異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、1年目 ~後期・Ⅰ ~

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秋。国中のあちこちで収穫が始まる季節。
それに呼応して、国内ではあちこちの地方で収穫祭があるそうだ。

もちろん王都でも祭りはある。
そしてそれは『芸術祭』と呼ばれ、学園でも文化祭のようなものが開催される事となる。


「はい、ではウチのクラスの出し物を───」


目の前ではクラス委員が一生懸命に皆に呼びかけをしています。頑張れ、クラス委員。

文化祭って盛り上がるわよねえ。
これは学園全体で恋愛イベントが起きる予感!
はっ!アリシアさんの周りだとスチルイベント起こるんじゃ!?

学園後期の授業が始まってから、何度となく王子殿下とアリシアさんの目撃例が噂されている。
曰く『星姫と王子のロマンス』だとか。星夜祭でダンスをした事はすでに貴族生徒の中でも噂の的らしいが、学園内でも親しく話していたとか、食堂でランチを共にだとか、まあ二人の話を聞かない日はないんじゃない?くらいに。

着々と親密度を上げている、という事でしょうか。次のイベントはきっと芸術祭を一緒に回る、とかに違いない。


「コズエ、何か出し物のアイデア出た?」

「え、特になし」

「ちょっとは協力しなさいよ」

「キャズは何か意見あるの?」

「うーん、喫茶系がいいわよね。自分達で美味しいもの作れば食べられるじゃない?」


そう来たか。確かにそれはおいしいわよね。
私が地球で学生の時も、カレーにたこ焼き、コロッケ。
甘いものからしょっぱいものまで色々あったはず。


「クレープとか?」

「クレープって難しくない?」

「そお?だって生地焼く人、具材巻く人、売り子さんくらいでしょ?具材はあらかじめ用意しとけばいいし」

「メニューどうすんのよ」

「そんなの簡単なヤツいくつかだけにすればいいじゃない。シンプルにイチゴ生クリーム、バナナ生クリーム、チョコ生クリーム、シュガーバターくらい?ハムとチーズとかのしょっぱい一品あれば十分でしょ」

「じゃあそれにしましょ」

「はい?」


カリカリカリ、と何かを書きなぐったキャズ。
すくっと立ち上がって前に行った。

え?キャズどこ行くの?と思えば、彼女はクラス委員と話を始めた。


「え、何?」

「バカだなコズエ、キャズに乗せられて」


はぁ、とケリーがため息。
どうやら私とキャズの一部始終を聞いていた模様。
目の前では、キャズとクラス委員がガシッと握手をしている。何か交渉がついた…のか…?





********************





「はっ、ここはいったい!」

「現実逃避しすぎだろ」


ここは貴族と平民の共用カフェ。
目の前にはケリーが呆れた顔をしていた。


「なんでこんな事に・・・」

「まあキャズにしてやられたな。ま、俺がパートナーになってやったんだから少しは楽だろ?」


そう、キャズはクラス委員に交渉し、ウチのクラスの出し物は『クレープ』に決まったのでした。
私がキャズに言った内容は全て通り、あれよあれよという間に『芸術祭委員』にされ。もう一人の委員としてケリーが名乗り出てくれたらしい。

確かにケリーがなってくれたのはありがたい。彼はクラスの男子生徒の中でもリーダーの役割だ。
彼が指示を出してくれたら、他の皆も動くだろう。


「ま、他の奴らは皆それぞれ忙しいしな。放課後余裕があるのなんて俺とお前くらいだろ」

「うーん、確かに」


クラスの皆は平民だ。王都に在住の子達はほとんど家の手伝いをしたり。寮に住む子はアルバイトをしたり。部活に入っている子も多い。
私は部活に入ってはいない。部活…といっても剣術と馬術、弓術や槍術。または魔法研究部しかない。
武術なんてできないし、魔法はある意味チート状態の私が入っても仕方がない。
部活に入る子は、補習の意味もあるし、さらに腕を上げたい!という人しかいないのだ。私はお呼びではない。

