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学園生活、1年目 ~後期・Ⅰ ~
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しおりを挟む結局、私は二階席へと移った。
ケリーがカフェを出てった後、私も帰ろうとしたのだけど先に王子殿下が降りてきてしまった。
『話がある』と言われてしまえば振り切って逃げる…のもやろうと思えばできたけどね!
「どうぞお召し上がりください」
「あ、ありがとうございます」
コトリ、と目の前には紅茶。
カップも素敵なデザイン。薄く作られたカップは紅茶も飲みやすい。高そう。
しかしここは学園のカフェなんだが。
一階席は普通のカフェだったのに、何故二階にはボックス席があるのでしょう。どういう作りしてるの?
そして私にお茶を出してくれたのは、執事のお兄さんです。この人もカフェの店員なの?違うの?
「こいつは私直属の執事だ」
「お初にお目にかかります、 レディ。カーク王子殿下にお使えしております、クロードと申します」
「ご丁寧にありがとうございます」
すっと一礼して下がる。
ここには私と王子殿下の二人だけだ。
珍しくあのドランが付いていない。いつも影のように付いているものとばかり思っていたけど。
それを察したのか、王子殿下は口を開いた。
「今日はオリヴァーは来ていない。一度お前と話をしておきたいと思っていたから外してもらった」
「そうですか」
何を話すんだろ?私からは全く話す事ないんだけどなー?
特に何も話題が思いつかないので、王子殿下から話してくるのを待つことにした。
「・・・あの石は付けてないのか」
「あの石?」
「兄上が送ったコサージュについていたサファイアだ」
「え?あれって飾りですよね?」
コサージュのアクセントでしょ?と聞き返すと、王子殿下は驚いた顔をした。何かを言いかけたみたいだけど、それをやめて口を閉ざし、また口を開いた。
「・・・そうか。こちらのしきたりには疎いんだったな。
コサージュを贈る事に意味があるのは知っているか?」
「確か、平民の間では求婚の意味もあるって聞きましたけど」
「そのようだな。貴族の間でも意味合いは似ている。求愛・・・好意を示す意味がある。それを受ける時は胸に飾るんだ。宝石が付いている場合は、アクセサリーにして付ける習慣があるんだ」
ほー、なるほど。アクセントかと思ってた。
私も気になります、って事だとその宝石をアクセサリーにでもして付けるって事かぁ。
なんかオシャレな感じね?言葉にしなくてもパーティーなんかでそれを見つけたら、二人だけの秘密みたいな?
「知りませんでした」
「兄上とお前の仲を探る訳ではないが、気になってな」
「おもいっきり探り入れてますよね」
「うるせ・・・っ、お前と話してるとペースが崩れる」
確かにあのサファイアの色、ちょっと特殊だものね。
陛下と踊った時にも見た、ロイヤルブルー。
あのサイズだとしてもお値打ちものよね。
だとしても私はシリス殿下の気持ちを受け入れちゃいけないわよねぇ。お友達ならいいとしても彼女…こっちではそういう関係性ってあるのかしら?にはなれないし。
カーク王子殿下はコホン、と咳払いして話題を変えてきた。
「その、お前の事は、父上より聞いた」
「はあ」
「何か力になれることがあればだな」
「あ、それに関してはないので、学園内では構わないでいただければそれで」
「は?」
「あのですね、私、ほとんどの事情を周りに言ってませんので。なので『普通の平民生徒』として扱ってもらえる方が都合がいいんです」
「・・・そうか」
「はい」
わかった、そうしよう、とカーク王子殿下。
あの夜会の後に、国王陛下から話があったんだな。
それで学園では自分しか王族がいないし、国の事も考えて自分がここでは力になろうとしてくれたのかもしれない。
でも、一般市民な平民生徒が王子様にあれこれ気を遣われるとあらぬ疑いを受けるのも困る。
悪目立ちするのは私の希望ではないのだし。
そう言うと、納得したような顔をした王子様。
「そうか、俺が悪かった。すまない、学園では俺が力になってやらないと、と思っていた」
「その気持ちだけもらっておきます。私、アリシアさんみたいに目立ちたくないんで」
「? なんでそこにアリシアが出てくる?」
え、気づいてないの?この人?
