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学園生活、1年目 ~後期・Ⅰ ~
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しおりを挟む芸術祭がやってきた。
学園では文化祭が行われた。
王都でも有名な劇団が歌劇を行ったり、ギャラリーで絵画展が開かれたりしている。
私達のクラスのクレープ屋はというと…
「こっち、バナナまだー?」
「いらっしゃいませ!ご注文どうぞ!」
「なぜタダのクレープ屋が賑わっているのか腑に落ちない」
「そりゃ美味しいからじゃないの?」
私はキャズとクラス屋台の外で呼び込み中。
呼び込みというか、列の整理だ。
なんだか貴族生徒のお嬢様が多いのは気のせいですか?
「街で気軽に食べられない貴族生徒が殺到してんのよ」
「そこは盲点・・・」
確かに、平民ならいざ知らず、こういった手持ちのクレープなんて貴族のお嬢様は食べないか。
食べるとしてもクレープシュゼットみたいなナイフとフォークで頂く奴よね!
あれも美味しいんだけどねー!
「どれにしましょうかしら?」
「ああん、迷ってしまいますわ!」
そんなお嬢様方のお話も聞けたりする。
私としてはシンプルにバターシュガー好きだけど。
しかしバナナチョコ生クリームが1番頼むかも。
「あなたのオススメは何かしら?」
「えっ?」
ぼーっとしてたら並んでいたお嬢様に質問された。
ふと見ると、この人、カーク王子の婚約者さんでは?
ストロベリーブロンドの髪。
ピンク色の濃いめの瞳。大人びた顔立ちのお嬢様。
今はスイーツ好きの女の子にしか見えませんが。
「そうですねー、私はバナナチョコ生クリームが好きなんですけどね」
「バナナと・・・チョコ?ってメニューには別々ですわよね?」
「内緒ですが、ごにょごにょごにょ」
「ま、まあっ!そうなんですの!?」
裏メニュー、として、係の生徒に話しかけるとトッピングを増やせる方式だったりします。
しかし、貴族生徒は普通平民生徒に話しかけることなんてないからねぇ?
「その分割高になりますけどね」
「構いませんわ!私、イチゴとバナナで迷ってましたの!でもあなたの言ったバナナチョコ生クリームも美味しそうですわね!」
「いっそのこと両方入れたらいいのでは」
「まぁっ!!!そんな事してもいいんですの!?」
いいんじゃないでしょうか?その分カロリー増えますけどね。美味しければいいと思うんですよ。
バナナとイチゴは離して置いてもらうように言ってね、とアドバイス。
彼女はこくこくと首を振って、嬉しそうに列に並んで待っていた。公爵令嬢のはずだけど、意外と身分を鼻にかけたりしないんだなぁ、と思った。
クレープ屋は大繁盛で、用意していた材料も売りきってしまい、早めに閉店した。
もう1日あるから、少し多めに材料を増やそう、とメグは意気込んで発注をしていた。
「うん、やっぱりサラダクレープ美味しい」
「考えたわね、『サラダだけ持ってきて』なんて言うから何をするのかと思ったわよ」
「確かに美味しいな。これならあっさり食べられるし、手も汚れなくていいと思う」
キャズとディーナも一緒にランチ。
ランチと言っても、クレープの生地に持参したサラダを巻いただけだ。いえ、生ハムとかアボカドとかドレッシングも持ち込んでますよ?
私達を見て、皆も『明日は私達も…!』と目を輝かせている。男子にはもっと食べ応えあるようにウインナーとかチキン入れた方がいいと思うなぁ。
次の日もクレープ屋は大人気。昨日のカーク王子の婚約者もまた来ていた。…っていうか何回も並んでるお嬢様達いるんだけど。そんなに気に入ったのかしら?
