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学園生活、1年目 ~後期・Ⅱ ~
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しおりを挟むエリザベス嬢と話し、カフェへと戻る。アリシアさんのいる席へ戻ろうとする途中、2階へと上がる階段にカーク殿下がいた。彼はアリシアさんを見ているけれど、二の足を踏んでいるよう。
私が通り過ぎようとすると無言で私の肩を引いた。
「セクハラ王子」
「なっ、あのな、お前」
「貴方の出る幕はないわよ、カーク殿下」
「・・・エリザベスとの話、少し聞いていた」
「立ち聞きなの?全くどこでそんな下品な真似を覚えてくるの?育ちがしれましてよ王子」
「っ、大概に・・・」
「だったらこの先も隠れて聞いているといいわ、文句は後で聞いて差し上げます」
ちょうどいい機会なのかもしれない。ここは両人ともに自覚を芽生えさせる事にしましょう。早いかな?と思わなくもないけれど、この世界では平民ならば結婚する人もいる年齢なのだ。早すぎるという事もないでしょう。
********************
私はカーク殿下から離れると、アリシアさんが待つ席へと戻る。
「言われちゃったねえ」
「私、何を言ったら良かったんでしょう。カーク様達とお話をする事、そんなにいけない事だったんでしょうか」
「まあその辺りについてはアリシアさんだけのせいでもないし。自分もお近づきになりたいけどなれない女子達のやっかみも入ってると思うから」
「やっかみ・・・嫉妬って事ですよね」
「貴族には爵位があるでしょ?あれって下から上の人に話しかけるのはマナー違反になるんだって。学園の中では身分差はない、って言うけどそんな事できるわけないのよね。だって学園から一歩出たらそんな訳にいかないんだもの」
学園では基本的に身分差に縛られない制度を推奨しているが、そんなの建前で守られている訳がない。確かに学園内で表立って上下関係ができている事はないが、やはりそれなりの格差はある。
だからこそ『王族』が『平民生徒』に目をかけるという事はとかく下級貴族の嫉妬に会いがちだ。上級貴族であれば、折々に接触する事もあるだろうが、伯爵位より下の貴族はそうそう王族並びに上級貴族と接する事もないのだ。
「そんなの・・・学生なのに」
「アリシアさん、普通に考えてみたら?ぺーぺーのアルバイトがそのお店のオーナーに事ある事に親しげに声をかけられてたら、周りの同じアルバイトさんや長年勤めてた人からはどう思われるのか」
「うっ、それは・・・揉め事の匂いしかしないです」
「今のアリシアさんはそれに近いね。しかもこっちはより複雑。同性であればそこまで言われないだろうけど、相手に婚約者いる王子様だもの。そりゃ皆面白おかしく噂しちゃうわよ」
「そっ、そんなのひどいです!私はそんなつもりなくて」
「噂なんてね、当人がどうだろうと関係ないのよ。そう見える、それだけで十分なの。でもそれじゃよくないって思ったから、エリザベスさんはちゃんとアリシアさんの声を聞きに来たんでしょ?」
「・・・怒られるんだと思ってました」
「まあ私もそう思ったけど。『二度とワタクシの婚約者に近付かないで、この泥棒猫!』とかね。でも全然そんなんじゃなかった。いい人ね、エリザベスさんは」
「えっ?」
「だって彼女、自分がどうと言うよりも、アリシアさんの気持ちを第一に考えてくれたじゃない」
『私の婚約者に近付かないで』そう言えばよかったはずだ、エリザベス嬢は。だってカーク殿下と彼女は正式に認められている婚約者同士なのだから。単なる口約束なんかではない、家と家同士の正式なもの。
けれど彼女は『アリシアさんがカーク殿下を好きならば私は身を引く』とさえ言った。
「エリザベスさん、どういうつもりであんな事言ったんでしょう」
「いやどういうつもりも何も、そのまんまでしょ?アリシアさんが本気でカーク殿下と添い遂げる気があるのなら、自分は身を引く覚悟がありますって」
「そっ!添い遂げ、って、私そんな!」
