異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、1年目 ~後期・Ⅱ ~

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晴れて友達となった私とエリザベス嬢、ことエリー。
彼女はあれから毎週一度はランチに誘ってくれる。その代わりと言ってはなんなのだが…


「これが!あの!ホットドックですのね!」

「気を付けて食べないとこぼすわよ」

「コズエ、あんた・・・誰を連れてくるかと思えば・・・」


ここは平民専用の食堂スペース。とはいえ、食堂は入口や食事が提供されるキッチンスペースが違うだけで内部は繋がっている。仕切りはあるけどね。

そう、エリーは『私も平民専用の食堂でご飯が食べてみたい!』と言ってきたのだ。
どこで見かけたのか『ホットドック』が食べたいと言ってね…


「いいじゃない本人喜んでるし」

「視線逸らしてるんじゃないわよ!」


キャズは巻き込まれたくないのか必死。だがしかし、もうムダなんだよキャズさん…エリーみたいなお嬢様が一緒にテーブルを囲んだ人の顔を忘れるわけないんだから…


「お芋を揚げたこのフライドポテトもおいしいですわね!手でつまんで食べていいだなんて、嬉しいですわ~こんなのフォークで刺して食べるよりも、こうした方が遥かに美味しく感じますものね」

「まぁそうよね、いちいちフォークで刺して食べるのもなんか違うわよね」

「い、いいんですか?ローザリア公爵令嬢、こんなメニュー食べても・・・」


楽しんでいるエリーにキャズが恐る恐る問いかけた。同じテーブルに付いている(付かざるを得なかった)ディーナやドロシー、メグもうんうんと頷く。

エリーはポテトをつまんで食べているとは思えない程、優雅にニッコリ微笑んで答える。


「まぁ、何か問題ありまして?」

「問題というか、もうこっちにいる事が問題っていうか」

「あら、だってお友達とランチするくらいなんて事ありませんでしょう?」

「お友達、ですか?」

「ええ、だって貴方達コズエのお友達なのでしょう?でしたら私ともお友達ですわ?だって私とコズエはお友達なのだし、私も貴方達をお友達と思うのも当たり前ですわよね?」

「コ~ズ~エ~」


キャズが恨みがましく私を見た。許せ、もう後戻りできないから。ていうか私もエリーの超理論に『エッ…』って思ったけどね。まぁ本人がいいならいいかなとか責任逃れしたとは言えない。

でもエリーは公爵令嬢とはいっても、あまり身分差に重きを置いてないし、平民とも積極的に触れ合う姿勢があるし。
今後皆がどんな道を行くにしても、彼女と『学生時代友人関係だった』という事はプラスになるかもしれないし。
貴族とはこういうもの、という価値観も知る事ができるだろうから、特に悪い事はないと思うんだよね。


「まあ、いいじゃないかキャズ。私もエリザベスさんと話をするのは面白いと思うし」

「ありがとうございますわ、ディーナさん」

「そうよね、色々話が聞けそうだし」
「ですわね~」

「ドロシーさんもメグさんもありがとうございますわ。
キャズさん、私、皆さんと仲良くしたいんですの。もちろん迷惑をかけるような事はしませんわ?」


ニコニコ、と笑顔で言われればキャズも渋々頷いた。
元々世話好きのキャズだ、結局何かと世話を焼くに違いないのだから。

エリーは私にウインクをひとつすると、ディーナ達と色々話に花を咲かせている。私はキャズと話すことにした。


「ま、交流って言っても月に何度か平民のメニューを食べてみたいって事だから、他の時にそこまで接触してくる事はないと思うわよ」

「彼女見てるとそうかもね。・・・あんたはそうはいかないと思うけど」

「貴族メニュー美味しいのよね、しかしあれだけの高カロリーな食事してるから皆さんふっくらしがちなのよきっと」


そう、貴族のお嬢様はスリム、というより若干ぽっちゃりな方も多い。ドレスの時はコルセットで締め上げているんだろうけどね。
エリーはスリムだけど、それなりに運動とかこっそりしているのだろう。あとはお屋敷でカロリーコントロールとかしてんのかな?

