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学園生活、1年目 ~冬季休暇~
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しおりを挟むふと、後ろから声が聞こえた。
振り返ると、国王陛下とシリス殿下にカーク殿下。
え、儀式をやりに来たのかな?
でも王族にこそ、この儀式はやってもらうべきだと私は思う。例えほんの少しだけだろうと。この想いを感じてほしいから。
ゼクスさんがやり方の説明をしていた。
「何、難しい事はありません。必要な術式は全てこの魔道杖へ組み込まれております。その術式が発動する時に所持者の魔力を使いますので、疲れてきたらお下がり下さい。魔力が魔道杖に満杯になったら魔石の色が変わりますのでな。そうしたら後ろの『祈りの鐘』へと魔石を近づければよろしい」
このように、とゼクスさんは魔道杖を操作する。その様子をシリス殿下とカーク殿下は真剣に見ていた。
まずはシリス殿下がやるみたい。その後カーク殿下。
最後に国王陛下がやるみたいだ。
私は涙が出過ぎて鼻水まで出てるのでそっと下がって仮面を外す。しかし涙だけは出るな…涙腺弱すぎ…
「大丈夫ですか、コズエ様?」
「うう、泣けてきます」
「そうですよね、僕も最初の年キツかったっす」
鼻をかむ私に、温かいお茶を差し出してくれた。
うう、ゼクスさんのお弟子さん達は優しいよぉ。
そんな中、シリス殿下も儀式に参加中。
ふと見ると、魔道杖を『祈りの鐘』へと近づけている所だった。…あれ、普通だな?
「これは、また、大変ですね。思っていたよりもかなり魔力の消耗もするようです」
「・・・シリス殿下も慣れるまで大変かも知れませんな。できれば毎年参加しに来ていただきたいものです」
「そうですね、この景色も見る事に価値がありそうだ。
こうして実際にランタンの灯りを移すのも、勉強になります」
…やっぱり男の人は私ほど感情に流されないものなのだろうか。聞いてる感じ、シリス殿下も初めてっぽいけど。
カーク殿下も同じように儀式をこなしていた。
やはり、反応はシリス殿下と同じ。
…何か、違和感を感じるんだけど?気のせい?
国王陛下も同じように。けれど国王陛下は何かに耐えるようなお顔をしている。…多分、それは『想い』を受け取っているからだと思うんだけど。
でもそれにしてはよ?王子様達の反応薄くない…?
私はまた仮面を付け直し、儀式を続行する。
ランタンの灯りを受け止めると、誰のものともわからないが、想いが溢れてくる。
仮面を付けてはいても、溢れる涙は止まらない。
最初程ではないけれど、じわりじわりと感情は揺さぶられていく。
うう、年々涙腺弱くなってるのは自覚してたけど!これほどとは思わなかったよ!
片手で魔道杖を掲げながら、もう片方の手で涙を拭う。これは目が腫れる…だろうな…フフ…
「・・・君、大丈夫かい?」
「っ!?」
至近距離で声がした。
驚いてそちらへ顔を向けると、心配そうな顔のシリス王子。ちょ、何でこっち来てんのこの人!?
「済まない、泣いているように見えたんだ。違っていたら申し訳ないね」
「・・・」
「ああ、儀式の途中でしたね。話しかけてすみません。続けてください。・・・けれど、辛いのなら適度に交代をしていいと思いますよ」
そ、そうですね!気にかけなくていいから!
お願いだからそっちいってて!!!
そう思いつつも、どんどんランタンの灯りが魔石へと吸い込まれる。それに伴い、想いの力も。
そうなると、私の目からは涙がぽた、ぽた、と落ちてくる。もうこれ止まらないんですよホントに!
でも、優しい想いだけに不愉快じゃないんだな!
「君、本当に大丈夫、か・・・い」
はた、と視線が合う。心配そうなシリス殿下の瞳に、驚きの色が広がった。あ、ちょ、こんな時に察しなくていいのよ!?