クラスの当番じゃない時間には、皆で他のクラスの出店を見に行ったり、食べ物をつまんだり。
貴族生徒のクラスは、自分達で書いた絵だとかもあった。ちょっとしたギャラリーになっていたし、他にも講堂で演奏会があったりした。
********************
学園の講堂。ここでは音楽を専門に勉強している生徒達が演奏会をしていた。
音楽専門?そんなコースあったっけ?と私も思ったけど、貴族生徒は芸術科目として音楽か絵画を取っているそうだ。平民生徒も素養があれば受講できる授業のひとつみたい。
オーケストラ、とまではいかないが、ピアノの発表だったり、弦楽器の四重奏だったりと割と豊富な演奏会だったりする。
私もこういうのを聞くのは好きだ。学生の頃吹奏楽部にいましたんでね!卒業してからは全く楽器に触る事はなかったけど、聞くのは好きなのです。
ホールは満員御礼、もまではいかないけれど人は入っていた。席もあらかた埋まっていたから、私は後ろで立ち見。
何曲か聞くと、知っている曲もあった。
すごく不思議なんだけど、アースランドって地球と似通ってる文化があったりするのよね。絵本の事もそうだし、食生活についてもそうだ。言語はラノベでよくある『自動翻訳』なのかな?と勝手に解釈しているけれど、文化の相似性について気になる。本格的に調べてみようかしら。
今回、生徒達が演奏している曲についてもだ。私が聞いたことのある曲がちらほら。全く知らない曲もあるから、こちらの世界独自の曲だったりするのか、若しくは私があちらの世界で聞いたことない曲なのか。
そんな事を思いながら聞いていると、いつの間にか隣に一人の貴族生徒がいた。面白くなさそうな顔をして演奏を聞いている。…つまらないなら無理に聞かなくてもいいのにね。もしかして知り合いが出ていて付き合いで来てるのかな。
私がチラチラ見ているのに気づいたのか、その彼はじろ、と私を見下ろして不機嫌な声を出した。
「なんなの君。ジロジロ見ないでくれる」
「あ、すみません」
しまった、おこですよ?静かにしておこう。
私はサッと顔を正面に戻し、彼の存在を無いものとする努力をした。はい、隣には誰もいません、いませんよ。
しかし、彼は私が隣にいる事に頓着せず、周りに聞こえない程度の小声で不満を漏らし始めた。
「まったく嫌になっちゃうよね、あの程度の腕で他人に聞かせようと思うなんて。耳汚しになるだけなんだからさっさと引っ込んでいればいいのにさ」
「・・・」
「周りも周りだよね、持ち上げることなんてしないでくれたらああいった勘違いの演奏家は一人残らず消えるっていうのに」
「・・・」
「ホント、目障り。・・・君もそう思うでしょ?」
「・・・」
「何で黙ってるのさ、君って返事もできないようなバカの子なの」
「えっ、私に言ってたんですか?」
「・・・他に誰がいるわけ、この周りに」
「いえ、随分長い独り言だなって」
「僕が頭の弱い可哀想な子みたいに言うのやめてくれる」
いやホントに大きな独り言だなって思ってましたけど!?
だって私別に貴方の友達じゃないし!ただの通りすがりですし!そこにこの人達の批評をしろと言われてもだね!
「いや別になんとも思いませんけど」
「なるほとね、君も他の人と同じタダの傍観者ってわけ」
「そう言われても・・・だってこれって『発表会』でしょう?」
「・・・『演奏会』だけど?」
「でもやってる事同じでしょう?普段の授業で学んだ事発表してるだけですし。そりゃお金取って演奏を聞かせる、のなら違うでしょうけど」
「何が違うっていうの」
「『演奏家』っていうのはお金を取って人に音楽を聞かせる人の事だと思うし。プロなんだもの、それこそ普通の人とは格の違う演奏をするのは当たり前の事よ。でもこの人達は学生さんでしょ?だったらこんなものでしょ?」
私にプロの演奏とそうでない人の演奏を聞き比べろ、と言われても困るけど。私も凡人の耳なのでね。
でもこの人達の演奏は、単なる『発表会』レベルだ。あ、また音がズレた。それくらいは聞き取れる。
「でも聞いてごらんなさいよ。あの我が強そうな貴族生徒達が一生懸命演奏を合わせるっていう歩み寄りをしたと思うと『よくやった』って思わない?」
そう言うと、隣の彼は笑い出した。もう遠慮なく。
演奏も終わりになってきていたからいいけど(いえよくないです)、物凄く周りから見られてる!
けれど彼は何がそんなにツボに入ったのかわからないが、お腹を抱えて笑い続けていた。
ど、どうしよう!今すぐここから逃げたい!
私この人とは関係ないです!!!
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