異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、1年目 ~後期・Ⅱ ~

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「っ、きゃっ」

「あらあら、ごめんなさいね?手が滑って、って、きゃぁぁぁぁぁぁあ!」

「あーらごめんなさい、うっかり手が滑ったわ」


アリシアさんの悲鳴、そして続くお嬢様の嫌味なセリフに被さるようなけたたましい悲鳴。
それに続く私の声はおもいっきり棒読みです。





********************





午後の授業。最初はね、とってもいい感じに始まった訳ですよ。だってローザリア公爵令嬢がホストを務めるお茶会ですもの。皆さんそれはもう気をつけていたんです。

テーブルは大きめの物が三つ。

ひとつのテーブルに八人くらいずつ。
私とアリシアさんは同じテーブルで、隣同士。
さすがにエリーが同じテーブルにはないけれど、全てのテーブルに目が届くようにはしているみたいだ。

でもこの配置は基本的なお茶会として普通らしい。
ホストが付くテーブルには、身分の高い女性達が。
周りのテーブルには同程度になるようにうまく振り分けされていて、だいたいホストと仲の良い方が代わりにリーダーとして采配する。

私はエオリアさんとシュレリア様としかやった事ないからねぇ…。大人数のお茶会は初めてだ。

私の隣はリーベルト伯爵令嬢。爵位も伯爵家としては中クラス。アリシアさんのお隣は男爵令嬢のようだ。

わからない事を聞くと、比較的丁寧に教えてくれる。
このお茶会がスタンダード、ってこともリーベルト伯爵令嬢から教えてもらった。


「ご親切にどうも、リーベルト伯爵令嬢」

「いえいえ、お気になさらないで。ローザリア公爵令嬢からもよろしくと言われてますの。特別授業には平民の生徒もよくいらっしゃるから、私お話を聞くのが楽しみなんですわ」

「そうなんですね」


さすがはエリー。私達の近くにはちゃんと気配りできる令嬢を配置したようだ。
お茶もお菓子も見栄えよく、美味しいものが並ぶ。

茶器も繊細さがあって美しいもの。
さっきまでの授業で使ってたのとは違うよねぇ?


「さすがはローザリア公爵令嬢ですわね、この茶器」

「ご自宅からお持ちになられたそうよ」

「まあ、素敵・・・学園でローザリア公爵家のもてなしを受けられるだなんて」


周りのお嬢様のお話を盗み聞きすると、これはエリーがお家から運ばせたものらしい。さすがは公爵家。こんな事もできちゃうのね…私としては『この人数分のお揃いの茶器あるのか』なんて思ってしまうけど。

アリシアさんもあちらの男爵令嬢とお話をしているみたい。さてさて何を話しているのやら。


「アリシアさんは、男性とお話するのがお上手と聞きましたわ。私にもその秘訣を教えてくださいな」

「え?秘訣、ですか?」

「ええ、私、男性とお話をする時に緊張してしまって。夜会に出席してもいつもお話できませんの。アリシアさんはカーク王子殿下だけでなく、他の男子生徒ともお話しているのでしょう?」

「あ、あの、それは」

「あら、私もお聞きしたいわ?」
「ええ、私も。どうやってあんな素敵な方達とお話できますの?」
「私達にもわかるように教えてくださらない?」


…えーと、とても遠回しに嫌味を言っているように聞こえるのだが気のせいですか?

アリシアさんも彼女達に困っているよう。
わかりやすく嫌な事を言ってくるのであれば、拒否もできるだろうが聞いてる範囲では物凄くスレスレの言葉を選んで話している。

うーん、私ならさっくりダメージを与える方向で返事をするところだけど、さすがにアリシアさんには思いつかないか。これは助けないといけないかな?

私が加勢しようかどうしようかな、と思っていたらそこへエリーがテーブルを回ってきた。アリシアさんを質問攻めにしていた女子達は今度はそちらに興味を向けているよう。
アリシアさんもホッと息をつく。


「大丈夫?」

「え、あっ、はい。なんだか何をどう言えばいいのかわからなくなります。親しく話す、と言われても私は普通にお話しているし・・・」

「んーまあアレ嫌味だと思うから」

「えっ?そうなんですか?」

「言葉遣いが綺麗でちょっとわかりにくいけど、多分ね」

「・・・」


言葉を失うアリシアさん。しかしこれが貴族同士の腹の探り合いなのだ。綺麗な言葉の下に棘を隠して、相手にぶつける。それが貴婦人同士の喧嘩の仕方。


「あれをやり込めるようになるには、アリシアさんには荷が重いわよねえ」

「か、勝てる気がしません」

「もうちょっとわかりやすく言ってきたらガツンといけるんだけど」

「こ、コズエさん、その拳は抑えてくださいよ!?」


ちょっとグーを作って見せたら慌てるアリシアさん。
顔を見合わせてクスッと笑う。ホントに殴ることはしませんて、さすがにね?

