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学園生活、1年目 ~後期・Ⅱ ~
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しおりを挟むえー、皆さん大変羨ましそうな顔をしてこちらを見ていますが、私は他の人をテーブルに招くような事は致しません。
だって、平民とテーブルを囲みたくないのでしょ?最初ポソポソ言ってるの聞こえたし、一番近くにいるお嬢様達のテーブルから。
アリシアさんはもう楽しそうにチョコレートフォンデュを楽しんでおります。私は少し食べただけで甘さにやられまして普通にフルーツ食べてます、ハイ。
「こんな風に楽しむデザートがあるなんて、知らなかったです」
「綺麗に整えられたデザートもいいけど、こうやって好きなものをチョコレート掛けにして食べるのも楽しみがあっていいでしょ?」
「はい!それにこのお茶も美味しいです」
アリシアさんはにっこにこ。そうよね、女子は甘い物があればだいたい機嫌はいいものなんですよ。
すると、もう我慢ができなくなったのか、エリーがこちらへやって来た。他の人もテーブル移動はしてたけど、私達の所へは来なかったのよね、さすがに。
「もう!ズルいですわコズエ」
「仕方ないじゃない、こうでもしないとちゃんとしたお茶菓子なんてなかったんだもの」
あそこに残っていたのは、剥くのが面倒なフルーツと、プレーンのシフォンケーキだけ。後はチョコレートだけだったのだ。
見映えの良いデザートは、全て他のお嬢様達がテーブルに持って行ってしまっていたのだから仕方ない。
「私もやってもよくって?」
「どーぞ、お姫様」
「あ、好きなのどうぞ!」
ほとんどアリシアさん一人で食べていたけど、エリーもその中に加わる。用意したカットフルーツやケーキも残っていたので、エリーは楽しそうにチョコレートフォンデュを体験している。
しかしホントに君達甘い物好きね…うぷ、胸焼けしそう。
「まあまあまあ♡自分でチョコレートを付けるなんて楽しいこと!」
「ですよねですよね!少し冷ますと固まりますし、熱々のまま食べるのも美味しいですし!」
「このお茶も美味しいですわ、コズエのオリジナルですの?」
「えっ?カモミールティーにリンゴ入れただけよ?普通にどこかのカフェメニューであるんじゃない?」
「私は知りませんわね」
「私も知らないです・・・」
おやぁ?そうなのか?まあでも簡単だし、知られたからと言って大した事でもないでしょ。貴族様がカモミールティーにリンゴの皮剥いて入れる事しないだろうし。
すると、ガラスポットを見てアリシアさんが感心したようにつぶやく。
「そっか、アップルティーってこうやって作れるんですよね」
「え?じゃあ今までどうやってたの」
「えと、家ではリンゴは皮付きで食べてましたから。たまに皮を乾かして紅茶に入れて飲んではいましたけど」
「こっちの方が早くない?とはいえあまり見た目は良くないけど、香りも移るの早いし。エリーがやるのは止めるけど、アリシアさんがお家で楽しむ分にはオススメするわよ」
「そうですね、私も今度これで飲むようにします。乾かすのに時間かかりますしね」
「私も、メイドにお願いして入れてもらおうかしら」
「・・・止められると思うわよ」
さすがに公爵家のお嬢様が生のリンゴの皮で香り付けした紅茶を飲むのはどうだろうか。その前にちゃんと商品として『アップルティー』買って飲むものじゃないだろうか。
「コズエさん、昔からこうやってたんですか?」
「ん?まあそうね。私の友達が出してくれたアップルティーはもっとすごかったけど」
そう、それは私が中学生くらいの頃だ。友達の家に遊びに行き、『アップルティー飲む?』と聞かれてイエスと答えたら、まさかのマグカップにリンゴが皮付きで八分の一カットされたものがドドンと入った物が出てきた。…フォークが刺さったままで。
友達曰く『リンゴ食べれて一石二鳥』と言っていたが、それは友達に出すメニューなのか…?とあまりのワイルドなメニューに度肝を抜かれたものだ。
あれ以来そのアップルティーが他の人から提供された事はない。
「・・・それはさすがに」
「まあっ♡見てみたいわ!やってみようかしら!」
「やめて、なんでも興味本位でやっちゃダメ」
「うーん、でも確かにリンゴも食べられて、紅茶に香りも付けられて一石二鳥と言えばそうかも」
「アリシアさん、自分で楽しむのはいいけど、他の人に出すと引かれるからやめた方がいいわよ?エリーはやらなくていいからね」
「わかりました」
「ダメなんですの?」
アリシアさんならともかく、エリーが紅茶に浸かったリンゴ齧るのとかダメな気がする。
百歩譲って、紅茶の香り付けに生のリンゴ使うのはいいとしても、一石二鳥とか思って齧るお嬢様とかダメ、きっとダメ。
「でも、このチョコレート、フォンデュ?はやってもいいですわよね?」
「まあこれくらいはね。私はチーズも好きだけど」
「えっ?」
「えっ?なんですのそれ!」
「えっ?チョコの代わりにチーズ溶かすのよ。それで、ウインナーとか茹でた野菜とかパンとか付けて食べるの。チーズが蕩けて伸びて美味しい・・・って」
二人の目の色が変わっている。しまった、チョコレートフォンデュ自体知らなかったんだから、チーズフォンデュも知らないか。
そもそもこうやってテーブルで何かを作りながら食べる、って事自体の発想がなかったりする?