「兄上?どうかしましたか?」
「いや、カーク、その・・・」
「だ、大丈夫なんで、あの」
ヤバいこれはヤバい、と思って発した声に、二人とも揃って反応した。
「お前、女、か?」
「・・・やっぱり。コズエ殿だね?」
「兄上!?えっ?お前、何して、」
しまったァァァァァァ!
声出したからおもいっきりバレたぁぁぁぁぁ!
しかしその間も魔石にはランタンの灯りが吸い込まれていく。それと比例して私の目からももう一粒涙が。
それを見たシリス殿下は、私の仮面を外して涙を拭う。
「どうして、君は・・・泣かないでくれないか。
泣くほど辛いのなら、やらなくてもいいんだよ」
「あの、これは、仕方なくて」
「コズエ・ヤマグチ。お前この儀式が辛いならやめておけばいいだろう。他にもできる奴はいるのだから任せておけ。魔力の消耗もバカにならないだろうし」
ん?何かさっきから会話が微妙に噛み合ってないような。
おかしいな、と思いつつも溜まってきた魔力を鐘へと還元する。
すると、カーク殿下が顔を顰めて私に言った。
「だから無理をするなと」
「え、別に全然負担には感じてないんですけど?」
「は?」
「いやだから、別に魔力消費は気にならないので」
王子二人は驚きで言葉が出ない様子。
え、ホントにそこまで辛くないけど?多分消費してるんだろうけど回復してってるんだろうなと。
「なら・・・どうして泣いているんだい?」
「これは、想いが伝わってくるので、しょうがないんですよ」
「・・・想い?」
「何を言ってるんだ、お前」
二人から発された言葉。
噛み合っていない理由がわかった。
まさか、伝わっていない?
私はゼクスさんをバッと振り返る。
そんな私を見て、国王陛下は静かにゼクスさんに話しかけていた。
「彼女は、そうなのか」
「そのようですな。異世界人だから、なのかはわかりませんが。彼女の魔力はかなり高い」
「・・・そうか。私でも数年かかったのだがな」
「・・・ゼクスさん、もしかして、あの」
私の言葉に、ゼクスさんと国王陛下は同時に目を伏せる。う、そでしょ?これが、アルゼイド王家ではダメな理由?
国王陛下ですら数年。ならば、彼等は?
王子達は、まだ、あの想いは通じていないの?
「父上、いったい・・・」
「シリス、カーク。彼女の妨げになる。そなた達はこちらへ来ていなさい」
シリス殿下の問いかけに、国王陛下はそうキッパリと告げた。シリス殿下もカーク殿下も不安そうな顔をしながら、国王陛下の元へと戻る。
そして陛下は二人を連れて階下へ下がっていった。
ゼクスさんが私の所へ来ると、静かな声で告げる。
「あれが、今の現状です」
「彼等は・・・彼等には、通じないのですか?」
「わかりません。ルジェンダ陛下は数年かかって想いを受け取れるようになりましたのでな。とはいえ、今の陛下でもコズエ殿よりは受け止れる想いの数は少ないでしょうな」
「そう、ですか」
「王子達に関しては、儀式に参加させたのは今年が初めてです。シリス殿下が王太子になるまでには想いを受け取れるまでにはなっていただきたいものですが」
「・・・残念ですね」
「コズエ殿?」
「こんな素敵な事を、こんな素晴らしい想いを、受け取れないなんて。彼等がどれだけ王族に感謝の意を持っているかを感じ取る事ができないなんて」
ゼクスさんは、寂しそうに『そうですな』とぽつりと漏らした。私にはまだ聞きたい事があったけれど、それは『祈願祭』が終わってからする事にした。
ゼクスさんも、そうしましょうと言ってくれたから、多分隠さずに教えてくれるだろう。
今はただ、このランタンの灯りをひとつも欠けることなく『祈りの鐘』へ届ける事を優先させよう。想いを届けるために。
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