それは気にした方がいいんじゃないの?
「え、アリシアさん、王子殿下と話したりする事で注目浴びてますけど・・・?」
「そうなのか?何故だ」
「なぜって・・・普通、平民が王族に話しかけられる事なんかないでしょう。貴族でもなかなかないのでは」
「そう・・・かもしれないが、でもたまに挨拶をする程度の事だろう?」
「こないだお昼一緒に食べてたとか」
「あ?ああ、確かにそんな事もあったな。あれも偶然食堂で見かけたから一緒に食べただけなんだが」
「その後ろで婚約者のお嬢様がさみしそうに見てましたけど気付いてました?」
「エリザベス嬢が?」
おっと、全く気付いてねえ!なんで?何でなの?
あんなに悔し…イエ、さみしそうにしてたのに?
「あのですね、衆人監視の中で、王子自らが平民生徒を食事に誘う、ってかなり注目浴びますよ?」
「・・・同級生の知り合いを食事に誘うのがダメなのか?」
「バカなのかお前は」
「おっ、お前、バカとはなんだバカとは!」
つい口から本音が出た、うっかり。
私は一生懸命使っていた敬語を捨てて話す。
ぐい、と紅茶を飲み干し、口を潤す。
ずい、と少し前に出ると、カーク王子はちょっと後ろにひいた。
「貴方、自分がどのくらい周りから注目されてるかわかってる?」
「お、俺が、か?」
「王国の第二王子。眉目秀麗の成績優秀者。まず黙ってれば誰もが振り向くピッカピカの王子様。学園のアイドルみたいなものよ」
「黙ってればってなんだ」
「しかも婚約者はこれまた美人の才女。国内でも格の高い公爵家の姫君よね?もう人が羨む美男美女カップル。そんな王子様が最近贔屓に声を掛ける相手が、なんと平民の女生徒!これが噂にならない訳ないでしょ?」
「だ、だがしかし」
「言い訳しない。そもそも婚約者がいる男が他の女に『食事を一緒に』なんて誘ったらヒソヒソされちゃうってわかんないかな?」
「そ、そうなのか?」
「そういうものです!」
「いやしかしだな、俺が多少平民生徒に話しかけるのもダメなのか?」
そんなにアリシアさんと話したいのか?
私が黙って王子を見るのに気付いたのか、『ダメなのか…』と呟いて頭を抱えた。
「例え話をするけど。もし私があの日夜会に出ていたとして。シリス殿下が私に話しかけていたらどうなったと思う?」
「それは大問題じゃないか?兄上が婚約破棄をして最初の夜会だ。そこに貴族達の中でも見慣れぬお前に兄上から話かけ・・・たら・・・」
「はい、そこで自分に置き換えて」
「・・・・・・目立つな」
「そうね」
「よくわかった」
わかってくれて何よりです。他の人のことだとちゃんとわかるのになんで自分だとわからないのかしら。
「婚約者のいないシリス殿下より、婚約者がいる貴方の方がもっと周りに気を付けないといけないと思うわよ。
貴方の婚約者が、貴方を放ってオリヴァー・ドランと二人きりで楽しそうにランチをする、と言い換えればわかる?それとも平民生徒の男子と仲良くお喋り、の方がわかりやすいのかしら?」
「それは・・・」
「そんな場面を見た貴方の周りは、王子殿下にどんな報告をしてくれるのかしら?」
「・・・面倒だな」
「しょうがないじゃない、それが貴族の嗜み、なんでしょ?在学中に他の女の子と遊びたいんなら、婚約者と話してある程度のお許しをもらっときなさいよ、その方が安泰だから」
「お前、なんて事を考えるんだ」
「何の説明もされず目の前で他の子とベタベタイチャイチャされるよりマシじゃない・・・?」
「ベタベタイチャイチャなんてしてないだろ!」
「いや私貴方の事見る趣味ないから見た事ないけど」
「お前、俺に対してものすごく態度悪くないか?」
「そうかしら?普通だけど」
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