ランチも終わり、午後の授業の為に校舎へと戻る。
その途中、エリーが私に話しかけてきた。


「ねぇコズエ?貴方はもう最後の特別授業は何にするか決めましたの?」

「あ、そっか、来週だっけ」


月に一度の特別授業。最初は騎士コースにディーナと行ったっけ。あれからは士官コースと魔術コースを交互に取ってるんだけど。
メグやドロシーは何回か淑女コースでお茶会を楽しんで来たらしい。


「決まってないのでしたら、淑女コースに来ませんこと?今回は私がお茶会のホストをするんですの」

「淑女コースの授業って、お茶会のホストもやるの?」

「ええ、何人か持ち回りかしら?貴族の夫人をお招きしてお茶会を開催して頂いたりもするのですけど、今回は私もホストを務めますのよ?」

「凄いじゃない、エリー」

「で、コズエにも来て欲しいんですの。できたら、アリシアさんも誘って来られないかしら」

「アリシアさんも?」


あのカフェでの一件から、私は何度かアリシアさんとも話をしている。彼女からわかったことは、やっぱりカーク王子に惹かれている事。その影響なのかドラン達とも友人関係を築いている事。


「彼女だけだと目立つと思うんですの。でもコズエがいれば私が近くにいても都合悪くないでしょう?」

「また周りがうるさいのかしら?」

「・・・そうなんですわ、なので私とアリシアさんは友好関係にある、と見せておきたいんですの。二年になってしまえば皆さん専門コースへ進みますし、特別授業へ呼ぶ事もできませんでしょう?
それに、アリシアさんは淑女コースへ来たことはないのです。ですから貴族のお茶会がどういうものかも見た事はないと思いますし」

「確かにね。わかったわ、誘ってみる。失敗しても怒らないでね?」

「まあ。その時は残念ですけどコズエに私のお茶会を楽しんでもらうだけですわ」


校舎の別れ道で手を振って別れる。
さて、アリシアさんを探さなきゃなぁ。





********************





午後の授業を終え、さっそくアリシアさんを探してみる。隣のクラスとはいえ、授業終わってのぞいたらもういなかった…他の子に聞いたら、なにやら花壇で花の世話をしていると思う、と言われた。

花壇…?花壇って校内にいったい幾つあると思ってる…?と思ったのが顔に出たのか、中庭ですよと教えてくれた。
お礼を言うと、笑ってくれた。


「顔に出てたんで」

「ご、ごめんね」

「いいえ、私も花壇って聞いてもピンと来なかったし。アリシアが花壇の世話をし始めたって聞いて、どこの花壇?って私も本人に聞いたんですよ」

「それにしても、花壇の世話って珍しいわね」

「なんでも、寮生活してて庭師さん達と知り合いになったみたいで。手の空いてる時は手伝う事にしたそうです」


あー、なるほど。アリシアさん寮生活だっけね。
学園の敷地内に寮があるから、そこまで歩いて帰る際に知り合いになったのかもね。

部活に入ってないみたいだし、放課後の時間を何に使うかは本人の自由だもん。お花が好きなら花壇の世話もいいでしょう。
…ん?なんかイベントフラグのような気がするな…?

教えてもらった中庭へ行くと、いくつも花壇が設置されている。ここのお花っていつも色とりどりでキレイ。冬でも花を咲かせる品種を揃えているんだろうな。

さてさてアリシアさん…と思って周りを見渡すと、一つの花壇の所にいた。腕まくりをして、しゃがんでお花の面倒を見ているようだ。
しかし、側にはあのドランがいた。なんとなく影に隠れてその場を見守る。

ドランは相変わらず鉄面皮だから何を言っているのかわからないけど、アリシアさんは時折顔を上げて彼に言葉を返している様子。
笑顔が見える所を見ると、一応話は弾んでいるみたいだ。
ドランの方は…いつもと同じ…ですが…

しばらくすると、ドランが去っていった。
完全に姿を見なくなったのを見計らい、私はアリシアさんの所へ行くことにした。

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