「まあアリシアさんはそこまで今のところカーク殿下が好きって訳じゃないわよね。優しい人、素敵だなって憧れる感じよね」
「は、はい・・・隣に並ぶだなんて、畏れ多くて、その」
「でもね、カーク殿下は卒業したら彼女と結婚するわけよ。その為の婚約だしね。多くはないだろうけど、この学園の貴族は卒業と同時に婚約者と結婚する人多いと思うよ。平民だともう結婚してる人もいるんでしょ?」
「はい、私の幼馴染はもう結婚してます。私は学園に来たからないですけど、皆大体ここ一、二年ですると思います」
「そう思うと早すぎる事もないよね。で、エリザベスさんの言いたい事はさ、もし、アリシアさんがカーク殿下と・・・という気持ちがあるのなら、エリザベスさんとしては早めに身を引いて他の婚約者を探さないといけなくなるわけよ」
「え、ええっ!?」
「いやそりゃそうでしょ?もしも二人がうまくいっても、彼女はフリーになる訳だし。とはいえ爵位の高い貴族ほど早く婚約する訳で。ローザリア公爵家って上から数えた方が早いくらい上級貴族なんだし。その長女であるエリザベスさんに見合う貴族のいい年齢の人っていうと、早めに売れちゃうでしょ」
「あっ、そういう事ですか・・・でも確かに私の村でも素敵な適齢期の男性はすぐに彼女ができてます!」
「平民なら自分からアタックできるけど、貴族は家と家同士の婚姻だし、そう簡単にはいかないわ。家格の差もあるし。例えば男爵家が公爵家のお姫様をいただく、なんて許されないしね」
「私考えた事もありませんでしたけど、貴族の人ってかなり大変なのでは・・・」
「そういう事。作法や言葉遣い、貴族同士の暗黙の了解とか、覚えなきゃいけない必須項目はたくさん。貴族のお嬢様ってのは着飾るだけじゃなくて、そういう知識がないとお茶会にだって行けないのよ?私達が軽くカフェでお喋りするのと同じような訳にはいかないの」
「私、絶対無理だと思います・・・」
「が、しかし。もしもカーク殿下とそういう仲になったとすると、嫌でもその中に入らなきゃならない。例えば今恋人同士になったとして、卒業まであと2年。そういう国内の事や貴族のルール、作法や振る舞い、覚えなきゃいけない事は山のよう。生半可な気持ちじゃ無理だよね。
・・・だからエリザベスさんはアリシアさんの正直な気持ちを聞きに来たんでしょ。彼女はそれこそ小さい頃からそういった事を叩き込まれてきたんだから」
「あ・・・」
なぜ、エリザベス嬢はあんな質問をしたのか。そんなの簡単だ。アリシアさんに次期王族の伴侶となるべく覚悟があるのか確かめに来たのだろう。
カーク殿下が王位を継がないとしても、彼は将来王弟となる身だ。もしもシリス殿下が継がないのであれば、彼が次期国王となる。
王位を継がずとも、恐らくカーク殿下は臣下に降下し、公爵位でも貰って、国の礎となる。
その伴侶であるならば、王妃の次に地位の高い婦人となる訳だ。果たさなければならない『義務』がたくさんある。
もしもアリシアさんがカーク殿下と結ばれるならば、その勉強をしなくてはならない。その為には彼女のやる気や覚悟が必要不可欠。
まあカーク殿下が地位や名誉を捨てて、平民に降りるってんなら要らないかもしれないけど。彼はそんな事できないと思うしね。
「アリシアさん、カーク殿下の事どう思ってるの?」
「え、ええっ!えっと、とても優しい方です!いつも私の話をきちんと聞いてくださいますし、アドバイスもしてくれます。それに」
「それに」
「笑うと、とっても素敵です」
その時のアリシアさんのはにかんだ表情は、恋する少女の顔だった。
この先、彼女がどうこの気持ちを育てていくのかは分からない。でも、後悔しない結果であればいいなと思う。
「え、でも他にもいるよね、気になる人」
「え、そ、そんな人!」
「ドランさんとかサヴァンさんとか、音楽家の人とか」
「コっ、コズエさんなんでそんな事知ってるんですかぁ!?」
・・・どうやらまだハーレムルートの攻略中であるらしい。全員適度に好感度を上げてる感じ?これは二年目にならないとルート確定しないやつかなぁ。
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