異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

文字の大きさ
上 下
40 / 158
学園生活、1年目 ~冬季休暇~

63

しおりを挟む


『祈願祭』当日。

私は朝からお風呂に入り、身を清める。
これをする事、と言われたわけじゃないけどなんとなくだ。

ゼクスさんと共に魔術研究所へ向かい、用意されたローブを羽織る。そして魔道杖ロッドと仮面を渡された。


「仮面、ですか?」

「はい。『奉納の儀』に従事する魔術師は皆これを付けるんですよ。他の人に顔がバレないようにするために」

「え?」


何でも昔、この『奉納の儀』に従事する魔術師に擦り寄ってきた貴族がいたらしい。
この儀式に関わる事のできる魔術師は数が少なく、王城にも出入りをする。その為、良からぬ者を近づけない為に誰がやっているのかわからないようにしているそうだ。

揃いのフード付きマント。こちらは防寒対策も織り込み済みのもの。ふわふわボアが付いていて暖かい。


「途中、飲み物や軽食も用意できてるので、交代で休憩を取ります。ランタンの量を見て、人員制限しますから、無理はしないで下さいね!」
「いやほんとコズエ様参加してくれるだけで楽です」
「今この儀式参加できるの、師匠の弟子の俺達だけなんで・・・」
「今年はケアポーションもありますからね」

「お力になれているようで何よりです・・・」


皆で王城へと移動。ゆっくりと暮れていく街並み。
魔術研究所から馬車で移動していると、王城へと向かう人達がランタンを抱えているのが見えた。

こういう景色を見ると、頑張ってランタン制作した甲斐があるってもんよね。

王城へ付くと、ゼクスさんが先に到着していた様で待っていてくれた。皆はフードと仮面で素性を隠しているけれど、ゼクスさんだけは違う。
色の違うマントを羽織り、私たちの先頭を歩く。
ゼクスさんは私にそっと話しかけてきた。


「これから国王陛下達へ挨拶に行きます。まあそのフードと仮面でコズエ殿とはわからんと思いますのでな」

「あ、はい、静かにしてます」

「頼みますぞ?」


私が『奉納の儀』に参加する事は内緒らしい。とはいえこっそりと国王陛下には告げていると思うけど。

王城正面のテラスにほど近い部屋へと入ると、そこには正装している王族の皆が揃っていた。
カーク殿下、あれから顔を見るのは初めてだ。


「お揃いですな、皆様」

「ゼクスレン殿、今年もよろしく頼みます」

「こんなジジイをこき使うなんぞ、お主も酷い男だのう」

「そう言わんでください、貴方以上に『奉納の儀』を任せる事の出来る魔術師などいないのだから」

「途中で顔を出せよ、お主も」

「そうさせてもらいます」


ゼクスさんと国王陛下の話が終わるタイミングで、皆で王族方に向かってお辞儀をした。

私達は揃ってゼクスさんに続き、城の真ん中にある塔の上に続く階段へと進む。





********************





「さて、しばしここで待機ですな」


塔の屋上。少し開けた場所は王都全体を見下ろせる場所だった。不思議と怖い、とは思わない。これほど高いのに、風を感じないからだろうか。

真ん中には、精緻な細工をしてある大きな鐘が釣り下がっている。ほんの少しだけ光っているようにも見えた。


「ゼクスさん、これって・・・」

「これが『祈りの鐘』ですじゃ。この国が建国当初から守る魔法具でもあります」

「これ、魔法具なんですね・・・だから光ってるんだ」

「コズエ殿には見えますか、この光が」

「えっ?」


この光は、毎年この『祈願祭』で飛ばされるランタンから集めた魔力の残り香らしい。
なるほどね、だからうっすら光っているように見えるのか。


「なんだか、祈りの結晶みたいですね」


そう言うと、ゼクスさんは息を飲んだ。
なんだろう、と思ってゼクスさんを見ると、なんだか泣きそうななんとも言えない顔をしていた。

どうして、そんな顔をするのだろう?

すると、ゼクスさんは私に『昔話』を始めた。


「この『奉納の儀』はですな、昔は王族自らが行っていたのですよ」

「え・・・?」

「国民が1年の終わりと始まりを祝い、感謝の祈りを捧げ、魔力と共にランタンを飛ばす。民から王族へ。その想いの結晶を受け止め、この守りの鐘へと捧げる。
それがこの『奉納の儀』の始まりです」

「なら、この儀式は王族がすべきなんじゃ・・・」

「ええ、本来はそうです。我等タロットワークの一族は皆、こうして『奉納の儀』を続けてきた。
しかし、アルゼイド王家にはできなかったのです」

「でき・・・ない?」


何故?彼等も王族なのだからやってできない事は無いはずだ。だってタロットワークの人達はやってきたんでしょう?

すると、ゼクスさんは静かに首を振った。
試さなかった訳ではない、試したのだが、叶わなかったのだと。アルゼイド王家の人間には、魔力総量キャパシティの問題で、完遂する事ができなかったそうだ。

それから『奉納の儀』はタロットワークの一族が管轄する儀式となったのだそうだ。魔力総量キャパシティの多い魔術師を集め、人数を増やせば可能だと。

王権の委譲。それをした事によってできた歪みは、その歪みを発生させた自分達が責任を負う、と。


「私・・・が参加してもよかったんでしょうか」

「それはもう、歓迎ですぞ。儂はコズエ殿にも『あの景色』を見てほしいのでな」

「?」

「もうすぐわかりますよ」


優しく微笑んだゼクスさん。

ゼクスさんはもうずっと、長い事この儀式をやってきたのだろう。それこそ『王位継承権』を持っていた頃から。王族でなくなった今もなお。

下を見下ろすと、城の所々に灯りが灯り始めた。
ランタンの明かりではないけど、これだけでも綺麗だ。

さて、本番に向けて私も温かいお茶と軽食を頂こう。
食事の支度はセバスさん達がしてくれたお陰で、いつもの美味しいお茶と軽食で気力が湧いてきた。

よし、『奉納の儀』頑張るぞ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...