午前の特別授業が終わっても、私はアリシアさんとエリーの二人から逃げられず、そのまま食堂でランチをした。
彼女達はチョコレートフォンデュだけでなく、チーズフォンデュにも興味津々で私に話を強請ってきた。
「いい事を聞きましたわぁ」
「うーん、私もやってみたいですけど、さすがに寮生活ではできませんよね。といっても街中にそれが食べられるお店はなさそうですし」
「でしたら、私がお招きしますわ?もちろんコズエも来てくださいますわよね?」
「えっ」
「いいんですか?エリザベスさん!」
「当たり前じゃありませんの!お友達をお食事に招くくらいしますわよ?でしたら春季休暇にしましょうか?」
「はい!是非!」
「え、あの、エリー?」
「コズエはもちろん来てもらいますわ。じゃないとちゃんとしたチーズフォンデュの事がわかりませんもの。材料はきちんと私の家で揃えますから、必要なものはちゃんと教えてくださいまし!」
ずい、と近寄ってくるエリー。
アリシアさんはお願いします!とばかりに私を見ている。
し、仕方ないか、私が教えちゃったメニューだし。
しかしチーズフォンデュ、食べたことはあっても作ったことないんだよね。これは春季休暇までに、セバスさんやマートンの協力を仰いでレシピを作らないといけないかも。
私に約束を取り付けたエリーは、にこにこ笑顔で先に食堂を後にした。午後の授業の支度をしませんと、と言っていたので楽しみではある。
「ホント楽しみです、食事会」
「よ、よかったわ・・・」
「・・・私、心配だったんです。今日の授業」
アリシアさんが、ぽつんとこぼした弱音。
「コズエさんが一緒、って事で頑張ろうと思って来たんですけど、どんな事があるだろうって。
私、エリザベスさん以外の貴族生徒の女子にはいい記憶がないので」
申し訳なさそうに笑うアリシアさん。それはそうだろう、今まで何人の貴族女子から暴言を吐かれたのか。
私はあの一度しか見たことはないけれど、多分これまで何度もカーク王子との仲を注意される事があったはずだ。
もしかしたら嫌がらせの類もあったのかもしれない。
だからこそ、今日の授業は怖かったはずだ。いくら私がいても、エリーがいても、一人になる瞬間がないとは言えない。その時に何を言われるか、されるか分からない。
それでも来てくれたのだ、アリシアさんは。
「大丈夫」
「えっ?」
「もし何か嫌がらせされたら、私が殴るわね」
「えっ?殴るんですか?」
アリシアさんもギョっとした。
いや、殴るは言葉の綾だけどね。
「言い返すくらいはするわよ、私。売られた喧嘩は三倍にして返すのが私のモットーだから」
「・・・っ、ふふ、はい。頼りにします」
「でもアリシアさんも嫌なら嫌ってちゃんと言ってね?」
「ど、努力します!」
この時の会話が現実になるだなんて、この時の私は思っていなかった。いや、嘘だ。『多分』何か起こるなら午後かな、と予感はあった。
いかにエリーがホストとはいえ、その目が隅々まで行き届くのは難しいだろう。だってさっき生徒20人はいたもの。
半分なら大丈夫だろうけどね。出来るだけアリシアさんから目を離さないようにしないとなぁ。
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