ケリーも暇ではないけれど、私が可哀想だからって委員を引き受けてくれたらしい。すまん、ケリー…。


「ま、芸術祭委員の集まりって来週なんだろ?俺も毎日付き合う訳にはいかねーけど、さっさと決めちまおうぜ。
今週中にある程度決めておけば、後は楽だもんな」

「そうね、申請は今週中みたいだから、サクッと決めちゃいましょ」

「つーか、コズエが言ってた内容でほとんど決まりだろ?」

「えっ、あんなんでいいの!?」


ケリーは一枚の紙を見ながら私に言う。
その紙は、キャズが私の言ったことをまとめて書いたメモらしい。その速記は冒険者ギルドのアルバイトの成果なのかい、キャズさん…


「役割はこれだけで回るか?」

「えーと、生地焼く人でしょ。注文通りに具材包む人。で、売り子さんが2人?注文聞いてお金貰う人と、品物渡す人?」

「そんなんでいいのか?人数配分どうするよ」

「んー、生地焼く人も包む人も2人ずつでいいと思う。あと売り子さんも2人?ウチのクラスは20人だから・・・」

「1グループ6人体制で3グループだな。俺とコズエは入らないで、サポートに回る方がいいだろ?」

「え、いいのかな入らなくて」

「何言ってんだよ、じゃないとこんな委員なんてやってらんないだろ?それに当日何かあったらサポートに回るのが委員の方が動けるだろ?」


それもそうか。ケリーもサクサクと役割分担を決めてくれた。どうやらクレープ屋さんでアルバイトしてる子がいるみたいだから、そいつを主体にして練習させよう、なんて言っている。

メニューも私が言った五種類のみ。
ちゃんとした正規店じゃないんだから、これだけあれば十分だろ、とのケリーの意見。


「まあ、トッピングもイチゴ、バナナ、チョコ、生クリームとバターにグラニュー糖、ハムとチーズだけだし。
そこまで用意も大変じゃないはず。あらかじめフルーツも切って用意しとけばいいし、足りなくなったらそれこそ手の空いてる人で裏方で用意できるしね」

「ハムとチーズ、っていいな。普通の店じゃないだろ、そんなメニュー」

「えっ!?ないの!?サラダクレープも!?」

「なんだよそれ。野菜挟むのか?」

「そうよ?レタスにキュウリ、トマトにハムとか…
ドレッシングさらっとかけて、生地で巻くの。ハムとチーズなら、ピザソースとか入れても美味しいわよね」

「よく知ってんな・・・」


はっ、力説してしまった。
確かにクレープ、日本のって他の国に比べて驚くほど種類が豊富だって聞いたことがある。
甘いのからしょっぱいのまであるもんね。個人的には生ハムアボカドサラダクレープ、美味しかったです。


「これって時間は割り振りどうする?」

「そうね、タイムテーブル作って2時間くらいで交代したらいいんじゃないかと思うわ。ずっと作り続けるのも疲れちゃうし、かといって細かく交代してもね」

「確かにな、ある程度同じ人員で回す方が効率的か。
ならそういう風にするか。二日間あるから、そこんとこは俺が考えとくよ」

「さすがケリー」

「アイデアはコズエ頼りだし、それくらいはしねーとな。俺も頼りになるとこ見せてやるよ」


いえいえ、率先して動いてもらえるだけでありがたいし。
ケリーの指示って的確だし、同じ委員になってもらえて私は大助かりだ。
一息つこう、と珈琲に口を付ける。
…うーん、何か視線を感じるけどなんだろう。

ちらちら、と周りを見るけれど、こちらを見ているお客さんはいなさそう。
私に気付いたケリーが聞いてきた。


「どうした?」

「ん?なんか見られてる気がしたんだけど、気のせいみたい。ケリーを好きな子がじっと見てるのかなって思ったんだけど」

「何言ってんだよお前は・・・」


やれやれと首を振るケリー。
知ってますよ?後期に入って告白受けてる事…

周りをチラチラ確認したケリーは、私に向かってくいくい、と親指を上に指すアクションをした。

ん?何?上?
上って…貴族生徒がいる席じゃないっけ?

示される方向を辿って見れば、二階席から第二王子様がこちらを見ていた。ゴフっ、と珈琲を噴き出しそうになる。


「あ、あれか・・・」

「みたいだな。確かにさっきから視線を感じてはいたけどよ。何かしたのか?」

「した・・・覚えは・・・」


ない、と言い切りたいが、いかんせん彼とはあの星夜祭の夜以来のはずだ。私は前にエドに言われたように基本的に学術院エリアから出ることはない。
だから貴族生徒に鉢合わせることもないのだけど。

ケリーは俺部活行くわ、とそそくさと帰った。
え、そこで帰るの?と思ったが、彼も部活に出るのを後回しにしてくれてたのだから仕方ない。

これはこのまま見ないで帰ろう、と思ったのだけど、それはできなかった。
何故なら二階から本人自らが降りてきてしまったから・・・

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