神に祟りなし、と娘を諌めてくれたらいいのだが。
教師もそれはわかっているらしく、貴方にその心配はありませんね、と苦笑している。
一年次最後の特別授業。なんだかすごく騒がしかったな。
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