そんな時だ、一人のお嬢様が近付いてきたのは。


「あらまあ、こんな所に平民が」


声高に嫌味を言う訳でなく、私達二人の後ろから、私達にだけ聞こえる程度のわかりやすい嫌味を言いに来たお嬢様。
その声に振り返ると、そこにはテンプレ通りに髪の毛を縦ロールに巻き巻きしたお嬢様が。


「何か御用ですか?」

「あら嫌だ、用なんてありませんわよ?」

「そうなんですか?私達の後ろを通るだなんて遠回りをなさるくらいだから、何か用事があるものだと邪推してしまいました」

「なっ、」


そのお嬢様は扇を開いて口元を隠していたけれど、ぐっと手に力が籠る。そしてパチンと扇を畳んで私を指してきた。


「貴方、失礼ではございません事?」

「あっ、ちょっとやめてくださいよ、扇で人を指すなんて失礼な真似しないでくださいな」

「っ、なんですって!」


ぴっ!と私の顔前で扇を向けてきたので、私はわざとらしく両手で顔を隠すようにして避ける真似をした。
まるで『今からこの人に殴られそうです!タスケテ!』っていうように。さすがにそんな事をしたらバカにされてると思ったようで、声を荒らげた。
周りのお嬢様の視線に、扇は引っ込めたけど。

しかし、この縦ロールはそこそこ偉いらしく、周りのお嬢様も困ったように視線を逸らす。隣のリーベルト伯爵令嬢も困ったようにオロオロしていた。

ふと、縦ロール令嬢はテーブルに目を向ける。
そしてふふっと笑ってアリシアさんに寄った。


「まぁ、カップが空ではありませんの。私が紅茶を注いで差し上げてよ?」

「えっ!?あ、はい、すみません」


いきなり自分に来た!とアリシアさんは慌ててその言葉に従ってしまう。そして縦ロール令嬢は近くにあったポットを持ち上げ、紅茶を注いだ。




「っ、きゃっ!」


多分、かなり熱かったはずだ。ポットには紅茶が冷めないように保温魔法ウォームが使われていたはずだから。
アリシアさんの手は、太腿の上に置かれていた。
だから紅茶を注ごうとして間違えた、なんて事はあるわけない。最初からこの縦ロール令嬢は、アリシアさんに火傷をさせようとしてやったのだ。


「あらあら、ごめんなさいね?手が滑って」


これは喧嘩を売られている、私は最初の『あらあら』が聞こえた瞬間、彼女の声音でそう判断した。
瞬間、私のスイッチも入る。ここはアリシアさんを誘った私の責任として三倍返しせねばなるまい。

そう考えた私の行動は早かった。
ゴメン、エリー。台無しにするかもしれないけど、ここでなあなあにするのは間違ってると思うからね!


「って、きゃぁぁぁぁぁぁあ!」

「あーらごめんなさい、うっかり手が滑ったわ」


私は即座にテーブルにあったお冷が入ったピッチャーを掴んで、縦ロール令嬢の頭からぶちまけた。
彼女はアリシアさんの少し後ろにいたので、アリシアさんにかかるようなぶっかけ方はしていない。

ガタン、とピッチャーをテーブルに置いて、私は即座にアリシアさんの紅茶がかかった後に向けて回復魔法ヒールをかける。


「大丈夫?アリシアさん」

「あ、ありがとうございます。熱かったですけど、なんとか・・・」

「あっ、あなた!いったい何の真似、を・・・」


振り向き様、私は縦ロール令嬢に向けて乾燥魔法ドライを使う。これはドライヤー同様の使用法をする生活魔法だ。しかし濡れた服を乾かすような使い方もやりようによってはできる。そう、今みたいに。

私は縦ロール令嬢にピッチャーの水をぶっかけてびしょ濡れにしたが、今の魔法で事にしたのだ。


「あら、何かありましたか?」

「っ、なんですって、えっ?」

「そんな所に突っ立って、いったい何をしていらっしゃるの?貴方」


さて、どんな言い訳をしてくれるのかしら。
あっさり引いてくれたらこれ以上は何もしないんですけど?

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