異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

文字の大きさ
上 下
45 / 158
学園生活、1年目 ~後期・Ⅱ ~

68

しおりを挟む


うららかな放課後のティータイム。
店内は暖かいはずなのに、今私の周りではブリザードが舞っているかのようです…タスケテ…


「あの、」
「積もる話もあるでしょうけれど、まずはコズエさんのパンケーキを食べましょう?美味しいものは美味しく食べたいものね?お話はその後にしましょう」


アリシアさんが勢い込んでエリザベス嬢に話しかけようとするも、エリザベス嬢はナイスタイミングで言葉を遮る。
確かに丁度いいタイミングで、リコッタチーズのパンケーキが運ばれてきた。

ホイップクリームとメープルシロップ。
これだけあればバッチリ美味しく食べれるもんね。

エリザベス嬢もアリシアさんも、最初はどう手をつけようかと悩んでいるみたい。
私は手本になるべく、ささっとメープルシロップをかけて、フォークで一口分をすくい上げる。

リコッタチーズのパンケーキって、普通のパンケーキと違ってメレンゲで作っているから、ふわふわ。ナイフで切ってとかしていると、形が崩れてしまう。なので私はフォークで一口分を切り取ってすくい上げるようにして食べる。


「うん、美味しい」

「ナイフは使わない方がいいんですの?」

「このパンケーキ、ふわふわなので普通にフォークに刺せないんですよ。だからすくった方が食べやすいかと」

「そうなんですのね♡楽しみですわ」
「わ、美味しい・・・」


エリザベス嬢はそーっと、アリシアさんは私の見様見真似で口に運ぶ。二人とも幸せそうな顔をした。やはりスイーツは偉大。


「甘いのかと思ったら、少ししょっぱいのですわね・・・」

「リコッタチーズが入ってるので塩気があるんですよ」

「まあ・・・邸のシェフにも教えたいですわ」

「レシピは秘密です」

「あらまあ♡ではここでなら食べられます?」

「とりあえずそのつもりです」


そう、私はこのレシピを外へ出す気はない。とりあえず学園内のカフェでのみ、としている。勿論、タロットワーク別邸では食べてますよ?
レシピはタロットワーク家経由で、学園内のカフェを経営する会社へと売っている。勿論秘密で。

作り方は今日私が実演してみたわけだ。あとはカフェ店員さんの腕の見せ所?





********************





美味しいスイーツで一休み。紅茶を飲んでまったりしていると、エリザベス嬢が口を開いた。


「さて、一応お話しなくてはなりませんわね。アリシアさん、私はカーク殿下の婚約者ですの。知ってまして?」

「は、はい。いろんな方が教えてくれました」

「いろんな方、ね・・・」


色んな人、ね。それはアリシアさんの友達であったり、さっきみたいな貴族生徒のお嬢様達なんだろう。
エリザベス嬢もそう思い当たったようで、困った事、と小さく呟いていた。と、アリシアさんが頭を下げる。


「すみませんでした!」

「・・・あら、アリシアさんは何を謝るの?」

「私、調子に乗って、カーク様がお優しいのをいい事に、お話を聞いてもらったりして、」

「そうみたいですわね。私の所にも同じような事を言いに来てくださる方がいましてよ。でも、アリシアさんはそれが『謝らなければならない事』だと思っていますの?」

「え・・・」


怒ることもなく、静かに聞くエリザベス嬢。そんな彼女に驚いたのか、アリシアさんが頭を上げてじっと見つめる。
エリザベス嬢はふわっと微笑んだ。


「ねぇ、アリシアさん。貴方、カーク殿下の事はお好きかしら?」

「え、ええっ!?」

「もし、もしもよ?貴方が『本当に』カーク殿下をお慕いしています、と言うのでしたら、私、婚約を解消してもいいと思っていますの」


そう言ったエリザベス嬢の瞳は真剣だった。
さっきまではふんわり優雅に微笑んでいたけれど、今の彼女は真剣にアリシアさんと向き合っていた。アリシアさんも真剣な顔になって、背中がピンと伸びる。


「エリザベスさん?それはどういう意味ですか」

「・・・私、幼い頃からずっと、カーク殿下の妻になるのだと言い聞かされて育ちました。たくさんの勉強、行儀作法・・・王族の伴侶となるにふさわしくある為に」

「・・・」

「貴族と言うのはね、アリシアさん。意に沿わない相手であろうと、親の選んだ相手と添い遂げ、子を成さねばならないの。その点、私は恵まれましたわね。私は少なからずカーク殿下に好意を持ち、これまで育ててきましたから。
ですけれど、愛し合う二人の仲を割いてまで、私はこの婚約を押し通す気はないのです」

「エリザベス、さん・・・」

「ですから、正直に答えて欲しいの。アリシアさん、貴方はカーク殿下をどう思ってらして?」

「わたし、わたしは・・・」


真剣なエリザベス嬢に、きちんと答えなければと向かうアリシアさん。けれど彼女には答えを出せるほどの想いは育ってないように感じる。
私が感じたその想いは、エリザベス嬢にも伝わったのだろう。目を伏せ、クスッと小さく笑う。


「ごめんなさいね、アリシアさん。私少し早まってしまったみたいね」

「え、あの、わたし、ちゃんと答えます、答えますから!」

「いいえ、にはそれが答えでしょう?」


見透かしたような、エリザベス嬢の微笑み。
その笑顔に何も言えなくなってしまったアリシアさん。
エリザベス嬢はそっと席を立ち、カフェを後にした。途中、すれ違い様に私の袖をくい、とひっぱる。


「アリシアさん、ちょっとここいてね」


私はアリシアさんにそう言うと、エリザベス嬢を追ってカフェの外へと出た。
エリザベス嬢はカフェの外、近くの木の下で待っていてくれる。


「なんでしょう」

「彼女、思ったよりも子供でしたわ。悪い事をしてしまったかしら」

「と、いうよりも、周りが騒ぎ立てる程、彼女はカーク殿下に対して・・・というか他のに対しても恋愛感情は芽生えてないと思いますよ」

「あら、まあ」


そう、カーク殿下だけではない。彼女の噂はあのオリヴァー・ドランやエド、はたまたあのピアノを弾いていたステュアートとも噂があるのだ。
噂と言っても、学園内のどこそこで話していた、程度。キスしてた訳でも抱き合っていた訳でもない。私としては『まだまだ好感度稼ぎ中か、イベントはまだか』くらいの気持ちだったのだから。


「そうでしたのね、私の方にもそんなに噂は盛り上がっていませんでしたから、気にすることもないと思っていましたの」

「まあ周りは尾ヒレをつけて流すのが楽しいんでしょうけど」

「まあ、うふふ。コズエさんたら楽しい方。私、コズエさんとはまた改めてお話したいわ。ランチはいつお誘いしたらいいかしら?私としては明日のランチにお誘いしたいのだけど」

「・・・早いですね」

「明日は、私のオススメの鯛のポワレが出ますの」

「お願いします、鯛大好きです」


食い物に釣られた、というなかれ。私は白身の魚が好きなんです!!!鯛が好きだ!!!金目の煮付けとかたまらないよね!

では明日、食堂の前でお待ちしていますわ、とウキウキで帰るエリザベス嬢。うーん、あの人割と可愛らしいな。

美少女は大好物です。仲良くなりたいなぁ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...