41 / 158
学園生活、1年目 ~冬季休暇~
64
しおりを挟む古い年の終わりと、新しい年の始まりを祝う。
『祈願祭』
それは、王都だけで行われる祭礼。
貴族も平民も、全ての国民が祈りを捧げ、ランタンを灯して空へと放つ。
その光はゆっくりと空へと舞い、祈りの鐘へと届けられる。
「毎年見ているけれど、本当に美しいわね」
「この光景があるのは、国が平和である証拠だろう」
「そうですわね、あなた」
父上と母上が呟く。
確かに、この光景は心が奪われる。
美しいランタンの光が、空へと舞い上がる。
まず初めに国王が。続いて王妃が。
そして俺達がランタンを空へと舞い上げると、広場に集まった貴族や平民が徐々にランタンを空へと飛ばす。
『平和でありますように』
との願いを込めて。
********************
軽食を済ませ、皆で塔の屋上に立つ。
本来なら寒いのだろうけど、マントのお陰かほとんど寒さは感じなかった。
ひんやり、とする空気は感じているけど、ここで待機するのには支障がないくらいだ。
「始まりましたぞ、コズエ様」
声に釣られ、少し下を覗き込む。すると…
「う、わぁ・・・」
ゆっくりと。
地上から暖かな光がゆっくりと昇ってくる。
それは本当に、あのラプンツェルの映画のような光景。
美しい光景に目を奪われる私を、皆が笑って見ている事も気づかずに。
「まぁああなりますよね」
「確かに、俺も最初は何もできなかったよ」
「毎年の事、とはいえ、やっぱり感動しますよね」
「だよなあ」
「ほれお前達、コズエ殿に手本を見せんか」
「「「「了解です!」」」」
その声にハッとする私。
そうだそうだ、遊びに来たんじゃなかった。
「コズエ殿、見ていてくだされ」
そう言うと、ゼクスさんはすいっと空へと魔道杖を掲げた。すると、近くまで上がってきていたランタンの灯りがスゥっと魔石へと吸い込まれる。
浮かんできていたランタンも同時に消え失せる。
えっ、どうなってんの?もしかして魔術研究所で作ってたのは、この為なの!?
「ランタン自体も、魔法で作ってますのでな。魔石へと同時に吸収するようになっておるんですわ」
「そうなんですね、落ちたりしないのかとちょっと思ってたんですよ」
「この魔道杖自体に、魔力を吸い取る術式が組み込まれております。なのでいちいち魔法を発動させるような事はありません。術式が発動する際に、術師の魔力を使って発動しますからな。疲れてきたと思ったら休んでくだされよ」
「わかりました!」
周りを見ると、皆もゼクスさんと同じように魔道杖を空へと掲げて魔力を吸い取っていた。
こうしてある程度貯めたら『祈りの鐘』へ。すると自動的に鐘へと魔力が移動する仕組みだ。
よし、頑張るぞ!
私も皆と同じように、魔道杖を掲げた。
すると、近くまで上がってきていたひとつのランタンが、スゥっと魔石へと吸い込まれた。
その瞬間。
私の中に、人の『想い』が溢れた。
それは、王国への感謝の想い。この国を護ってくれてありがとう、これからも感謝を。
虚空へと掲げる魔道杖へ、次々とランタンの灯りが吸い込まれていく。
それと同時に、私へと流れるのは溢れるほどのこの国へと感謝と敬愛を捧げる民の想いだ。
涙が溢れる。
抑えきれない。
「ゼ、ゼクス、さんっ」
「・・・これが、この儀式の『要』なのです」
「これ、止まら、ないっ」
「はい。こうして王族は民の想いを受け取り、この想いを自身への戒めとしてきました。
これ以上に、民からの感謝がありましょうか」
ない、ある訳がない。
とてつもなく、隠しようもない、真実純粋な想い。
この想いを受け取ってしまったら、裏切る事なんてできようはずがない。
この人達の想いを叶えるために、その身を捧げる事も厭わないだろう。
涙が溢れて止まらない私の仮面を、ゼクスさんがそっと外してくれた。ローブの端で私の涙を拭う。
けれど、後から後から涙が溢れた。
「ごめ、ごめんなさっ、止まら、ない」
「・・・謝るのは儂の方ですな。コズエ殿程の魔力総量があるならば、このように共感してしまうのも強い事はわかっておりました」
そうか、想いの力は魔法の力に作用する。
全ての魔法がそうとはいえないが、イメージの強さで魔法を強く発動できるとしたならば、強い想いがランタンの魔法の灯りに乗るだろう。
そして、その魔法の灯りを受け取る側の魔力総量が大きければ、その想いを多く受け止める。
それだけでなく、魔力が強ければ想いを受け取る力も強まる。
この魔道杖にはその力を増幅する力も備わっているらしい。
「そしたら、ゼクスさん、は」
「・・・儂は慣れておりますからな。毎年こうして自身に戒めるのですよ。驕り高ぶる事のないようにと」
ゼクスさんのお弟子さん達は、私程ではないみたいだ。とはいえ彼等も何も感じないわけではない。
たまに目元を拭っているのが見える。これの為に仮面もあるのかもしれない。
「ありがとうございます。大丈夫です」
「辛かったら、休んでいてもいいのですぞ」
「いえ。私も、今はこの国の一員ですから」
涙を拭いて、仮面を付ける。さっきよりは涙が溢れることもない。じんわりと浮かんでは来るけれど。
落ち着いて灯りを受け止めると、涙だけではない。心がほんのりと暖かくなるようだ。人々の想いを受け止め、祈りの鐘へと捧げる。こんな貴重な体験をさせてもらえるのだ、幸運だと思わなければ。
********************
眼下では、民達がランタンを上げ続けている。
毎年の『祈願祭』において、務めなければならない王族の役目。
それを果たすべく、私はテラスを後にする。
愛する妻は、目が合うと当然のように微笑んだ。
「では、行ってくる」
「ええ、お務めしてらっしゃいませ」
側に立つシリスにも声をかける。
カークには、さて、どうするか。
「シリス、塔へ上がるぞ。カークも来なさい」
「はい、父上」
「俺も、ですか?」
「・・・そうだ。そなたも経験しておく方がいいだろう」
すぐにできる事ではないだろうが。
シリスも見学はさせていたが、今回が初めてだ。
二人とも魔力総量は申し分ないかもしれないが…どうだろうか。
二人を伴い、塔の上へと上がる。
屋上へ出れば、そこは幻想的な世界が広がっていた。
3名の魔術師達が、空へと魔道杖を掲げる。
魔石へとランタンの灯りが吸い込まれ、そして魔道杖を『祈りの鐘』へと近づければ、魔力の灯りが移動した。
正面にはゼクスレン殿がいて、軽く礼をしている。
ちらりと後ろを確認すれば、シリスもカークもこの景色に見惚れていた。
「二人とも、こっちだ」
声をかけると、ハッとしたように瞬きをする。
シリスは何でもないように、カークは慌てたようについてきた。全く、性格の差か。
410
お気に入りに追加
10,641
あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる