異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

文字の大きさ
上 下
39 / 158
学園生活、1年目 ~冬季休暇~

62

しおりを挟む


学園も新年を迎えるに辺り、休みに入る。
キャズやディーナは故郷の領へと戻る。やっぱり家族と一緒に過ごしたいものね。
お土産を買ってくるわ、と言って帰省した。

ドロシーやメグは王都在住の為、いつもと変わりはないが、互いに家の手伝いに奔走するようだ。

特にメグ。
生家の商会では新年の売り出しに相当な気合を入れている。『福袋』の話をしたら乗り気になってしまった…
でも売れ残っているものや、話題のものを上手くミックスして、お得感を出すんだよとアドバイスしておいたし、変なものが売られる事は無いはずだ。…多分?

ドロシーは寒くなってきたから、風邪になる患者さんも多いようで、薬の調合に余念がない。
毎年患者も増える季節なので、毎年年越しギリギリまで店を開けているのだとか。

私は年末の『祈願祭』に向けて毎日魔術研究所へ行き、ひたすらランタンを作る。
大方の材料は研究所の所員たちが、素材から作っているものだ。魔力量の少ない人でも扱えるように。私はそれをただひたすら組み立てるだけ。

単純作業だけど、量を作るのはつらーい!
しかしこれを今まで作り続けた所員たち、すごいよ…

『祈願祭』の前日には全ての王都に住む人に届けられ、旅行者にも配られるそうだ。
く、苦行に近いよこの作業…!マジ尊敬するわ!





********************





今年も年末になり『祈願祭』、そして新年の挨拶がある。
王族である俺は全てに出席だ。貴族だけでなく、平民も『祈願祭』には王城前の広場に集まる。

王族はテラスに立ち、ランタンが立ちのぼるのを見守り、眼下の国民に手を振り続ける。
毎年の事とはいえ、飽きもするものだ。

平民にとっては『祈願祭』でしか王族を目の当たりにする事はない。行事毎に姿を見せてはいるが、貴族と平民分け隔てなく姿を見られるのはこれくらいだ。


「カーク様、ご準備は整っておられますか?」


侍従が声を掛けてくる。
衣装のチェックは自分達でする事になっている。
『祈願祭』と新年の挨拶。同じ衣装で出る訳にもいかないので、前日からどれを着るのかきちんとチェックしないとならない。


「タイピンはなさらないのですか?」

「タイピンは、新年の挨拶だけでいいんじゃないか?」

「広場にはエリザベス嬢も来るかも知れませんよ?付けておいた方が喜ばれるのでは」


ああそうか、そういう所にも気を使わないとならないのだな。記憶の中の兄上も、公式行事にはタイピンを付けていた気がする。


「となると、衣装も考え直すか・・・」

「そうですね、お色を揃えた方がよいかと。とはいえカーク様は寒色系の衣装が多いですからな。来年は少し揃えた方がいいですね」


そこまで気が回らなかったな。兄上は自然とそういった所に気を配っていたのだと思うと、参る。

あの女に言われた『高貴なる者に伴う義務ノブレス・オブリージュ』についてもまだ自分の答えが見つからないままだというのに。
あれから幾度となくあいつを見かけた。だが、今の俺にはあいつにかける言葉は見つからない。

アリシアと話す機会が自然と増え、彼女の素朴な温もりに癒される日が多かった。もちろんエリザベス嬢を邪険に扱った覚えはないが、何度かナルに釘を刺された。
その都度、ナルやエドワードに頼み、アリシアに伝言を届けて貰うこともあったが…そのせいか、周りから『彼女とドラン様は親しいのですか?』などと聞かれることも増えた。

アリシアは孤立している訳ではなさそうだが、『聖』属性を持つ生徒と知られているからなのか遠巻きにされる事もあるようだ。クラスに女友達はいるが、男子生徒は話しかけて来ないので、と。

つまらないだろう、と思って俺もナルもエドワードも気がついた時は声をかけるようにはしていたのだが。
心が安堵するのと同時に、あいつに言われた事を思い返す事もあった。

『自分がどう見られているのかわかってる?』

王族である事、婚約者がいる身である事。
身分の差を考えれば、ナルやエドワードがアリシアに構うのはあまり良くないのかもしれないが…今更どうしたらいいのかも見当がつかないのも事実だ。
あいつに助言を求めれば、何か教えてくれるのだろうが。

エリザベス嬢を泣かせるような真似はしたくない。
だが、アリシアの笑顔を守りたいと思うのも、事実だ。

そう思い悩んでいる間にも、日は巡る。
『祈願祭』の当日になれば、王城内も慌ただしくなっている。上から下まで、使用人もバタバタだ。
衣装に着替え、祭礼が始まるのを茶を飲んで待っていれば、兄上も待合の部屋へと入ってこられた。

例年の衣装とはまた違う、大人びた礼装。
白と青を基調とした、ゴールドの飾りも鮮やかな。
今までに比べれば飾りは減っているが、それがさらに兄上が大人になったという雰囲気を醸し出していた。


「やあカーク、新しい衣装も似合っているよ」

「何を言っているんです、兄上こそ」

「そうかな?今年からは少し控えめにしたんだが」


そんな話をしていると、父上と母上も入ってくる。
寒さ対策として、皆、白の毛皮のコートを羽織る。
長い時間、テラスに出ていないとならないからな。

すると、ゼクスレン殿を筆頭とした魔術師達が挨拶に来た。


「お揃いですな、皆様」

「ゼクスレン殿、今年もよろしく頼みます」

「こんなジジイをこき使うなんぞ、お主も酷い男だのう」

「そう言わんでください、貴方以上に『奉納の儀』を任せる事の出来る魔術師などいないのだから」

「途中で顔を出せよ、お主も」

「そうさせてもらいます」


ゼクスレン殿以外は揃いのローブを来て、目深にフードを被り、顔の上半分を仮面で隠していた。
大きな魔石の付いた魔道杖ロッドを持ち、男なのか女なのかすら分からない。

毎年この『祈願祭』における『奉納の儀』はゼクスレン殿が率いる精鋭の魔術師が執り行っている。
数人の魔術師が入れ替わり、儀式を行うのだそうだ。


「父上、今年は私にも少し手伝いをさせてもらえませんか」


兄上が父上にお伺いを立てた。
父上は驚いたように兄上を見て、静かに頷く。
そんな兄上を母上は目を細めて見守っていた。


「兄上、『奉納の儀』に興味があるのですか?」

「ん?そうか、カークは見た事がないんだったね。
それはとても荘厳な儀式だよ。カークも見てみるといい。王都広場全体からゆっくりとランタンの光が昇る様はとても言葉では言い表せない美しさだよ」

「そうなのですか?」

「ああ。去年までは見るだけだったんだけど、今年は奉納もさせてもらえないかと思ってね。先程ゼクスレン殿にもお伺いを立てたんだけど、父上の許しがあれば構わないと言われたんだ」

「奉納・・・も、ですか?」


王城の上に鎮座している『祈りの鐘』に魔力を注ぐ儀式。この儀式は魔力の扱いが難しいようで、決まった魔術師以外は参加出来ない。
兄上はそれを自分でもやってみたい、という事か。


「魔力の扱いが難しいから、少しの間しか許されないけれどね。・・・そうだ、カークもどうだい?」

「私もですか?いや、それは・・・」

「そうかい?まあ、考えておくといい。上に行って気が変わることもあると思うしね」


奉納の儀、か。確かに経験としてはいいかもしれないが。
俺は兄上から言われた事に悩みながら、テラスへと足を進めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...