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学園生活、1年目 ~冬季休暇~
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しおりを挟む『祈願祭』当日。
私は朝からお風呂に入り、身を清める。
これをする事、と言われたわけじゃないけどなんとなくだ。
ゼクスさんと共に魔術研究所へ向かい、用意されたローブを羽織る。そして魔道杖と仮面を渡された。
「仮面、ですか?」
「はい。『奉納の儀』に従事する魔術師は皆これを付けるんですよ。他の人に顔がバレないようにするために」
「え?」
何でも昔、この『奉納の儀』に従事する魔術師に擦り寄ってきた貴族がいたらしい。
この儀式に関わる事のできる魔術師は数が少なく、王城にも出入りをする。その為、良からぬ者を近づけない為に誰がやっているのかわからないようにしているそうだ。
揃いのフード付きマント。こちらは防寒対策も織り込み済みのもの。ふわふわボアが付いていて暖かい。
「途中、飲み物や軽食も用意できてるので、交代で休憩を取ります。ランタンの量を見て、人員制限しますから、無理はしないで下さいね!」
「いやほんとコズエ様参加してくれるだけで楽です」
「今この儀式参加できるの、師匠の弟子の俺達だけなんで・・・」
「今年はケアポーションもありますからね」
「お力になれているようで何よりです・・・」
皆で王城へと移動。ゆっくりと暮れていく街並み。
魔術研究所から馬車で移動していると、王城へと向かう人達がランタンを抱えているのが見えた。
こういう景色を見ると、頑張ってランタン制作した甲斐があるってもんよね。
王城へ付くと、ゼクスさんが先に到着していた様で待っていてくれた。皆はフードと仮面で素性を隠しているけれど、ゼクスさんだけは違う。
色の違うマントを羽織り、私たちの先頭を歩く。
ゼクスさんは私にそっと話しかけてきた。
「これから国王陛下達へ挨拶に行きます。まあそのフードと仮面でコズエ殿とはわからんと思いますのでな」
「あ、はい、静かにしてます」
「頼みますぞ?」
私が『奉納の儀』に参加する事は内緒らしい。とはいえこっそりと国王陛下には告げていると思うけど。
王城正面のテラスにほど近い部屋へと入ると、そこには正装している王族の皆が揃っていた。
カーク殿下、あれから顔を見るのは初めてだ。
「お揃いですな、皆様」
「ゼクスレン殿、今年もよろしく頼みます」
「こんなジジイをこき使うなんぞ、お主も酷い男だのう」
「そう言わんでください、貴方以上に『奉納の儀』を任せる事の出来る魔術師などいないのだから」
「途中で顔を出せよ、お主も」
「そうさせてもらいます」
ゼクスさんと国王陛下の話が終わるタイミングで、皆で王族方に向かってお辞儀をした。
私達は揃ってゼクスさんに続き、城の真ん中にある塔の上に続く階段へと進む。
********************
「さて、しばしここで待機ですな」
塔の屋上。少し開けた場所は王都全体を見下ろせる場所だった。不思議と怖い、とは思わない。これほど高いのに、風を感じないからだろうか。
真ん中には、精緻な細工をしてある大きな鐘が釣り下がっている。ほんの少しだけ光っているようにも見えた。
「ゼクスさん、これって・・・」
「これが『祈りの鐘』ですじゃ。この国が建国当初から守る魔法具でもあります」
「これ、魔法具なんですね・・・だから光ってるんだ」
「コズエ殿には見えますか、この光が」
「えっ?」
この光は、毎年この『祈願祭』で飛ばされるランタンから集めた魔力の残り香らしい。
なるほどね、だからうっすら光っているように見えるのか。
「なんだか、祈りの結晶みたいですね」
そう言うと、ゼクスさんは息を飲んだ。
なんだろう、と思ってゼクスさんを見ると、なんだか泣きそうななんとも言えない顔をしていた。
どうして、そんな顔をするのだろう?
すると、ゼクスさんは私に『昔話』を始めた。
「この『奉納の儀』はですな、昔は王族自らが行っていたのですよ」
「え・・・?」
「国民が1年の終わりと始まりを祝い、感謝の祈りを捧げ、魔力と共にランタンを飛ばす。民から王族へ。その想いの結晶を受け止め、この守りの鐘へと捧げる。
それがこの『奉納の儀』の始まりです」
「なら、この儀式は王族がすべきなんじゃ・・・」
「ええ、本来はそうです。我等タロットワークの一族は皆、こうして『奉納の儀』を続けてきた。
しかし、アルゼイド王家にはできなかったのです」
「でき・・・ない?」
何故?彼等も王族なのだからやってできない事は無いはずだ。だってタロットワークの人達はやってきたんでしょう?
すると、ゼクスさんは静かに首を振った。
試さなかった訳ではない、試したのだが、叶わなかったのだと。アルゼイド王家の人間には、魔力総量の問題で、完遂する事ができなかったそうだ。
それから『奉納の儀』はタロットワークの一族が管轄する儀式となったのだそうだ。魔力総量の多い魔術師を集め、人数を増やせば可能だと。
王権の委譲。それをした事によってできた歪みは、その歪みを発生させた自分達が責任を負う、と。
「私・・・が参加してもよかったんでしょうか」
「それはもう、歓迎ですぞ。儂はコズエ殿にも『あの景色』を見てほしいのでな」
「?」
「もうすぐわかりますよ」
優しく微笑んだゼクスさん。
ゼクスさんはもうずっと、長い事この儀式をやってきたのだろう。それこそ『王位継承権』を持っていた頃から。王族でなくなった今もなお。
下を見下ろすと、城の所々に灯りが灯り始めた。
ランタンの明かりではないけど、これだけでも綺麗だ。
さて、本番に向けて私も温かいお茶と軽食を頂こう。
食事の支度はセバスさん達がしてくれたお陰で、いつもの美味しいお茶と軽食で気力が湧いてきた。
よし、『奉納の儀』頑張るぞ!
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